ソシャゲヒロインにTS転生したオレ、喫煙するところを主人公君に見られる   作:恥谷きゆう

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神は遍在する

 都内には多くの高層ビルが並んでいる。

 多くの『虚構の浸食』が暴れ回り、中には崩れてしまったものはあるが、それでもまだ建物は健在なものが多い。

 

 その中に、突如として一際大きな影が立ち上がった。

 高層ビル群ですら覆い隠せないほどの巨大な影だ。

 

 光り輝く観音像。

 そのサイズは、遠方からでも容易に目視できる茨城の牛久大仏にも匹敵する。その巨体であれば、手のひらを振り下ろすだけで民家を破壊してしまうだろう。

 カノンが能力で展開していた観音像と同じ存在だ。しかしその規模はいまや比べ物にならないほどに大きくなっていた。

 

 

 巨大な立像はゆっくりと手を広げ──手を、合わせた。

 

 瞬く間に、日本全土に何かが浸透した。

 まるで二酸化炭素が当たり前に世界に存在するように、何かは世界に広がっていく。

 

 それを感じ取れたのは、アンカーの適性を持つ者のみだった。

 

 浸透したもの──糸の正体は、カノンの希薄化した意識だ。あるいは魂とでも呼ぶべきものかもしれない。

 物理法則すら無視して広がったそれは、一瞬にして列島を覆う。

 

 つまり、国土は全てカノンの『現世浄土』の圏内となった。

『現世浄土』がその効果を発揮する。

『悪しきもの』の排除。

 今回の排除対象はすなわち、人の煩悩、欲だ。

 

 

 

 

「これ、は……?」

 

 尋常ではない雰囲気に、僕は思わず声を上げた。

 作戦の準備を進めていたライカがこちらを振り向く。

 

「どうした。何か気づいたか?」

「……カノンの気配が、そこら中にある」

「……なに?」

 

 そう言う他ない事象だった。

 アンカーは纏姫の雰囲気が何となく感じ取れる。現実の基準点である(アンカー)は、現実から虚構の世界にはみ出した纏姫の気配に人一倍気づきやすい。そんな僕だからこそ、違和感に気づけたのだろう。

 

「どういうことだ。もっと詳しく説明できるか?」

 

 真面目な顔のライカはいつもみたいに混ぜっかえしてこない。

『救世カノン救出作戦』が始まって以来、彼女はどこか余裕がないように見えた。

 いつもはまるで未来を知っているかのように余裕綽々に振る舞っていた彼女は、カノンの離反以来ずっとそんな態度だ。

 

「僕にもうまく説明できないけど……どこもカノンの射程圏内の気配っていうかなんていうか……」

 

 自分で言っていてもよく分からない。あまりにも曖昧な表現だけど、そう言う他になかったのだ。

 けれど、僕の言うことが正しかったことはすぐに証明された。

 

「──皆さま、3日ぶりですね」

 

 幻想高校の教室の一つ。

 フォックス小隊以外に誰もいなかったはずの教室に、救世カノンが立っていた。

 

「──っ!」

 

 真っ先にハヅキが抜刀する。

 続けてヒバリがブレード展開。

 その次の瞬間には、ヴィクトリアの魔法がカノンを襲っていた。

 

「紫電よ!」

 

 カノンの元へと迫った電撃は、しかしカノンの体をまるで霧でも通ったみたいにすり抜けた。

 

「なっ!?」

「落ち着いてください。これは幻影のようなもの。私の肉体はここに存在しません」

 

 あくまで冷静に告げるカノンは、これから戦う相手とは思えないほどに落ち着き払っていた。攻撃の意志は感じられない。

 よく見れば、彼女の体はまるで立体映像のようにわずかに揺らいでいるようだった。その様子は『不定形の神』にも似ていた。

 

「この私は戦うために来たわけではなりません。ここには皆さんの意志を確認するために来ました。──さて、私の救世を受け入れる心の準備は済みましたか?」

「悪いな。オレたちはカノンを止めるってことで合意したんだ」

 

 ライカの返答に対して、カノンは残念そうな顔すらせずに淡々と言葉を口にする。

 

「そうですか。では、これを見ても同じことをおっしゃいますか?」

 

 彼女が掌を前に出すと、何もない空間にどこかの景色が写った。

 そこは自衛隊の基地内部に見えた。整備された銃器が並べられ、迷彩服を着た自衛隊員が行き来している。

 ……ただ、様子がおかしい。彼らは既に銃を手放し、無気力な様子でその場に立ち尽くしていた。

 

「虚構対策委員会による現代兵器を用いた『救世カノン討伐計画』は実行前に頓挫しました。自衛隊、警察の全人員は『人を傷つける意志』を喪失。戦闘行為は行えないでしょう」

「……え?」

 

 自衛隊の基地はここから遠く離れた場所にある。特区にいるはずのカノンがそれを無力化したなどすぐには受け入れられないことだった。

 

「言ったでしょう。全ての人の煩悩を無くすと。欲さえなければ人を傷つける意志など持ちえない。私の『現世浄土』の効果はまだ日本全域にとどまっていますが、いずれ世界中の嘘を消し去るでしょう」

 

 その言葉に、僕はようやく先ほど受けた感覚の正体を知った。

 カノンの力は既にあらゆる場所に広がっている。カノンは特区にいるのと同時に、ここにも存在しているのだ。

 

「……神は遍在する、ってことか」

「その理解で問題ないですよ。ただ、私の力ではあなたたち纏姫とアンカーの煩悩を消すことは難しい。あなた方が私に自我を任せてくだされば煩悩を消し去ることができるのですが……」

 

 アンカーと纏姫が「虚構浸食物質(フィクショナルマテリアル)」に耐性を持っているのと同じ理屈だろう。両者の精神に虚勢の力は効果を発揮しづらい。

 

「それはできないよ」

 

 僕は一歩前に踏み出しカノンに言葉を返す。

 

「カノンに救われれば楽かもしれない。もう二度と悩むことなんてないのかもしれない。でも、僕は君の理想が正しいとは思わない。『噓のない世界』。僕は君の救世を止める必要がある」

 

 先ほどと違い、カノンの表情には一瞬変化が見られた。

 じっと僕の顔を見つめた後、やがてため息を吐く。

 

「あなたなら、分かってくれるかもしれないと思ったのですがね。分かりました。──それでは、この世界で最後の決戦を始めましょうか」

 

 そう言い残して、カノンはその場から姿を消した。

 

 

 

 地響きを鳴らしながら、それらは進行していた。

 廃墟と化した都心から集うは6つの観音像。

 

 聖観音、十一面観音、馬頭観音、如意輪観音、不空羂索観音。そして、一際大きな光を放つのは千手観音。

 六観音と呼ばれるそれらは、歴史上大量に仏像が造られていて、知名度も高い。

 

 分裂したそれらは先ほどのような圧倒的なスケールはない。それでも、異様な存在感が実物以上にそれらを大きく見せていた。

 全ての観音像の前には、薄く微笑んだ救世カノンが佇んでいた。

 観音像と同じく、カノンもまた6人。

 

『遍在する』という特性を会得したカノンは、既に己の存在を分割する域まで至った。

 全て、あまねくところに救いの手を伸ばすためだ。

 

「さあ、決戦です」

 

 少女は微笑み、この世界で最後の戦いを終わらせようとしていた。

 

 

 

【BOG運営からのお知らせ】

 

 立ちはだかるは6体の観音像。

 都心を中心に謎の力が広がっていき、やがて救世カノンによる世界の再創造がはじまる……! 

 

 

 次回アップデートより『EXTRA CHAPTER 救世の章 決戦編』を開始します。

 今回はレイドバトル形式のイベントとなります。

 アンカーの皆さんで協力して規定数のボス討伐を目指しましょう! 

 ボスを討伐した際には豪華報酬を獲得できます。奮ってご参加ください。

 

 開催期間:2034/12/29~2035/1/5

 参加条件:最新話クリア

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