誰が為に私は魔女になる   作:オオル

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今回は自信作です。

新たに評価してくださったランチョンマットさん、もちもちしたもちさん、ありがとうございます!
お気に入り登録された方達もありがとうございます!

それでは本編をどうぞ!


人には譲れないエゴがあることを知っていますか?

 サオリ姉はアツコとの出会いを語った。

 今から2年前。特別な血統を引いているアツコを傭兵が囲み、アツコという少女を崇めるようにと言わんばかりに周囲を威嚇しつつパレードを行っていた武装集団がいたようだ。

 その様子を遠くから眺めていたサオリ姉、ミサキ、ヒヨリはアツコの気品ある服装と容姿端麗な姿に目を奪われていた。

 

「す、凄く綺麗な方ですね……」

「だね。なんでもお姫様らしいよ。特殊な血統を引いてるとかの」

「そんな情報何処で仕入れたんだ?」

「サオリ姉さんとヒヨリが話している時にお姫様を囲む傭兵がそう言ってた」

「お、お姫様!?き、きっと私達とはかけ離れた豊かな生活を送ってるんですよね…。それに比べて私達は寒さに飢えながら道端で野宿を……う、うわぁぁぁぁあん!!」

「急に泣かないでよ!バレるでしょ!」

「う、うぅ、ぐす、すみません、サオリ姉さん…」

 

 サオリ姉曰く、その時急にヒヨリが泣き出したものだから急いで宥めさせたようだ。

 

「!いや…お姫様と言っても私達と変わらない環境、ううん、それ以下の生活をしているかもしれない」

 

 そう発言したミサキはアツコの足元を指さしていた。

 サオリ姉とヒヨリは足元に視線を移しアツコの足首に足枷が付いていることに気付いた。

 

「足枷…?お姫様なのになんで?」

「……ようは飾りのお姫様ってところかな。特殊な血統だってことは間違いないと思うけど」

「ではこのパレードは一体なにが目的なのでしょうか……?」

「内戦中だからきっとお姫様を人質として敵に送るための行列だよ。拘束してるのも逃げられると困るから、かな」

「……人質、だって…?」

 

 その時サオリ姉はこう思ったらしい。

 アツコの暗く沈んだ表情。助けを求めようも誰も助けてくれないと諦めた瞳。

 そんな生きることを今にでも放棄しそうなアツコの様子を眺め放っておけないと決意したと。

 

「ミサキ、ヒヨリ……これは私のエゴだ。あの子を助けたい…!」

「えぇ!?あ、あの子を助けるんですか!?」

「人質になる子を見捨てることなんてできない!助けたあとは私がしっかり面倒を見る。だから頼む…助けるのに協力してほしい」

「そんなペットを買いたがるような子供の真似されても…それにわかってる?相手は武装集団なんだよ?どうやって助けるつもり?」

「それは今から作戦を考える。パレードのルートを予測して待ち伏せしている間に考えよう」

「…………はあ、わかった。わかったよ。私はサオリ姉さんの言うことに従うよ」

「わ、私はお2人が助けるとおっしゃるのなら……足でまといになるかもしれませんが尽力します……。へへっ」

 

 サオリ姉のエゴから助けると決心した一同は傭兵達からアツコを奪うために行動に出たようだ。

 その後はサオリ姉に従い、周囲を調べパレードのルートを予測しては道中に罠をしかけ、圧倒的な戦力の中で自分達に今ある武力を全力で行使してアツコ奪還作戦は大成功を期したようだ。

 

「……というのが私達とアツコの出会いだ。ようは敵からアツコを奪ったんだ」

「…………………………………………………………」

「でもそのせいで少し情勢が厄介なことになってしまったんだ」

「?」

 

 サオリ姉は引き続き語った。

 2年前はアリウス自治区内で内戦が起きていた。その内戦を終息させるために人質としてアツコが利用されるはずだった。

 だけどそのサオリ姉達がアツコを強奪したことで終戦の話が頓挫したかと思えたが内戦は意外な形で終戦を迎えた。

 

「争っていた敵同士が手を組み、アリウス分校を主体とした大きな組織を結成したんだ」

「……わからない。敵同士なのに何故手を組んだんだ?」

「ミサキの話曰く、アツコを渡す渡さない以前に既に片方が降参していた可能性が高いようだ。要は許す代わりにアツコを渡せと。そう言った理由で当時パレードが行われたんだと」

 

 だとしても解せない。

 結託して大きな組織を作ってまでアツコを一緒に追う必要はないはずだ。

 

「クシナの言いたいことはわかる。そんな理由でいがみ合っていた敵同士が手を組むはずがない、と思ってるんだろ?」

「うん。だってアツコを渡した側はアツコが要らないから手放したはず。なのになんで今更手を組んでアツコを追いかけ回す?」

「……それはな性根の腐ったゲスの極みの大人が現れたからだ」

 

 サオリ姉達がアツコを奪い、一緒に逃亡生活が始まって数日後、アリウス自治区では大きな変化があったようだ。

 それは先程サオリ姉が語った内戦でいがみ合っていた敵同士の結託。そしてアリウス分校の生徒会長である大人が内戦の終戦を告げる演説を行ったと。

 

 子供しかいなかった貧困街に突如として現れた生徒会長(大人)は難しい言葉を並べ、言葉巧みに子供達を洗脳してはアリウス分校の生徒として迎え入れた。

 なおいがみ合っていた敵の仲介人としても生徒会長は力を示し、内戦が終戦するのと同時にアリウス分校の生徒会長へと就任したようだ。

 

「あいつは言葉巧みに人を操り内戦を終戦させ、アリウス分校という組織を操り姫を狙っているんだ」

「そうか。大人が、ね…」

 

 正直大人のことはよくわからない。

 私は大人の人を見たことがないからな。ただ、話を聞いた限りその生徒会長(大人)は良い奴では無さそうだな。

 生徒会長(大人)はアツコを手中に収めて何がしたいんだ。とサオリ姉に聞きたいが流石にそこまではわからないだろう。

 だけどアツコが狙われていて、連れ去られたらここよりも不幸な生活を虐げられるのは間違いない。確かな証拠がある訳でもないけど今までの話を聞いて確信はできる。

 

「敵はサオリ達がアツコを匿っているから追ってくるのか」

「その通りだ。最近は激戦区から離れたおかげで追っては免れているがずっとここにいられるわけじゃない。そろそろ別の住家に移らないとな」

 

 同じ場所に長居するのは危険だ。

 こうしている間にも既にサオリ姉達の住家の情報がアリウス分校の手に渡っているかもしれない。

 

「私は姫達(家族)を守ると決めた。身を粉にしてでもお前達をアリウスに渡すつもりは無いから安心して生活してくれ」

「!……それだよ。それ」

「?どうした?」

「私はサオリ姉にとって守る対象に含まれているの?」

 

 私は思っていたことを聞いた。

 私は誓った。サオリ姉達を幸せにする善人になると。なのに守られてばかりだとサオリ姉達を守ることなどできない。誰がどう思っても分かりきっていることだ。

 

「……それは…当たり前だ。妹であるお前を守るのが姉の役目だ」

「サオリ姉、あんたならわかるはずだ。私が今までどんな生き方をしていたのか。それをわかった上で私を守ると言うのか?」

「…………………………………………………………」

 

 サオリはクシナの言い分に納得している。

 初めてクシナと顔を合わせた日、クシナは姉にずっと守られていたと語っていた。

 姉が戦闘不能となりクシナが1人で食料を調達し、目を覚ました暁には自分は守られるだけでなく一緒に戦えることを伝えると言っていた。

 そのことからこの先、クシナが誰かに守られながら生きていくことに苦痛を感じことは察せれる。

 

「サオリ姉、私は戦える。守ってもらうほど弱くない。それは今日の訓練でわかったはずだ」

 

 そのことはサオリとてわかってはいる。

 今日の訓練でクシナはここ半年頃から外に出始めたというのに、とても半年ちょっと鍛えた程度で身につくとは思えないほどの体力、そして戦闘技術を要している。

 射撃性能に関しては低いが近接戦闘に非常に優れており、この先鍛えれば自身をも超える逸材になるとも踏んでいる。

 

「(だけど…ダメだ)」

 

「……ダメだ。戦えたとしても前線に立つのは私だ。人手が足りない時はミサキに頼る。これは絶対だ」

「……でも、そのミサキの戦意は薄れつつあるんだろ?」

「ッ!?」

 

 サオリ姉は私の発言に驚き目を見開く。

 何処でそんな情報を仕入れたのか今にも聞き出しそうな勢いで口を開き、言葉を発する前に遮るように私は語った。

 

「ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだ。でも、昨日サオリ姉とミサキの会話を聞いてしまって…」

「……盗み聞きとはタチが悪いな」

「わかってる。だけどミサキの戦意が薄れているのは確かだろ?それに理由は私にある。ミサキは私まで守れる自信がないと言っていた…違う?」

 

 サオリ姉は視線をずらし足元を見ながら私の問には答えてくれなかった。

 何か思っているだろうが私は無視して間髪入れずに口を開く。

 

「私はサオリ姉とミサキの負担を減らしたい。別に1人で戦いと言ってるわけじゃない。守る対象者としてではなく一緒に守る守護者として私を見てほしいんだ」

「…………………………………………私は」

「?」

 

 サオリ姉は下を向いたまま口を開いた。

 普段聞くような声とは違う。先程発したサオリ姉の声は緊張か、はたまた怒りからなのか声が震えているように聞こえた。

 

「私は……弱い人間なんだ」

「サオリ姉が弱い?」

「そうだ。自分のエゴを他人に押し付け、自分のために人を生かしている…。ミサキがまさにそれだ。あいつは今にでもこの世界から解放されたいはずなのに私の一方的な生きてほしいエゴと、自死することを正当化してはならないという2つのエゴを押し付け、苦痛に虐げられながら今も尚この世界で生き続けている…。」

 

 自分のエゴを他人に押付けて…。それって昔の私そのものじゃないか。

 

 姉さんが死んだ時、私は自分の生きる理由が姉さんのために生きる…だったから姉さんが死んだことに目を逸らした。

 

「私は誰にも死んでほしくない。危険な目に合わせたくない…だから、クシナの気持ちはわかるが危ない目に合わせたくない…!生きてほしいという私のエゴが勝ってクシナの言い分を受け入れることができない…!」

「……サオリ姉…」

 

 サオリ姉は私が前線で戦うことに賛同している反面、自身のエゴが勝って私を危険な目に合わせたくないと思っている。

 

 でも……こればっかりは引けない。

 私はみんなを幸せにすると誓った。守ると誓った。それに何より…私を守って誰が死ぬなんて経験はもう御免だ。

 

 サオリ姉は自身のエゴが勝ると言っていた。

 

 そう、自身のエゴ。

 

 目には目を歯には歯を。

 サオリ姉がエゴを理由にして私の提案を断るというのなら私も自身のエゴで対抗するとしよう。

 

「サオリ姉は外の世界を知ってるか?」

「……なんだ藪から棒に。今はそんな話をしている場合じゃない」

 

 急に話しを振ったことでサオリ姉は困惑しながら言葉を並べていた。

 私はそんな言葉を跳ね返すように続きを語った。

 

「私は今日まで世界の全てはアリウス自治区だと思ってたんだ。でも違った」

 

 私はその場からサオリ姉が背を預けている手すりに近付き、手すりに手を置いて口を開く。

 

「外にはアリウス自治区以外にも様々な自治区があって、そいつらはサオリ姉達より何倍も豊かな生活を謳歌しているらしい」

「……それで?それでお前は一体何を感じたんだ?怒りか?憎しみか?」

「……まあそれに近いかな」

 

 今度は手すりから手を離し満天の星空を眺めなが、名前も知らない目に入った星を睨みつけて語った。

 

「───許せなかった」

「?」

 

 サオリ姉は私が抱いた感情が予想外だったのか驚いた反応をしていた。

 

「サオリ姉達は地獄みたいな世界で必死に生きている中、外の世界の奴らは好き放題に生きてたんだろ……?そんなの許せない…!サオリ姉達が必死に生きているのが馬鹿みたいじゃないか!」

 

 外の世界に言うかのように天に向かって私は声を荒らげた。

 

「何よりサオリ姉達みたいな善人がこんな世界で苦痛に耐えながら必死こいて生きている現状が一番許せない…!」

 

 外の連中は何をしているんだ。

 

 何故、サオリ姉達を助けようとしない。

 

 豊かな生活を謳歌しているのなら、ほんの少し、本当にほんの少しだけ、その豊かに過ごせれる権利をサオリ姉達に与えてもいいじゃないか。

 

 以上のことから私は導き出した。

 

「サオリ姉達をこんな目に合わせた元凶がいるはずだ」

 

 一個人なのか、それとも巨大な組織なのか。そこまではわからない。

 

「私はその元凶を…諸悪の根源を許せない…!そいつさえいなければ姉さんは…!サオリ姉達だってこんなクソみたいな世界で生きることもなかったはずだ!」

 

 アリウス自治区が他の自治区同様争いのない、食料にも困らない平和な日常生活を送れていたのならアリウス分校なんて言う極悪組織も現れず、姉さんが殺されることもなかった…。

 

「私の姉さんを殺したのはアリウス生なのは間違いないと思う。でも、違うんだよ…そもそもの原因となった諸悪の根源を私はそいつを特定したい、そして───」

 

「───罪を償わせてやる…!」

 

 これは私の復讐の物語の序章に過ぎない。

 

 今朝、ヒヨリとアツコから外の世界の情報を聞いた。

 そして午前の訓練を終えた後の休憩時間中、外の雑誌を最後まで読んでサオリ姉に語った内容を決意した。

 

 私は諸悪の根源に復讐する。

 復讐が終えた後は勿論立場を逆転させてやる。サオリ姉達が味わった苦痛を、いやそれ以上の苦痛を与えてやる…!そして…サオリ姉達が幸せに暮らせれる環境を外の世界に作る。

 

 その時、私がその場にいなかろうがサオリ姉達が幸せに、豊かに、誰からも傷つけられることなく、自由に生活ができているのなら本望だ。

 

「サオリ姉は自身のエゴを理由にしてたよね。さっき語ったように私にも諸悪の根源に罪を償わせたいという復讐のエゴがある。そのエゴのためにも私は守られる側じゃ示しがつかない」

 

 別に私の復讐に協力してくれとこの場で言うつもりは無い。

 私は見上げていた顔を下ろし、隣に立つサオリ姉へと体ごと視線を向けて懇願した。

 

「だから一緒に最前線で戦うことを認めてほしい」

「…………………………………………………………」

 

 クシナは涙袋に涙を貯めながらサオリに懇願していた。

 その涙は先程語った復讐に至るまでの経緯で感情が昂り無意識のうちに涙を流しているのだろう。

 

「(サオリ姉達、か…)」

 

 クシナは自分のことではなく、サオリ達がこの世界で生きざるを得なくなった諸悪の根源に怒りを顕にしていた。

 

 そう、自分のことではない。

 他人のためにクシナは無意識に涙を流しながら許せないという怒りの感情を爆発させていたのだ。

 

 今までの会話からしてクシナはもう誰かに守られて生活することは心底不愉快のようだ。

 それは自身の姉さんが過保護すぎたからなのではない。

 守られてばかりで何もできなかった自分がきっと許せないんだ。

 そして…もう自分のために誰かに死んでほしくない…と言ったところか。

 

「(クシナのエゴはミサキとは違う)」

 

 ミサキは生きることが苦しいから死を選んだ。でもそれは生きてほしいと思うサオリのエゴが生きるように懇願している。

 でもクシナは違う。クシナは自分の復讐というエゴを押し通すために、守られている側では示しがつかないと言い出した。受け入れたところでミサキと違ってすぐに他界するわけじゃない…。

 

「(だけどそれはあまりにも危険な行為だ)」

 

 みんなを守るために前線で戦う。それはあまりにも危険な行為だ。なんせアリウス生は皆が自分達よりも年上だ。自分の倍以上に生きている生徒と戦うとなったら高確率で敗北を期すだろう。その敗北とは勿論死を意味する。

 

「(死んでほしくない。生きてほしい…!)」

 

 自分のエゴが邪魔をする。

 今ここでクシナの四肢をへし折り無理やり戦えない体にしてしまえば全て丸く収まる。

 だけど、それだとクシナの復讐という野望が怪我の後遺症で一生頓挫されてしまうことも有り得る。

 

「サオリ姉」

「ッ!」

 

 目を逸らし両手に握り拳を作りながら苦悩するサオリ姉。

 私はサオリ姉が口を開くのを待ち続けたが一向に開く気配がない。

 サオリ姉はきっと自分の思いを伝えるのが下手なんだ。さっき語って自身のエゴの話をする時はずっと声が震えていた。

 多分だけど否定されることが怖いんだ。だってサオリ姉のエゴは善意のエゴだ。悪意があって生きてほしいと言ってるわけじゃない。なのに否定されるとなれば傷付くし、自身のエゴが正しいものではないと痛感してしまう。

 

 ならば。サオリ姉のエゴを受けて感じた思いを伝えよう。

 

「サオリ姉、私はサオリ姉に感謝してるよ」

「……私に感謝している、だと?」

「うん、だって私は姉さんが亡くなったあと、生きる活力がなかったから自死しようとした。でもその時、サオリ姉が姉になると手を差し伸べて家族に誘ってくれた」

 

 あの時私は間違いなく自死しようとしていた。

 この世界で生きることに絶望した私にサオリ姉は手を差し伸べた。

 

「例えそれがサオリ姉の言う自死してはいけないという正当化のエゴであったとしても、私はそのエゴに救われた。だから───」

 

「───私を生かしてくれてありがとう」

 

 そして…。

 

「───私に生きる意味を教えてくれてありがとう」

 

 感謝の言葉を述べた。

 

 あの時、サオリ姉が私に手を差し伸べてくれなかったら私はここにいない。

 それどころか外の世界を知れたこと。復讐というエゴを持てたこと。サオリ姉のエゴによってみんなを苦しめることになった諸悪の根源に復讐するという新たな私の生きる意味ができた。

 

「……こんな苦痛しかない世界で生かされてお前は感謝の言葉を私に送るのか…?」

「うん。私はサオリ姉のおかげで生きる意味ができたから」

「……私が生きることを許容することでこの先様々な苦悩によってお前の精神を蝕むかもしれないというのに…それでも生きててよかったと思えるのか?」

「うん……だってこんなに素晴らしい家族と巡り会えたんだから」

「ッ!そう、か…」

 

 サオリ姉は急に背を向けそう答えた。

 

 小刻みに肩が揺れている。

 きっと自分のエゴを初めて受け入れてもらえて嬉しかったが故に嬉し涙を流している…。なんて言葉で片付けていい話ではないだろうけど、私の語彙力のボキャブラリー的にも嬉し涙って言葉しか出てこない。

 

「(生かして感謝の言葉を述べられたの初めてだな)」

 

 自分のエゴを押し付けたことでクシナはミサキ同様、この先の人生において自分を恨むことになると思っていた。

 だけど違った…。クシナは自分を恨むどころか感謝していると告げた。

 

 サオリは以前、自分が述べた内容を思い出した。

 

「いつか私に頼らずに生きる活力を見つけよう…」

 

「(この短期間で新たな生きる意味を得たのか…)」

 

 自分のエゴを押し付けて生かしたクシナが自分にありがとうと感謝の言葉を送ってくれた。そんな自分の考えを受け入れてくれたクシナに対して、他人のエゴを受け入れられないとはこれ如何に。

 そうだ。こうなればクシナのエゴに応えてあげるのが姉の道理ってものだ。

 

「クシナ……約束してくれ」

「?約束?」

「ああ、この先一緒に前線(・・)で戦う中で約束してほしい───絶対に死なないでくれないか」

「!」

 

 私の方へと振り向き、目尻を赤くしたサオリ姉がそう約束を結ぶように懇願してきた。

 そんな約束の返答など聞かれるまでもなく決まっている。

 

「約束する。私は絶対死なないよ」

 

 私がいなくてもサオリ姉達が幸せになればそれでいいと思っていた。

 だけどそのような約束を結ぶとなれば私は死ねないな…。

 

「───ああ、頼んだぞ」

 

 サオリ姉は涙を拭う仕草をした後、自身の頬を数度叩き、いつものようなキリッとした表情に無理やり戻した。

 

「明日からの訓練は他の人達よりもキツくなるからな。覚悟しておけ」

「!望むところだよ!」

 

 何時もの雰囲気に戻ったところで私は元気よく返事をした。

 

「……???」

 

 しかしサオリ姉は何故か腕を組み首を傾げた。

 

「クシナ、お前なんか話し方変じゃないか?」

「え、変?なにが?」

「丁寧に話すのか雑に話すのかどっちかにしろ」

 

 今思えばクシナと姫の会話で変に引っかかるなと思えばこれだったのか…とサオリ姉はボソッと言葉を漏らしていた。

 

「だってアツコと話す時顔が良すぎて緊張するんだよ!」

「おーそれだそれ。そんな感じで常に話し続けるんだ。クシナの丁寧語なんて今後聞きたくないからな」

「な、なんだと!?」

「そう、そう言った返事でいいんだよ」

 

 あ、そうか。

 

 サオリ姉以外のみんなは私がサオリ姉と会話するように雑な言葉を使っているところを見慣れてないから何も思わなかったのか…。

 付き合いが他の人達よりちょっと長いサオリ姉だから気付けたことか。

 

「変に気を使うな。お前は末っ子なんだ。クソガキのように振る舞っても周りはなんとも言わないはずだ」

「く、クソガキ、だ、だと…!?ま、まだ言うかお前!さっき泣いてたくせに!」

「はっ!?泣いてないが!?」

「うっそだあー泣いてましたー泣き虫サオリ!エゴエイストサオリ!」

「なっ!……こんのクソガキがぁぁあ!!!!」

「んぎゃぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 サオリが放つ愛ある拳がクシナの頭上にクリティカルヒットした。

 サオリは瞬時にクシナの断末魔が周囲に響くことを恐れ、クシナの口を抑え声を籠らせたのであった。

 

◆◆◆◆

 

 クシナとサオリが屋上で語り合う数時間前。

 日が落ち、周囲が暗くなったところで行動し出す武装集団の姿があった。装備している物には至る所にアリウスの校章が記されている。どうやらアリウス分校の1部隊のようだ。

 

「こちらチーム(ワン)。エリアDに現着した。これより目的地に向かう」

「チーム(ツー)、了解。念の為周囲に警戒しつつ探索に当たってくれ」

「チーム(ワン)、了解」

 

 チーム(ワン)と名乗ったアリウス部隊はチーム(ツー)の指示に従うよう周囲を警戒しつつ探索にあたる。

 

「周囲に警戒しろって言ってもこんな辺境誰もいないだろ」

「私語は慎め。この任務はスクワッド(・・・・・)からの命令だぞ。何処で聞いているのかしれたもんじゃない」

「スクワッドねーあたしあの人達嫌いなんだよねーアリウス最強の特殊部隊かなんだか知らないけどちょっと強くて偉いだけじゃん」

「強いから偉いんだろ。文句があるなら入れ替わりの決闘を申し込むことだな」

「…………ちっ」

 

 その後、私語は無くなりチームⅠは目的の探索エリアへと現着する。

 

「こちらチームⅠ…。現着した…が、目的の建物は見受けられない…。」

「……チームⅠ、それは本当か?」

「嘘なんてつかねーよ。見た感じここ一面が焼け野原になってるぞ。誰か燃やしたんじゃないか?」

「スクワッドからの情報が確かならここに目的の建物があると聞いてたんだが。チームⅡ、何か追加情報などはないのか?」

「……ありません。我々もチームⅠの補佐に入れと言われただけです」

「ちっ、あいつらデタラメ言いやがって…!」

 

 怒りを顕にしたアリウス生の1人が焼き果てた木片を蹴り飛ばし周囲に炭が舞い散る。

 

「おい、やめろ…服が汚れるだろ」

「服なんてどうでもいいんだよ。ったく辺境の地まではるばるやってきたってのにこれかよ。大体任務の内容がガキの誘拐だ?何が目的なんだよ」

「……おい、お前。死にたくないならこれ以上の失言は注意しろ。アルファ(・・・・)様に聞かれたら殺されるぞ」

「無線はチームⅡとしか繋がってないだろ。ビビりすぎだっての」

 

 ケラケラ笑いながら焼き果てた家の木片をまたも蹴り飛ばすアリウスの生徒。

 しかしその余裕は一瞬の出来事で地獄の淵へと叩き落とされる。

 

「あーあーあー。こちらスクワッド。アリウススクワッドのアルファだ。内線を聞いている部隊の隊長は応答しろ」

『!?』

 

 チームⅠ、チームⅡ共に予期せずスクワッドからの内線に驚く。

 各隊の隊長らしき人物が無線機に手を当て応答する。

 

「こちらチームⅠ、目的地に到着しましたが…建物が既に焼き果てておりまして…。」

「焼き果ててるだ?例のガキは何処にいる?」

「それが現場には誰もいない様子です。いかがいたしましょうか」

「……いないなら仕方がない。今回の任務は取り下げる。すぐに本部へ戻れ」

「……チームⅠ、了解」

 

 チームⅠの隊長が無線機を切ったところで先程スクワッドに対して文句を吐いていた生徒が胸を撫で下ろし安堵のため息を着く。

 

「あ、それとさっき俺の文句を言ってたお前。入れ替えの決戦、待ってるからな」

「いっ!」

 

 隊員の返事も聞かずに内線を切ったアリウススクワッドと言う最強の部隊に席を置くアルファと呼ばれる少女は不気味な笑みを浮かべながら舌なめずりをする。

 

「何処だ…?紅耶(あかや)の妹はどこにいるんだ」

 

 スクワッドに与えられた部隊室の椅子に腰を下ろし、机の上に置かれていたサバイバルナイフを手に取ったアルファはコルクボードに飾っていた1つの写真へナイフを突き刺した。

 

「お前の姉の血はさぞ美味かったからなぁ…きっとお前の血も美味いんだろうなぁ…」

 

 その後、アルファは終始不気味な笑みと笑い声を上げながらナイフを刺した写真に映る少女を眺める。

 

 その写真に移る少女とは部屋で1人姉の帰りを待つクシナなのであった。




後半のオリジナル設定で察したかと思いますが、現段階でアリウススクワッドは存在しています。メンツはオリキャラなので…まあそう言うことです。入れ替えの決闘だとか、強いから偉いだとか、今後クシナ達をアリウスにぶち込むための良い口実になってくれそうです。

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前回の話で感想来てたんですけど…なんかページ更新したら無くなってました。悲しい。
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