笑顔(と血飛沫)の絶えない転生です   作:社畜だったきなこ餅

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宵闇行状譚完結記念に書いてみました。
二巻の表紙を飾っておきながら二巻の末で物語退場した堕姫ちゃんへのTS転生モノです。


鬼火と妖狐とハイ〇ース

 

 暗がりの続く山の中、街灯の光が点滅している駐車場に一台のワンボックスカーが停まる。

 その車のナンバー表記は今車が停まった山のあるS県ではなく、隣の県の表記が為されている事からその車がわざわざ遠方まで走ってきている事を証明していた。

 

 先ほどまで車を運転していた腕にタトゥーの入った若い男は、待ち切れないとばかりに後部座席に座る二人の男女へ振り返る。

 隣に座った少女の肩に馴れ馴れしく運転手の男と同じようなタトゥーの入っている男は、ニヤ付きながら少女の肩に回した手の先にある少女の幼い風貌ながらたわわな乳房を卑猥に揉みしだき始め。

 艶やかな長い黒髪と両目で違う瞳の色が印象に残る少女は、その幼い風貌に怯えを強く見せながら自身の胸を揉みしだいてくる男の手を必死に払いのけて口を開いた。

 

 

「な、なんですかここ……?! 早く家に帰して!」

 

「何言ってんだよお嬢ちゃん、初めて会った男の車についてきたのアンタだろぉ?」

 

「そうそう!おとなしくしてりゃ気持ちよくしてやるからさ!」

 

 

 目を見開いて怯える少女、今まで何度も目に収め時にはカメラにまで収めて楽しんできた中でも極上の女。

 そんな獲物に男二人は舌なめずりし、運転席の男は股座をいきり立たせながら後部座席へ乗り込み……咄嗟に車から逃げ出そうとした少女を車の中へ突き飛ばして圧し掛かる。

 

 

「ひゅぅ♪すべすべの肌にサラサラの髪じゃん、いーとこのお嬢様ってやつ?」

 

「そーだろーよ、なんせ俺達みたいなのにホイホイついてきちまうぐらいだしな!」

 

「いやぁぁぁ!」

 

 

 男達が何度も繰り返してきた悪徳の毒牙に、また今宵も一人の少女がかかるのは時間の問題。

 この場に助けに来るような警察や正義の味方などいるわけもなく、必死にもがく少女に苛立った男の一人が少女の顔を殴ろうとした。

 

 その時。

 

 

「おいおいどーしたよ、かわいこちゃんのお手手で止められるとか優しいじゃん?」

 

「ち、ちげーよ! この女、力が……」

 

 

 ゲラゲラ笑う男に対して今まさに少女に暴力をふるおうとした男が、まるで筋骨隆々の男でもあり得ない力で自身の拳を手首を掴んで止めるという異常事態を友人へ説明しようとする。

 そんな友人の情けない様子に男がそんなわけないだろと言おうとしたその視線の先で。

 

 少女の小さな手で受け止められた友人の手首が、生々しい音を立てて握り潰された。

 

 

「あ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「やっべやり過ぎた、けど顔殴ろうとするのはダメだねー」

 

 

 まるで中身のないアルミ缶のように握り潰された自身の手首を押さえて絶叫する男の様子と対照的に。

 先ほどまで怯える様子しか見せていなかった少女が飄々とした声音で言い放ちながら男を軽く蹴飛ばしてその体の下から抜け出る。

 

 

「な、なな、なんだよお前ぇ!!」

 

 

 潰された手首を押さえて絶叫する友人、そんな異常な事を容易く行った先ほどまで味わうだけの獲物と思っていた少女に片方の男は怯え、慌ててワンボックスカーから転がり出る。

 運転席に戻って逃げる事も考えた、しかし後部座席に化け物がいる状態で運転する事などありえないと考えた男は地面にしりもちをつきながら必死に後ずさる。

 

 

「何ってアレだよ、妖怪ってやつ?」

 

 

 男を追うように車からひょい、と降りた少女はその顔に悪戯が大成功したかのような満面の笑みを浮かべ……男の目の前で少女の輪郭が大きくぼやけた次の瞬間。

 少女の頭に狐の耳、そしてお尻から狐の尻尾が生えた。

 

 

「よ、妖怪ってなんだよ!ありえねーだろこのクソ化け物が!」

 

「ありえないって酷いなぁ、そんな事言われるとこっちも傷つくのに」

 

 

 先ほどまで着ていたワンピースから、丈の短い着物のような衣服へと変わった少女は点滅する街灯の光に爛々と光る量の瞳を輝かせながら男へと近づく。

 

 

「それよりもお兄さん方は少々やり過ぎたみたいだね、お兄さん達が獲物にした娘達や親から随分と怨まれてるよ?」

 

「そ、そんなの俺達が知った事じゃねえよ! それにあいつらだって!クスリで最後には気持ちよくなってただろ!」

 

「うわぁ絵に描いたゲスだねお兄さん、そのクスリのせいで人生終わった娘だっていたのに」

 

 

 男の言い分に少女こと狐の化生は口元に手を当ててコロコロと笑うと、その手を軽く振ってゆらりと蠢くこの世のものと思えない悍ましい鬼火を幾つも虚空へ浮かべる。

 その焔には幾つもの人の顔、中には骸骨が浮かび上がっている鬼火まであり……その異常な光景に男は短い悲鳴を上げる。

 

 

「じゃあさ……お兄さんの言い分が正しいかこの子達に聞いてみたら?」

 

「な、や、やめ! いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 少女は虚空に浮かべた鬼火を、まるで小石を投げるかのような気軽さで男へ投げつけると待ち切れないとばかりに虚空に浮かんでいたすべての鬼火が男めがけて殺到する。

 その絶対的な恐怖を齎す光景に男は涙を浮かべ股間から大量の液体を流しながら這いつくばって逃げようとするが、逃げ切れるわけもなくその体を鬼火達が包み。

 

 ほどなくして人間のモノとは思えない絶叫を、鬼火に包まれた男は上げ始めた。

 

 

「そんな大げさに叫ぶ事じゃないじゃん、お兄さん達が食い物にしてきた娘達の苦痛をそのまま受けてるだけなのに」

 

 

 駐車場の上をのたうちまわり絶叫を上げ続ける男の様子に、少女は尻尾をゆらりと振りながら肩を竦め腕を組んで大きくたわわな胸を持ちあげる。

 じゃあ次は車の中の男に仕置きを、と思った少女であるも彼女が動くより早く背後の車が動き始めた音を大きな耳が拾った。

 

 

「あ」

 

 

 少女が振りむいたその先では、片手の手首を握り潰されて絶叫をあげていた男が必死の形相でハンドルを握ってこの屠殺場じみた駐車場から逃げだそうとしていた。

 人間に比べ強力を誇りこの世のものと思えない鬼火を操る狐の化生である少女も、さすがにアクセル全開の車に追いつくのは少々骨が折れる。

 故に少女は追跡を諦め、溜息を吐いて闇の中へ消えていく車のテールランプを見送るのであった。

 

 何故ならこの闇に包まれた山は既に彼女の殺し間、わざわざ追いかける必要もないのだから。

 

 

「いやぁ、酷いお友達だよねぇお兄さんの共犯者もさ」

 

「ぅ……ぁ……」

 

 

 未だ鬼火に包まれ、しかし苦痛に喘ぐ体力も気力もない男の傍らに少女はしゃがみこむと無邪気な笑顔を浮かべてその顔を覗き込む。

 

 

「ころし、て……」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ、殺したりしないよ? それに殺したら後々面倒だしねぇ」

 

 

 被害者たちの無念、怨念によって増幅された鬼火に包まれた男が『死ねない』苦痛に少女へ懇願するが、とても楽しそうな少女の言葉に男はその顔に絶望を浮かべると同時に。

 少し離れた場所から、車が事故を起こしたかのような衝撃音が響く。

 

 

「お嬢、逃げた輩も捕えました」

 

「ん、ごくろー! 母様にも君の活躍は報告しておくからね!」

 

 

 音もなく闇の中から現れた……先ほど車で逃げた男の片割れを無造作に掴んでいる烏頭の怪人、としか思えない化け物に鬼火に包まれた男が呻く。

 

 

「しかしお嬢、こんな回りくどい真似しなくてもさっさと殺すなり人間を食うなりすればすぐ強くなれるでしょうに」

 

「やだよ、こんなの食べたくない。それに何もしてない人間襲ったら怖い人に怒られちゃうじゃん」

 

「我ら妖に仇為せる人間など今の世に居るとも思えませぬが……お嬢がそれで良いなら何も言いませぬ」

 

 

 もはや鬼火に包まれた男の事などどうでもよいとばかりに雑談に興じる二つの化け物。

 その姿はまさに、人間とは隔絶した生命体の有様であった。

 

 

 

 

 

 

 あ、これ死に申したという瞬間を迎えたと思ったら赤子になっていた。

 そんな良くあると言わざるを得ない転生をしたと思っていたのですが、一つ普通と違う事があり申した。

 

 なんと妖怪組織の女頭領の一人娘として転生していたのです。

 まぁうん、これはいいのだ。いや良くはないけどまだいい、前世は男子だった気もするが新たな生を与えられた喜びの方が大きい。

 

 

 問題は、転生先が怪奇バトル作品の第一章とも言えるところで主人公に討滅されるメスガキ狐ってところだな!!

 

 

「お嬢、こちらへ」

 

「ん、ご苦労!」

 

 

 お目付け役兼護衛である烏天狗の夜霧さんに手を引かれ、付喪神である妖怪ベンツの後部に乗り込む僕ことお嬢。

 名前は『堕姫』、種族は妖狐でございます……なお妲己や荼枳尼天に縁がありそうで全くございません。

 

 

「例の二人は別口で警察の前に行状つきで発送済みです、明日には新聞に小さく載るでしょう」

 

「さすが夜霧、仕事が早いねぇ。動画の方は?」

 

「仔細問題なく、ですが苦痛にのたうち回る男の映像しか撮れないのですが宜しいので?」

 

「ばっちり問題なしだよ、被害者や遺族の人達にとっては憎い怨敵が苦しんでるというだけで溜飲が下がるだろうし」

 

 

 妖怪ベンツの中で夜霧と今回の仕置についてデブリーフィングをする僕。

 まぁ当たり前だけど僕達妖怪ってのは人の畏れに代表される感情を強く集めるか、もしくは人間を食らう事で強くなるのだけども。

 一番手っ取り早く悪行やったり人間を食ったりすると容赦なくしばかれます、夜霧さんはめっちゃ人間侮ってるけどやべーのが身近にいます。

 

 と言うか僕が転生したこの『宵闇行状譚』、通称宵闇の主人公君にロックオンされたら僕なんて一撃で死ぬし頭領である母上も一話分の分量で吹っ飛ぶ。

 なんなのあの主人公……最終的に異世界の邪神と概念バトル繰り広げた末に拳で殴り勝つし、まじで人間か怪しいよ……。

 

 ちなみに今はめっちゃ人間を侮ってる夜霧さんですが、原作だと主人公たちと幾度となく闘いを繰り広げて友情を育み最終決戦近くまで共に戦う仲間にちゃっかりなってる。

 僕達は容赦なく退場させられるというのに、何この理不尽めいた扱いの差!

 

 

「お嬢? 俺の顔に何か?」

 

「ん? んーーん、なんでもない。ただ男女問わず誑かしそうな顔してるよねーって思っただけ」

 

「御冗談を、それよりも今回の件ですがね。お嬢が体を張る理由ほんとにありましたかね?」

 

 

 僕の視線に対して訝しそうな目を向けてきた夜霧さんに対して慌てて誤魔化すも、一笑に付された上で厳しめな口調で詰められる。

 幼少の頃からうちの組織にいて、新参って事で軽く扱われたのを僕が立場で無理やり引っ張った上に便利に使ってるからか、こうやって小言をもらう事が多いのである。 

 

 なお原作だと堕姫はマジで夜霧さんを下男のように扱ってたので、隙あらば殺そうとされてるという有様である。

 まぁ、原作堕姫ちゃんマジでメスガキ狐で……顔と体以外いいとこ一つもないとか、ファンサイトでも言われてたからしょうがないような気もするが!

 

 

「いやだってさ、次の犠牲者を待つわけにもいかないじゃん。それにあの程度僕なら平気だし」

 

「何があるかわからないから、無茶はしないでほしい。そう言っているのです」

 

「あるぇー? 人間なんて大したことないんじゃないの?」

 

「それとこれとは話が別です、そもそも……」

 

 

 ともあれ夜霧さんの詰問に対してシートに体を預けながら答えれば、夜霧さんが目じりをピクリと動かしながら静かに怒ってくる。

 それに対して茶化すように返事をする僕であるも、夜霧さんの空気が変わり……家に帰るまでの間こんこんとお説教を受ける羽目となる僕であった。

 

 




堕姫ちゃんって新参ホイホイなビジュアルすぎて。
薄い本や某お絵かきサイトから宵闇を読み始めた人は、ヒロインだと大体勘違いするって話ホント好き。

ちなみに作者も堕姫ちゃんに釣られてホイホイ読み始め、そして速攻で退場して愕然とした一人です。
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