ウズメの説教は怖かった。感情的な叱責ではなく、修羅苦羅を背後に携えて静かに教え諭される恐ろしさを知った。前世でも今世でも母さんはカッとなったら布団叩きで尻を叩いてくるタイプだったのである意味新鮮な体験だ。
護衛もつけずに外出したこと、九十九さんと交戦したこと——これに関しては不可抗力——、不必要に手札を明かしたことを理詰めされて、静かすぎる剣幕に入口に控えていた姐さんと兄さんも終盤には青褪めていた。なんだか三人で叱られたような気分になったのはある意味救いだった。
里桜高校での不可解な一件に消沈を紛らわせるべく思考を巡らせる間もなく、その後作郎さんに呼び出された俺は別荘に向かってどういうわけか彼の昔懐かしい写真を見せられた。
「これが俺の親父、五十浪や。逸のご祖父母と同窓でな、よう授業すっぽかしては近場の山降ってたらしいわ。」
「茶目っけがあったんですね。」
「んな可愛らしい言い方せんでええ。腕白小僧でな、歳取ってもアク抜けんと餓鬼の俺も振り回されたわ。」
「山登りとかですか?」
「いんや、物理的に、その場で。」
「え゛」
作浪さんは空気を掴んで洗濯機のように振り回す仕草をした。薄々勘付いてたけど禪院といい加茂といい京都校出身者は酔狂人しかいない。確かにうちの婆ちゃんも三歳の頃から呪術師になれるようにと呪力操作の基本を徹底的に叩き込んできた。父さんには術師の選択肢を与えなかったくせになんで俺にだけ当たりが強かったのだろうか。
どうであれ、猿の運動神経でも憑依させてんのかってくらいに動きが素早い作浪さんの指導のお陰で俺の体術は格段に向上したのだから、そんな彼を育てた親父さんには頭が上がらない。
写真立てに収められる俺の祖父母と作浪さんのお父さんは真夏に海辺を駆け抜けた後みたいな爽快な笑顔を保っている。作浪さんは術式の発現が他人よりも遅く、お父さんの後釜に据えられた叔父さんから当主の座を奪い返すのに一通りではない苦労を乗り越えてきたらしい。何が彼を権力闘争へと執着させたのかは判らないが、無闇に立ち入るべきではないと訊かずじまいだ。
「親父達は二年次の任務で余程酷い目に遭うたらしくてな、詳細はついぞ話してくれんかったけど三人とも危険なところをへみの君に救われたそうや。」
「へみの君が?けど祖母はそんな話一度も」
「思うところがあったんやろ。」
天元と同じく呪術界の絶対的な守護者。素顔も術式も知る人は現代にはおらず、普段は薨星宮の本殿で天元と共に過ごしているらしい。
高専に入学して初めて原作に存在しない人物を知った時は本当に愕いた。皆にとっては皇室のように仰ぐべき尊い存在だけど、この世界を知悉している俺にとっては予期せぬ異物でしかない。最初こそ別の転生者かと疑ったけどすぐに考えを改めた。というのも、へみの君は史上最悪の呪詛師以降、現世との関わりを絶っているからだ。
五条先生曰く、これ迄とは異なり天内理子の星漿体任務にすら顔を見せず夏油が離反した際にも沈黙を貫いたという。
救済するにせよそうでないにせよ、転生者ならばかくも一大事変を見逃す筈がないというのが俺の見解だ。そも、俺が転生してる時点で本来の道筋から多少逸れているわけだから、付随して俺以外の混入物がいてもおかしくない。現に呪術界の基盤を作った存在がてんで無言なのは原作の修正力か何かに違いない。よって、俺は大してへみの君の動向に注目していない。
とまれ、今の俺の住まいの半分程度の面積に建つ日本家屋の離れに案内された俺は、これ迄の半生が覆されるほどの衝撃と出会うことになった。
「すーぐるっ」
「あ゛?」
開け放たれた襖の向こう、太々しい笑顔を晒したつぎはぎのソイツを見留めるや否や俺はアミメニシキヘビを喚び出した。
真人は待っていたとばかりに座敷机を蹴飛ばし拳を振りかぶってくる。食い殺せと命じればアミメニシキヘビは十メートルの巨体を畝らせ電光石火の如く突進した。
「こんなデカいだけの蛇じゃ俺に当ら」
「お前には俺の拳で十分だ」
ありったけの殺意が呪霊の鼻っ柱にめり込んだ。投石と化した真人の威力に、幾重もの襖が支えを失ったドミノみたいに薙ぎ倒されていく。この程度で満足できるはずがなかった。
鼻血を強引に拭った真人が爽快な面付きで起き上がる。向こうも引き下がる気は更々ないらしい。好都合だ、この際ありったけの呪いを込めて霞すら残さず祓ってやる。
この手に握るバジリスクの牙の威力を数時間前に身をもって味わった真人は護りの姿勢に入った。
いざ断ち切らんと攻め寄せた瞬間、二人の間合いに怒声が飛び込んできた。
「そこまで!」
頼んだ覚えのない審判の制止に俺達は寸前で止まった。懐に入り込んだ牙が胸から生えた鋼に妨げられ、瞬足で伸ばされた肉と一体の切先は俺の耳を掠めて。微動だにせず共に余計な真似をした人物に非難を送ろうとして、俺だけが凍りついた。
「戯れ合いにしては度が過ぎるぞ。二人ともだ。」
「若いね。良いことじゃないか。」
「元気なのは構わんが、誰がこの屋敷に住んでると思ってるんだ。」
「はは、そうせせこましいことを言わないでやってくれ。」
褐返の直裰に苔色の五条袈裟、特徴的な福耳に額をぐるりと回る縫い跡。亭亭たる長身、内奥の読み取れない不吉な微笑。見間違えようがない。そいつは、そいつは…
「夏油、傑?」
「おや?私はてっきり君が覚えていると思っていたんだが、気の所為だったかな。」
俺は飛び退いた。
よくよく考えれば真人が作浪さんの家で俺を待ち構えていた時点で妙だった。何故此処に二人が居る?如何して作浪さんは二人と和気藹々と話している?
「挑戦者よ。」
「ッ!」
漣のようなテノールが下から耳朶に届く。足元に目線を落とせば、体躯をツッチーと同じくらいに縮めたウロボロスがこちらを見上げていた。
黒緋が俺を射抜く。頭から冷凍窒素を掛けられたみたいに熱が引いていく。
「騒ぐな。ここで騒げば全てが元の木阿弥となる。」
蛇語が脳に直接浸透した。コイツが何を云っているのか判らない。判らないのに、彼の言葉が正解だと魂が警鐘を鳴らしている。
手を差し出せばウロボロスは腕を伝って俺の肩に攀じ登った。この不滅の象徴がこんなにも心強いと感じたことがあっただろうか。
ウロボロスに促されるがまま感情のみを精神世界の彼方へと追いやって、俺は義務的に肉体を動かした。打って変わって無言で席についた俺に偽夏油と作浪さんは不思議そうに見合わせた。
「作浪さん、説明して下さい。」
庭の駒鳥が呑気に囀っていた。獅子威しが歌声に加わる。私有地を巡る生活道路を走る車輌のクラクションも聞こえた。
須臾の間があって、定位置に戻された座敷机を四人は囲んでいた。ウズメが淹れた煎茶と憎たらしい真人の退屈そうな面差しを前に、俺は静かに誰かが話すのを待っていた。そう長くないうちに、その時は訪れた。
「いつ紹介しようかと悩んでいたところだった。もう少し後でも良いかと思っていたのだが、丁度お前がそこな呪霊と取っ組み合いをやらかしたと聞いてな、あまり悠長にしている場合ではないと思ったんだ。」
「折角だから驚かせてやりたいと真人が言うものだから許可したら、少し驚かせすぎてしまったようだね。すまなかった。」
「ま、単刀直入に言うがこれからは夏油一派と協力して…」
段々と彼等の声が遠ざかっていく。
水中で外界の音を拾おうとしても境界線で拡散吸収されてしまうように聞き取ることができなかった。頑張って耳を澄まそうとしても、三人の話声は一層くぐもってしまう。どうにかこうにか短い返事を絞り出して、この地獄のような時間が過ぎ去るのをひたすら待ち続けた。
夢現にその場をやり過ごし適当な理由付で席を外すまで、唯一エコーのように脳内に反響し続けていたのは俺が呪詛師に与していたという最悪の事実だった。
………。
とんだ誤解をしていた。作浪さんは呪術師などではなく呪詛師で、彼の父親は名家から呪詛師へと没落したとして呪術界では有名な男だった。以前高専の授業で現代に蠕動する呪詛師の一覧を配られたことがある。
渋川恭介、五十浪。作浪という偽名と柔らかで磊落な物腰の所為でまったく気付かなかった。その苗字は元々関西を水面下で統べる呪詛師御三家が一角を表わす。そして数週間前に宗家の家長の役割を継承した俺の名は、渋川逸となった。
有り得ないって?とんでもない。渋川家は呪詛師家系に降格するよりも古来から、血縁者でなくとも当主が定めた人間であれば苗字を継ぐことで総本家の実権を掌握することができた。勿論たとえ継承の儀を執り行ったところで本人に相応の実力と影響力がなければ暗殺なりで地位を強奪されて終わりだが。
だらだらと語ったが何を云いたいかというと、昭和以前ならまだしも現代では渋川の名を獲得したというだけで即刻処刑ものの大罪だった。経緯はどうであれ継承の儀を行なったという事実は弁明の余地もなく重い。
五条先生が逸を傑として同一視していたのだから少しでも疑念を挟むべきだった。
ウロボロスは教えてくれた。主語が足りないばかりに俺が伝えられたと思い込んでいた天与呪縛は全く異なる、それも不芳な意として高専側に捉えられてしまったのだと。非術師が物理的に猿に見えると告げた俺を、皆は非術師を嫌悪すべき猿だと認識していると勘違いしている。百鬼夜行から一年も経ってない段階で非術師と猿の組み合わせは誰にとっても覆うべくもない地雷だった。
一歩退いて顧みてみれば奇妙な成り行きだ。先生を介さずに俺に接触を図った補助監督、明らかに高専非公認の密会。俺の行く先々に現れる猿関連の厄と絶好の機会に何処からともなく現れて救いの手を差し伸べてくれた作浪さん。どれもこれもが慈善などではなく恣意的な悪意だとしたら?
そうだ、そうでなくてどうして見ず知らずの男が高専生を引き取って当主の座を譲って、挙句個人指導を施すのだろう。この世界に限って無償の篤志などないと、早々に気付くべきだった。
過程は不明だが或る日作浪さんは[[rb:非術師 > 猿]]を嫌悪する五条悟の教え子の話を聞いた。それも夏油傑と同じ名前、同じ発端で堕ちかけている多感な十六歳。あと一押しすれば盆は引っくり返り善性という覆水は二度と元に戻らないだろう。
我乍らあの頃の俺は限界を超えていた。視覚的誤認だろうが精神的忌避だろうが精彩を失い青菜の如く萎びた俺にとって、暗黒世界に差し込んだ不明瞭な光を掴むのは必須だったかもしれない。若しも俺の苦しみを解放してくれるというのなら羂索が相手でも手を握り返したのではないかという言下に否定しきれない己に嫌厭を募らせずにはいられなかった。
「最低だ、俺」
作浪さんは穏健派だが腐っても呪詛師だ、しかも慧眼の持ち主だ。真相がなんであれ俺の苦衷を見透かした彼にとっては棚ぼただったに違いない。だって、五条派の威勢を削ぐのにうってつけの駒が転がり込んできたのだから。俺はまんまと利用されたのだ。
こうして己の言動と先生達の対応を具に思い返してみれば双方の食い違いが組紐を解すように安易と解読できる。
「糞野郎、糞ったれが。どの面下げて高専に帰るってんだ」
九十九さんにまで喧嘩を売って軽率に善意の上でタップダンスしまくって、今更全部誤解でしたって?そんな虫の良い謝罪が罷り通って堪るか。
白むほど握りしめられた拳が丈夫な犬槙の樹皮を抉った。自責の念は一層募る。
もう一度殴る。木は倒れない。当然だ、呪力を込めていないうえに十分の一の力も出していないのだから。此の期に及んで作浪さんの眼を憚って庭園の成木一本ですら壊せない自分の非力さが恨めしかった。
いつからか、長らく放浪していた筈のツッチーが血の滲んだ手の甲に擦り寄ってきた。こいつだって俺に失望してる筈なのに、傷口を舐める感触が直接傷んだ魂に優しく触れてくるようでどうしようもなく泣きたくなった。情けなくて仕様がなかった。
泣いちゃだめだ。俺の所為で不必要に傷心している人が沢山いるのに元凶である俺なんかが決壊してしまえば彼等はどうやって心を晴らせば良い?硬く噛み締めた唇から生温い鉄味が流れ込んでいた。
「ごめんなツッチー。折角お前があの時図書館から巻物を持って…あれ」
そういえばあれ、どうしたっけ。図書館で学長と先生と対峙してからずっと存在自体を忘れてた禁書。天与呪縛を解呪する為の手段が記された古い巻物。
俺は慌ててツッチーを掴み上げる。
「ツッチー!お前、あれどうした?あの巻!」
「ツチ?チチチ、ツツチ!」
「図書館に戻したと言っている。」
「うっそだろ!まじで言ってんの!?」
肩に乗ったまま終始無言だったウロボロスの通訳に絶句した。折角鬱勃たる意欲が種火ほど起こったのに、一瞬にして襟元を掴まれ地面に引き倒された心地だった。
飲んだこともない泥水の味が口内に広がって、挙措を失った俺はツッチーを逆さまにした。若しかしたらこいつが勘違いしてるだけで本当は体内に保管してるんじゃないか。縋る思いで尻尾を振り、目を回したツッチーが吐き出したのは思いもよらぬ物だった。
「なんだ、これ」
判っていながら混迷を漏らさずにはいられなかった。
短い柄と十手形の刃と、明確に通常の剣とは形状が異なるそれは特級呪具天逆鉾だった。十一年前に伏黒の父さんが五条先生を半殺しにするために使って、最終的に先生が封印か破壊したと謂れている幻の呪具。
「なんだってこれがツッチーの腹の中に…」
問い詰めてみるも引っくり返して振り回されたことが余程頭にきたようで目も合わせてくれない。
前触れなく登場した手に負えない代物にどう処理すべきかか脳漿を絞って、よく考えれば天逆鉾が俺の掌中に収まったのは勿怪の幸いと思い至った。だって、この先原作が進んで最悪の事態が実現すれば真っ先に五条先生を解放して悪夢を断ち切る為の最良の手段になり得るのだから。
「ツッチー悪かった。今度美味しいもん食わせてやるから機嫌直してくれ。」
チーチー。思ったよりもちょろかった。
天逆鉾をツッチーの中に一時的に戻したところで、作浪さんがやってきた。
「さっき伝えるのを忘れてた。次なる事変は十月三十一日、渋谷とのことだ。お前が皆を率いて呪術師に吠え面をかかせてやるのだ。」
偶然背後に回した手をツッチーに噛まれていなければその場で作浪さんに殴りかかっていただろう。俺は静やかに苛立ちを吐き出した。
「最善を尽くします。ところで、それはあの男の指示ですか?一聞では俺達が奴等に従ってるように聞こえますけど。」
作浪さんは逡巡する仕種を見せた。
まあ、ここまできたのなら教えても良いだろう。
「いや。我々の大志はへみの君が励まして下さっている。」
こいつ、今なんて云った…?
言葉を失う俺を他所に作浪さんは言葉を続ける。恰も成績を父親に褒められた学生のように喜色を顔面に漲らせて。
「渋川家は代々総監部や御三家、況してや天元に叩頭してきたことはなく、へみの君のみを現人神として仰いできた。権力の上に胡座をかき術師としての責務をおざなりにしてきた連中とは違い、気魂を捧げてきた我ら一族の忠義を偉大な御仁は正しく理会して下さった。あの御方のご命令で呪詛師に転じた祖父も、知っての通り呪術師に暗殺されることなく天命を全うした。へみの君の計らいだ。」
「…このことを羂…夏油は知っているのですか?渋谷事変のことも」
「奴曰く、互いに知るべきことを知っているそうだ。よう分からんが渋谷なくして無窮の争いに決着をつけることはできず、これは抗えぬ定めなのだと。まあ、奴にも並々ならぬ事情があるようだが目的さえ果たせればそれで良い。…ええか。これからはお前が当主としてへみの君に重宝していただけるよう努めろ。」
こちらの返事も聞かずに作浪さんは踵を返してしまった。残された俺はともすれば崩れ落ちそうな足を踏ん張って立ち尽くすしかなかった。そうでなければ突として脳内に流れ込んできた膨大な情報を処理しきれずに卒倒してしまいそうだった。
作浪さんの発言が呑み込めない。それでも聞かなければ良かったと後悔するくらいに事の深刻さだけは理会していた。へみの君は呪術師側じゃないという驚愕の真実が。それと同時に何もかもに合点がいった。天内理子が同化も逃亡もできずに死亡した理由も、夏油が離反した理由も。凡てが原作通りに進行している訳が。
転生者か否か、単なる異物か修正力かどうかは差し置いて到底看過できない存在であることは確かだ。呪術師にとって命綱とも謂える天元の真横で、他でもない彼の片割れが虎視眈々と雁首を狙っているかもしれない現状は五条先生が獄門疆に封印されるのと同等に物騒だ。どうにかして高専側にこの事実を伝えなければならない。
でもどうやって?不本意ながら今の俺の立場は呪術師の敵だ。それも遭遇したら即処刑レベルの大罪人。呪詛師御三家の当主、渋川逸。あの七海さんが情け容赦なく鉈を向けたのだから、最終通告をした五条先生や他の術師も手加減なしに討ち果たそうとしてくるだろう。相手が五条先生なら一溜りもない。九十九さんでさえ引き分けに持ち込めるかどうかだ。
知らず識らず八方塞がりになっていた自分にもはや動揺も憤りも悲嘆も通り越して頭を抱えていると、いつもの如く傲岸不遜のウロボロスが鼻で嗤っ…たりはしなかった。
「では貴様はこのまま高専に戻り事情を打ち明けるのか?え?」
「そんなことできるわけないじゃん」
「ふむ、しからば名実共に呪詛師となるのか。」
「んなわけあるか。そんなことしたら一生自分が許せなくなる。」
「ならば有象無象を騙くらかすしかあるまい。」
それはつまり当面は呪詛師として活動し続けるということだろうか。
「貴様は呪術師どもに勝利を齎したい。だが奴等は貴様の本心を知らんばかりか袂を分かったと思っておる。呪詛師も然り。しかし孤立は両陣営の鼻を明かす絶好の機会だ。」
「このまま呪詛師の統率者として物事の舵を握れと?」
「如何にも」
一理ある。非現実的性を省いて五条先生達との誤解を解いたとしよう。先生は優しいから俺の傲慢を許して、羂索の陰謀と付帯する課題を児戯に等しく防いでしまうだろう。昨日の敵は今日の友方式で京都校と連携してメカ丸だって救えるかもしれない。
だけど俺は先生みたいに器用じゃないし知っての通り闊達な気質じゃない。その結果が今俺が直面してる現実であるように、原作キャラとはいえ交流のない他人の為に遠回りしてやれるほどの余裕はない。只でさえ膠着状態なのだから両手に余る人数を守るなんて以ての外だ。
既に俺の介入により順平は生存しているし、九十九さんも来日してる。そも呪詛師勢力が渋川の名のもとに一揆した以上どんな弊害が生じるか分からない。ウロボロスの云う通り、能う限り俺の掌上で事を進めた方が都合が良い。
「…お前が言うからにはそれなりの勝算があるんたろうな?」
まな板の上の鯉もかくやの腹積もりでウロボロスを見詰めれば、居丈高な睥睨が返ってきた。
「教えてやっても良い。」
「頼む。俺に出来ることなら何でもする。」
もう食ってかかる立場ではないと懇願すれば、千里を見通す竜眼が細められた。
なんであれ物語は着々と山場に差し掛かっていた。