【ロススト】これは恋ではない【コードギアス】   作:染舞

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※喫茶イベントストーリー後の話
新章との矛盾点などもありますし、あとがきでネタバレっぽいことも呟いているのでご注意を。
あとちょっと【スザ・マヤ・ルル】サボり魔の憂鬱と微妙に繋がっています


【ルルマヤ】紅茶を入れる。ただそれだけのこと【喫茶イベ後】

 

 

 

 

 

 

【遠くにある光景】

 

 思い浮かんでしまったのだ。

(心配、か)

 ミレイ会長がきっかけとなって手伝い始めた喫茶店。

 目の前では店のオーナーであるキャロル先輩と彼女の父親であるマクミラン卿がいる。

 娘であるキャロル先輩のことが、本当に心配だったのだというマクミラン卿。だから傷つく前に店を辞めさせようと邪魔をした。

 先輩の夢のことを知らずに取ってしまった行動は決して褒められたものではないけれど、肩を落としながら「庶民に混じって店をやっていくなんて無理だろうと思った」と反省している後ろ姿からは、本当に娘のことを案じているのがうかがえた。

「……美味い。なんて優しい味なんだ」

 キャロル先輩のお茶を一口飲んで「ほぅっ」と微笑んだマクミラン卿を見て、私は……。

(クラリスさん)

 なぜか養母の顔を思い出した。

 深く考えなくても、養母には心配しかかけていない。いつも謝ろうと思うのに、「ごめんなさい」の一言が言えなくて。

 そうして……養母の優しさに甘えてずるずると今まで来ている。

(そういえばクラリスさん、最近ますます忙しそうだったな。あまり笑ってるところも、見てないかも)

 笑顔を見れないのは、まあ主に私が迷惑かけてばかりの面が大きいだろうけれど。

(ただ一杯のお茶。だけど、笑顔を生み出せる、お茶、か)

 朗らかに笑い合っている2人を見守りながら、私には程遠い話だなと思った。

 

 

 

***

 

 

 

【遠景に、手を伸ばす】

 

 私には程遠い。縁のない話だと、そう思っていたのだけれど

「まあ。紅茶の入れ方、ですか?」

「はい、その……喫茶店の時に練習はしていたんですけど、もうちょっと上達したいなぁって」

 お昼休憩の時間を利用してクラブハウスへとやって来た私は、勤務中の咲世子さんに「お茶の入れ方を教えて欲しい」とお願いしていた。

――何をやっているの、私は。

 そう思う冷静な私がいたけれど、気がつけば身体はクラブハウスに来ていて、そうして咲世子さんに頭を下げていた。

「迷惑なのは承知の上なのですけど、」

「どなたか、飲んで欲しい方がいらっしゃるのですね」

「えっ? どうして……あ」

 咲世子さんは嫌な顔一つせず。それどころか私のことをじっと観察していたかのようにそう言ってのけるものだから、油断して口走っていた。

 ふふ、と咲世子さんが笑う。恥ずかしくなった。

「あ、その……ずっと、お世話になっている人に……少しでも、笑ってほしくて」

「そうなのですね。

 でしたら、私などでお役に立てるのであればお受けさせていただきます。ですが、その……一つお願いしてもよろしいでしょうか?」

 咲世子さんは快く頷いてくれた後で、言いづらそうにした。

 私としてはメイドとしての仕事がある咲世子さんに無理言っているのだ。私にできる事ならもちろんなんでもさせてもらうつもりだ。

「ナナリー様とお茶会をしていただけませんか?」

「ナナリーと?」

「はい。最近ルルーシュ様がお忙しいらしく」

「あ」

 手で口を抑える。寂しがっている、ということだろう。

 私も時折ナナリーとお茶会はさせてもらっているが、黒の騎士団が発足してから回数は明らかに減っていた。

「それに、ただ練習するだけでなく、誰かに飲んでもらうとより上達するはずですから」

「え? でも、ナナリーを練習相手に……って、申し訳ないなぁ」

「そんなことはございません。ナナリー様はマーヤ様のことがお好きでいらっしゃいますから、きっと喜んでくださりますよ」

 どうだろうかと思ったものの、「じゃ、じゃあナナリーに聞いてOKだったら」ということにした。

「まあっマーヤさんの入れてくださったお茶が飲めるんですか? 嬉しいです」

 後日、ナナリーとのいつものお茶会を開始する時にその話をすると、ナナリーは手を小さく叩いて可愛らしく喜んでくれた。

 咲世子さんは当然のように微笑んでいて、私だけが困惑していた。

「えっと……いいの、かな? 私、かなりルルーシュからダメだし受けてるんだけど」

「?

 でもお兄様、いつも褒めてらっしゃいましたよ。マーヤさんのお茶のこと。

 だから私、いつか飲んでみたいなぁって思ってたんです」

「あのルルーシュが私のお茶を褒める?」

 ナナリーの言葉を受けてルルーシュが私を褒めている姿を想像してみたものの、途中で断念する。無理だった。

「いつも『他のやつには出すなよ』とか『まだまだだな。明日も練習するぞ』とかばかりだったし」

「それは……もうっ。お兄様ったら」

 開店前にしていたお茶の特訓について話すと、ナナリーはなぜか呆れた顔をした。

 と、それで思い出す。

「あっ、だから私が練習してて、ナナリーに飲んでもらってるのは内緒にしててね。

 変なものをナナリーに飲ませるなって怒られそうだし」

「……分かりました」

 ナナリーが頷いてくれて安堵したものの

(お兄様の自業自得ですしね、ってどういう意味だろう?)

 彼女が呟いた言葉が謎で首を傾げつつも、この日から私の猛特訓は始まった。

 

 

 

***

 

 

 

【その景色まではまだ遠く、】

 

「あんまり無理しちゃだめよ?」

 生徒会の仕事をしていると、お茶を持ってきてくれたミレイさんにそんなことを言われた。

「ありがとうございます……えっと? どうかしたんですか?」

「どうかしたんですか、じゃないわよ。最近忙しそうじゃない」

「え? そうですか?」

 不思議だった。あまり忙しくしていた覚えがない。

 普段通り、黒の騎士団と生徒会と行き来しつつ、ナナリーとお茶したりシャーリーと買い物に行ったり、リヴァルとツーリングに行ったりバイクの話で盛り上がったり、ニーナとパソコンや理論の話したり、アーサーと遊んだり、スザクがアーサーに絡まれるのを見守ったりしているだけだ。

 まあ、しいて言うならナナリーとのお茶会の回数が増えたことくらいだろうか。

 とはいえちゃんと睡眠はとっているし、疲れはない。

 心底私が不思議がっていると、「はぁ」というため息のようなものが生徒会室のあちこちで上がる。

 見ると、いつの間にか他のメンバーもコチラを見ていた。どうしたんだろう?

「だってあなた、最近サボらないじゃない」

「まあ、そうだけど……あれ? サボらないのって良いことだと思うんだけど」

 カレンがやや鋭い目つき(黒の騎士団にいる時のような)で言う。まるでサボらないことを責められているようで、妙な気持ちになる。

「うん。本当は喜ぶべきだと思うんだけど、マーヤの場合はなんか逆に無理してそうなんだよね」

 続いてシャーリーが「うーん」と悩みながら続けた言葉には、なんとなく理解が出来るような、出来ないような。

「そう言われても……別にサボろうと思ってサボっているわけじゃないし」

 気がついたら時間が過ぎているだけで。

「…………」

 なのになぜか、ルルーシュの目線が怖い。なんだろう。変なこと言っただろうか。

 ああ、それとも

(この前提出した書類に何か誤りでもあったかな?)

 黒の騎士団の任務報告。確認はしているものの、間違いがないとは言い切れない。

 ルルーシュ……ゼロは私のことを、事務的な仕事も含めて信頼してくれている。故に、ミスのことを怒っているに違いない。

(あとで謝ろう)

 

 

 

***

 

 

 

【遠くを見つめる君を見つめる】

 

 最近、マーヤの様子がおかしい。

 具体的にどこがと聞かれても困るのだが、どことなく……緊張しているように思える。

 そしてどことなくの違和感を覚えているのは俺だけではなく、生徒会の全員がそうであったのだが、当の本人に自覚はないようだった。

 ミレイ会長たちから詰め寄られて目を白黒させているマーヤに嘘はない。寝不足という感じでもなく、体調が悪いわけでもない。

(まあこいつも平然と嘘をつけるタイプだが、あの様子は違うだろう)

 そこが見抜ける程度にはマーヤという人間を理解しているつもりだ。

 だが「なぜオカしいのか」はわからない。

 黒の騎士団という駒の中でも最も大切で強力な駒であるマーヤの調子がおかしいのは、ゼロとしても困る。

 もちろん、生徒会に所属しているルルーシュとしても。

 そう。必要なのだ。俺にとって。

 なので一度、直接聞いてみるかとゼロの私室に呼び出したのだが

「ごめんなさい」

 いきなり謝られた。なんのことか分からずに黙り込んでいると、

「この前提出した書類に誤りがあったんでしょう? だから昼間、あんなににらんで」

 どうやら勘違いしているようだった。

(というか俺はそんなにも怖い顔をしていたのか?)

 気をつけなければ。

「……その程度のことは構わない。以後、気を付けるように」

「ええ。あなたには手間をかけさせてばかりね」

 しゅんと項垂れるマーヤの姿にどきりとして、何を言うべきか分からなくなる。

「あ、そうだ。そのお詫びにってことじゃないんだけど、今日は私がお茶入れるね」

「……ああ」

 すぐにいつも通りの表情に戻ったマーヤに安堵しすぎて、そんな短い返答しかできない。

 とにかく、マーヤがお茶を入れている間に深呼吸をしつつ仮面を外し、ソファに身体を沈める。

 そうしていると、良い香りがしてきた。

「ゼロ、お疲れ様」

「あ、ああ……この紅茶、お前が淹れたのか?」

「そうだけど……へ、変?」

「いや。良い香りだな。以前とは別物」

「うぐっ。い、以前のことは忘れて欲しいんだけど」

 喫茶店での朝の紅茶練習を思いだす。最初は中々ひどかったが、元々要領は良いのだ。すぐに上手になって

(練習を続けたくて、あまり褒めたことはなかったが)

 しかし喫茶店の手伝いが終わった今であることと、何よりも知っているよりも上手に入れられた紅茶に純粋に驚いていた。

 飲んでみてもその違いはよく分かる。茶葉自体も練習の時とは異なるだろうが、それでも相当に練習したのだろう。そうでなければここまでの変化はないはずだ。

(最近忙しそうにしていたのは、もしかしてこの練習か?)

「……おかわりをもらえるか?」

「っ! ええ」

 美味かったのだが、素直にうまいとは言えず……しかしマーヤは嬉しそうに頷いた。とっさに口を手で押さえる。

「うぐっか(わいい)」

「え、ゼロっ? どうし」

「なんでもない! 気にするな。それより紅茶を頼む」

「え、ええ」

 少し頬を染めたその表情が、心臓に深く突き刺さったなど言えるわけもなく。

――しっかりとその表情は記憶に刻んでおいた。

 

 

 

***

 

 

 

【近づいては遠ざかる】

 

「はい、どうぞ。頼まれていたものよ」

「ありがとうございます、キャロル先輩」

 つい先日、咲世子さんから課せられた最終試験。ルルーシュ(ゼロ)の舌を納得させる、をクリアした私は、以前はよく訪れていたキャロル先輩の喫茶店にいた。

 実は茶葉のことを先輩に相談し、キャロル先輩独自配合の茶葉を用意してもらっていたのだ。

「先輩もお忙しいのに面倒かけてすみません」

「ふふ、いいのよ。あなたにはお世話になったし、それに嬉しいの」

「え?」

「紅茶のことで相談してくれたこともそうだし、私のお茶を飲んで『大切な誰か』を思い浮かべてくれたことが」

「あ、その」

「がんばって。応援してる」

 優しく笑ったキャロル先輩は本当に綺麗で、その言葉は実感も伴った力強いもので……私にもできる気がしてきた。

「ありがとうございます」

 少し照れ臭くもあったけれど、本当に心からの礼を伝えた。

 

(問題は、いつお茶を入れるかってことだよね)

 クラリスさんは普段から忙しく、ほとんど家にいない。ティータイムを一緒に、なんて過ごすこともないし、そんなことを提案すれば怪しまれる。

 別にお礼が欲しいわけじゃない。努力を知って欲しいわけじゃない。ただ……ちょっとでも、疲れが癒されてくれたら、と思っただけだ。

 だから改まってお茶を入れるとかはしたくなかった。

(自分が飲むついでに入れる、とかが自然かな)

 とにかく自然体が一番だ。無理してこのタイミングでとか探さず、自然に、自然に。

「ただいま」

「っ」

 声にハッと顔を上げる。待っているうちに、いつの間にかリビングで寝てしまっていたらしい。

 部屋は真っ暗で、パチンっと電気がつく。

「! マーヤ?」

「お、おかえりなさい、クラリスさん」

「ええ、ただいま……って、そんなことよりどうしたの? こんな遅い時間まで、電気もつけず」

「あー、気がつかない間に寝てたみたいで」

「そう。大丈夫なの? どこか調子でも悪いんじゃ」

「ううん、大丈夫だよ」

「そう? なら早く寝なさい。明日も早いんでしょう?」

「う、うん。そうする……おやすみなさい」

「ええ。おやすみなさい、マーヤ」

 深夜にいきなりお茶を入れる、とはさすがに言えず、その日はそのまま引き下がることにした。

 明日。明日の朝ならチャンスがある。

「おはよう、クラリスさ……ん」

 そう思っていたのだけれど、起きた時にはもうクラリスさんはいなかった。代わりにいつものように朝食と書き置きがあった。

「そう、だよね。忙しいのに……のんびりお茶を飲む時間なんて、あるわけない、か」

 考えなくても分かる事だったのに、自分の自己満足のことしか考えてなかった。

 いや、そうだ。これはただの自己満足で……クラリスさんの都合なんて考えてない。

「そうよ。それに最初から、自然なチャンスがある時にって言ってたじゃない。だから、何も問題はない」

 タイミングが悪かっただけ。落ち込む必要はない。

 時折は朝に顔を合わせるタイミングもあるから、その時に入れればいいだけ。

 何食わぬ顔で、自分が飲みたいからと言って。先輩からいいお茶を貰ったとか言って、自分とクラリスさんの2人分のお茶を入れればいいだけ。

 そしてほんのちょっとだけ……笑ってくれたら、それでいい。

 だから、待とう。

 今までも、一緒の家に住んでいてもすれ違うことなんて多かったんだから。待つのには慣れているし、感覚が空いても普通にできる自信もある。

 だから大丈夫。

 気を取り直して、いつものように登校した。

 何も変わらない、いつもの日常として。

 

 

 

***

 

 

 

【どこかを見ている君の視線が欲しい】

 

 マーヤの様子が、本格的におかしい。

 明らかに考え込む時間が増え、反応が鈍い。たとえば、今も歩きながら何か考え込んでいるようで

「おいっ、」

「マーヤ、危ない」

「へ? わわっ」

 曲がり角を曲がらずに直進しようとし、直前でスザクが腕を引いたことで衝突は免れた。

 俺は伸ばしかけた手を首に当て「はぁ」とため息をつく。

「今日何度目だ?」

「う、ごめん。スザク、ありがとう」

「うん。僕は良いんだけど……本当に大丈夫?」

 あはははは、とやや乾いた笑顔を浮かべ「大丈夫」とマーヤは言うが、誰がどう見ても「大丈夫」ではない。

 何も言わずとも俺たちの表情から察したのだろう。マーヤが言葉を続ける。

「ちょっと寝不足なのはあるかな。面白い本をニーナに教えてもらってさ」

 書籍名を聞いてみたが、どうやら専門書のようで知らないタイトルだった。

 そしてその話自体はきっと嘘ではない。ニーナともよく、小難しい専門の話で盛り上がっているのを見かける。生徒会でニーナの話について行けるのはマーヤくらいだ。

「読書はいいけど、ほどほどにしないとダメだよ?」

「ええ、ごめんなさい。気をつける」

「…………」

 マーヤはそれ以上何も言うことはなく、俺とスザクは顔を見合わせて肩をすくめた。

 

 念のために、とのちほどニーナにも確認を取った。

「うん。たしかに私がマーヤにその本のこと教えたよ? 最近はその関連書籍も読んでるみたい」

「そうか」

「どうしたの?」

「いや、とても面白いと言っていたから気になったんだが……話を聞く限り俺には合わなさそうだな」

「ふふ、そうだね。ルルーシュなら理解はできるかもしれないけど、面白いと感じるかは、ちょっと微妙かも」

 いつくらいに本のことを教えたのかも聞いたが、時期は合致する。

 しかし

(なぜ何も言わない?)

 それでも本が原因でないことは分かっている。そのことが妙に腹立たしい。

――こうなれば、最終手段を使うか。

 できるなら、向こうから自然と言って来てもらいたかったが。

 

 

 

***

 

 

 

【遠くへ手を伸ばすための、あと一歩】

 

「え、悩み?」

 シミュレーターから出ると、そこにはいつ来たのかルルーシュが怖い顔をしていて、「話がある」とのことで切り出されたのがそれだった。

「なんでもな」

「なんでもない奴は、壁に突撃したりはしない」

「うぐっ」

 昼間のことだろう。スザクの方は「面白いのは分かるけど、ほどほどにね」と上手くごまかせたものの、やはりルルーシュは無理だったらしい。

「別に大したことじゃ」

「同じことを何度も言わせるな」

「うぅ」

 今日のルルーシュはとても不機嫌で、手加減がない。……いや、普段から手加減されているかと言うと、首を傾げるけれど。

 なんとかごまかせないかとちらと視線を送るも、それはもう鋭い目でこちらを見てくるルルーシュがいて、「あ、これはダメそう」とため息をつく。

「本当に大した話じゃないんだけど」

「…………」

「はいはい。話すから、そう睨まないでよ」

 どう伝えるべきか。大げさな話にならないように気を付けて話さなくては。

 キャロル先輩を見て紅茶を養母に入れてあげたいと思ったこと。最近はその練習をしていたこと……ここに関してはナナリーのことは伏せておいたものの、

「なるほど。それで最近ナナリーと」

 と呟いていたので察せられたみたいだった。ぎくりとして怒られるだろうと身を固めたけれど、予想に反してルルーシュは怒ることなく、「それで?」と先を促してきた。

「咲世子さんからの最終課題があなたに」

「お茶を入れて合格点をもらうこと、か? この間のがそうなのだろう?」

「……はい」

 そこまで分かっているのなら、もう話さなくてもいいのではないだろうか。

 思ったものの、ルルーシュの目つきは鋭いままだ。

「ごめん。勝手に毒味役にさせて」

「ん? ああ、別にそれは良い。そんなことよりも俺は」

「え? それで怒ってたんじゃ」

「……いや、なんでもない。

 で、合格が出たにもかかわらず柄にもなく凹んでいるということは、タイミングを逃しすぎて段々と自信を無くしてきた、というところか」

 何かを言いかけたルルーシュが首を横に振って、呆れたような顔でズバズバ言ってくるのに、「うぐぅっ」と唸る。やっぱり今日のルルーシュはいつも以上に厳しい。

「その通りです」

「まったく、お前は馬鹿だな」

「ひどい。そりゃこんなことで悩むなんて馬鹿らしいと私も思うけど」

「違う」

「え?」

「お前にとっては大切なことだろう?」

 ずっと鋭い目つきだったルルーシュが、ふっと柔らかく笑った。ナナリーに見せる優しい兄の顔のような……でも、どこか違う温かい笑みで……なんだか見ていられなくなって俯く。

 改めてルルーシュの美貌に気付いたような、変な感覚がした。もちろん、彼の顔立ちが整っていることは知っていたけど。

「こういう時顔が良いってずるい」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、何も」

 不思議そうなルルーシュを(この美形め)と恨めし気に見上げると、「うぐっか」とうめき声をあげられた。驚いてまばたいている間に、ルルーシュが口元を押さえた。

「ど、どうしたの? 気分悪くなった?」

「いや……き、気にするな」

 ルルーシュはそっと私から視線を外して、なぜか深呼吸していた。本当に大丈夫なんだろうか。

 心配して見つめていると、何度目かの深呼吸で落ち着いたらしく、口元から手を外した。――顔が少し赤い気がする。やっぱり熱でもあるんじゃないだろうか。

「ねえ、本当に」

「とっと、とにかく、だ! お前は自然に養母にお茶を入れたいのだろう?」

 身を乗り出して顔に手を伸ばそうとしたら、ルルーシュがやや無理やり話を変える。

 うん? と首を傾げるとルルーシュは先ほどより赤い顔をしつつも、自信に溢れた笑みを浮かべた。

――ああ、興奮の熱か。

 私はそう納得し、ルルーシュの話を聞いたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

【手が届かないと嘆く君へ送る策】

 

 ずっと様子がおかしかったマーヤ。その原因は養母との関係だった。

 元々の調べでもあまり上手くいっていないのは知っていた。マーヤが養母を嫌っているわけではないことも。

 複雑な事情や近くにいるがゆえのすれ違い。葛藤。

 様々なことが重なり、基本素直な彼女が唯一と言っていいほど素直になれない存在、それが養母なのだ。

 ホッとした。

 なぜなら、まだ間に合うからだ。取り返しがつく悩みだからだ。

 そして……また一つ、マーヤのことを知れた喜びも心の内で渦巻いていた。

「まったく、お前は馬鹿だな」

「ひどい。そりゃこんなことで悩むなんて馬鹿らしいと私も思うけど」

「違う」

「え?」

「お前にとっては大切なことだろう?」

 だからか、自然と笑みがこぼれているのを自覚した。自分でも珍しいとは思う。マーヤも驚いていた。

 が、ふいに彼女が俯いて何かつぶやいた。聞き返したものの答えは返ってこず、代わりに拗ねたような顔をして見上げられる。

 子供じみた表情だが、そこに上目遣いが加わると

「うぐっか」

 可愛い。

 そう口に出しかけて慌てて口元を押さえる。いかん。落ち着け、俺。

 深呼吸を繰り返していると、途端に心配げに眉を下げたマーヤ。嬉しさと可愛らしさに、心臓が速くなる。

 まずい。話が反れている。

「ねえ、本当に」

「とっと、とにかく、だ! お前は自然に養母にお茶を入れたいのだろう?」

 マーヤが身を乗り出してこちらの顔に触れようとしていたのをなんとか阻止する。今触れられたら、話を続けられる自信がない。

 不自然な話題の切り替えだとは分かっていたが、なぜかマーヤは納得していた……なんだか、あまりよくない気配は感じた。

 たぶん、きっと、いや確実に、変な納得の仕方をした。

 が、今はそこを追及するのはやめておく。

 とにかく、マーヤの目的が達せられる方法を告げていく。

「いきなり本番を迎えようとするから、緊張してタイミングを逃すんだ」

「まあそうかもしれないけど」

「だから養母がいない時にお前が一人でお茶を入れて飲め」

 マーヤがきょとんという顔をした。――どうしてお前はそう一々……文句を言いたくなったが、堪える。

「どうせお前のことだ。別に大げさに行って感謝されたい、とかじゃないんだろう?」

「う、うん。そうだけど、なんで分かったの?」

 不思議そうなマーヤに、「それくらいお前は分かりやすいからな」と言えば、「どうせ私は単純ですよ」と拗ねられた。ふっと笑う。

「そのまま茶葉はキッチンに置いておけばいい。そうすれば」

「え? あ、そうか。自然とクラリスさんの目に入る、か」

「ああ。お前も家で茶を入れることで緊張も解けるだろう?」

 突如キッチンに増えた茶葉。それが減っているとなればマーヤが飲んでいるとはすぐに分かる。そうすればそこから自然と会話につながるはずだ。

 何より、一番最初に入れよう、と意気込みすぎるからこそ不自然になる。

 マーヤはしばらく反芻していたが

「うん、そうだね。やってみる。ありがとう、ルルーシュ」

「どういたしまして……まあ、お前のメンタルケアも契約の内だろうしな」

「うぐぅっ。面倒かけてすみませんね」

「安心しろ。その分はしっかりと働いてもらう」

「はいはい。一生懸命頑張らせていただきます……ふふっ」

 最後はいつもと同じ笑みを浮かべた。久しぶりに見たマーヤの笑顔に、俺は気づかれないように胸をなでおろした。

 

 結果がどうだったのか、詳しくは聞いていない。

 だが、

「あ、ルルーシュ。おはよう!」

 満面の笑みで挨拶をしてくる姿だけで、充分だった。

「ああ、おはよう」

 その笑みの手助けをしたのは自分だという事実だけで、今は十分すぎた。

 




 イベントストーリー後に思いついたものの、中々筆が進まずに遅くなりました。
 すれ違うキャロル親子の様子に、私はマーヤとクラリスさんの姿を見たので、そこから妄想。
 あとメインストーリーで朝のニュースを一緒に見ているシーンとかあった気がしたので朝食一緒に食べているのかなとか思ったんですが、新章では……ちょっと矛盾するかもですが、ご容赦ください。
 まあ、単純に段々とすれ違いが大きくなっているだけかもですけども。

 クラリスさんと、本当の意味で親子になれる日が早く来ることを願いつつも、コードギアスなので怖さも感じている今日この頃。
※和解前に執筆していました。

 とにかくルルが点数稼いだよ、というお話(ぇ。やったね、ルル! ほんのちょっとだけマーヤちゃんに意識された、かも?
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