梅雨入りしてから今まで快適だった外が一気に不愉快になった。
ジメジメした気圧差と不愉快な雨音が鳴り響くこの季節は得意ではない。
『まもなく…○○駅です…。』
乗車して数十分、こうしている間にも私の脳裏には、あまり待たせられるのは好きではないなとか、倦怠感に打ち勝とう、とかでさっきから自分の心を鎮めようと必死だ。はやく鎮めなければ見知った誰かにこの背筋が曲がりひきつった汗まみれの顔を見られるという羞恥と仕事でまた失敗するのではないかという不安が押し寄せてくる。
『だからね?気にし過ぎなんですよ』
一瞬身体が跳ねた。声がする方向に顔を向けると男性がただ電話しているだけだった。…私の事ではなかった。
そう、私は小心者だ。見ての通り冴えない31のサラリーマン。誰に見られても恥ずかしいような外見と人生しか送ってこなかった人間だ。
─やめだ…やめだ…そんなことばかり考えるな…ふけるな。彼女いない歴=年齢は俺の唯一のステータスだ…誇れよ─
吊革をぎゅっと握って苦虫を潰した。彼女の1つや2つ出来たらもっと人生は変わっていたのだろうか。
─いや二股する気かよ…最低だな俺…─
電車のドアが開いた。顔を上げると見慣れた駅のホームがゆっくりと視界に入る。今日も沢山の人だかりでみんな同じような服で同じような顔に見えた。ただ一人を除いて。
─ゴスロリ…?─
淡桃色のドレスを着た幼女がキョロキョロと身体をビクつかせながら辺りを困惑して見ているように見えた。
─同じだ─
それまで文鎮のように固まった脚が反射的に前へ動いた。吸い寄せられたかのように全身が彼女に訴えた。
『あの、どうか…されたんですか?』
気づいたときには彼女に声をかけていた。自分でも驚いた。傍から見たら幼女を狙った変質者。普通なら人攫いに見られてもおかしくない。
なのに………なのに…。この口が止まらない。
『もしよろしければ、道……教えますよ』
道を踏み外しそうになっている男が言う台詞ではない。
『フフ…丁度ね』
─不敵な笑みを浮べて何を言っているんだこの娘は…─
やはり少しおかしな格好をしているしこの歳で何かに目覚めてしまった系のあれではないかとおじさんなりの気遣いを繰り広げてしまう。
『えっと…どういう意味ですか…すみません。私、頭の出来が良くなくて…』
『この私に出逢ったのだからまずは名を聞かせなさいよ。愚民』
─愚民って言葉使う人初めてだ─
『私は
『やっぱり変な名前ね』
やっぱりって…?私達は初対面のはずだが…彼女は私のことを知ったような口ぶりだし、一方的な私いじりを躊躇なくしてくる。それに意味不明なことを口にするので会話が成り立っていないのではないかと少し不安になる。
『はは、よく言われます…』
『そういうところも視たまんまね。予想通りというかおさらいしているようで眠たくなるわ』
『あの……ところで貴女の名前とかはお聞きしても?』
『あら?言ってなかったかしら』
彼女は胸を張って、堂々した面持ちでこちらを見た。
『私はレミリア・スカーレット。あらゆる吸血鬼を統べる王にして紅魔館の主よ!』
─変な人だ─