ちなみに本作主人公、本作開始時より現在の方がこの世界をゲームだと認識していたり(ボソ
03 記憶
学園しょとうぶ1年生、わたしもツキちゃんみたいに少しおとなっぽくなれたと思う。だって学園に通いはじめたんだから、もうすぐりっぱなお姉さんになれるんだ。
国語もお絵かきもおさほうもお家でならってたのよりうんとむずかしくなったけどがんばってる。数学はちょっとニガテだけど、ツキちゃんにおしえてもらってるからじゅぎょうでも手をあげられるんだ。
そうツキちゃん、わたしの大切なお友だち。
ツキちゃんのお父さんとわたしのお父さんは学園のころからのお友だちで、だからわたしが3才くらいのときツキちゃんのところにはじめて遊びに行って、お友だちになったの。
ツキちゃんはむかしっから落ちついてておとなっぽくてすごい子なんだ。
わたしよりむずかしいことばを知ってて、いろいろなことをおしえてくれるの。それにいつもわたしをまもってくれてる。4年まえ、あの大きな鳥に会った日だって、わたしがわがまましたのにいっしょに来てくれた。
しかもおとりになってくれて……。わたしは右目をなくしちゃったけど、あのときはツキちゃんのほうがすごいけがだった。
いろんなところから血が出てて死んじゃいそうだったのに、ツキちゃんはあのあとしばらくわたしの顔を見るたびにあやまってきたの。
わたしがあやまっても「シーアが行かなきゃティムが死んでたよ」っていうし、でもツキちゃんはけがしなくてもよかったっていってもきいてくれないし。ずるい。
わるいのはわたしなのに。あのときから、ツキちゃんはなんか見かけるたびにきたえてるようになっちゃった。
魔法をつよくするためにおいのりしたりはしないの。重いものもちあげたり、走ったり、うで立てふせしたり。
学園でみんな習ってるブキだって、ツキちゃんはメイスっていうなんかすごい重そうなのをえらんだんだよ。かわいくないしにんきないしかわいくないからやめようっていったのに、きかないんだ。
でもやっぱりツキちゃんはすごい。
2年にいっかいのブドウ大会……? なんかたたかって勝ったほうがほかの勝った人とたたかって、優勝する人を決める大会でツキちゃんは優勝こうほのひとりなんだ。
「Bブロック五回戦勝者、東、ツキ=ウールスス!!」
いまだってほら、魔法をつかわずに相手をこうさんさせちゃった。
ほんとうはかみさまのカゴが学園にあるから、メイスだってつかっていいのに、なぐったりけったりころばせたりしてる。
せめて決勝まではブキをつかわないんだって。カゴのおかげでだれも死んじゃったりしないのに。
ツキちゃんは「いくら加護のおかげで死なないとはいえ、私たちは小四くらいの年齢の子だよ。教育システムごと変えてやりたいくらいだよ」っていってた。
そんななのに出場してる理由はおしえてくれなかったから、おしえてほしくてわたしも出たんだけど、負けちゃった。
にかいは勝てたんだけどなぁ。
くやしいなぁ。
◆
「あー……」
暑い。なにもこんな季節に武道大会なんぞやらなくもいいのにと思う。
試合毎に支給される水入り水筒を喉に流し込むと、口の中に汗が入ってきた気がした。でもこの水、塩が少し入ってるらしいし大して変わらないだろう。
水に浸した布で汗を拭き取って、日陰のベンチに座り込む。
シーアは3回戦で退場して観客席にいるんだったか。彼女が参加すると言い出したときは焦った。何せこの大会を成立させているのは治癒と慈愛の加護とやらだ。なんと今私たちのいる学園付属運動場の地下には守護の神殿があって力強い魔法が展開されているらしいのだ。
でも不安なことに変わりはないだろう。
そう学園、私とシーアは今エリーナ総合学園に通っている。それも今は2年生だ。
あのクロガミオバナの一件から4年が経過している。あの事件以降、手の届く限りの治癒の
そりゃそうだ。私しか気づいていないだろうが、右目はシーアが怪鳥を通して何者かに捧げられたのだ。
恐らくはあのときのクロガミオバナは海に潜む化け物の使いか化身か……あのとき私たちは
そうでもないと、右目を受け取った怪鳥が死んでいた理由がわからない。きっとアイヌのカムイのように、海に帰っていったのだろう。
ただの推測だけど。
あのとき私は完璧に選択を間違えた。あんなことを豪語していながら猜疑心すらなかったのだ。笑わせる。
だから私は考えた。能動的に行動してシーアから極力離れたところで諸々ぶっ潰せば万事解決ではないかと。
だから今回、この武闘大会への出場を決心した。
『ターニングターニン』という乙女ゲーにはある闇堕ちキャラがいる。あの攻略対象……スーシェというイケメンについて私は大して覚えていないが、確かなんか幼少期は神童といわれていたがそれに胡座をかいて置いてかれてなんやかんやで堕ちたとかだいたいそんな感じだったはずだ。
なにせ今世すらあのゲームをプレイしていた歳を越してしまったのだ。正確な記憶など勘弁して欲しい。
とにかくスーシェ氏のプライドを今のうちに叩きのめしておけばいいんじゃないかと思い至ったのだ。しかし、どの場面なら叩きのめせるかが問題で悩んでいたのだ。
そんな折、この武道大会に彼が参加するとの情報を入手した。なら参加するしかない。
どうせ決勝戦にまでいくだろうし、そこまで私も勝てばいい。
そして現在は準決勝は終わったところだ。次で決勝戦、そろそろお呼びがかかるはず。
さて、気合いを入れなければならない。
「決勝戦出場選手はそれぞれ東西入場口へ移動してください」
お呼びがかかった。厳しい戦いになるかはわからないが、勝ちさえすればシーアに降りかかる悲惨な結末のうち生贄ルートとラスボス化ルートの発生率と難易度が大幅に下がるはずだ。
あの件以来の命運に関わる機会だ。シーアにすでに怪異が関わってきている時点で原作より状況は悪化している。
さあやろう。
これがあの子に誇れる行動になると願って。
と、思っていたころが私にもあった。
決勝戦、対戦相手のショタっ子スーシェは今から乙女ゲーの攻略対象をやれるだけの顔面ポテンシャルを抱えていた。
あれに遠慮なく暴力を振るうのを少し躊躇したけど、でもここで心を折るのが最適解なのでメイスを思い切り振るった。子供なんぞ関係ない、私も子供だ。
いい戦いだったと思う。
スーシェの繰り出す重い両刃の剣を受け止めて、メイスで吹き飛ばす。10歳同士と考えると随分激しい戦いだと思う。
ふたりの違うところをあげるなら、彼は時と場合に合わせて
だからあの瞬間まで気づけなかったのだと思う。……いや、むしろ物理に偏重していたからこそ気づけたのか。
試合が始まってからだいぶあと、長期戦になって私も彼も疲労が蓄積してきていた。
そろそろ決めようと、フェイントにフェイントを重ねてメイスを直撃させたのだ。その瞬間、私は跳ね飛ばされた。
ギリギリでメイスを剣で防いだスーシェは、
あの無理な体勢で受けられただけ奇跡なのに、あそこから力を込められるものか。なら魔法の可能性を疑うが、簡単な「願い事」すら唱えていなかった。
まさか足運びで舞を奉納をしていたなんて可能性はないはずだ。戦闘中にそんな正式な儀礼を行えるようなら、私はとっくに負けている。
それにあの現象に覚えがあったのだ。
だって、未来で闇堕ちしたスーシェが借り受けた権能と同じ効果だもの。
……つまりなんだ。現状ですでに彼は『ターニングターニン』における敵対組織……邪悪な信徒たちの仲間な可能性があるのだ。
幸い、私は彼の権能についての知識がなくはなかったから吹き飛ばされたあとそのまま場外負けに持ち込まれることはなかった。もし知らなかったら気づくこともなく吹き飛ばされていただろうし、知っていても攻撃を受けていなければ気づけなかった。
その後のスーシェは先の倍は疲労が蓄積していたから勝てたには勝てたがさてしかし。
私の記憶違いで彼はゲーム物語開始時から邪悪な信徒だったのか、それともシーアの右目がなくなったことでなにか大きなバタフライエフェクトが発生しているのか。
それすらわからない。
記憶違いがあまりに致命的な結果を招いている。最悪だ。
勝ったには勝ったが、はてさてああ……。どうしよう。
【スーシェ】
本名スーシェ=クロコ。ワニの特徴がある人間で、尾はもちろん腹部や背にところどころ鱗があったりする。両親も周りも邪悪な信徒たちという純粋培養で育ったショタっ子(もちろん本編では相応の身長と年齢)
幼いころより邪悪な信徒たちの上層部と関りを持ち、暴走した信徒たちを始末する部署に所属している。学園に生徒として所属していると何かと都合が良いため、司祭たちの手によってエリーナ総合学園に初等部のころから通っている。
ショタのころから素養のあるイケメンさん。