笑顔(と血飛沫)の絶えない転生です   作:社畜だったきなこ餅

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原作だと強火な人間アンチだった死姫さんの捏造設定ありです。
夜霧さんが人間アンチになった理由は、昔流行り病に対して立ち向かっていた人間の巫女さんが暴徒にデビルマン(隠喩)されたのが原因とあったので、それと絡めてみました。


親の心子知らず、されども子の心も親知らず

 

 組織の中の男妖怪達に割と下世話な視線を向けられ卑猥な言葉を投げかけられる事こそあれども、僕は直接的な被害を与えられる事は無かった。

 僕はその事実に対して自身に都合よく解釈していた、今世の母であり組織の頭領である死姫による何かしらの言いつけがあるぐらいにしか考えていなかったのだ。

 

 だが、その考えは弦哉君と別れてから数か月経ったある日。

 順調に力を伸ばし、そろそろ本格的に原作介入をしようと考えていた時に母様から呼ばれ。

 

 

「堕姫や、いい加減満足してくれぬかの?」

 

 

 いつもと違う空気、声音、表情で僕を見下ろしながら告げてくる母様の姿に僕は僕自身の考えの浅さと甘さを思い知らされる。

 あまりにも違い過ぎるその様子に、僕はいつもの笑みを浮かべる事すら出来ず母様が促すままに正面に座らせられた。

 

 

「で、でもおかーさん。うちの組織に損害出してないし、いつものように遊んでるくらいだからいーんじゃないの?」

 

「ほう? まだ尻尾一本の子狐風情が妾に対して虚偽を言うとはのう」

 

 

 僕の言葉に母様はクツクツと喉を揺らして愉快そうに嗤うと、ゆるりと立ち上がり座ったままの僕にゆっくりと歩み寄ってくる。

 そのただならぬ気配に思わず逃げ出そうとするも、圧倒的な妖気に身動き一つとれず僕は母様に顎を持ち上げられてその目を強制的に合わせられた。

 

 

「忌々しい、忌々しいのう。人間の男なんぞに妾の娘が現を抜かすなど腸が煮えくりかえるわ」

 

 

 いつもは感情の見えない瞳の色をしていた母様の瞳、しかし今直視せざるを得ない母様の瞳には憤怒と憎悪と絶望と悲哀が入り混じった色で満ちていた。

 い、いやあの、多分ちょくちょくちょっかいかけにいってる弦哉君の事を言ってるんだろうけど、そういう関係じゃないです!

 

 

「げ、弦哉の事? や、やだなー母様ってば、そんな目で見てないしそんな感情ないって」

 

「口では幾らでも言えるわのう、だが無駄じゃ……お主は妾の娘、妾も遠見で見たがお主が惹かれるのも無理はないじゃろて」

 

「そ、そんなことないし! ぐぇっ」

 

 

 母様の言葉に反射的に言い返す僕も、ぞんざいに突き飛ばされ畳の上に転がされる。

 あ、やばい、コレ思った以上にガチだコレ! し、死にたくない!!

 

 

「ま、待ってよ母様! なんでそんなに怒ってるの?! 少しは事情教えてくれてもバチ当たらないじゃん!」

 

 

 畳の上をころころと転がりながら体勢を立て直し、応戦の構えを必死に取りながらもどこか冷静さを欠いている母様に必死に言葉を投げかける。

 僕の言葉が届いたのか元々少しは冷静だったのか不明だが、母様は纏っていたおっかない空気を解くと気怠そうに愛用の座椅子に座り直す。

 

 よし、後は何とか時間稼いで夜霧さんに異変に気付いてもらわないと……!

 

 

「夜霧の助けを期待しておるようじゃが無駄じゃぞ? この部屋と外の間に結界を敷いたからのう」

 

「ヒェッ」

 

 

 鋭い目付きで僕を見ながら愉快そうに嗤う母様の言葉に、僕は引きつった悲鳴を上げる。

 こんなん袋の鼠ならぬ、袋の子狐じゃないですかやだー!

 

 

「のう堕姫や、主は疑問に思った事はないかのう? 自身の父と呼べる存在が居ない事を」

 

 

 必死こいてこの空間からの脱出を目論む僕の耳に、母様の唐突な発言がするりと入る。

 原作こと宵闇行状譚でも堕姫の父親、死姫の夫と呼べる存在はいなかったからそんなものだと考え……僕に物心がつく前に死ぬか失踪したと考えてさほど疑問に感じていなかったが……。

 

 長寿である妖怪と言っても、僕は今世でまだ16歳という妖怪から見たら若いにもほどがある存在だ。

 しかも組織の頭領の一人娘、そんな存在に対して何かしらアプローチをかける者がいてもおかしくなかったが……僕自身の立場が悪くなるまで、そう言う事すらなかったというのは異常と言える。

 

 ……僕の父親は一体誰だ? いや、何者だ?

 

 

「言われるまで疑問にも思わぬとは、暗示が効きすぎたかの……簡単な話じゃよ」

 

 

 百面相をしているであろう僕の表情に母様は愉快そうに嗤いながら言葉を区切ると。

 その瞳に深い絶望と憎悪と悲哀を滲ませながら、血を吐くような声音で僕へと告げる。

 

 

「堕姫や、主は妾が好いた人間の男の肉体と魂……そして産んでやることが出来なかった嬰児の肉体と魂で作られ産まれた存在よ」

 

 

 つまり、どういうことだってばよ?

 ……いや、言われたことはわかる。

 だけども、宵闇作中でも屈指の人間アンチと言える死姫が人間の男と愛し合い……子供まで作った事があると言う事実に思考が停止した。

 

 作中どころか設定資料集にも載ってなかったぞそんなの!?

 

 

「ああ、不格好な屍人形などではないぞ? しっかりと妾の胎で産んでやったから安心するがよい」

 

 

 クカカと獰猛に笑いながら告げる母様の纏う妖気、そして狂気に僕はもはや冗談を言う気力すら残っていなかった。

 何をどう考えて、どう結論づけたら……愛した男と男との間にできた子供を材料に、娘を作ろうだなんて発想になるんだ……?

 

 

「妾の可愛くて愚かな娘、主を喰らい尽くし産み直すのはもはや決めた事じゃ。故に一つ昔話を語ってやろう」

 

 

 あ、僕が始末されるのもう規定路線なんですね……!

 しかし逃げるに逃げれず、母様を真正面から撃破する事もまた不可能な以上僕に残された選択肢は母様の話を聞くことだけなのであった。

 

 

「まだ人間共が腰に刀を提げて歩いていた頃じゃ、一匹の女狐は化生にも手を差し伸べる程に愚かな男の手で救われた」

 

 

 刀を提げていた頃、となると室町か江戸? ともあれ今から百年以上前の事なのは間違いなさそうだ。

 しかし口では愚かな男と言いながらも、男の事を語る母様の声はとても優しくどこか愛しさが込められていた。

 

 

「その男は怪我をした女狐を治療した後、幾度も女狐に化かされ……それでも尚愚かな事に女狐を案じておったわ」

 

 

 母様はそう語ると立ち上がり、部屋の奥に飾られていた白鞘の刀を手に取ると愛し気に刀に手を這わせる。

 僕に背を向けて刀を撫でる母様の声は、まるで届かない記憶と思い出を慈しむような声だった。

 

 

「そんな男じゃから嫁にくる女子もおらず、男は侍の身でありながら便利に使われ……それでよしとするほどに底抜けに愚かでお人好しの愚物であった」

 

 

 僕に背を向けたまま刀を撫で続ける母様。

 先ほどまで僕に向けていた声、底冷えするような妖気と狂気はいつしか霧散していた。

 

 

「じゃからそんな男と一夜を共にするのも悪くないと考えたのじゃが、気が付けば心地よさのあまり妾は男の嫁のように振舞っておったわ。だが悪くない時間じゃった」

 

 

 母様が語る昔話、それは言葉だけ抜き取ればツンデレの女狐が愚直だが実直なお侍さんと結ばれ幸せな家庭を作った話だ。

 けれども、先に母様が語った僕の出自の存在が……幸せだった母様の時間はあっけなく壊される証明そのものと言えた。

 

 

「ある日の事じゃ、男の近所に住む村々を流行り病が襲った」

 

 

 そして、母様の暖かく優しい声音に罅が入る音がしたのを僕は確かに聞いた。

 

 

「人間共は愚かにも病に伏せた人間共を看病していた巫女を殺すに飽き足らず、病に伏せた者達を見舞い生活の助けをしていた男へと疑惑の目を向けたのじゃよ」

 

「『病の穢れに触れても平気なあの男、そして不自然に美しい嫁がこの病の原因に違いない』とな」

 

 

 その話は僕も夜霧さんから聞いた事があるし、設定資料集で読んだ事がある。

 夜霧さんが昔惚れていた女の人は人々の為に頑張り助けになろうとしていたけども、人間の愚かさによって殺され八つ裂きにされたと。

 

 だけど、まさかその事件に僕の父親と言える人と母様も巻き込まれていたのは初耳だった。

 

 

「哀れ女狐は何時しか心から愛していた男の後から必ず追いかけるという言葉を信じて逃げ延びた」

 

「じゃが、いつまで経っても男は追って来ない。痺れを切らして男の様子を見に行った女狐が見たモノはの」

 

 

 母様がくるり、と振り返る。

 その両の眼からは、血の涙が滴り落ちていた。

 

 

「無惨な姿となった、愛した夫の姿じゃった」

 

 

 口角を釣り上げながら、血の涙を流して泣き嗤う母様の姿に僕は何も言う事が出来なかった。

 

 僕は、もっと考えるべきだった。

 夫も情夫もいない死姫、なぜ現代になって一人娘を持っているのかと言う事と。

 どうしてあそこまで人間に対して嫌悪感を向けるのかという事を。

 

 

「愛した男との子が五体満足で産まれてくれればまた違うたかもしれん、じゃがそうはならなかった」

 

 

 血の涙を流しながら僕へ近づき、その手で僕の首を母様が掴む。

 ぎりぎりと音を立ててしまる首、詰まる息。

 我に返って抵抗するが、もはや僕の力では逃れる事も叶わなかった。

 

 

「のう堕姫や、人間と交わっても碌な事などありゃせん。あやつらは簡単に掌を返し何もかもを奪い去る」

 

「お主はもうダメじゃ、あの頃の妾のように善良な人間の輝きに魅せられてしもうとる。じゃから悲しみを知る前に妾を怨みながら死ぬが良い」

 

「今度は、ちゃんと妖怪らしい娘に産み直してやるからの」

 

 

 初めて聞く母様の優しい声音の言葉を聞きながら、僕は締められる首の痛みと酸欠による意識の鈍化によってゆっくりと意識を喪っていく。

 母様が僕を野放しにしながらも命を奪わなかった事、そして自由にさせてくれていた理由を知った今母様の行動もまたしょうがないと言えなくもない、だが、それでも。

 

 

 死にたくないなぁ。

 

 

「死にたく、ない……助けて、げんやぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せろ」

 

 




人間を深く愛し、そして深く愛した人間を無惨に殺されて反転する妖怪っていいよね……。









と言うわけで架空原作杯のノルマである、『存在しない原作を前書きあとがき等で3回語る』を達成!!
でも正直クソ楽しいので、これからも架空原作語りは前書きとあとがきで続けます。
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