仮面ライダーギーツvsこちら葛飾区亀有公園前派出所~両さん、デザグラに出るってよ~ 作:唐 十三郎
「俺だけなんだけどな」
1人だけ休み終了となった英寿は非常に不満そうだ。
「ご、ごめんね英寿」
「もう少し遊んできまーす♪」
景和は申し訳なさそうに、祢音は心底楽しそうに一足先に本文に登場する英寿を労っている。
「こうなると……俺が先に美味しい所を頂くしかないな」
「それは許しません」
ピシャリと止めるツムリだった。
「何だよ、居たのか夏春都」
「居ちゃ悪いってのかい?! ここはアタシの店だよ!」
「いや、部屋で待ってるって檸檬が言ってたからよ」
「アンタたちが玄関先でグダグダやってるから鬱陶しくって来ちまっただけだ! とっとと支度済ませな!」
「わかったよ、ごめんね婆ちゃん」
纏が気遣って靴を脱ぎ揃える。
「全く……どんどん纏もこのロクデナシに似てきたねぇ。仲良くするのは構いやしないが変な所まで似るんじゃないよ! 両津家の男はどいつもだらしない男の典型なんだからね!」
仕事はできるが遊び人で有名な両津の祖父・勘兵衛。昔気質の仕事人だが酒と博打に明け暮れる両津の父・銀次。例外は両津の弟で現在弁護士をしている金次郎くらいだ。残念な事に金次郎は夏春都と面識が無い為、夏春都の中では両津を含め全てだらしない男だと認識している。とは言え両津の類まれなるあらゆる才能は流石の夏春都も認めてはいるのだが。
「纏、勘吉の言う通りとっとと風呂を済ませちまいな。勘吉、アンタはさっさと着替えたらアタシの部屋に来な」
「良いけどよ、店はいいのかよ?」
「夜婁紫喰(よろしく)と憂鬱に任せているから平気だろ」
「憂鬱?! 京都から帰ってきてるのかよ!」
擬宝珠憂鬱(ぎぼし ゆううつ)。纏と檸檬の兄で擬宝珠家の長男である。京都の一流料亭で板前修業をしており、その腕前は国内の若手料理人ではトップクラスだと噂も高い。
「ウチにとっては今後を左右する日になりそうだからね。昨日無理を言って今朝一番で戻らせた」
「マジかよ……」
急ぎ着替えを済ませた両津。この超神田寿司の従業員服もすっかり似合うようになっている。早速夏春都の部屋に向かう。
「おう。来たぞ夏春都」
「……そこ座りな。まぁ茶くらいは飲んでおきな」
「お、おう。珍しいな、夏春都が茶を出してくれるなんてよ」
「……まぁそんな日もあるさ。じゃあ早速で悪いがその予約表を見な」
夏春都の部屋にある小さく質素ながらもしっかりとした漆塗りのちゃぶ台。毎日手入れをしているのか傷も曇りも無い。その上に無造作に置かれたタブレットに表示されている予約表に目を通す両津。そこに1名だけ記された名前を見て飲んでいた茶を噴き出した。
「ぶはっ!! な、何だと――?!」
「何やっているんだい! あーもう汚いねぇ!!」
「わ、悪ぃ! ワシが拭く。つってもよ、夏春都……」
「ああ。昨日の夜連絡が来た時はアタシも肝が冷えたもんさ」
そこにある名前はここ最近知った中では一番の大物だった。今日の超神田寿司の予約者の項目には、
―― 浮世英寿 ――
と記されている。
「しかもこれってマジか……おいおい冗談だろ?」
「ああ。だから憂鬱を戻したのもわかるだろ?」
「……ああ。つってもアイツめ。何考えているんだよ?」
両津が戦慄したのも無理は無い。超神田寿司の予約表には「座席」と言う項目がある。これはどの座席に座らせるか前もって把握するためのものだ。英寿が予約したのはカウンターでもテーブル席でも座敷でも無い。その項目にはただ一言、
―― 貸切 ――
とだけ記されていた。
「勘吉。アンタ、浮世英寿と知り合いなのかい?」
「ああ、まぁな……」
デザグラの事は当然だが夏春都には言っていない。どんな間柄なのか説明を求められたら流石に言い訳をして誤魔化す気では居たが、それよりも驚いたのはこの「貸切」の二文字だ。
超神田寿司は小さいながらも名店として名高い。政治家や大企業の社長・役員や大物タレントもお忍びで使う事があるが、夏春都がそういう界隈の話を嫌う為に会合・商談・撮影としての使用は出来る限り断っている。だがこの店の味に惚れ込み、日ごろの立場を忘れてただ食事のために来る者が後を断たない。以前有名配信者が勝手に店内で実況を始めた時は持っていたスマホをはじめ録音機材をことごとく叩き壊し長刀を持ち出して鬼の形相で追い出した事があった。逆恨みした配信者は超神田寿司のネガキャンを促す配信を行うも、数日後ネットに上がっていた動画は当然、その配信者当人の存在まで全て抹消されたと言う逸話まである。超神田寿司を、擬宝珠夏春都を支持する層は国際規模だとも言われている。
そんな夏春都が居ると言うのに店丸ごとの貸切に踏み切ってきた浮世英寿と言う存在に両津はただただ戦慄した。
「しかし貸切なんてよく了承したな。前に〇〇党の幹部からそんな話があった時も断ったろ?」
「はん! あんなクソ共なんて断って当然さ。国民の税金で贅沢するなんざ地獄の閻魔様に八つ裂きにされちまえば良いのさ」
「ははは……相変わらず過激だな」
「しかもあいつらは前金すら渋っていたんだよ。……だが浮世英寿。こいつぁホンモノさ。アタシでも震えちまった」
「夏春都……」
「昨日の話を聞いてくれるかい?」
「ああ」
★
昨晩、両津と纏が派出所で勤務していた頃の事。時間にして夜7時を過ぎたくらいだろうか。超神田寿司に1本の電話が入る。
「はい毎度、超神田寿司です! ご注文ですか?」
「予約を頼みたいんだけど。明日7名で頼めるかな?」
「予約ですね、ありがとうございます。お時間は何時になりますか?」
「夜7時から閉店までで。店の閉店は10時までで良いんだったか?」
「へい左様でございます。お席はお座敷とテーブル、あるいはカウンターのどちらをご希望で?」
「全部だ」
「へ?」
「聞こえなかったのか? 店全部だと言っているんだよ」
「? あの、急な貸切とかウチはやっていないんですけど」
「何言っているんだ。明日は座敷の予約が空いているんだろ? だったら店全部貸切っても良いじゃないか」
「いや、急に言われても困りますよお客さん」
従業員の1人がいつまでも電話から離れられない様子を見て様子がおかしいと気付いた夏春都が後ろから声をかけた。
「どうしたんだい? 店も忙しいのにサボっていると給料下げるよ?」
「え? あ、大女将! すいません、何か変な電話が来まして」
「変な電話……? わかった、アタシが変わるからアンタは店に戻りな」
「え? 良いんですか? 助かります。ではあっしは戻りますね」
「フン……変な電話ねぇ」
受話器を受け取った夏春都は少し深呼吸して電話に出た。
「……お客様、お待たせして申し訳ありません。この店の女将でございます。どのような御用件で?」
「女将か。それなら話は早そうだな。さっきの店員にも言ったが明日の予約を入れたい。7名で夜7時。店ごと貸切だ」
声から察するところ、だいぶ若い男性客に感じられた。急に成功したベンチャー系の社長……或いは実入りが急に良くなってきた配信者。または外国系暴力団の幹部と言った所か。
「貸切ですか……それはまた御贔屓にありがとうございます。とは言え7名での貸切では少々身を持て余すのでは? お座敷のご予約なら明日は空いていますので喜んでお受け致しますが」
「あまり一般人に顔を曝すのは好きじゃないんだ。目立つからね。せっかくのプライベートだから出来る限り羽根を伸ばしたい。あんたの提案通りに座敷でも良いんだが、出入りや用を足すのに歩くだけでも一般人に顔を見られたらそれだけで台無しにされる可能性だってあるからさ」
外国系暴力団は消えた。喋り方に海外人が日本語を覚えた場合必ず出てくるクセが無い。これは純日本人だ。地方人特有の方言によるクセも見えない。だとしたら地方の成金も消える。そして目立つのを嫌う。ミーハーな配信者は見られるのが癖となっているから、目立つのを嫌うと言うならこれも消える。夏春都は電話越しに相手の正体を探っていく。大手企業の代表や役員にしては声が若すぎる。政治家の子息という線もほぼ消える。いくら国民の税金を親からくすねる彼らでも店ごと貸切るくらいの経済力を持っているのは極々一部だろう。ここで夏春都はダメ元で電話の主に質問をする事にした。
「あの失礼ですがお客様のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「ん? ああ構わないよ。浮世英寿だ」
浮世英寿。恐らく今の日本人でその名前を知らない者は赤子か情報にとことん疎い世捨て人くらいだろう。日々ワイドショーやバラエティ番組、グラビアの表紙を飾る時の人だ。だが今は電話越し。鵜呑みに当人だと信じてはいけない。その名を語る成り済ましの可能性もあり得るのだ。うっかり鵜呑みにして予約そのものが嘘であったとなったら末代までの恥となる。夏春都はそうとは悟られず会話を進めていた。
「まぁ! まぁまぁまぁ! あの浮世英寿様ですか。いつも拝見させて頂いていますよ。今朝の新聞でも広告でお見掛けしました。大変なご活躍ですねぇ」
「今朝の? 今日は広告は載せていないんだけどなぁ。別の日と間違えていないかな?」
夏春都の罠には乗ってこなかった。当然これは夏春都の嘘だ。毎朝必ず新聞3紙に目を通している夏春都なりの悪戯であるが、電話先の相手は引っかからなかった。
「おやおや失礼しました。そうですね、一昨日の東西新聞でしたかねぇ」
「一昨日……いや、一昨日は帝都新聞の広告だったと思うが」
「あらあら失礼しました。いやですねぇトシかしら」
「そうかい? 100歳越えている割には随分声に張りもある。若い頃はさぞかし美人だったろうな。いや、きっと今でもお綺麗かな。擬宝珠夏春都さん」
気付かれていた。相手はかなりの情報通だ。超神田寿司のHPには夏春都の画像も載せているが年齢までは載せていない。あくまで超神田寿司の沿革だけだ。夏春都の年齢を知っていると言う事はある程度情報を握っていると察した。更にお世辞も上手い。
「嬉しい事を言ってくれますねぇ浮世様。それに随分ウチの事もお詳しいようで」
「英寿で構わないよ。夏春都さん。あまり時間も無いから予約の件、決めてくれないかな?」
「お忙しい所申し訳ありませんでした。そうですねぇ、流石に貸切ですとご予算が……」
「言い値で構わないよ。急な話を出してきたのはこっちからだ。多少の無理はするさ」
「そうですねぇ。何分貸切となると日頃いらっしゃるお客様からの売り上げも考えなければならないので」
「そうだろうな。幾らになる?」
「200。せめて150は頂けますかねぇ?」
筆者です「認者IV」をお送りしました。
今回は夏春都と英寿の心理戦です。
お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、筆者の書く夏春都はかなり独自アレンジを効かせています。どのくらいかと言うと先ずは思慮の深さですね。これは単に筆者が本編の夏春都の深掘りがし切れない所も大きいのですが、今後の展開のために少し筆者寄りの性格にしています。あとこれは個人的感情なのですが、脳内再生で喋って頂いているCVがアニメとは別物です。アニメではコメディアンの小宮孝泰さんなのですが、筆者の脳内では専業声優さんで女性の方です。この辺をあまり細かく言うと読者の皆さまと解釈不一致が起きますので控えておきますが、「強い」「声が綺麗」「ゆりかご~墓場」と言う幅広い演技力をお持ちの声優さんを勝手にあてがっていると思ってください。
超神田寿司の売り上げについては、一般的な飲食店の売り上げや成功例としての売り上げ等を参考にしました。つっても夏春都の要求はボってますけどねw
・東西新聞と帝都新聞・・・元ネタ美味しんぼですね。海原雄山先生は出てこないのでご安心ください。
ではまだ無事です。明日も17:30更新ですのでよろしくお願いします。
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