異世界でもイレギュラーはつきもの   作:プロッター

4 / 12
第4話:結成

「ギルドハウス?」

「ええ。その方がいいかなって」

 

 宿で迎えた朝食の時間。パンを齧りながら、ゲンマはウィーネの提案に耳を傾ける。朝食はパンと温野菜、それから卵の目玉焼きと質素ながらも安定感のある朝食だ。前の世界でも見知った献立は安心するが、これらの食材が見た目は普通でも何由来なのかは未だに不安であるが。

 ところで、ウィーネの言ったギルドハウスとは、ギルド管理本部で条件を満たしたギルドが借りることができる、寮ともシェアハウスとも言える拠点だ。

 

「確かに毎日宿暮らしですと、賞金だけではいずれ足りなくなる時もあるかもしれませんからね」

「かといって野宿するってのもねぇ。だから、そっちの方がいいかと思って」

 

 同じ食卓を囲みながら、アルナが言う。昨日のようにギルドでクエストを成功させて報酬を得て、宿代を稼ぐという手は有効だし、駆け出しのギルドはそうするしかない。かといって、それは自分たちに合った難易度で、かつ報酬もそれなりでなければ成立せず、どちらかが欠けてしまえば稼ぐのも難しくなる。そうなれば、いずれまた金欠だ。

 さらにウィーネの言うように、通年野宿は少々憚られる。今の時期はまだいいが、夏や冬など気温が著しく尖る季節にそんなことをすれば体調を崩しかねない。それに天候が崩れれば、寝床を見つけることすら一苦労だ。

 ゲンマはあっさりとした味わいのスープを一口飲んで、頷く。

 

「そうだな…これからのことを考えると、ギルドハウスは契約するべきかもな」

「でしょ?」

 

 ギルドハウスというものはゲームの「マテリアワールド」にも存在していた。と言っても、それは自分が所持しているキャラクターたちがくつろぐ場所で、キャラクターのレベルアップや装備の進化に必要なアイテムの補充以外では、ゲーム進行には影響のないお遊び要素だった。そのギルドハウスが、この世界においては自分たちの生活を委ねる無視できない要素になる。何度体験したかは数えるのをやめたが、ゲームと現実の違いを如実に感じた。

 

「だけど、それには確か後1人メンバーがいるんだよな?」

 

 昨日、ギルドを登録する際にギルドハウスについてはルスターからも一通り説明を受けている。細かい規定が色々あるが、絶対条件は「4人以上のギルド」だ。

 現状、ゲンマの仲間はアルナとウィーネの2人だけだ。なので必然的に、メンバーを新しく迎え入れる必要がある。ギルドハウスを契約するためだけに適当なメンバーを迎える、というやり方はゲンマとしては取りたくない。これから本格的に自分たちの仲間になるメンバーを探さなければならない。

 

「誰かあてはあったり?」

「いやー…あんまり」

「私もです…」

 

 一応聞いてみたが、2人とも首を横に振った。アルナは仕方ないとして、経験者のウィーネでもそうなると、新しいメンバーは地道に探すほかないだろう。

 なのでまずはギルド管理本部へ赴き、生活費を稼ぐためのクエストを見繕いつつ、新しいメンバーを探すという方針に落ち着いた。

 

 

◆ ◇

 

 

 ギルド管理本部では毎日クエストが更新され、その中からギルドが早い者勝ちで受けていく。当然、難易度と賞金のバランスが良いものは真っ先に捌けてしまうので、ギルド管理本部の始業前から座って待つ人もいるほどだと、ウィーネは言っていた。前の世界で、話題の商品販売当日で開店前に行列を作るような文化はここにもあるのかと、ゲンマはいっそ安心感すら覚えた。

 そして、そう言ったクエストが貼り出されている掲示板のすぐ隣には、どのギルドにも属していない冒険者の登録用紙が同じように貼り出されている。彼ら彼女らはいわゆる、スカウト待ちの状態だ。

 

「誰がいいとか、あったりするんですか?」

「そうだな…ここは経験者の意見が欲しい」

「経験者ってなんだかこそばゆいわね…」

 

 現在スカウトを待つ冒険者の数は、両手の指で数えられるほどしかいない。その中から1人を選ぶのだだが、初心者のゲンマとアルナには誰を選べばいいのか分からなかった。ゲンマとしては、「マテリアワールド」と同様に属性と役職をなるべく被らないよう組めばいいのではと思ったが、これは現実でゲームとは違うので迂闊に判断できない。

 そこでウィーネに尋ねると、恥ずかしそうに頬を掻きながらも教えてくれた。

 

「まぁ、私たちとは違う自然エネルギーの属性を持っているのがいいわね。あたしが『土』でアルナは『風』、ゲンマはまぁ…特殊だから『水』か『火』属性が一番いいわ」

 

 改めて聞いても、その辺りはゲームとあまり変わらないらしい。ひとつ心配事が解消できた。

 基本的に自然エネルギーは全部で4つだが、それらには優劣関係が存在する。「土」を基点にすると、「土」は「火」に弱く、「火」は「水」に弱く、「水」は「風」に弱く、「風」は「土」に弱い。

 後で分かったことだが、昨日戦ったオークは「土」の属性を持っており、故に同じ「土」属性のウィーネは実力がほぼ拮抗し、「風」のアルナは――攻撃力の高い魔術を使えなかったとはいえ――有効なダメージを与えられなかった。そして「無」属性であるゲンマの武器は、「土」のオークに大ダメージを与えられた。単純に考えれば、その「無」属性の攻撃は「火」属性と同等の攻撃力があると思われるが、それだけで片付けることはできそうにない。

 つまり、敵の自然エネルギーの属性はいつも同じとは限らないため、同じ属性だけでギルドを組むと拮抗或いは劣勢関係にある属性と当たった際も苦戦を強いられてしまう。だからウィーネは「水」か「火」のメンバーを迎えようと言ったのだ。

 

「それと、遠距離から攻撃できる人だともっといいわね」

「つまり…『弓士(アーチャー)』や『射手(ガンナー)』とか?」

「そうね。でも、これは必須じゃないわ」

 

 ウィーネは「格闘家」で近接戦闘が専門。アルナは「回復職」で補助ポジションだが、この先能力を高めれば中距離まで戦うことはできるだろう。そしてゲンマのポテンシャルは未だに不明だが、この武器が近・中距離戦闘で役立つであろうことはオークとの戦いで分かっている。さらに遠距離からも攻撃できるメンバーがいれば、敵が接近してくる際に先んじて攻撃を仕掛け、被害を最小限に留めることも可能だ。

 

「まぁ、『射手』はあまりいないし、いるとすれば『弓士』でしょうね」

「つまり、この中だと…」

 

 アルナが掲示板を見上げる。同じように、ゲンマとウィーネも貼り出されている冒険者の用紙を確認した。ウィーネの言っていたように、「水」または「火」の自然エネルギーを持ち、遠距離攻撃が得意なポジションの冒険者。

 アレは、幻級のSRキャラじゃないか。

 スカウト待ちの冒険者には、ゲンマが「マテリアワールド」をプレイしていた時にも見たキャラクターが何人もいた。その中に、キャラクター排出ガチャで登場するも能力の高さがSRのそれではないとされて調整され、さらにその後配布もされなくなったまさに幻のキャラクターもいた。ゲンマも引けなかったそのキャラクター現実にいるという事実に打ち震えるが、そのキャラクターは「土」属性の「剣士(ソルジャー)」のため、自分たちがいま探している冒険者の条件に合致しない。なので、心の中で感動するにとどめておき、別の冒険者を探す。

 

「あ、この方なんてどうでしょう?」

 

 やがて、アルナが1枚の登録用紙を指差した。ゲンマはその用意を掲示板から剥がして手元に寄せ、アルナとウィーネと一緒に内容を見る。

 

「『火』属性の『射手』、『クラカ』さん…」

「うん、悪くないんじゃないかしら?」

「じゃあ、まずこの人に聞いてみないとですね」

 

 属性とポジション、条件をどちらも満たしている。顔写真はないが、19歳の女性ということだけは分かる。

 またしても女性、というのがゲンマは気がかりだった。アルナとウィーネは成り行きで仲間になったから多くを言わないが、周りにいるのが女性だけというのは、振る舞いや言動に注意しなければと考えるので、かなり神経を使う。この世には男か女のどちらかしかおらず、決してゲンマは男色ではないものの、同性の近しい仲間がいないと疎外感を覚えるものだ。

 ともあれ、ゲンマはこの女性に話を聞いてみたいと思ったし、アルナとウィーネも同意見のようだ。そうして、受付にこの「クラカ」という女性がどこにいるか尋ねようとしたら。

 

「ほ、ほあああああああああ…!!」

 

 驚愕とも歓喜とも違う、奇妙な声が後ろから聞こえた。ゲンマたち3人どころか、クエスト掲示板を眺めていた冒険者たちまでもがそちらを振り返る。

 振り返った先には、柱に身体を隠してこちらを見ている女性がいた。赤が混じった黒いショートボブの少女で、オレンジの瞳、垂れ眉垂れ目と自身の無さげな顔立ちで、右目の下には泣きボクロがある。身長はゲンマとウィーネの間ほどで、膝丈の赤い半袖ワンピースと黒いブーツ、両手には黒のグローブ、腰には左右に銃が収めてあるホルスターが巻かれていた。

 その少女は、妙な声を発したかと思えば、ゲンマたちを涙目で見ている。

 

「そっ、その冒険者の方にきょ、興味がおありですかぁ~?」

「ええと、そうですけど…あなたは…?」

 

 やけにおどおどした話し方の少女だ。用紙を手に、ゲンマが答えつつ尋ねる。だが、何となくこの少女の正体が掴めた。

 

「そ、それ私ですぅ~。私がクラカですぅ~!」

 

 案の定だった。

 この赤黒髪ショートボブの子が、クラカ。手の中にある用紙に載っている冒険者だ。

 

「あ、ありがとうございますぅ。私みたいなみそっかす冒険者に注目していただけてぇ…」

「みそっかすて…」

 

 ぱたぱたと小走りに歩み寄るクラカの言葉に、ウィーネは困った笑みを浮かべた。

 それにしても、とゲンマは思う。

 この少女も、「マテリアワールド」のゲームで見たことはない人物だ。なぜ、自分の周りにはこうもゲームにいなかったキャラクターや、設定を持った存在が寄ってくるのだろうか。

 

「そ、それで、私のを見ていたってことは…皆さんは私をギルドに迎えたいってことでしょうかぁ…?」

「あー、それは…」

 

 答えようとして、ゲンマは戸惑った。

 「火」属性の「射手」ということで、それなりに勝気な性格かと思っていた。だが、目の前で期待に塗れた笑みを浮かべる少女は、それとは真逆である。何というか、ギャップがすごい。

 だが、そのギャップに驚いて答えるのにまごついていると、途端にクラカの表情に翳りが差した。

 

「…そうですよね。私みたいな壁の隅の埃みたいな私なんて要らないですよね…そうですよねぇ…」

「い、いやいや! 決してそういうわけじゃなくて!」

「いいえ、分かってるんです…。私みたいなウジウジ女なんて誰も必要としてないんです…あなたたちもそうなんですよね…役職と属性が目についていざ会ってみたら幻滅とかそんななんですよね…」

 

 ところどころ当たっているのがつらい。どうすればいい、と視線を巡らせたところで気づいた。

 ここはギルド管理本部で、人が集まりやすい場所だ。クラカがさっき声を上げたことで既に注目を集めているし、おまけにゲンマの前で落ち込んでいる。これでは、ゲンマがクラカを泣かせたように見られてしまうし、実際集まってきた何人かはゲンマのことを「ないわー」という目で見ていた。実に心臓に悪い。

 

「ち、違うんだよ! 本当に俺たちは君のことを仲間に加えようとしてたんだ」

「ほ、本当ですかぁ~?」

「ああ。だから少し場所を移して話をしよう。な?」

 

 ぐずるクラカの手を優しく握って、立ち上がらせるゲンマ。それから、共有スペースの空いてる席に向かうのだが、その途中でアルナとウィーネが「どうするの」と困惑気味な顔が見えてしまったのが、ゲンマの中の罪の意識を増長させる。

 

「えーっと…」

 

 空いている席に落ち着いたところで、今一度クラカの冒険者登録用紙を読み、要所要所で自虐を挟むクラカからもどうにか情報を聞き出す。

 属性は「火」でポジションは「射手」。過去に別のギルドに所属した履歴はなく、単独冒険者として何度か簡単なクエストに出て経験値を稼ぎ、射程距離を伸ばすスキルを習得しているとのことだ。

 

「銃を扱ったことがないからよく分からないが…ここから普通に撃ったらどのぐらいの距離まで当たるんだ?」

「え、ええとぉ…あの、お外にある八百屋さんの果物ぐらいなら何とか…」

 

 おずおずと、クラカがゲンマの後ろを指差す。具体的には、窓の外に見える八百屋の店先に並んでいる赤い果実だ。銃を持ったこともないゲンマからすれば、あんな遠い場所にある果実を撃ち抜けるなど、純粋に称賛するほかない。

 

「すごいな…」

「あっ、でもでも! 私みたいな貧弱な腕じゃ無理だと思いますぅ! できるのは私のお父さんかお母さんぐらいでぇ…」

 

 急に自信を失くしたクラカの言葉に、ウィーネは「あれっ」と声を上げた。

 

「あなたのご両親も、『射手』なの?」

「あ、はいぃ…。私の実家は、銃器を造ってる工房なんですぅ…お父さんもお母さんも、ゴミみたいな私なんかと比べてすごく立派な射手でしたぁ…」

「あー、実家が工房…だから…」

 

 納得したように頷くウィーネ。

 先ほどちらっと言っていた「射手自体が少ない」と言っていた理由に、この世界で流通する銃器の数が少ないというものがあった。それは銃器を製造する場所が少ないからで、王都の衛兵等の上級職を除けば、クラカのように実家がつながりを持っていたりしない限り簡単に入手はできないらしい。

 

「へぇ…それじゃクラカさんは数少ない魅力を持ってるってことですね」

 

 アルナが感心したように手を合わせて、ニコッと微笑む。

 だが、クラカは「そうですね…」とまたしても落ち込んだ。

 

「だから皆さん、最初は興味本位で私に話しかけるんです…でも、私の性格がこんななせいで、『じゃいいですー』って皆さん離れてしまって…どこのギルドにも受け入れられないんです…」

 

 あはは、とアルナとウィーネはどう反応したらいいのか分からないらしく苦笑する。

 だが、ゲンマはこのクラカに対して、親近感を抱いた。

 まるで自分を見ているようだから。

 

「…ひとつ聞いてもいいか?」

「な、何でしょう…?」

「どうしてクラカは、冒険者になろうと?」

 

 努めて優しく聞いてみる。

 クラカはほんの少しだけ微笑んだ。

 

「お父さんとお母さん、昔は冒険者として頑張って多くの人を助けていたみたいで…。そうなりたいなぁって…」

「そうなんだ」

「それに、私は生まれつきこんな心がボロボロのグラグラで自信が持てなくて、少しでも強くなれたらって、変われたらって、思ったんですよぉ」

 

 そう語るクラカの表情は、先ほどのようなこの世の終わりに浮かべるような笑顔ではない。心に温かさの宿った笑みだ。

 両親のように立派な冒険者になりたい。弱い自分を変えたい。

 そのために、弱く怯える自分の心を叱咤して、ここまでやってきて、冒険者になった。それは間違いなく、クラカの中にある行動力と意思がなせることだ。未だに心は弱くて、自分に自信が持てないのは変わらないのだろうけれど、ここにいるのは間違いなく彼女の心の強さの結果だ。

 親近感と憧れ。2つの気持ちを抱いたゲンマは、頷く。

 

「…アルナ、ウィーネ。いい?」

「ええ」

「はい」

 

 隣に座る2人に確認を取る。どうするつもりかを理解したらしく、そして2人も考えることは同じようで、微笑みながら頷いた。

 

「クラカ」

「は、はい?」

「君の力を、是非とも借りたい」

「え、ええっ? そ、それってつまりぃ、そのぉ…」

 

 結論は分かっていても、口に出すのが怖いのか言い淀むクラカ。

 そんな彼女の結論を代弁するように、ゲンマは頷いた。

 

「どうか、俺たちの仲間になってほしい」

「!!」

 

 口にした瞬間、堰を切ったかのように、だばぁとクラカの目から涙が溢れ出した。

 

「あ、ありがとうございまずぅ…! こんな、私なんかでぇ…!」

「よしよし…」

 

 号泣するクラカを見かねたアルナが、子供をあやすようにクラカの背中に回って頭を撫でる。

 

「にぎやかになるねぇ」

「そうだな…でも、心強いよ」

 

 ウィーネの言葉に、ゲンマは頷く。最初に会った時のウィーネも中々だったが、涙もろいクラカはそれ以上だ。だが、沈黙と気まずさだけで満たされたギルドは居心地も悪いので、少々泣き虫でも優しい子がいてくれるのは嬉しい。

 

「ふ、不束者ですが…よろしくお願いします…!」

「よろしく、クラカ。俺はゲンマ」

「アルナです」

「ウィーネよ」

 

 1人ずつ、握手を交わす。

 クラカの手は、温かかった。

 

 

◇ ◆

 

 

 まずはギルド管理本部でクラカをギルドメンバーに追加。そして難易度5の討伐クエストを受付で追加し、ゲンマたち一行は出発した。

 

「よかったですね、ギルドハウス、空きが1つあって」

「ああ、どうにか一安心だ」

 

 アルナの言葉に、ゲンマも安堵の息を吐いて答える。

 クラカをギルドメンバーに追加したのに合わせて、ルスターにギルドハウスの借用をしたい旨を伝えた。幸いにも空いているギルドハウスが1つあったため、クエストから戻ったら必要書類を記入して改めて契約する流れを取り付けた。先にクエストに出発したのは、これから向かう場所が少し遠いため、早めに出なければ帰るのが夜になってしまうためだ。

 

「ギルドハウスって、どこも作りは同じなのか?」

「まぁ、そんな感じだったわね。大体2階建てで調理場と風呂とトイレ、4~5人分の個室。調度品なんかはギルド管理本部が用意してくれるわ」

「それは頼もしい」

 

 最低限生活できる設備は用意してくれるのはありがたい。調度品付きで家を借りられるのは随分と大盤振る舞いな気がするが、何せギルドとは大体命を懸けてクエストに挑む集団だ。そのお礼という意味もあるのかもしれない。

 

「で、でもでも…これから行くクエストって、危なくないですかぁ…?」

「まあ、確かにそうだな…」

 

 クラカが不安そうに言うが、それはゲンマも思っていたことだ。

 この難易度5のクエストは、西方の草原で旅人が何者かに襲われる事件が相次いでおり、その原因の究明にあたるというもの。昨日のオーク討伐に比べれば簡単そうな内容だが、被害者は無差別な上に消息を絶ち、襲撃されるタイミングもその敵の正体も詳細も不明だという。対処する敵がどういうものか分からないために、オークという分かりやすい相手がいるのと比べて難易度が1つ上なのだ。

 

「まぁ戦闘になる可能性も十分に…」

「むむむ無理ですう! 私みたいに実戦なんて初めてなひよっこ冒険者には荷が重すぎます! 実家に帰りますぅ!!」

「ちょい待ち」

 

 踵を返して走り去ろうとするクラカの首根っこを掴むウィーネ。

 

「あたしらだってギルドを組んだのは昨日だよ」

「ふぇ…?」

「もっと言えば、私とゲンマさんは昨日冒険者になったばかりです」

「え、えええ? じゃあどうしてこんなにクエスト選んだんですかぁ?」

 

 もっともな疑問だと思う。ゲンマだって、最初はいきなりあんなオークと戦いたくはなかった。それでもそうせざるを得なかったのは、「金」という非常に切実な問題を抱えていたからでもある。今日もせめて同じぐらいの難易度のクエストを、と思ったのだが、生憎良い塩梅のものがなかったので仕方なくこのクエストを選んだのだ。

 クラカの言葉に、ウィーネは頷く。

 

「まあ、止むに止まれぬ事情があったんだけど、昨日のクエストが特に大きな問題もなく完遂できたから、たぶん行けるんじゃないかと思ってね」

「わ、分かりませんよぉ? 今日は私みたいな足手まといのへなちょこがいますからぁ…」

「ええ。だから基本、あたしたちが戦う。クラカは援護をお願い」

 

 ウィーネが肩を叩く。

 「射手」の特徴として、攻撃力は他の役職と比べて高い一方、防御の面が乏しいところがある。ゲンマも「マテリアワールド」をプレイしていた時は「射手」の攻撃力が高い反面防御力が低いところに頭を悩ませていたものだ。

 なので、さしあたり今回のクエストではまずゲンマとウィーネが前に出て、クラカはアルナと共に後方からのサポートをしてもらう。それでもし、今回のクエストで前に出ても大丈夫そうであれば、次からは少し前に出て戦ってもらうことにする。と言っても、クラカの性格上それは若干難しいかもしれない。

 

「あぁ、そう言えば2人とも。昨日のクエストで経験値が入ったから、何かできるようになったんじゃない?」

「何か…って?」

「登録用紙の能力欄、何か増えてたりしない?」

 

 この能力を習得するシステムについては、「マテリアワールド」のように経験値を重ねていけば、そのキャラクターに合ったスキルを自動的に習得するものと同じらしい。

 ウィーネに言われて、ゲンマとアルナはポーチに入れていた登録用紙を確認する。ちなみにこの登録用紙、クエスト中は身元確認のために携帯するよう指示されており、失くした時は再登録のための手数料がかかる。これを最初に聞いた時、ゲンマは元の世界の免許証みたいなものかと思った。

 さて、ウィーネの言う通り登録用紙を見てみると、確かに登録した当初は何も書かれていなかった能力欄に能力が1つ追加されている。

 

「…『能力拡張』?」

 

 その能力は、「マテリアワールド」でも見たことがないものだった。というより、能力がこれしかないのに、どの能力を拡張するというのか。

 

「あっ、私探知魔術が使えるようになってます」

「お、いいわねぇ」

 

 一方のアルナ、新しい魔術を習得したらしい。ウィーネもそれを見て喜んでいるが、その様子にゲンマは疎外感を抱く。たとえるなら、学校のクラスでみんながテストでいい点が取れたと盛り上がっている一方、自分だけ点が悪くて置いてけぼりを食らっている感じだ。

 

「だ、大丈夫ですかぁ…?」

「ああ…うん。大丈夫…」

 

 そしてクラカに心配される始末である。

 

「じゃ、その探知魔術とやらで敵を探してくれるかしら?」

「あ、はい。やってみますね」

 

 そして早速、新しく習得した魔術を披露するアルナ。右手を虚空にかざし、異空間から杖を呼び出して握る。そして意識を集中させるように目を閉じると、先端に付いている緑色の玉が淡い光を放ち始めた。探知魔術を発動しているのだろう。

 

「…すぐそこに、何でしょう…。自然エネルギーの集まりを感じます。色が分かれていて、赤と緑、青色に茶色…近づいてます!」

 

 アルナが声を大にする。指差す方を見れば、地面スレスレを何かがこちらに向けて近づいてきていた。すぐさまゲンマは、アルナを守るように前へ出て杖を強く握り、ウィーネは拳を構えてその後ろへクラカも下がる。

 その直後、近づいてきていた何かが、4人の目の前で「立ち上がった」。クラカが後ろで「ひっ」と細い悲鳴を上げる。

 立ち上がったと言っても、それは生気のある人間ではない。人間の形をしているが、ローブを着ていて頭にフードを被っている。それが4体、それぞれ赤、緑、青、茶色のローブを着ていた。そして、そのローブのフードの部分には黒い文様が浮かんでいる。

 

「こいつらは…」

「分からないけど、味方じゃなさそうね」

 

 質問のつもりはなかったゲンマの言葉にウィーネが答えた直後、赤いローブがウィーネへと突進してきた。魔術の概念が存在する以上、人の動きをしていなくても人の可能性はあるが、このローブを被る集団は声を発しないし呼吸の音すらも聞こえない。

 そんな怪しげな赤いローブの人に、ウィーネは右の拳をローブの腹の部分へ叩きこむ。

 

「何、こいつ?」

 

 だが、拳を打ち込んだウィーネが発したのは疑問だ。見れば、ローブの隙間からポロポロと白い何かが落ちている。固まった薄い粘土のような破片だ。

 ただ、それを近づいて確認する時間はくれないようで、今度は青いローブがゲンマに向かって両腕を伸ばしながら迫ってきた。ゲンマは、右手に持っていた杖を前に横にかざし、頭の中で盾をイメージする。すると、黒い杖は蠢き西洋の十字軍が持っているような盾へと姿を変えた。青いローブがその盾に突っ込むと、まるで陶器が割れるような音が響き、ゲンマの足元に白い破片が落ちて、青いローブの動きが鈍くなる。

 

「こいつら、人間じゃないのか?」

「みたいね」

 

 未だにウィーネにまとわりつく赤いローブを見て、ゲンマは持っている盾を剣に変えて赤いローブに突き刺す。すると、やはり同じように何かが割れる音が聞こえ、動きが遅くなった。

 

「はぁっ!」

 

 直後、後方でアルナが風の自然エネルギーを放出し、静観していた緑と茶色のローブを吹き飛ばす。だが、中空へ投げ出された2つのローブは鳥のように向きを変え、再びこちらへと急降下してきた。

 

 クラカは、3人の後姿を見てただただ驚いた。

 ウィーネが先陣を切り、ゲンマと2人で相手の動きを止めて、アルナが風の自然エネルギーで敵を吹き飛ばす。中々連携が取れているように、クラカには見えた。昨日ギルドを組んだばかり、しかもゲンマとアルナはクラカと同じ駆け出しの冒険者と言う。それでもこうして対処できるのは、ポテンシャルの高さと、皆の気持ちが強いからだろう。

 自分もああなりたいと、クラカは思う。

 心を強くするために冒険者になったのに、いざこうして敵を前にすると足が竦んでしまう。今まで単独で受けたクエストは、おばあさんの買い物とか猫探しとか畑仕事の手伝いとか、そんな感じの「お手伝い」ばかりで敵を戦うのなんて初めてだ。

 緑と茶色のローブが空から迫ってくる。ゲンマは「来るぞ」と告げて、ウィーネとアルナもそれぞれの得物を構え直す。

 だけどクラカは、足が竦んで動かない。手が震えてしまう。

 怖い。逃げ出したい。

 

「怖くなったら、それを手にしなさい」

 

 頭に、温かい声が蘇ってきた。

 思い出す。まだ幼かった頃、両親が弾を抜いた銃を持たせてくれた時のこと。

 

「あなたは確かに怖がりだけど、その心は強くできる。これは、それを助けてくれるものよ」

「けど、それは人をむやみに傷つけるためのものじゃない。自分を、そして自分が守りたいと思う人を守るために、使うんだ。僕らがそうしているように」

 

 父が頭に手を置いてくれる。大きくて、温かい。

 母が自分に笑みを向けてくれる。穏やかで、優しい笑みだ。

 クラカの手から、震えが引いた。

 ホルスターに収めてある銃に、手を伸ばす。

 

 銃声が響いた。

 ゲンマは反射的に屈む。前の世界で銃声を聞くことなどなかったし、突然聞こえる銃声なんて映画の世界ではテロか何かの前触れだ。仲間のクラカが「射手」なのは知っている。彼女が撃ったのだろうとすぐに分かったが、それでもこうせずにはいられなかった。

 振り向いてみると、クラカは両手に拳銃を持っていて、両方の銃口から硝煙が上がっている。銃の形は、ミリタリーに詳しくないから何とも言えないが、スパイ映画などで見るような近代的なデザインではなく、西部劇でよく見るタイプの型だ。

 

「クラカ…?」

「すごい!」

 

 アルナが驚きの声を上げた。迫ってきていた2つのローブを、クラカが撃ち抜いたのが見えたのだろう。

 

「待って、まだ来る!」

 

 だが、ウィーネが言ったのを見てゲンマも中空に視線を戻す。降下の勢いは衰えたが、まだ2つのローブは両腕を伸ばしており、動きを止めていなかった。ゲンマは、持ち直した剣を槍に変えてどちらかを貫こうとしたが。

 

「ヒャッハハハハァ! まとめてブッ殺してやるァ!!」

「「「…え?」」」

 

 威勢がいいというには些かドスが効きすぎな声に、ゲンマのみならずアルナとウィーネまで振り返る。

 後ろにいるのは、やはりクラカだ。だが、その表情は先ほどまでのおどおどした様子が嘘のように、獰猛な笑みを浮かべている。垂れ眉は吊り上がり、白い歯を剥き出しに、唇は三日月が如く歪んでいる。果たして、さっきの声は本当にこの少女が発したものなのだろうか。

 

「オラオラオラオラァ!!」

 

 あっけにとられるゲンマたちなど気にもせず、迫る2つのローブに向けてクラカは銃を乱射する。視線を戻すと、ローブたちには攻撃が効いているようで、ガラスが割れるような音が幾重にも聞こえ、白い破片が地面に降ってくる。それに気づかないのか、クラカはなおも撃ち続け、やがて2つのローブはついに地面に落ちた。

 

「ッシャオラァ! 口ほどにもねェザコ連中だったなァ!!」

 

 発砲を止めたクラカが、ぐっと腕を上げて喜びを露わにする。

 それから、ホルスターに銃を収めると。

 

「な、なんとか勝てて良かったですぅ…」

 

 先ほどまでの威勢が消滅した。いつもの垂れ眉に戻り、おどおどした口調に戻り、不安そうな表情に戻る。

 さっき見ていたクラカは何だったのだろうか。ゲンマはそう思ったし、アルナとウィーネも同じ気持ちだろう。

 しかしそこで、後ろからカチャカチャと音が聞こえた。

 

「!」

 

 それは、4つのローブが落ちていた場所だ。振り向くと、最初のようにローブがまた起き上がっている。地面に散らばっていた破片も全て無くなっていた。再生した、と根拠はないがゲンマはそう思った。

 

「こいつら、魔術か何かで操られてる?」

「多分、そうかもしれません…」

「まるで人形か…」

 

 再び得物を構えるウィーネとアルナ。魔術が扱えるアルナの見方は恐らく正しいだろうし、ゲンマも同じことを思う。攻撃しても再生するとなれば、誰かしらがこれを魔術で操っていると考えた方がまだいい。

 

「わ、わわ…ど、どうしましょう…?」

 

 そしてクラカは、再生したローブ4体に怯えながらも再びホルスターから銃を引き抜き。

 

「とりあえずもっかい全員ブチ抜けばいいッてかァ!? えェ、オイ!!」

「「「えぇ…」」」

 

 またしても豹変した。あまりの切り替わりの速さにウィーネとアルナともどもドン引きである。どうやら、銃を手にすると性格が変わるタイプらしい。トリガーハッピーというやつだろうか。

 それよりも、今は目の前の傀儡のようなローブだ。

 すると赤いローブ人形が、右腕をゲンマに向けて伸ばしてきた。

 

「お…っ!?」

 

 ローブ人形の袖口から、筒のようなものが姿を見せた。そこから火花が数瞬散ったかと思ったら、勢いよく炎が噴き出してくる。手の中にある剣を振るより、盾に変えるより、ゲンマは避けることを選んだ。いきなりすぎたのだ。耳の横を熱気が通り過ぎていく。

 

「くっ…!?」

 

 ウィーネが、茶色いローブ人形に攻撃をしようとした。だが、そのローブ人形が右腕をウィーネに向けて伸ばすと、赤いローブ人形と同じように筒が出てくる。そこから放たれたのは礫で、ウィーネは急所を庇いながらも腕に掠って血が滲み出る。

 

「魔術攻撃まで…!?」

 

 信じられないとばかりに、アルナが杖を振るう。風の自然エネルギーを使って、青いローブ人形の右腕が放つ水流攻撃をどうにか避けていた。

 

「ハッハァ! 人形のクセに魔術を使うとはやりやがる!!」

 

 その後ろで、緑のローブ人形が突風を生み出しているのを、冷静に避けつつ発砲して攻撃するクラカ。どういうわけか、今この場で一番頼りになるのは彼女に思えた。

 とはいえ、攻撃しても復活する上に魔術攻撃まで仕掛けてくるとなると、かなりの長期戦となってしまうだろう。どこかに術者がいると分かっていても、これでは探すことすらままならない。

 

「このっ…!」

 

 苛立たしげに、炎の魔術を避けつつ、黒い剣を下から上に振り上げて赤いローブ人形を斬る。やはりガラスが割れるような音がすると、炎の魔術は絶たれ人形は崩れ落ちた。どうせまたすぐに再生すると分かっていても、こうしなければならないのが面倒くさい。まるで鼬ごっこだ。

 だが、嘆くよりもまずは安全を確保することが大事だ。ゲンマは、続いてウィーネと戦っている茶色いローブ人形へと接近する。それを横目に見たウィーネが、黒い剣に巻き込まれないように体勢を低くしてくれた。おかげで、茶色いローブ人形が放つ礫を避けることにも成功しており、ナイスだとゲンマは思う。

 

「はっ!」

 

 そこでこちらに気づいていない茶色いローブ人形の首の位置を斬る。ローブの下にあったのは、マネキンのような人形の頭だ。

 

「ゲンマ、あっち! アルナが!!」

「きゃっ…!」

 

 すぐさまウィーネが、アルナがいる方を指差す。そちらを見ると、水流攻撃から水弾攻撃に切り替えた青のローブ人形が、アルナを攻撃するところだった。アルナの「風」の自然エネルギーは「水」の自然エネルギーに強いはずだが、やはり風を操る魔術に関してはまだ成熟していないらしい。水弾が腕を掠めて血が垂れている。

 

「この…っ!」

 

 自分が怪我を負うのはもちろん、他人が怪我をするのも、創作物の流血表現さえゲンマは苦手だ。何より、仲間が傷ついているのを見るのはもっと嫌だった。

 すぐさま剣を槍に変えて、水色のローブ人形の頭へと投げつける。黒い槍は一直線に水色のローブ人形の頭を貫いて空へと飛んで行った後、ゲンマの手に戻った。

 

「アルナ、大丈夫?」

「ええ、何とか…」

 

 ゲンマが傷の様子を診るが、アルナは自分のケガを自分の治療魔術で治しているところだった。すぐに血が止まり、傷も塞がる。大きなけがではなかったようで一安心だ。それからアルナは、ウィーネの怪我も治療魔術で治している。

 

「これでしばらくは大丈夫だろォな」

 

 クラカの方を見ると、緑色のローブ人形が地面に倒れていた。ローブには無数の穴が開いていて、まさに蜂の巣状態だ。しかし、すぐに復活する様子はない。そこでゲンマは、ローブ人形に警戒しつつもクラカに尋ねる。

 

「あー、その…クラカさん?」

「あァ? さん付けなんてやめろや、ゲンマのダンナ。オレのことは呼び捨てで構わねェ」

「…クラカ」

 

 性格が違いすぎて思わずさん付けになってしまったが、クラカはにかっと笑い返してくる。と言うか、相手のことを「ダンナ」と呼ぶ人など現実では初めて見たし、一人称まで変わっていた。そのギャップへの驚きは飲み込みつつ、銃を指差して訊ねる。

 

「その銃、大分撃ったんじゃないのか? 弾の方は…」

「その心配はいらねェ。こいつの弾倉はオレの異空間につながってる。そこにたんまり弾があるから弾切れにはならねェのさ」

「へぇ…便利だ…」

 

 映画なんかでよく見る銃の装填シーンが、ゲンマは地味に好きだった。だが、実用性としてはクラカの銃のように、装填の手間なく銃を撃ち続けられる方がよいだろう。

 その時、足元でまた緑色のローブ人形が再生を終えて起き上がろうとした。

 

「!」

 

 反射的に、ゲンマは黒い杖をローブ人形の胸(に当たる部分)に突き刺す。すると、すぐにローブ人形は動かなくなった。

 

「さっきの剣といい盾といい、すげェなその武器」

「ああ、まあな…」

「そういや、ダンナがやったあの3体の人形はまだ復活しねえな」

「え?」

 

 クラカに指摘されて振り返ると、確かに自分が攻撃した青、茶色、赤のローブ人形はまだ再生していない。そういえば、最初の戦闘でも自分が攻撃した青いローブ人形はすぐに再生しなかった。もしかしたら、この黒い杖の能力なのかもしれない。

 能力、と頭に言葉が浮かび上がる。そして、さっき判明した自分とアルナの新しい能力。

 

「アルナ!」

 

 できるかもしれない、という淡い希望を抱いてアルナの下へ歩み寄る。丁度、ウィーネの治療を終えて、探知魔術を発動している最中のようだった。傍では、ウィーネがローブ人形の動きに注意を払っている。

 

「探知魔術で、こいつらの術者を特定できる?」

「今やってみたんですけど、私が探知できる範囲にはそれらしい反応がなくて…」

「そうか…ちょっとごめん」

 

 残念そうなアルナの反応を見て、ゲンマはアルナの小さな肩に手を置く。何を、とアルナが見上げてきたが、ゲンマは頭の中で自分が獲得した能力を思い浮かべる。

 能力拡張。「マテリアワールド」でも見なかった、初めて聞いた能力。自分はそれを利用できそうな他の能力を持っていないが、もしかしたら自分以外の誰かの能力を拡張できるかもしれない。

 自分の身体の中で、筋肉とも血流とも臓器とも違う、力のような何かが脈動してアルナの肩に触れる自分の右手へとそれが流れているのを感じ取る。

 

「アルナ、この状態でもう一度探知魔術を使ってみて。ウィーネとクラカはローブ人形に注意を払っててくれ」

「はい!」

「分かった」

「任しとけ!」

 

 手短に指示を出す。まるで自分がリーダーのように振舞ってしまっているが、今は悠長にその辺りを考えている暇はない。

 再びアルナが、目を閉じて集中する。

 

「…すごい。さっきよりも広い範囲が分かります…!」

 

 目を閉じながらも、アルナの言葉には驚きと喜びが滲んでいた。どうやら広範囲を探知できるようになったらしく、ゲンマの考えは間違っていなかったのだ。

 周りからローブ人形が再生し始める音が聞こえ始めたが、アルナもそこで目をぱっと開く。

 

「向こうの林の中に、別のエネルギーの反応があります!」

「色は?」

「茶色ですので、『土』属性かと」

 

 アルナが指差した先には、確かに雑木林が見えた。目測だが、距離は500メートルもないだろう。ゲンマは頷いて、アルナたちを見る。

 

「みんなはそっちへ行って、術者を見つけ出すんだ。俺はここに残って、こいつらの相手をする。俺の武器は、こいつらの再生を遅くする効果があるらしい」

「待って、あたしも残る」

 

 ゲンマの指示に、唯一異を唱えたのはウィーネだった。そこにゲンマは難色を示す。

 

「いや、でも…」

「その武器があるって言っても、1人じゃ厳しいと思う。だからあたしも残るよ」

「ダンナ、今は議論してる時間はねェ。嬢ちゃんはオレに任せとけ」

 

 ウィーネが言い、クラカも笑ってくる。アルナは「じょ、嬢ちゃん…?」と自分の呼び方に驚いているようだったが、意志の強い目をゲンマに向けていた。

 良いメンバーに自分は恵まれた、と思う。

 

「…分かった。クラカ、アルナを頼む。ウィーネは俺と残って、こいつらの相手だ」

 

 全員が頷く。

 だが、早速そこへ向かおうとしたクラカをゲンマは呼んだ。

 

「クラカ!」

「あ?」

「1つだけ、お願いがある。と言っても、できればでいい」

 

 立ち止まったクラカに、ゲンマは逡巡するもお願い事を告げた。

 

「術者は…殺しちゃダメだ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。