負けるならメジロマックイーンがいい   作:宇宮 祐樹

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いわゆる書き初めがこれってマジ?


負けるならメジロマックイーンがいい

 

 多分一人で立ち向かえる相手じゃないと思うんだよね。

 私一人が何とかしようとしても、できることなんて限られてるし。それにあのマックイーンの様子だと、上手い具合にはぐらかされたり躱されたりで、結局取るに足らない結果に終わると思う。

 だからまあ、協力者を探すしかなくて。

 でも、メジロ家の人たちはダメ。なんか話がこじれて大変なことになりそうだし、その後のマックイーンも居心地が悪くなるだろうし。別に私もマックイーンを追い出したいわけじゃないもん。トレーナーさんとの仲を応援したいだけであって。

 そう考えると、学園の職員さんとかも厳しいかも。本当はそんなことしてないと思うけど、万が一、ホントに最悪の場合、トレーナーさんがクビ切られちゃうかもしれないし。マックイーンとトレーナーさんを離しちゃうことになるからね。

 となると、頼れるのは私みたいなマックイーンと仲が良くて、かつメジロ家じゃない生徒だけ。

 ってなわけで。

 

「ボクが選ばれたワケ?」

「そういうこと」

 

 メジロ家のお屋敷の、私の部屋で。

 呼び出したテイオーに事情を説明すると、そんなちょっと楽しそうな声が返ってきた。

 

「テイオーは特にマックイーンと仲がいいと思ってさ。だから、協力してくれるなら心強いんだけど……」

「いいよ! しばらくこの件でマックイーンのことからかえるだろうし! 協力してあげる!」

 

 動機が不純! ……だけどまあ、いいか。

 他に思い当たるような人もいないし、協力してくれるだけでも充分。

 というか一人で抱えるには流石のパーマーさんも重たい案件だから、話を聞いてくれるだけでも助かってたり。

 

「それで、具体的にはどうするの?」

「しっかり目標があるわけじゃないんだけど……それとな〜く今のお付き合いはやめといた方がいいよ〜ってのを伝えられたらいいなあ、とは思ってる」

「現場を直接押さえるとかの方がよくない?」

「それはさすがにパーマーさんも心の準備ができてないからダメ!」

 

 何よりテイオーがその現場を目の当たりにするのが一番よくないし。ヨゴレ役って言ったら言い過ぎかもしれないけど、そういうのは私の方で。

 

「……実際さ、マックイーンのトレーナーのウワサとか何かないの? テイオーはそういうの詳しいんでしょ?」

「んー、あったりなかったり、かな。マックイーンのトレーナー、すごく優秀だし人柄もいいからさ。何か一つダメなところがあるに違いない! みたいに欠点をこじつけられてるのは、たまにあるかも。キャラ付けみたいな感じでさ」

「あー……それはまあ、ちょっと分かる」

 

 いわゆる萌えキャラ扱いで、みたいな感じだよね。多分他の女子校でもよくあるヤツだ。

 となると信憑性は薄いだろうし、やっぱり本人に直接言うしかないのかなあ。

 

「なんか犬のマネが得意みたいなウワサもあったよ」

 

 いや前言撤回。

 一気に信憑性高くなったかも。

 

「……マックイーン、自分のトレーナーのこと仔イヌって呼んでたよ」

「え、ホントに?」

「あとなんか、躾とかも言ってた」

「……その、マックイーン、Sっ気あるもんね」

「あるもんねえ……!」

 

 ストイックというか、なんというか。

 そういう趣向は否定しないけど、こと身内でしかも年下が、って考えると、なんかこう、すごくクるものがあるというか。

 

「将来、マックイーンは旦那さんを尻に敷くタイプだと思ってたよ。うん……思ってたけど……」

「むしろイスにしてそうじゃない?」

「想像がしやすいから言葉にしないで!」

 

 ああダメかも、今の私の頭の中にいるマックイーン、ムチまで持ち出してきた。トレーナーさんもすごいやつれた顔で四つん這いになってるし。

 

「……パーマーって結構ウブなんだね」

「言わないで……」

 

 耐性が無いって言ったら、そりゃそうなんだけど。

 今回に関してはあの可愛かったマックイーンが、まさか自分より年下だったあの子が、みたいなギャップというか、じゃあ私はどうするの未だに手すら繋げてないんだけど置いてけぼりなんですけどこれどういうことなんですか、みたいな感情の方が大きいような気もする。

 

「とにかく! 私たちが何とかするしかないんだよ! だってこれはマックイーンの将来のためでもあるんだから!」

「そうだね」

「あとあわよくば年上の人とそこまでお近づきになれる秘訣というか方法もなんとなくでいいから聞き出せたらいいな!」

「本音そっちだよね多分」

 

 部屋の扉がノックされたのは、そんな何度目か分からない決意表明をしたところだった。

 

「どうぞー」

「なんでテイオーが言うのさ……」

 

 なんて呆れながら、扉の方へ振り返ると。

 

「ああ、今よかったか?」

 

 げっ。

 

「ま、マックイーンのトレーナーさん……?」

「おう、お疲れ。テイオーも」

「お邪魔してまーす」

 

 なんでこうタイミング悪いのかなあ、この人は! 

 

「どうしたのさ、わざわざ私の部屋まで」

「いや、なんか珍しく二人が集まってるってマックイーンから聴いてさ。よかったらお菓子でも、って思って」

「あ、それいいところのヤツのクッキーじゃん! こんなの貰っちゃっていいの!?」

「二人にはマックイーンが世話になってるしな。あ、でも本人には言うなよ? あいつスネるから」

「じゃあ、ありがたく頂いちゃおうかな」

 

 ……たぶん純粋に差し入れだよね? 

 疑うのはよくないけど、変な意味はないと思う。

 そう考えると、やっぱりこのトレーナーさんってすごくいい人だよね。細かな気遣いもできるというか、ちゃんとした大人だと思う。

 でも、こんな人が……マックイーンに、躾を……。

 ………………。

 

「パーマー?」

「え!? あ、ううん何でもない! ありがとね、マックイーンのトレーナーさん!」

「おう。こっちもいつもマックイーンの面倒見てくれてありがとな。じゃ、俺学園戻るから」

 

 そうやって、何事もなくトレーナーさんを見送ろうとしたところで、ふと。

 

「……あれ? マックイーンのトレーナー、ネクタイどこやったの?」

 

 テイオーがそんなことに気がついて。

 

「え、マジ? ……うわ、マジじゃん。全然気づかなかったわ。ありがとな、テイオー」

「あはは、どっかで解いてそのまま忘れちゃった?」

「かもなあ。はあ……服装ちゃんとしろって言われてるし、取りに行ってから戻るかあ」

「心当たりはあるんだ?」

「一応な。じゃ、二人ともまた」

「うん、またねー」

 

 そうやってため息をついてから、トレーナーさんがお部屋を出て行ったんだけど。

 扉が閉まる直前、部屋を出て左に進んでいくのが見えて。

 

「ラッキーだったね。パーマーいくつ食べる?」

「……いや、ちょっと待って?」

 

 色々とおかしくない? 

 

「パーマー? どうしたの?」

「……玄関、部屋出て右の方が近いんだよね。でもトレーナーさん、左に行ったんだけど」

「ネクタイ取りに行ったんじゃないの? 心当たりあるって言ってたし、このお屋敷のどっかなんでしょ」

「それも変じゃない? ここでネクタイわざわざ外す? 学園でならまだわかるけど、さっき取りに行ってから帰るって言ってたし」

「……ボクも何度かこのお屋敷来たから分かるけどさ」

「うん」

「マックイーンの部屋って、ここから左の方だよね」

「………………」

「………………」

 

 ………………。

 

「現行犯だーーー!!!」

「ちょっ……テイオー! ストップ!」

 

 声デカいし目もキラキラしてるし絶対突っ込んでく気マンマンじゃんこの子! 

 やっぱりもうちょっと他の大人し目の子に頼んだ方がよかったかも! 

 

「ダメだよ! さすがによくないってコレは!」

「だってこんなの行かない方がおかしいじゃん!」

「それはそうだけど! それはそうなんだけど!!」

 

 やっぱりですね、覚悟というか心の準備をする時間が欲しいというか! ウキウキしながら現場に急行できるほど、私ももう子供じゃないというか! 

 仮にもし“躾”の最中だったら、私マックイーンと目を合わせて喋れなくなっちゃうと思うんだけど! 

 

「でもさ、マックイーンがあのトレーナーに“躾”してるところは、ちょっと見てみたくない?」

 

 …………。

 

「ちょっと見てみたい…………」

「じゃあレッツゴー!」

「あーでもそんな騒がしくはダメ! こっそりね、こっそり!」

 

 そんなわけで。

 

 

「……マックイーン、いいか?」

 

 マックイーンのトレーナーさんに気付けれないように、コソコソしながら後をつけて行って。

 やがて、あの人が足を止めたのは。

 

「やっぱりマックイーンの部屋じゃん」

「違って欲しかったなぁ……」

 

 いやまあ、あの状況だと十中八九そうなんだけど。できればこっちの勘違いで終わって欲しかったところもあって。

 

『どうぞ。お入りになってくださいまし』

「…………」

 

 やがて中から聞こえてきたマックイーンの返事に、トレーナーさんは一度渋そうな表情を浮かべてから、部屋の中へ入って行った。

 ……これはもう確定かな。残念ながら誤解でもないみたいだし。あとはマックイーンへ伝える方法を考えれば……

 

「盗み聞きしようよ盗み聞き」

「攻めすぎだって!」

 

 ホントこの子怖いもの知らずだよね! 

 

「でも、証拠は押さえといた方がよくない? それにどのみち、ここまで来たらもうパーマーも共犯だよ」

「……そうだね」

 

 元はと言えば、私が首を突っ込んだのが始まりなんだし。それでテイオーも巻き込んじゃったというか、私のワガママで付き合わせちゃってるわけで。

 そう考えたら、ここで退くほうが中途半端か。

 ……よし、覚悟決めた。

 こうなったら、とことん最後まで、だね。

 

「スマホで録音していいかな」

「さすがに犯罪だからダメ!」

 

 携帯を取り出したテイオーを制してから、こっそりと二人でマックイーンの部屋の前に。

 中から聞こえてくるくぐもった会話は、扉に耳をぴたりと着けると、鮮明になって聞こえてきた。

 

「……忘れ物なんて、あなたらしくありませんわね」

「仕方ないだろ。お前があんな急に……始めようとするから」

「あら、言い訳ですの?」

「別にそういうわけじゃ……」

「また"躾"が必要かもしれませんわね」

「っ……」

「……ふふっ。あなたのその顔、私には『躾がほしい』と言ってるようにしか見えませんわ。あなたは、本当に……私をその気にさせるのが上手ですわね。こうも煽られてしまっては、私も歯止めが利かなくなってしまいますわ」

「……やるなら早くしろよ。こっちは時間ねーんだから」

「そうでしたわね。では、今回は手早く済ませましょうか。丁度いい"首輪"もあることですし」

「お前……」

「ほら、こちらにどうぞ。ネクタイ、結び直して差し上げます」

「……………………」

「そういえば、少しだけ憧れておりましたの。こうして男の人のネクタイを結ぶことに。ドラマや映画でもよくあるでしょう? 妻が夫の朝の身支度を手伝うシーン。メジロ家に生まれた私でも……いえ、だからこそ、なのでしょうね。ああいう日常の普遍的な一幕に、漠然とした憧れがあったんです」

「よかったな。今、やれてるだろ」

「あら、今は違いますわよ。だってこれは、飼いイヌに首輪をつけているだけですから」

「……そうかよ」

「よろしいですか? 首輪とは、そのイヌが誰の所有物なのかを示すものです。なのに、それを外して私の目の届かないところを歩き回るなんて……。自分が目も当てられないほどにか弱い仔イヌだという自覚は、本当にありますの?」

「あるわけねーだろ」

「では、その身体に教え込むしかありませんわね」

「っ……お、前……!」

「ふふ……いい顔をするようになりましたわね。"躾"の甲斐がありましたわ。こんな可愛い仔イヌは他の誰にも取られたくありません。ですから、首輪は二度と外れないように、充分にきつく締めておきませんと。あなたが誰のモノなのか分かるように……」

 

 ……………………。

 よし。

 

「戻ろっか、テイオー」

「うん」

 

 そうやってテイオーを連れて、元の部屋に戻って。

 お茶もちょうど切れてたから、テイオーのぶんも注ぎ直してあげて。

 トレーナーさんが差し入れてくれたクッキーを、二人で無言のままサクサク頂いて。

 なんてしばらくのんびりしていうるちに、ようやく気持ちも落ち着いてきたので。

 改めて。

 

「いやエグいエグいエグいエグい!」

「何なのさアレ!? マックイーン、マジだったじゃん!」

「だからマジだって言ってるじゃん何度も!」

 

 覚悟はできてるつもりだったけど! さすがにあそこまで明確にやってる場面は想定してないって! 

 てか"躾"ってやっぱりそういうアレだったじゃん! 首輪とか所有物とかまたなんか新しいワードも出てきたし! 

 もうコレ完全にアウトだよね! 少なくとも健全なお付き合いでは絶対にないよねアレは! 

 

「パーマー、ホントにあのマックイーンを説得するつもりなの?」

「そのつもりだったんだけど、自信なくなってきたかも……」

「……もしかしたら、パーマーもトレーナーみたいにされるしれないよ?」

「やめて! あのマックイーンの様子だと、マジでその未来もありそうだから!」

 

 ただでさえトレーナーさんみたいなちゃんとした大人が、あんなコトになってるんだから! 

 私なんかが耐えられるわけないじゃん! 手出したその時点でトレーナーさんと同じ末路に……。

 

「パーマー、よろしいですか?」

 

 えーウソ、今このタイミングで? 

 

「あ、マックイーン……」

「ごきげんよう、テイオー。それにしても、二人がこうして集まるなんて珍しいですわね。何かありましたの?」

「ううん、たまたまお互いにヒマだっただけだよ。てか、マックイーンこそ珍しいね。いつもならまだトレーニングの時間じゃない?」

「今日は少し()()があったので。どうしても外せない用事でしたから」

 

 私用ね。私用。そりゃまああれはだいぶ私用だもんね。

 ってことはアレだ。私たちがここ来る前から色々とやっちゃってるんだ。

 だからトレーナーさんもネクタイ忘れて、ってことね。なるほど、そういうことだったんだ。

 ……だとしたら、なおさらマズいんだけど? 

 

「あら、こちらのクッキーは?」

 

 なんて悶々と考えていると、マックイーンが机の上のクッキーに気が付いて。

 

「あ、それは……」

「トレーナーさんから頂いたものですか?」

「……うん。テイオーが来たから差し入れ、って」

「そうですか。おひとつ頂いても?」

 

 私たちの返事を聞くよりも先に、マックイーンがクッキーを一枚手に取って。

 

「……飼い主よりも優先するなんて、随分とあなた達には懐いているようですわね」

 

 えっ。

 

「まあ、美味しいですわねこのクッキー。後で私もトレーナーさんから頂いておきますわ」

「う、うん……多分用意してくれてるから、あげるつもりだったんじゃないかな」

「そうでしょうね。あの人は私のことが大好きですから」

 

 素面でこういうこと言えるのは、すごい尊敬できるというか、ラブラブでいいなとは思うけど。

 私たちはなにぶん、アレ聞いちゃったからなあ。

 

「それでは、私はこれで。ごきげんよう」

 

 なんて小さくお辞儀をしてから、マックイーンが静かに部屋を後にする。

 

「……これ、多分ボクたちも標的になった?」

「わかんないよ……!」

 

 もう何も分かんないよ! マックイーンのこと! 

 

 

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