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「例えるなら、イヌみたいな人ですわ」
久しぶりに、マックイーンと二人きりの時間ができた。
どちらかと言うと私がメジロ家よりはヘリオス周りの集まりにいることが多いから、必然的にメジロ家の中心にいるマックイーンとは距離が離れることが多くて。
でも、別に仲が悪いってわけじゃない。むしろ、お互いに良い距離感だと思ってる。私から見たマックイーンは真面目な妹みたいだし、マックイーンから見た私はちょっとやんちゃなお姉さんってところじゃないのかな。……向こうがどう思ってるのかは分かんないんだけど。
それで、お互いのトレーナーの話になったときに、そう言われて。
「い、イヌ……?」
「ええ」
「……どういうところが?」
「誰にでも尻尾を振るところが」
「尻尾を振る、って……」
「ほら、あんな風に」
なんて、窓の外に目を向けながらマックイーンがそう言って。
同じように視線を向けるとそこには、後輩と楽しそうに話をしているマックイーンのトレーナーの姿が見えた。
……あ、いたんだ。というか、マックイーンもいることに気づいてたんだ。
「可愛らしいひとでしょう?」
まあ、確かに人懐っこいっていうか、どちらかと言うと後輩気質の甘えん坊な人ではある。
だから、見方によってはそう言えるのかもしれないけど、それにしてもイヌって……。
「イヌですわ。それも、誰かが面倒を見ていないと気づかないうちに斃れてしまうような、力のない仔イヌ。……本当にかわいらしくて、ついつい意地悪をしてまうような、そんな人ですわね」
うーん。
……マックイーンって、こんな顔で笑う子だったっけ?
「その、仲いいんだね。トレーナーさんと」
「そうでもありませんわよ。寧ろトレーナーさんからしたら、私なんてお高く止まっている生意気な子供の一人に過ぎませんわ。暴言なんて毎日のように吐かれますし、今だって私のことを放っておいたまま、他の生徒とのお喋りに夢中になっていますもの。……私から逃れたいのでしょうね、きっと」
「……え、そうなの?」
正直、びっくりしちゃった。
だってマックイーンのトレーナーさんって、学園でも一、二を争うくらいには良い人って評判だし。それに、マックイーンの担当になれたことを誇りに思ってる、ってどこかのインタビューでも言ってたよ?
だから、てっきり仲良しってか……ラブラブだと思ってたんだけど。
暴言だなんて、そんなこと……ホントにあの人が、しかもマックイーンに?
「信じていませんわね」
「あー……まあ、ね。だってマックイーンのトレーナーさんがそんなことするとは思いにくいし……それに、マックイーンも全然嫌そうにしてないんだもん。……タチの悪い冗談とかならやめてよ?」
「そんなくだらない冗談、私が口にするはずがありませんわ。ですが、そうですわね……」
そこでマックイーンは少しだけ考えてから話してくれた。
「別に、あの方に蔑ろにされることを嫌とは思っていませんのよ」
「どうして?」
「だって仔イヌに吠えられても、思うことなんてあるはずがないでしょう?」
あー……そういう感じ。
はいはい、うん。なるほど。
なんとなくだけど、二人の関係性が分かってきたかも。
……思ってるよりだいぶドロドロしてるよね、これ。
「契約解除を持ち込まれたことだって、一度や二度ではありませんわ。ですが、どれも最後は向こうから破棄にしてくるんですのよ。……頭では理解しているのでしょうね。私と一緒にいた方がいい、と」
「まあ……そうだよね。今更マックイーンと契約解除したって、あんまり意味ないもん」
「ええ。ですから、ああやって
放し飼い、かあ。
「……そうやって目を離してるうちに、誰かに盗られちゃうかもよ?」
「まさか。あの方が私以外に靡くなんて、有り得ませんわ」
そうやってまた、マックイーンは窓の外に目を向けて。
「だって
なんて言ってから、カップに注いであった紅茶を飲み干した。
「……そろそろトレーニングの時間ですわね」
「え? あ……うん。そうだね」
「それでは、私はこれで失礼いたしますわ」
「うん、また今度。じゃあね、マックイーン」
見送ると、マックイーンは手を振って扉をぱたりと閉じた。
足音が遠ざかっていく。
それを聞きながら、私もカップに残った紅茶を一気に喉に流し込んだ。
……ふぅー。ごちそうさま。
さて、と。
「ヤッバぁ…………!」
え、何アレ!? どういう!? 何見せられたの私!? すっっっごく怖かったんだけど!
忘れた方がいいかな!? いいよね絶対! 無理だけど!
マックイーン、いつの間にあんな子になっちゃったの!? 少なくとも他人をイヌ呼ばわりするような、そんなことする子じゃなかったよね!? 何がどうなったらああなっちゃうの!?
てか歳下……え、アレで!? ウッソだあ! あんな昼ドラみたいな顔できないよ私! どんなドラマ見ちゃったのあの子!
というか、そもそも、何よりも!
『躾』って言ってたことが一番気になるんだけど!
トレーナーさんにいったい何しちゃったのさ、マックイーン!
「あれ、パーマー?」
「あ、マックイーンのトレーナーさん。こんにちは」
えー、うそうそうそうそ……。
今一番会ったら気まずい人が来ちゃったんだけど。
「どうしたのさ? わざわざ私のところまで来るなんて、もしかして何か用事?」
「んー……まあ、実質そんなとこだな。マックイーンから今日はパーマーとお茶するって聞いてたから。んで、そろそろトレーニングの時間だからマックイーンを呼びに来たんだけど……アイツ、どこ行った?」
「ああ、そういうことならもうマックイーンは行っちゃったよ。ちょうど入れ違いだね」
「そっか。じゃあ俺も行くとするわ。ありがとな、パーマー」
なんて笑顔を浮かべながら、そのままトレーナーさんはトレーニング場へ向かおうとして。
私も何も言及せずに、できるだけ普段通りの態度でそれを見送ろうとしたんだけど。
……いや。
やっぱりこのまま放っておけないって!
「あ、あのさ!」
「おう?」
「もしマックイーンのことで何か困ってることがあったら、いつでも相談してくれていいからね?」
「……なになに、急にどうしたの?」
「いや、その……ね? うちのマックイーンが色々とご迷惑をおかけしてますー、みたいなノリでさ? 本人に言いにくいことがあるなら、私から上手いこと伝えとくよー、って思って。ほら、マックイーンってちょっと頑固なところもあるし。私からなら聞いてくれることもあると思うしさ。ね?」
「…………………………」
やばいやばいやばい! 過去イチで変な話し方になっちゃった!
絶対変な風に思われちゃったよね、コレ! あーミスったあ、どうしようホントに!
でもしょうがなくない? こんなの放っておけるほど私、薄情になれないもん!
だけど、どーしよ。こういう恋愛ってか、男女の縺れの相談ってされたことないしなあ。
いっそのことド直球に聴いてみる? 躾って何のことですか、って
いや、私が耐えられないかも。ただでさえ今みたいにテンパってるのに。
ううー……やっぱり変に首突っ込まない方が――
「なあ、パーマー」
「う、うん! どうしたの!?」
「その、マックイーンのことなんだけど」
やばい、来ちゃった!
うん、うん! マックイーンのことなんだけど!?
「実は俺さ、アイツに……」
アイツに!?
「……いや」
えっ。
「アイツに何かプレゼントでもやろうと思ってるんだけど……何がいいと思う?」
ええ~~~~~っとぉ……。
「やっぱり紅茶の茶葉とかじゃないかな? あ、そうだ。もしよかったらオススメの茶葉とか教えてあげよっか? これでもメジロ家の一員だし、舌は肥えてる方だから信頼してくれていいよ?」
「いいのか? ……なんか悪いな、こんな細かいこと聞いちゃって」
「いいのいいの! 全ッ然大丈夫だから! 他にも困ってることあったら、いつでも私に聞いてくれていいからね! てかさ、この際だからLANE交換しておこうよ! その方が絶対いい気がする! ね!」
「お、おう……そこまで言うなら、別にいいけど……」
そんなこんなで、結局。
私が聞き出せたのは、トレーナーさんの連絡先だけで。
「じゃ、流石に俺も行くわ。またな、パーマー」
「うん! マックイーンによろしくね!」
なんて適当な挨拶を交わしてから、トレーナーさんは
…………………………。
「いやぁ……」
絶ッッッ対に話逸らしたよね、トレーナーさん!
あ、これ話しちゃマズいって感じだったもん! あんな露骨な逸らし方ないよ!
あの二人、そんな他人に言えない関係になっちゃったの!? もう手遅れって感じ!?
いよいよ『躾』ってのがそういう意味にしか聞こえないんだけど! え、ホントに? ホントにそういう意味なの!? もし本当にそうだったら私、これからどんな顔してあの二人に会えばいいのさ!
あ~~~~、もうっ!
「ホントに何しちゃったの、マックイーン……」
無気力感というか、なんというか。
具体的には、私の近くでそんなことしないでほしいんだけど……って気持ちと、私より年下なのにいつの間にそんなとこまで行っちゃったの……って気持ちの二つが、頭の中でごっちゃごちゃになってて。
恋愛経験がない私でも流石に分かる。下手に手出ししちゃダメなヤツだよ、これは。
見て見ぬフリ。黙して語らず。これが一番。
……でも。
やっぱりできないよ、そんなこと!
「私があの二人をなんとかしなきゃ……!」
ここで折れたらメジロ家の相談役(自称)の名が廃れちゃうもんね!
それにトレーナーさんには色々とお世話になってるんだし!
だからここはひとつ、お姉さんとしてビシっと言っておかないと!
いい、マックイーン?
お付き合いするなら健全に、だよ!
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続いたらいよいよ"終わり"な気がするのでやりたくない