ソシャゲヒロインにTS転生したオレ、喫煙するところを主人公君に見られる   作:恥谷きゆう

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メインストーリー番外章です


EXTRA CHAPTER
EX-1 状況の分析 


 EXTRA CHAPTER 救世の章

 

 

 

「さて。状況を整理する前に、オレたちは確認しなければならない」

 

 厄災の神を倒した凱旋は、清々しいものにはならなかった。

 夜が明けようとしている幻想高校はいつも以上に静かだ。

 

 厄神への道を切り拓くため、ここにいる纏姫たちは尽力してくれた。今頃は疲れ切った体を休めている頃だろう。

 

 静まり返った室内に重苦しい雰囲気が蔓延する。

 それでも、オレは問わなければならない。

 

「お前らは、カノンを止めたいか? それとも、あいつの救世を待つのか?」

 

 すぐに答える人間は誰もいなかった。

 

 重傷を負っていたヴィクトリア、とっくのとうにガス欠だったヒバリは既に保健室に運んだ。

 

 後のに残ったのは、疲れ果てた体で立つフォックス小隊の3人、シュガー小隊の残った4人。そして主人公たる彼のみだ。

 

 カノンの件はまだ誰にも報告していない。

 大人たちへの報告はオレから慎重に行う予定だ。

 

 ひとまず状況を整理して、どう対応するべきかある程度あたりをつけるべきだ。

 そのためには、真っ先に彼らの意思を確認する必要がある。

 

「……本当に可能なのか。纏姫(ブラッファー)の力で世界を塗り替えるなど」

 

 最初に口を開いたのはハヅキだった。

 最前線で戦う彼女は何度も攻撃を受けたはずだが、それでも気丈に立っている。

 真剣の如く鋭い瞳がこちらを見据えている。

 

「普通なら無理だろうな。ただ、カノンは自らリミッターを突き破った昇天(フライアウト)生還者だ。正直、どこまでの力を持っているのか未知数だ。何ができても不思議ではない」

 

 想像の中において人の力は無限大だ。虚勢──つまり想像の力を現実にする纏姫は、理屈の上ではなんだってできる。

 

 リミッターさえ気にしなければ、発狂して尚生き続けることができれば、何でもできるのかもしれない。

 

 その可能性について、オレの知っているゲームは言及しなかった。

 昇天者の末路は正気に戻るか死ぬかの二つに一つ。それ以上は知らない。

 

「……そうか。ライカが分からないというのなら、きっと誰も分からないのだろうな」

 

 そう言った後、彼女は少し考えを巡らしてから言葉を紡いだ。

 

 

「ただ。『嘘のない世界』というものに魅力を感じないと言ったら噓になる、かもしれない」

 

 まだ彼女の中で思考を纏めている最中なのだろう。それっきりハヅキは難しい顔で黙り込んでしまった。

 清廉潔白を好む彼女がそう言うのも分からなくはない。

 オレは何も言わなかった。

 

 重たくなった空気の中次に口を開いたのはマナだった。

 

「ライカ。私なりにカノンの言ったことについて考えを纏めた。状況の整理に役立つかもしれないから、話していい?」

「ああ、頼んだ」

 

 正直なところ、オレも混乱している。

 こういう時でも冷静なマナは本当に心強い。

 

「全人類を悟りに引き上げることで『噓のない世界』を作り上げる。理屈自体は通っているように思われる。欲望を無くした人類は社会的行動を取らなくなる。競争も、見栄も、恋愛もなければ嘘をつく理由がない」

 

 この点についてはオレと同じ見解のようだ。

 

「ただし、そう単純に片付くとは思えない。カノンの物言いでは、世界の塗り替えに抵抗する人も想定しているようだった。彼女ひとりの力で現在の社会体制を崩壊させるのは相当な労力になる。そして、社会体制を作る支配層が煩悩を捨てることを選ぶとは全く思えない」

 

 満ち足りた人間にとっての最重要事項は現状維持だ。

 高級スーツに身を包み、フカフカの執務イスに座り仕事をし、家族と談笑し、高い酒を飲む。

 

 そんな生活を捨てられるのなら、きっとソイツは聖人と呼べるだろう。

 

「『虚構の浸食』を相手に各国の軍隊は相当力を削がれた。けれど、纏姫個人を相手に遅れを取るとは思えない。『虚構の浸食』とは違い、纏姫相手には通常兵器が有効。機関銃も、巡航ミサイルも、毒ガスも投入できる。それらすべての対策を取れるとは思えない」

 

 マナらしい現実的な見解だ。

 オレたち纏姫が前線に駆り出されているのは、『虚構の浸食』相手に唯一有効な攻撃手段であるからに過ぎない。

 力比べ、及び持久力比べであれば、成人の男が多くを占める軍隊が勝るのは当然だ。

 

「以上のことから、私はたとえカノンの言う救世をしようとしても失敗に終わると考える……もっともこれは、カノンの能力がどの程度のものなのか分からないから推察に過ぎないけど」

 

 そう言って彼女は口を閉じた。

 マナは結論を出しつつも、自分の答えが正解だと確信できていない様子に見えた。

 カノンの力は自分たちの想像を超えるのではないか。そういう危惧を捨てきれないようだ。

 

 

「それでは、私からカノンについて話してもいいだろうか」

 

 発言したのは、シュガー小隊の神前セイカだった。

 巫女服を着た、清楚な印象を受ける少女だ。切り揃えられた黒髪。やや細い黒目。

 戦闘では梓弓を器用に扱う。

 神社の娘らしく、巫女であることに誇りを持つ少女だ。

 

「あなたたちフォックス小隊は、カノンとの交流期間が少ないだろう。私はカノンと同じ西校の出身だ。カノンのことを理解するのなら彼女の人となりを少しでも知る必要があると思う。……それに、私が知って欲しいんだ。彼女がここまでどんな道を歩んで、あそこに至ったのか。その経緯を」

 

 フォックス小隊の全員が黙って頷く。

 彼女のことをよく知らなかったのはみんな同じだ。

 オレたちの視線がセイカへと集まる。

 

「──聖人のような、という形容が、今の彼女を形容するのに最も相応しいだろう。人を助けることのみに執着し、他のことを顧みない。纏姫として最前線で戦い、学校では様々な纏姫の相談に乗った。──けれど、最初は彼女はあんな強迫的なまでに働く人ではなかった」

 

 彼女の言葉は、昔を懐かしんでいるようだった。

 軽々しく口を挟めず、オレたちは黙って続きを促す。

 

「変化の原因は確実にあの件だろう。3か月前、カノンの所属していた小隊が彼女を除いて全員死亡する事件が起きた」

 

 詳細は不明だ、と彼女は言う。

 古都の探索中、未確認の「虚構の浸食」に小隊が襲われた。

 奇襲によって小隊は壊滅、生き残ったカノンが苦戦の末に敵を撃破。

 目撃者が誰もいない以上、何が起こったのかはカノンの証言以外に情報がなかった。

 

「私たちはカノンの精神面を心配した。他人を救うことに異常なほど執着している彼女が、あんな凄惨な目にあってどれだけ傷つくのか。……ただ、彼女は異常なまでにいつも通りだった」

 

 安心なんてできるわけがない。

 いつものように穏やかに笑って、いつものように勤勉だった。それがあまりにも異常だった。

 

「その時から、彼女は一層人を救うことに執着し始めた。居住区に出現する『虚構の浸食』の討伐に名乗りを上げ、古都の内部深くに侵入して誰よりも戦果を挙げた。私たちはみんな彼女の身を案じたが、カノンはただ『目的ができた』とだけ言って過酷な状況に身を置くことをやめなかった」

 

 語るセイカの瞳には、何もできなかった自分への無力感が映っていた。

 

「きちんと話すべきだったのだろう。ただ、彼女の内面がどうなっているのか把握している者は誰もいなかった。親しかった同じ小隊の面々は、全員先の一件で殉職していたからだ」

「……」

 

 纏姫たちの小隊内の絆は強固だ。

 命を預け合い戦うのだから当然といえよう。

 

「……西校のアンカーは、カノンと対話しなかったのかな」

 

 静かに問いかけたのは主人公君だった。

 

「元々カノンと行動を共にしていたアンカーは事件の折に死亡した。新しい小隊のアンカーは、カノンとあまり心を通わせることができなかったようだ。カノンはそもそも自分の内面を見せたがらなかったからな」

 

 アンカー全員が纏姫ときちんと心を通わせることができるわけではない。

 ただでさえ思春期の少女との関係構築は難しい。彼はアンカーとしてよくやっている方だ。

 

「もはやカノンを本当に知る者は誰もいなかった。だから、カノンがあんな行動に出たことに私はさほど驚いていない。ただ、カノンがハッキリと『邪魔したら殺す』と言ったことには驚いた。……どうあれ、人を傷つけることを良しとする人ではなかった」

 

 今言うべきことは全て言った、と表すように彼女は口を閉じた。

 オレは初めて聞いたカノンの来歴に思いをはせる。

 

 ここにいなかったカノンは、オレの知らないところで幸せに暮らしてるのだと勝手に思っていた。

 けれど、彼女は決して幸せとは言えない道を歩いてた。

 

 カノンが苦しむことになったのがイレギュラーであるオレのせいなのかは分からない。

 ひょっとしたら、彼女は原作通り『不定形の神』の元で命を終えるのが最も幸福な結末だったのではないか。人を救うことを使命とする彼女にとって、あれは最上の結末だったのかもしれない。

 

 意味のない仮定がグルグルと頭の中を巡る。

 人生の良し悪しを推し量るなど愚にもつかない行為だ。けれど、原作知識が存在するオレにとって、既存のストーリーを壊したオレにとっては考えずにはいられない。

 

「なあ、お前はどう思う?」

 

 多分、心が揺れ動いたせいだろう。

 具体的なことを全く言わず、漠然と問いかけてしまった。こんな弱気、オレらしくもない。

 

 彼はちょっと驚いたようにオレの方を見ると、少ししてから言葉を紡いだ。

 

「僕はカノンの言うこと全部は信じられないかな。悟りに至るって言っても人が嘘をつかない世界っていうのはあまり想像できない」

 

 彼はカノンの掲げる理想には懐疑的なようだ。

 

「それに、カノンはもう少しちゃんと話すべきだと思う。僕はカノンともっと言葉を交わしたい。少しでも理解したい。平凡な僕には彼女の考えを全部理解はできないかもしれないけど、それでも会話を諦めたくない」

 

 これまでずっと纏姫の心と真摯に向き合っていた彼らしい言葉だ。

 俺は堂々と話す彼の姿が少し眩しく感じる。

 

「それに、『噓のない世界』っていうのは、僕はあまり惹かれないかな。──だって、ライカの嘘がずっと聞けない世界なんて寂しいじゃないか」

「…………」

 

 一瞬、頭が真っ白になってしまった。

 何か適当に皮肉っぽいことを言おうとするが、言葉が出てこない。

 

 先程までと違った沈黙が下りる。

 微妙な雰囲気になったのを察したハヅキが、頭を抱えながら言った。

 

「翔太……ライカが固まった。どうにか治しておいてくれ」

「えっ、どうやって!?」

 

 オレの前で彼の手がひらひらと振られる。

 

「ライカ? おーいライカ!」

「──だいたい、意見は聞けたな」

「おお、急に復活した」

 

 コイツらは何してるんだろう、とマナがジト目で見つめてきているのが横に見えた。

 なんだか真面目に話し合う雰囲気でもなくなってしまった。

 

 とりあえずオレは一旦この場を締めることにした。

 

「まあ、ある程度みんなの価値観も分かったところで休むとするか。報告はオレが明日まとめて行おう」

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