神我狩=Twisted Ritual=   作:石花

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1-1_オープニング

一方的な打撃音が響く。

 

オーラで武装した筋肉質の長身と、刀を構えた鎧姿の人物の戦闘。

打撃はオーラの形状を棍、拳、射と変え必中を続ける。剣戟は一撃たりとも掠らない。

 

あまりに、あまりにも一方的な戦いであった。

剣士の鎧はあらゆる攻撃を無効化していたのだから。

その剣の一撃は、掠るだけで敵手を絶命させることが可能であるのだから。

 

打撃は必中。否、相手に躱す理由が存在しない。

剣戟は一撃たりも掠らない。否、掠らせてはいけない。

 

それでも長身の男が打撃を続けるのは、ひとえに自分へと攻撃を向かせるため――

背後を護るために他ならない。

 

打撃の主、五鬼童酒天(ごきどうさかき)が行っているのは、そんな絶望的な戦闘であった。

 

「酒天君……」

 

犬童心愛(いんどうここあ)五鬼童紅葉(ごきどうもみじ)、そして早妃(さき)

少女たちは目の前の闘いを見守っていた。

 

超高速、超膂力での戦闘。彼女らの能力では介入する隙がない。

それでも犬童心愛は助力のタイミングを図っているのだが、客観的には逃げもせず闘いもせずただ佇んでいると言う他ないだろう。

 

彼女らが逃げられればあるいは酒天にも逃走の目があるはずだが、それでも逃げないのは――

 

『オラオラァッ! 俺様を楽しませて見せろヤァッッッ!!』

 

鎧姿から合成音声が響く。楽しませろという一方的な要求。

そう、鎧の剣士――アイゼンと名乗る怪人にとって、これはあくまで遊びなのだ。

 

かの怪人は最初から酒天達を全滅させるつもりであり、その順番を選んでいるだけ。

女性陣が逃げる素振りを見せようものなら即座に攻撃対象を切り替えるだろうことは想像に難くない。

 

故に彼女らは逃げない。否、逃げられない。

もはや彼ら彼女らに残されているのは、この怪人を打倒する道のみだ。

 

「…………」

 

犬童心愛は闘いを見つめている。機を逃すまいとしている。

怪人打倒のための策は、まだ残っている。残ってはいるが――

 

『GRAAAAAAAAASHAAAAAAAAッッ!!』

 

通用するのだろうか。

あらゆるものを切り裂く斬撃と、あらゆる攻撃を無効化する鎧を備えた怪人に。

 

◇ ◇ ◇ ◇ 

 

二重、三重、五重、八重、十三重――

 

出鱈目な力押しの剣戟が、出鱈目な速度と加速度で繰り出される。

 

「くっ……」

 

これまで全ての攻撃を回避していた酒天だったが、剣戟に対して棍による横からの打ち払いを入れ始めた。

 

出鱈目な速度の剣戟に対する打ち払い。

並大抵の集中では不可能な芸当だが、それでも行わざるを得ない。

 

(手数が……多すぎるッ……)

 

単純に、怪人の剣戟の回転速度が出鱈目に上がっていた。

回避中に次の攻撃が来るが故、回避だけでの対処が物理的に不可能。

 

酒天のオーラは砲撃すら防ぐ防御性能を持つ。しかし、それすらも剣戟は障害と見做さない。

必殺の剣戟に対し、剣の横腹をただただ正確に払い続ける。

 

こんな曲芸が成立しているのは、双方の純粋な技量差に依るものだった。

アイゼンはあらゆる出力こそ高いものの、技量は素人に毛が生えた程度である。

 

それほどの技量差があっても戦闘が成立していること。

それこそがアイゼンの出力の異常性を示していた。

 

(詠唱は行われていない――少なくとも神憑位の圧倒的な気配は感じない、能力そのものは神纏位だ。しかしなんだ、この出力!?)

 

客観的に言って、五鬼童酒天は今世代で最も優秀な神白である。

そんな酒天から見ても異常な能力の出力。

更には必殺の剣と無敵の鎧、同一位階の能力は一つという神白の(ルール)を逸脱した現象。

 

ただでさえ勝算の薄い状況に、底の見えない相手。

酒天は攻めあぐねていた。

 

故に――均衡を崩したのはアイゼンの方である。

 

『ハハッ、やるじゃね―か神纏(hold)野郎! そんじゃ、これならどう――だっ!?』

 

アイゼンが床を踏み砕き破片を蹴り上げる。

 

その礫は音速を超えて飛来するが、所詮は素人モドキの射出撃だ。

攻撃として組み立てられていない。速度だけで虚を突くことができていない。

 

故に酒天は攻撃動作に移るついでに礫を躱し――

 

「ぐはっ!?」

 

背中(・・)に直撃した礫にたたらを踏んだ。

 

 

『あーっはっはっは。何だよ所詮はこんなもんか、神纏(hold)野郎! テメェ程度の輩、幾らでも見てきてんだよこっちゃあなッ』

 

怪人は高笑いで嘲笑う。

 

尤も、ここで攻撃の手が止まるのがアイゼンという人物の格を物語っているのだが――当人は永遠に気付かないだろう。

 

(なんだ……必中の礫? 3つ目の能力!?)

 

『不思議か? 不思議だよな! 無能の神纏(hold)にはよぉ!?

――教えてやるよ、埋めようの無い圧倒的な差ってヤツを!』

 

フルフェイスの兜の下で、怪人は間違いなく笑みを浮かべていた。

 

『お前ら勘違いしてたんじゃないか? 俺様のことを神纏(hold)神憑(trance)程度の存在だってよ!』

 

『残念! 残念!! ざ~~ぁんねん!!! 特別製の俺様がその程度な訳ないんだよなぁ――常在型の神懸(fusion)、ソレが俺様! 禁后も魘魅の野郎も持ってねぇ、俺だけのチカラだ!!』

『分かるか? 分かんねぇよな! 見せてやらァ!?』

 

嘲笑し哄笑する怪人。

瞬間、怪人の神気が爆発的に増大する。

 

『聖なる文字よ地に落ちよ、我が輝きに平伏すがよい。

我は新世界の夜明けにして御身に訪れる黄昏である』

 

『我が(アラワ)(ソノミ)、ここに存在()り!

此岸に轟け、彼岸の神威――其は反逆の明星なれば』

 

それは第四位階、神懸(fusion)の詠唱。

酒天達が目指す神憑(trance)の更に上の位階。

 

『大逆せよ、1/3(call Venus)(=)無尽蔵(Lucifer)

 

出現したのは圧倒的な神気。

それこそ、酒天達をこの旧校舎ダンジョンへと向かわせた地表の怪人、禁后に匹敵するほどの。

 

(やばいとは思っていたが、禁后さん(あのひと)レベルかよっ)

 

酒天は最大限の警戒を――

 

『無駄だ。もう触れる必要も、形に拘る必要すらなくなった』

 

言葉と共にアイゼンは右手をパチリと鳴らす。

――瞬間、酒天の視界はぐるりと回った。

続いてその巨躯が、ビタリと地面へと縫い付けられる。

 

「上着が……!?」

 

上着が異常な重量に変質している。

即座に看破した酒天だが、その先が続かない。

 

『弾けろッ』

「ぐわぁァァッ!!」

 

アイゼンの言葉に従い、教室のガラスが一斉に弾ける。

その破片はすべてが酒天へと突き刺さっていた。

 

『性質の付与……いや、能力の付与。それが俺様の最強のチカラだッ!!』

 

アイゼンは笑いながらどこかからラムネ菓子を取り出し数粒つまむ。

 

『ハハッ、甘え甘え』

 

怪人は、完全に勝利を信じ切っていた。

 

「はっ……ネタバラシありがとうよっ……!」

 

神纏相当の能力を指定対象に付与する能力。しかも異様な出力で。

それがアイゼンの『1/3の無尽蔵』である。

 

全力を解放した今であれば、認識下のあらゆるモノに自由に能力を付与可能。

 

酒天の上着に『非常に重くなる』能力を付与し、廊下のガラスに『弾ける』能力を付与。

そして破片に再度『必中』能力を付与したのだ。

 

なお、右手を鳴らしたのも同じ理屈だ。

鎧の右手に『パチリと鳴る』能力を付与したのである。

この辺りの能力の無駄遣いさがアイゼンという人物を物語っているが……。

 

あらゆる物体にあらゆる能力を付与する、事実上の全能。

それがアイゼンという怪人の性能であった。

 

『どうだ神纏(hold)野郎! この俺様の性能ッ!!』

「ああ、凄いな。素直に関心するよ。だが――」

 

「凄いってことは、天井が見えたってことだ。頼む犬童ッ!!」

『アン? 今更後ろの雑魚が何を――』

 

音速を超えて飛来した物体。

そしてそれに続く轟音に、アイゼンの言葉は遮られた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ 

 

犬童心愛は犬神の神白であり、その神纏能力は念動力である。

 

視界に入った物体を持ち上げ操作する能力であり、重量限界までの物体を操作することができる。

 

では、その重量限界はいくつかと言うと……

100kg程度と自己申告しており、実際に常態はそうであるが正確な表現ではない。

 

彼女に限らず、神白の能力は鍛えれば鍛えるほどに上昇する。

であれば、鍛えることだけを考えるならば。

常に重量限界のモノを持ち上げ続けることが最適解であり、彼女は実際そうやった。

 

100kgとは使用せずに取ってあるバッファであり、彼女は常にそれ以外は重量限界までのモノを持ち上げ続けているのだ――遥か成層圏に。

 

◇ ◇ ◇ ◇ 

 

神の杖(ロッズフロムゴッド)という架空兵器がある。

 

巨大質量を宇宙から射出するというその兵器は、一撃で水爆を超える運動エネルギーを得るという。

犬童心愛の一撃はその圧倒的なエネルギーによるアイゼンの撃破を狙った――わけではない。

 

彼女らの目的はアイゼンからの逃走である。

 

故にまず狙ったのは、アイゼンごとその足場を破壊することであった。

実際、この地下階層まで一撃が届いたため、地形破壊は成功の可能性があったのだが――

 

『ははっ、おもしれぇことするじゃねーか。所詮は神纏(hold)の浅知恵だがなぁ!』

『観察力、足りねぇんじゃねぇか? さっきアイツの服を重くした時点で、この階層の床は破壊不能にしてんだヨォッ!!』

「観察力不足は、どっちかしらね?」

 

犬童心愛は、兜から垣間見えるアイゼンの金色の目を見据え、言葉を紡ぐ。

 

言い換えると――今までは酒天の背中に護られていた犬童心愛が、アイゼンの姿を直接見ていた。

 

『!?』

 

斬撃が、走る。

斬撃と斬撃が交錯し。

 

バキィッ!!

 

あらゆるモノを断つ剣と、あらゆる攻撃を無効化する鎧が、破壊音を響かせた。

 

これにて戦闘は決着する。

 

土壇場で覚醒した五鬼童酒天の神憑(trance)により剣と鎧は破壊され――

 

『言ったろう――テメェ程度の輩、幾らでも見てきてんだよこっちゃあなッ』

 

白く輝く金属により武装された怪人の握撃により、大通連(サカキノツルギ)は破壊された。

 

◇ ◇ ◇ ◇ 

 

「ありえんっ……!」

 

戦闘開始より初めて、五鬼童酒天に動揺が走る。

 

酒天が召喚した大通連は異次元物質により構成された剣であり、その強度は精神力、護る者への感情により加速度的に増大する特徴を持つ。

 

酒天の力量であれば、神纏の位階なら無敵能力ですら貫通可能なはずであり――いや、それは問題ない。実際に無敵の能力を付与された鎧を貫通したのだから。

ありえないのは、その後に防がれたという事実。

 

理論上防ぐ手段はある。同等の異次元物質を用いればよい。

アイゼンならばそれを用意する能力だって持っていておかしくない。

 

しかし、それで防ぐというのは、アイゼンに限って言えばありえないはずだ。

アイゼンに精神的な強さなどが存在したのなら、とっくに戦闘は終了していたはずなのだから。

 

『不思議だって顔だよな? はっ、所詮は神纏(hold)野郎の発想だ』

『精神力なんざ、所詮は脳の働きだ。ブーストしてやりゃあいいんだよ』

 

言いつつ先程食べていたラムネの容器を軽く振った。

 

摂取した者の精神力を強制的に極大値に書き換える。

怪人は戦闘途中で食べていたラムネに、そのような能力を付与していたのだ。

 

「参ったな、あの時点で備えてたってのかよ」

『だから言ってんだろ、テメェ程度の輩は幾らでも見てきてんだよ』

 

怪人は笑い、嗤う。

ここで、怪人は完全に勝利を確信し、

 

『――ア?』

 

その首が床に転がった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ 

 

五鬼童酒天が召喚した剣は三明の剣。

大通連・小痛連・顕明連の3振りの剣である。

 

それを隠形能力者の五鬼童紅葉と高速移動能力者の早妃が使用した。

酒天達の全力が、ついに怪人へと届いたのである。

 

「やったー、これでなんとか――」

「能力使え早妃ッ! 逃げるぞ!!!」

 

『あー、うん。なんなら即死で勘弁してやろうかと思ったけどヤメだわ。念入りに殺してやる』

 

酒天達の全力は、確かに怪人へと届いた。

ただ、打倒するには至らなかったのである。

 

『センスがねーよ、センスが。即死させろよ、流石の俺様も即死すりゃ死ぬからよ』

『折角のチャンスを棒に振りやがってつまんねーなクソ、首切ったくらいで即死するわけねーだろうがよぉ!!』

 

落ちた首を拾い上げつつ、怪人は不機嫌そうに床をガンガンと踏みつける。

 

怪人の発言はめちゃくちゃだ。

あるいは、真実であれば恐ろしい事実を示している。

 

斬首刑は古くから各国で行われている。

中でも有名なのは、フランス革命で使用されたギロチンが挙げられるだろう。

 

現代の印象と異なるが、ギロチンとは人道的な器具である。

なぜなら即死(・・)するからだ。

 

しかし怪人は、斬首で即死しないと言った。

つまり怪人は即死しても死亡しないか。

少なくとも、斬首から死亡までの程度のタイムラグがあれば復活可能ということになる。

 

『じゃ、死ねや』

 

怪人の、異次元物質で武装された貫手が酒天へと迫り――

 

白に染まる世界。耳を劈く轟音。

 

何もない空間から発生した雷撃が、その行動を中断させた。

 

『…………』

 

当然、雷撃程度で怪人はダメージを負わない。

負わないが――

 

『俺は……ここは……真逆!?』

 

怪人は不思議そうに周囲を見回す。

 

何か――怪人にとって致命的な何かが、ここに引き起こされていた。

 

『クソッ、確か、次の台詞は――』

 

怪人は何事かを呟くと、すっと一呼吸を置き、

 

『チッ――わーったよ魘魅。テメェのお気に入りってことか』

『今回は見逃してやらぁ、さっさと地上に戻りやがれ――次は知らねぇぜ?』

 

そう語り、怪人は悠々と歩き去る。

 

やがて足音が無くなった頃、酒天の口から言葉が零れた。

 

「助かった……のか?」

 

ここにて、怪人と酒天達との戦闘は終結した。

 

■旧校舎地下迷宮・初回探索終了

■踏破階数:地下10階

 

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