海には負けない!   作:銀ちゃんというもの

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05 人間

 シーアが楽しそうに買い物をするのに付き添っている。本来ならこれだけで幸せな時間が今日は気まずい。

 それもこれもだいたい隣を歩く闇落ちショタのせいである。

 

 スーシェ=クロコ。彼は絶賛私を狙ってる……と思われる組織の構成員だ。恋愛的にじゃない。命をである。しかも原作知識がある私だからこそ知っているのであって、彼は私からの認識がどうなっているか皆目見当もつかないだろう。

 これ伝えて明確な敵対勢力として認識するべきなのか、彼は私は何も知らないと認識したままにして曖昧に乗り切るか。

 どうなるにせよ面倒くさい未来しかみえない。

 

「…………どうしたの?」

「なんでもねぇよ」

 

 あと肝心のスーシェからの視線が痛い。

 彼は私が知っていることを知らないはずだから、この視線の意味が掴めない。なんだろうか、この間の大会で権能を初見突破した挙句に勝っちゃったのがいけないのだろうか。

 こう、彼のプライドが許さない……的な。

 でもあれゲームで知ってるから実質初見じゃないんだけどな……。

 

 何はともあれ彼も私も、何かを行動に移せないのはシーアがいるからだ。

 シーアはこれに関して何も知らない。私はまだこれに関わって欲しくないので彼女の前でなにか疑わしい行動に出ることはできない。

 シーアのアレを認識しているかしていないかは知らないが、スーシェはただの部外者のように見える彼女の前で下手な行動には出れないようだ。

 

 シーアが気づいてないからこそのギリギリな均衡ッ!! 全てはあの純粋なシーアにかかっている。

 くぅ……落ち着かない……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 わたしは今すごくこまっているの。

 ツキちゃんとね、いっしょにみやこにあそびに来たんだけど、お友だちがおすすめしてくれたお店にはいったらスーシェくんがいたんだ。

 

 スーシェくんはおなじ2年生でツキちゃんのつぎに強いの。運動もできるしあたまもいいから人気なんだよ。顔もかっこいいしね! 

 

 せっかく会ったからいっしょにみやこを見てまわろうってさそったんだけど、うーん。

 

 ツキちゃんとスーシェくん、さっきからなかが悪いの。ふたりともバレないようにしてるみたいなんだけど、わたしにはおみとおし。

 ツキちゃんはきびしい顔で見てるし、スーシェくんは……うーんなんていうんだろう。おびえる? こわがる? たたかう? ……あやしむ? 顔でツキちゃんを見てる。

 

 このあいだの大会のせいでなかが悪くなっちゃったのかと思ったけど、たぶんそうじゃない気がする。大会がきっかけかもしれないけど、もっとべつのことがあると思うの。

 

 でもまずはふたりになかなおりしてもらわなきゃいけないから、お買い物をしてるんだ! 

 レコードのお店に行ったあとは、アイスとか、クッキーとか、おいしい物を売ってる屋台にいっていっしょに食べたりしてる。

 

「お茶、おいしかったね」

「そうだね」

「スーシェくんはどうだった?」

「ん、ああ、うまかったぞ」

 

 はじめはあまりしゃべってくれなかったけど、だんだんスーシェくんもわたしとお話してくれるようになってきた。あとはツキちゃんともお話してくれたらうれしいんだけどな。

 

「次はどこ行くの?」

「んー……あ、そろそろお昼だね」

 

 いつのまにかお日さまが真上にいた。

 

「お昼ごはん、どうする?」

「え。シーア……まだ食べるの?」

「そうだよ? おかしでおなかいっぱいはダメって、先生もお母さんもいってたよ? ね、スーシェくんも!」

「お、オレも? まあ食えないことはないけど……」

「あと、みんないっぱい食べないと大きくなれないよ!」

 

 今日はせっかくスーシェくんもいるから、お肉にしようかな。だってスーシェくん、川のにおいがするしきっとすきだよね。

 

「あっち……あっちのほうにお店あったよね」

「たぶん定食屋があった……はずだけど」

「うん、その定食屋さん。お外のせきで食べれるとこ」

「そういえばそうだね。そこに行くの?」

 

 あそこの定食屋さんはすごいんだ。

 お店のまえにせきがあって、お外で食べれるの。もちろんお店のなかでも食べれるよ。

 サンドイッチがおすすめなんだけど、でもあそこのお肉料理もおいしいんだよ。

 

「スーシェくん、あそこだよ」

「へぇ……」

 

 あのお外のせきが見えてきたから、わたしはスーシェくんにおしえてあげた。

 そろそろお昼だからか人がふえてきてるけど、まだそんなにいっぱいじゃない。あと今日はお日さまがつよいから、みんなお店のなかで食べてるみたい。

 

 だからお外にはお姉さん2人がすわってるだけだった。

 2人はテーブルに手を出して話しあってるみたい。

 

「いらっしゃいませだっけ?」

「お店の癖が出てるよん、おいでませ……じゃないやおいでくださいだ」

 

「ツキちゃん、あのお姉さんたちなんか恋うらないみたいなのやってる」

「……気のせいじゃない?」

「そうかなぁ」

 

 あのお姉さんたち、あのときとおんなじ恋うらないをしてるように聞こえたんだけど、気のせいかな。

 シロちゃんがみやこで見つけてきたっていってたし、むう。

 

「シーア、行こ? 早くしないと混んじゃうよ、ここで食べたいんでしょ?」

「ん、ああそうだね、いこ。スーシェくん、ここはね、お肉もおいしいんだよ」

 

 もやもやがのこるけど、今日はお外で食べたくないのはわたしもそう、みんなもそう。だから早くしないとお店のなかのせきが全部うまっちゃう。

 お店のなかに入ると、もうたくさんの人がすわっていた。たぶん、空いてるせきはふたつの手で数えられちゃう。

 

「……肉? んでとつぜん肉……」

「……? すきでしょ、お肉」

「まあ、きらいじゃねぇけど……いや、最近あきるくらい食ったから、いまはあんまり食いたくねぇかも」

「でも、力でないよ?」

「…………」

 

 スーシェくんがとつぜん止まっちゃった。わたしもツキちゃんも、びっくりしてふりかえったんだけど、スーシェくんもびっくりしたみたいな顔でわたしを見てた。

 

「どうしたの? いりぐち近いし、人がいっぱいだから、止まっちゃったらめいわくだよ」

「……………………。はは、ああ。そうだなかんちがいだよな、いやなんでもねぇごめんな」

 

 スーシェくんはあやまってわたしたちにおいついた。ひとりで解決しちゃったみたい。

 

「なあシーア、ツキ、ここって肉いがいになにが────」

 

 

「────きゃぁぁぁあああっ!!」

 

 

 わたしにはすぐわかった。さっきのお姉さんだ。さっきのお姉さんがさけんだんだってすぐにわかったから、お店の外に走った。

 

「シーア!?」

 

 まだみんなおどろいてとまってる。お姉さんといっしょに恋うらないしてたもうひとりのお姉さんも、びっくりしてるだけ。

 さっきさけんだお姉さんは……。

 

「ひっ……いや、こないで、怖いやめて怖い煩い、はっ、ひ……あ…………やめて……」

 

 つめで自分の顔をかきまくって、泣いてる。

 なにかにずっとあやまって、息もくるしそう。

 

「ひ、ひっ、は」

 

「お姉さん!! おちついて! きこえる!?」

 

「あ……あぁぁ……あああっ! 怖いいやこわいいやいやうるさいこわい」

 

 聞こえてない。お姉さんはわたしの声が聞こえてないみたいで、たぶんどうやっても外の音が聞こえてないと思う。

 たぶんそう、でもとめないと! 

 

「そんなにかいたら血がでちゃう、顔がキズついちゃうから!」

「シーア、なにがあったの!」

「あのときのシロちゃんといっしょ! ……恋うらないで、こうなっちゃって、とにかくとめないと顔が! だれかお姉さんの手をとめて!!」

 

「あ、ああわかった」

 

 すぐそこにいた大人の人がお姉さんを後ろからつかまえた。はがいじめってやつだ。

 

「ありがとうおじさん!」

「……お嬢ちゃん、何をする気……」

 

 ぱちんっ!! 

 お姉さんのキズで赤くなっちゃったふたつのほっぺをどうじにたたいた。

 そのときさけさけぶのをやめて、はねて目をひらいたお姉さんと目をあわせる。

 ようやくこっち見てくれた。

 

 

「ねがわくば……お姉さんがよくねむれますように」

 

 

 わたしを見ていたお姉さんのきれいな目が、やさしくとじた。

 いたそうなキズはのこってるけど、ひどい顔じゃない。よかった。

 

「うおっとっと…………んだこりゃ」

「まほうでねむってもらったの。今のうちにびょういんにつれてって」

「お嬢ちゃん魔法使いか? ……ああ、総合学園の生徒さんか」

 

 ツノが生えたおじさんはそっとお姉さんをじめんにおろして、わたしの頭をなでてきた。

 

「すまねぇな、本来俺がやるべきことだったのに」

「えへへ」

 

 おじさんはまわりを見て、恋うらないをしてたもうひとりのお姉さんのほうに行っちゃった。

 

「……シーア」

「ツキちゃん、どうしたの?」

「……いや、ごめん。ありがと」

「どうしてあやまるの? ……じゃあおじさん、あとはおねがいします!」

 

「ああ任せとけ」

 

 あとはたぶん大丈夫、それよりしないといけないことがある。

 わたしはツキちゃんの手をつないで、店の外のほうにいく。

 

「えと、シーア、どこに……」

「さっきお姉さんをねむらせてるとき、スーシェくんがこっちに走ってったの……おいかけよ?」

「……わかった」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「恋占い」にスーシェが反応した。

 

 突然の事態で混乱していた私は、彼がどこかに駆け出す瞬間を目撃しなかったがシーアが見ていたらしい。

 ほんとにシーアはすごい。事前に気づいていて、しかも困惑してた私たちより誰より先にあの女の人を助けに行って、さらには周囲を確認する余裕も持ってた。さすがはみんなのお姉ちゃんだ。乙女ゲーの主人公ちゃんさえ友人キャラのシーアをお姉ちゃん呼びしたことがあるだけある。

 けど、褒めてあげたいけど今はそれどころじゃない。

 

 邪悪な信徒と思われるスーシェがわざわざ恋占いの結果に反応したということは、多少なりとも彼らに関わりがある可能性があると思う。今まで私たちから別れて王都に訪れた目的を達成しようとするのもやろうと思えばできたのに、これから昼飯を食おうという今どこかに消える理由がわからない。

 いや、単純におなかいっぱいだからこれ幸いと逃げたのかもしれない。

 どうしよう、そんな気がしてきた。

 

 というわけで裏道に入った彼を早々に見つけ出してふたりで尾行している。

 すぐ見付かってよかった。

 くく、それにしても甘いぞスーシェ。素人の尾行に気づけなくてどうする。

 

「どこにいくのかな」

「そのうちわかるんじゃないかな……ほら」

 

 裏道のまた裏道へ進んでいき、裏の深い場所へどんどんどんどん進んでいく。王都といえどここら辺はもう浮浪者や裏の世界の住民が紛れている。政府の目が行き届きにくい危険地帯だ。もちろん子供がくるべき場所ではない。私含めてだ。

 ……シーアがいるのにここまで来ちゃったの間違いではないだろうか。

 

「あ、スーシェくんあそこに入ってったよ」

「…………ただの家?」

 

 スーシェが入っていった家の窓に近づいて、耳をすます。

 シーアも私を真似て耳を当てようと、クジラの胸ビレのように大きな耳を持ち上げて壁に当てていた。クジラは耳がいいのだし、わざわざそんなことをしなくてもいいのではないだろうか。

 

「ふむ、いきなり訪れて人の首を跳ねるとは、どのようなご要件でしょう」

 

 男の声が聞こえた。

 しわがれているようで、そうではない。曖昧な発声の声色だ。

 

「…………司祭さまからのでんごんだ」

 

 今度は聞き覚えがある。おそらくスーシェの声だ。

 変声期前の可愛らしい声のはずが、どこか恐ろしい色を含んでいる。

 

「……司祭?」

「ああそうだ、急進派ども」

「まさかと思いますがあなた、本部の処分部隊の方ですか? はははっ、あなたのような子供が?」

 

 どんっと大きな音が聞こえた。

 そして重い固まりが倒れ込む音が響く。

 人が一人、倒れたような音だ。

 

「そうだ。司祭さまはこういっていた『君たちは早すぎる。そのやり方では我々の探している種すら壊してしまいかねないのだ』と」

「私たちからすれば本部は遅すぎるのです。悠々と種を探しているようでは、いつこの世に彼の地が現れるのですか」

「司祭さまからのめいれいだ。おまえたちをみんな海に捨ててやる。首をだせ」

 

 邪悪な信徒たちは、海を信仰している。というのも、この世界で海というのは、異界の象徴だからだ。あの中に神々が住み、我々に恩恵や天罰をもたらしているのだと思われている。

 実際あの中には理外の怪異がうじゃうじゃいるしね。

 

 この世界で呼ばれている神様というのは、その怪異たちの起こした現象や力の一旦などある一側面を神様として人が理解のできる名付けをして性格を与えているに過ぎない。

 早い話、海は混沌のことなのだ。人間はそれを理解しようとして神と呼んでいる。

 たしかそんな設定だった気がする。

 

 邪悪な信徒たちは海の中を神の国として、それを数少ない地上(文明圏)に齎そうとしているのだ。

 だからその呼び水としてシーアが使われたりする。

 

「うらないって言って、いろんな人に神さまをよばせて才能がある人にとりつかせようとしてるんだろ。それじゃダメなんだ」

 

 たくさんの足音が聞こえた。スーシェの味方といった雰囲気ではない。

 シーアを見ると、苦い顔で何かを考えているようだった。

 

「おまえたちをぜんいんころす」

 

 その声を最後に、戦闘の音ばかりが聞こえるようになった。

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