全エピソード盛り込んで書くと、終わらない……!
見上げる程に大きな体躯を誇る筋骨隆々の鬼が金棒を少年めがけて振り下ろす。
その一撃は見た目以上の鋭さと速さを持ち合わせ、風切り音を残しながら少年を叩き潰そうとするが、金棒のターゲットとなった少年は逃げる様子を見せる事はなく。
構えを解くことなく腕に強い霊力を込め、円を模した動きで自身の頭に迫る金棒を真横から叩くことで軌道をそらし金棒に地面を叩かせる。
簡単に叩き潰せると思っていた人間の動きに鬼こと酒呑童子は口角を釣り上げ獰猛に笑いながら金棒を手放すと、その腕で少年を掴もうと手を伸ばし……それよりも早く踏み込んだ少年。
そう、宵野弦哉は絶大とも言える霊力を怒りと共に拳へ込めて振りかぶり。
「雷光撃!」
数多もの悪霊や怨霊、人に仇為す怪異を屠ってきた必殺技とも言える篭められた霊力によって雷光を放つ拳を酒呑童子の顔面へと叩き込む。
想定以上の速さと威力で叩き込まれたその一撃に酒呑童子はたたらを踏み、その隙を見逃すことなく弦哉は先ほど叩き込んだ拳とは反対の腕を引き絞り。
「地霊掌!!」
「ぐぅぅぅぅぅっ?!」
闘いの最中においても足を通して吸収した大地の霊力を用いた、大きな隙と引き換えにずば抜けた衝撃力と破壊力を誇る掌打を酒呑童子の胴体へ叩き込んだ。
大型ダンプカーが衝突したかのような轟音と共に酒呑童子の巨体は揺れ、人間である弦哉が放った一撃とは思えない威力に酒呑童子もたまらず苦悶の声をあげる。
だが怒りに燃える弦哉の勢いはそれでも尚止まる事無く。
掌打を放った次の瞬間には更なる追撃の構えに移り……酒呑童子が体勢を立て直すよりも早く、裂帛の気合を込めてその一撃を繰り出した。
「風神脚!!!」
堕姫との繋がりで誼を結び、霊力によって風を起こす業を烏天狗である夜霧から手ほどきを受ける事で創り出した技。
蹴撃の嵐とも言えるキックの連撃を弦哉は酒呑童子へお見舞いしていく。
このような大技を立て続けに連発しては、人間の中では規格外とも言える霊力を持つ弦哉でも本来ならかなり無茶がある。
それは修行の中で大地から霊力を吸い上げ己の力に変える術を用いても同じで、簡単に言えば今の弦哉は無茶に無茶を重ねた大技を放ち続けているのだ。
当然そのような攻撃を続けてはいずれ霊力切れと言う名のガス欠を起こし、そうなった時が酒呑童子の反撃の手番となるのは想像に難くない。
だがしかし。
「さすがだな小僧!だがそんなにも霊力を使い続けては、その体も保つま……ぐふぅっ!?」
「地雷掌破ぁぁ!!」
止まる事のない弦哉の猛攻にダメージを負いながらも、弦哉の霊力残量を指摘しようとした酒呑童子が弦哉が今閃いた新たな技によって激しく吹き飛ばされ地面に背中をつける。
霊力と言うものは人が持つ魂の力であり、魂の力と言うのは想いや願いや感情が原動力となる。
そして、酒呑童子によって堕姫が足蹴にされた光景を見たことで弦哉は……人生初めてと言える完全にブチギレた事で、霊力を消費する度に補充されると言うインチキじみた状態になっていた。
「ぐ、ぅぅぅ……」
「立てよ酒呑童子」
呻き声を上げながら地面に手をついて立ち上がろうとする酒呑童子、そんな鬼を怒りの籠った眼差しで見詰めながら立つよう促す弦哉。
自分達の首領である酒呑童子が、ただの人間である弦哉一人にいい様にされてると言う異常事態でありながら、酒呑童子によって集められた有力とされる妖怪達は弦哉の所業に恐怖を抱き……誰一人として動くことが出来ずにいた。
そして酒呑童子もまた同様の恐怖を眼前の人間、弦哉に一瞬抱くも自身の心に喝を入れるかのように咆哮しながら立ち上がる。
普段の弦哉ならどれだけ怒りを抱いたとしても、このような甚振るような行為は決してする事はない。
どれだけ悪辣な怪異や妖怪であろうとも、討滅すると決めた時は一撃で仕留めるようにしているからだ。
ならば何故、酒呑童子に対してだけは今までと異なるのか?
それは、酒呑童子に足蹴にされていた堕姫という妖狐の少女が宵野弦哉にとって特別な存在だからである。
祠を悪戯で破壊した事で餓鬼に襲われたヤンチャな少年達を守る戦い、その時に出会った堕姫は弦哉にとって初めて会う友好的な妖怪で。
そして、霊や怪異が見える事で殆ど他者との交流が無かった自分と真正面から向き合ってくれる数少ない少女だった。
長くない付き合いでこそあるが、堕姫によって騒動に巻き込まれたことは死姫の件を除いても少なくなく、そしてそれと同じぐらい弦哉が巻き込まれた事情に対して堕姫は真摯に向き合ってくれたのだ。
そのたびに人を小バカにしたような笑顔で煽ってくる事に思う事が無いわけではないが、だがその気安さすらも弦哉にとって心地よいもので。
だからこそ、彼女を己の野望の為に攫いそして足蹴にした酒呑童子を弦哉は許す気は欠片も無かった。
故に弦哉はトドメを酒呑童子に刺すべく、その拳に霊力を込め始め……。
「だ、ダメだよおにーさん!」
その拳を酒呑童子に振り下ろす前に、背後から堕姫に抱き着かれてその一撃を止められた。
「止めないでくれ堕姫、こいつはここで仕留めないといけない……!」
「バカ言わないでよおにーさん!止めるに決まってるじゃん!!」
突然の堕姫の行動に戸惑い、しかし己の怒りと酒呑童子の危険さの双方から弦哉は頑なに酒呑童子の討滅を主張するも。
堕姫は必死に弦哉にしがみつきながら、これ以上は止めろと叫ぶ。
なお堕姫が弦哉を止めた理由は簡単で、酒呑童子を敬愛している仲良しになった妖狐の紅葉に泣きつかれたのもあるが……。
それ以上に宵闇行状譚の原作主人公である弦哉が闇堕ちする気配濃厚であったが故に止めていた。
なるべく原作のインフレ地獄展開にしたくないと考える堕姫であったが、そうなってしまった場合頼りになるのが弦哉である堕姫にとって。
弦哉が闇堕ちしたことで、これから先起こるかもしれない死闘で敗北したりした日にはお先真っ暗だからこその制止である。
「小娘……お前さん、なんで儂を助けるようなことをする?」
面食らったのは酒呑童子だ、人間である弦哉にいい様に痛めつけ続けたことによる怒りや屈辱も勿論あるが、大した事ないと思っていた現世の人間が自分以上の強者であったことに満足もしていた。
だからこそここで討滅されるのも悪くないと思っていた所に、これである。
ある意味において当然とも言える酒呑童子の疑問、しかしその疑問を向けられた堕姫が何というかと思えば。
「うっさい黙ってろ!こっちはそれどころじゃないんだよ!!」
必死に弦哉を押しとどめる事に夢中で、酒呑童子の疑問をつまらないものだとばかりに一蹴。
大妖怪である自分に対して恐れを隠しきれてないながらも憎まれ口をたたいていた少女とは思えないその剣幕と発言に、酒呑童子は思わず唖然。
ついでに堕姫の中に宿ってる九尾の欠片は腹を抱えて大笑いしている。
「……コレどういう状況なんですかね?」
「知らん、だがお嬢だからな。こうもなるさ」
決死の覚悟で弦哉と共に乗り込んできた眼鏡をかけた陰陽師の青年、御陵は思わず隣に立つ烏天狗の夜霧に問いかけ。
問いかけられた夜霧は懐から煙草を取り出して火をつけ、一息入れる始末である。
ちなみに彼らは彼らで、弦哉が酒呑童子に辿り着くための露払いで死闘を繰り広げていたので満身創痍なのは言うまでもない。
そうしている内に堕姫の必死の制止によって弦哉の怒りは徐々に収まり、何とか弦哉は拳を収める意思を見せると。
背中に今も止めようとする堕姫を張り付かせたまま、酒呑童子へ問いかけた。
「酒呑童子、お前はまだ人を襲うつもりか?」
「……いや興が削がれた、その気はもうねえよ」
弦哉と堕姫の様子に毒気を抜かれた酒呑童子は、顎に手をやりながらかんらかんらと豪快に笑って矛を収める。
たまったものじゃないのは酒呑童子に集められた血気盛んな妖怪達であるが、そんな彼等も酒呑童子に一瞥されて簡単に口を閉ざした。
聊か締まらない形でこそあるものの、今ここに京都の町が壊滅していたかもしれない酒呑童子の計画と野望は潰えたのである。
その事に対して弦哉に背中に張り付いたままの堕姫は安堵のため息を漏らしていたが……彼女は気付いていない。
酒呑童子は今回の弦哉との戦いの敗北から自身を鍛え直す為に組織を解散し、部下達をまとめて堕姫に押し付けようと考えており。
その事によって、堕姫自身がとんでもなく面倒な立場に据え付けられそうになっている事を……。
そんなこんなで酒呑童子さん、弦哉君にボコられるの巻でした。
弦哉君強すぎ問題が湧いておりますが、彼は割と社会戦以外だと不意打ちくらっても作中無配を誇る化け物&ブチギレ状態だとマジで無双する人間卒業勢なので、こうなるかなって……。
『ここから正気』
実はめちゃくちゃ重い感情を堕姫に向けてた弦哉君。
なんで重いか?そりゃ簡単、特殊な事情で人とのかかわりが殆どない男子高校生がメスガキ気味とは言え距離感バグってる美少女に纏わりつかれたらそりゃこうなるって話。