「俺は陰キャ、ゲーム世界に転生したランカー、でもストーリーはニワカ……どうしよう」 作:カンさん
「お爺ちゃんが組み込んだ適合システム本当に凄いや! でも、それ以上に君が凄い!」
宇宙人を撃退した少年の周りを子犬の様に駆け回って褒め称えるルビー。
彼女からの賞賛の言葉に満更でもなさそうな顔をする少年。甲冑により表情は見えていないが、途轍もなくだらしない顔をしていた。
コミュ障で陰キャで人と関わるのが苦手な彼だが、承認欲求は人並み以上にあった。前世ではメタルクラッシュオンラインで活躍し、野良の仲間から賞賛のスタンプを押された時は凄く喜んでいた程だ。
現に、最初はルビーの事を
「ねっ! ねぇっ! 物凄く強くて勇敢な君にお願いがあるの!」
紅い瞳をキラキラさせて、ルビーは顔を近づけてきた。
あ、ごめんなさい。やっぱりちょっと怖いです……。
彼の領域を踏み壊しながら近づく目の前の生物に視線を目一杯逸らしながら、彼は踏み留まる。いっぱい褒めてくれたからである。甘いね。
そんな彼の様子にルビーが気付いた様子もなく、
かつて彗星がこの地球に飛来し、その後に繁栄した今の人類。
しかし、実はその裏には別の人類種も存在し、この星の覇権を狙っていた。
二つの人類は戦い、争い、長い年月をかけてこの星の頂点を奪い合い。結果勝ち取ったのが今の人類だ。
負けた人類達は降伏し、地下へと退散した──のだが、その後も彼らはこの星の覇権を手に入れるために幾度となく現地球人達へと攻撃を仕掛けていた。その度に、かつてこの星の覇権を取った地球人達は彼ら魔王軍を撃退していた。
「でもね、時間が経って魔王軍の存在をみんな忘れちゃって、今ではアタシたち地球防衛軍しか知らないんだ~」
そして現在、地球防衛軍は彼女とその姉、そして祖父の三人しか居ないらしい。
戦死したのだろうか……そう彼が少し悲しい気持ちになっていると。
「みんなメタルクラッシュにハマってそれ所じゃないだってさ! お爺ちゃんは『呑気過ぎる……!』って怒ってた」
でもアタシも早く魔王軍倒して新しいカフェのお店に行きたい! と可愛らしく頬を膨らませるルビー。
……状況はそこまで切迫していないのだろうか? と彼は力が抜けた。
元々、この世界は争いごとがほとんどなかった。強盗とか殺人は起きないというか、今の人類の性質的に起きえないというか……。
彗星からの不思議なエネルギーで病気にならず、食事も排泄もなく、悪感情を抱きにくい。そんな不思議な生物なのだ。この世界の人類は。だから前世の記憶を持つ彼は13年経った今もこの世界に違和感を覚えている。
「ねぇ、お願い! 一緒に魔王軍を倒して!」
そう言ってルビーは強く懇願した。
そんな事を言われても、と彼はどうやって断ろうかと考えている。さっきはテンションに任せて魔王軍を倒したが、しかしこの先も同じ戦いをしてくれと言われて頷けるほどの度胸はない。
でもはっきりと『嫌です』と断れるかと言うと無理である。
どうしたものか、と甲冑の中で百面相の如く表情を歪めさせて……。
「何も言わないって事はYESって事? ありがとう!」
「!?!?」
とんだ飛躍した暴論により、彼は何故か地球防衛軍の仲間に入れられてしまった。
「えっと、今空いているのは……地球防衛軍第一部隊特攻兵だね!」
「──」
彼は絶句した、このままでは爆弾持って敵陣に突っ込むことになりそうだった。しかし拒否権はなさそうだ。あっても拒否できないだろうけど。
「よくわかんないけどカッコいいね!」
救いは彼女がその意味を理解していない事だろうか。それとも無知が招く災いがいずれ彼に悲しき運命を運んでくるのだろうか。
それを知る者は居ない。
「あとはコードネームだね! えっと君は……」
そこまで言ってルビーは先ほどの光景を思い出し、ヨシっと一つ頷くと目をキラキラさせて言った。
「今日から君は『勇者』! コードネームは『勇者』だよ!」
何故かとても嬉しそうにそう言い、彼は──勇者は生前のプレイヤーネームと同じなため、その方が今世の名前よりも呼ばれ慣れそうだと思い、今回は特に拒否する事無く頷いた。
その反応にルビーはこれからよろしく! と勇者を抱き締めた。
パンッ。
勇者は死んだ。
「ええ!? 何で!?」
『自動回復プログラムを起動します』
勇者のギアが己の主人に復活の呪文を唱えている。
前途多難であった。
◆
エリア1・始まりの草原。
原作メタルクラッシュオンラインのストーリーモードにおける最初のステージだ。
ルビーを追いかけてきた魔王軍が占拠したワープゲートは、強固なバリアによって守られている。そのバリアを突破するには5つのステージをクリアし、このエリアのボスを倒してバリアに注がれているエネルギーを絶たなければならない。
現在ルビーと勇者は、最初のステージに繋がるワープゲートへと向かっていた。
「勇者くんってメタルタウン出身?」
顔を覗き込みながら問いかけたルビーに、勇者は荒野の先にある田舎出身だと答えた。顔を左に逸らしながら。
「……メタルタウンに来たのは、やっぱりメタルクラッシュをする為に?」
タタタッと彼の左側に移動して目を合わせようとするルビーに、そうですと言葉少なく答えて今度は右を見る勇者。
「……勇者くん強いよね? アタッカー経験者?」
ぐるりと回りこんで質問してきたルビーに、そうですと先ほどと同じ答えを告げる勇者は。
「もーう! 何でそっぽ向くの!?」
陽キャなルビーと目を合わせる事ができなかった。自分が首をぐるんぐるん回すので。
当然ルビーは不満を爆発させてプンスカと抗議をする。膨らんだ頬っぺた柔らかそう。
人と目を合わせて話す事ができない勇者と人と目を合わせて話したいルビーの衝突は時間の問題だった。むくれる彼女を前に勇者はなんて答えれば良いかと思考を巡らせて頭の中がグルグルと回り……。
『チキュウ人! コンナトコロニイタノカ!』
『ハイジョ! ハイジョ!』
『ヤラレター』
『クワラバー』
「もしかしてずっと警戒していたの? ごめんね勘違いしてた」
ごめんなさい、勘違いさせました。
突然現れた魔王軍を倒した勇者は、先ほどの挙動不審な行為を好意的に捉えられてしまった。おかげで先ほどまであったルビーの不満の表情は消え、勇者に対してキラキラとした目線を送っていた。その光で蒸発しそう。しかしこれにより、勇者は彼女から顔を背けて会話をしても怒られなくなった。申し訳なくて泣きそうである。
しかし勇者くん勇者くんと周りを駆け回る姿は、彼女の可愛らしい容姿と相まって悪くないと彼は思った。
「ここがステージ1だね!」
彼女たちは草原にある廃村のような場所に訪れると、複数ある井戸の一つの前にやって来た。中を覗くと真っ暗で何も見えず、しかし不思議と中に入れるという気持ちが
湧き上がってきた。
どうやらこの中に入ると魔王軍のテクノロジーで拡張された地下空間に転送されるらしい。
「それじゃあ、アタシは外からオペレートするからよろしくね!」
……え? 一緒に来ないの?
突然そんな事を言うルビーに勇者が振り返って不安そうな視線を向けると、それに気づいた彼女は太陽の様に輝かんばかりの笑顔を浮かべると。
「さっ、行ってみよう♪ 勇気を出して!」
そう言ってトンっと彼の背中を押した。フワリと穴の中に押された勇者は何が起きたのか理解するのが遅れて──重力にその身を囚われた瞬間穴の奥へと落ちていき。
「──!」
声にならない絶叫をその場に残しながら粒子となって消えていった。
◆
『無事に着いたみたいだね! 良かった良かった』
良くねぇやい。
目の前に広がるアスレチックな光景を見ながら、勇者は心の中で泣いていた。
陰キャな彼にとってとつぜん知らない場所に放り込まれるのは苦手なのだ。背中を押されたこと? あんなの殺人行為だろ訴えるぞこの野郎、とできない事を言っても仕方ないので言わないことにした。
それにしても、と彼は改めて目の前の光景を見る。
地下だというのに、まるで外にいるかのように明るい。というより空がある。……いや、あれは偽物の空だ。時折ノイズが走っているので、外壁に何かしらのテクノロジーで空を映しているだけだ。
そして、どういう訳かステージは浮いていた。科学の力ってスゲー!
そして、下を覗き込むと底が見えない穴が広がっていた。こんな所に放り込まれてコエー。
『あ! ゴールが見えるよ! あそこのスイッチを押すんだよ!』
ルビーの言葉と共に勇者のギアが、彼の視界にゴール地点を示してくれる。さらにそこに向かうまでのルートも検索してくれる。
というよりも……こんなことできたんだ、と勇者は驚いた。
彼は知らない事だが、メタルクラッシュギアは使用者の補助を自動で行う優れたデバイスであり、試合中で必要な情報を最低限かつ最適に情報共有を行ってくれるのである。
『マスター。このルートを進むのが正規ルートのようです』
最も、彼の持つギアは普通のギアと違ってAIユニットが組み込まれている。
何でもルビーの祖父が制作したらしい。道中彼女が自慢げに語っていた。
彼はギアの誘導に従い、ステージを進む。普通の状態なら登れない段差も鋼鉄の纏った状態なら問題なく飛び越え、道を塞ぐ鋼鉄鉄の箱も剣で簡単に壊すことができた。中から青く光る石が出てきたが……とりあえず回収しておいた。
『これくらいは簡単だよね!
ルビーの言う通り、基本動作を理解することができれば突破可能なステージ構成となっていた。
しばらく進むと銀色に輝く人型……魔王軍がステージを徘徊していた。
避けて通る……事はできそうになかった。
『あっ! 魔王軍だ! 倒してちゃっちゃと行っちゃおう!』
『敵対反応より脅威度計測──マスターなら問題なく駆逐可能』
やだ、この人たちヤル気満々だ。
血気盛んな彼女たちに戦々恐々としながらも、勇者は剣を片手に切り込む。
『ヤラレター!』
『キョウダーイ! キサマ、ヨクモ!』
触手を伸ばしてくる魔王軍を倒していると、突如腕の形をグネグネと変えてくる個体が居た。その腕は銃の形となり、銃口を勇者に向けると……。
『あ、危ない!』
『ヤラレロー!』
ドンっと音を立ててエネルギー弾を撃って来た。それを
まるでシューターみたいな奴だな、と前世のメタルクラッシュオンラインを思い出しながら勇者はそっと視線を辺りに向ける。
『マスター。
ギアからの提案に、そういえばそうだったと彼はまだ使っていない力を思い出す。
メタルクラッシュギアオンラインでは、近距離タイプの『アタッカー』、中距離タイプの『シューター』、遠距離タイプの『スナイパー』の三つのポジションがあり、それらを
その
彼は早速
『
瞬間、彼の鋼を駆け巡るのは時を操作し、万里の距離を一瞬で駆け抜けた太古の生物の力。
全身が軽くなった勇者はオブジェクトから飛び出し、一気に敵に向かって駆けていく。
『ハイジョ! ハイジョ!』
こちらに向かって弾丸をばら撒く魔王軍だが、彼の視界に入るそれらはとてもゆっくりと動いており回避するのは容易だった。
紙一重で弾丸をくぐり抜けて相手に肉薄し、振るわれた神速の剣は相手を細切れにした。
『ヤラレ──』
断末魔を聞く事もなく勇者は次の敵に近づいて斬って、そのまた次の敵に近づいて斬って、それを繰り返し──。
気が付けば彼はステージのゴールに付いていた。
『凄い凄い! 勇者くん凄く速かったよ!』
通信からルビーの賞賛の言葉を受けながら勇者はフフンと内心誇らしげに思いながらも、ゴールに設置されているボタンを押す。するとステージがクリアされた事が認識されたのか彼は地上に向かって転送されるのか、体が粒子となって消えていく。
その最中、勇者は思った。
チーターってあんなんだったっけ……?
ゲームでは攻撃回数が増えるだけで視界がスローになることはなかった。というよりもゲームのジャンル的にできないと思う。ラグがない限り。
その辺はゲームと違うんだなぁと彼は思い、もしかしたら他の
◆
──マイスターに定期報告。
適合者──以降『勇者』の戦闘能力についてですが、マイスターの想定を遥かに上回る使い手と分析結果が出ました。
明日の午前には、魔王軍幹部との戦闘に突入致します。
その際のデータ収集の為マイスターに一つ提言致します。
ギア内のブラックボックスの解放。第一
どうか──よろしくお願いいたします。