【ロススト】これは恋ではない【コードギアス】   作:染舞

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 ディゼル家が思っていたよりもすごい家系っぽそうなので、こういうのもありだったのかな、と思いついたお話。
 ルル→→→マヤ
 ちょっと切ない……?
※本編やボイスのネタバレございますのでご注意ください。


【ルルマヤ】望まぬ未来で『君』を望む

 

『ルルーシュ』

 誰かの声がした。聞いたことがないはずなのに、なぜか落ち着く声だった。

『ルルーシュ……あなたと私は――』

 声の続きを聞きたくないと心臓が強く動くのを感じ、目が覚めた。

 思わず胸を抑えて息を整える。見えるのは見慣れている無駄に豪奢な天井で、とても懐かしい。

「懐かしい? ッ」

 生まれてからずっと過ごしてきた部屋の天井におかしな感想を口にして、あまりにも甲高い声に驚いて飛び起きる。喉に手を当てたものの、その手の小ささに、首の細さに……そしてやはり感じる部屋の懐かしさに、しばらくの間身動きが取れなかった。

「俺はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア……明後日で9歳になる……」

 そんなわかりきったことを呟いて少し落ち着く。落ち着いてから

「俺?」

 自分はこんな喋り方だったろうか。いや違ったはずだ。しかし妙にその口調のほうが納得がいった。

「変な夢でも見たか……そういえば誰かに呼ばれたような」

 夢の内容を思い出そうとしてみたものの、霧がかかったように思い出せない。そのことが妙に苦しくて、首を振って思考を切り替える。

 誕生日が近くて柄にもなく興奮しているのかもしれなかった。

「シュナイゼル兄上が来られるからな。今度こそ勝つ」

 ずっとチェスで負けっぱなしの兄が忙しい間を縫って祝いに来てくれるという。そのための特訓もしている。

「そういえば兄上が特別な贈り物があると……」

 あの兄からの『特別』な贈り物も非常に気になっていた。そういうことも相まって、妙な気分になっているだけだろう。

 深く気にしないことにした。

 それでも一人称は気を抜くと『俺』になっていたし、言動も少し変わっていたので母にはからかわれたし、妹には心配されてしまったが。

 そして誕生日当日、多くの人に祝われた。日本国の首相とその息子もいた。彼と過ごした時間は短いし、喧嘩も良くするが、それでも自分にとっては数少ない友人だった。

「誕生日おめでとう、ルルーシュ」

「ああ、ありがとう」

「? あれ、ごめん。俺怒らせることした?」

「え?」

「なんかいつもと違うから」

 スザクが首を傾げる。どうやら俺の言動が変わっていることに気づいたらしい。

 母が後ろでくすくす笑う。

「この子ったら、急に大人びた口調するようになったの。もう9歳の男の子だものね」

「は、母上! だから別に俺はそういうのじゃなく」

「俺? ルルーシュが……変なの」

「ふふ。格好いいですよ、お兄様」

 楽しげな母親に不思議そうな親友、笑って褒めてくれる妹。なんとなく居づらくなって、場所を移動しようとしたら

「ああ、ここにいたのかい、ルルーシュ」

「! シュナイゼル兄、う、え?」

 声をかけられる。

 それは今日こそは勝ってやると思っていた相手であり、特別な何かをくれると言ってくれた人物の声で、思わず思い切りそちらを振り返ってしまう。

 そして……目が合った。何も言えなくなって、やたらと心臓がうるさい。

「誕生日おめでとう、ルルーシュ」

「は、はい」

 ありがとうございます。という声はなんとか出せたものの、そこから目が離せなかった。

 シュナイゼル兄上のやや後ろにいた小さな人影。自分と同じ黒色でありながら、美しく周囲の光を反射している長い髪。その中心で輝く青い瞳。

 呼吸がし辛い。

「ふっ、気になるかい?」

「え? えっと」

「彼女が特別な贈り物、というと失礼だけど……君の周囲には同年代の子があまりいないと聞いてね。彼女は君と同じ年齢だけどとても頭がいいから、ルルーシュと話が合うのではと思ったんだよ」

 ああ、そうだと頷いている自分がいた。チェスの相手は務まらないだろうが、彼女との会話は楽しいに違いなかった。自分の言葉を、一々細かく説明せずともきちんと理解してくれる。

 初めて出会ったはずなのに、なぜかそう確信していた。

 彼女が一歩前に出て、美しくお辞儀をする。まるで彼女の周囲に照明がつけられているかのように輝いて見える。

「はじめまして、ルルーシュ殿下。私は――・ディゼルです。この度はお誕生日、誠におめでとうございます」

「ああ、ありがとう。――」

 名前はなぜか聞き取れなかったのに、するりと口から飛び出た。

 それだけで彼女は緊張していた顔を緩め、ほうっと笑うから……俺は何も言えなくなった。

 

 

 

 同じ年頃の友達として、という名目ではあったが、将来の俺の騎士にさせようという思惑もあったのだろう。

 実際、彼女は自分と同じ年齢ではあったものの、自分など相手にならないくらいに強かった。

「また私の勝ちね」

「くっ」

 空を背景に笑う彼女がいた。

 正直悔しくないかと言われれば、悔しかった。だけど楽しそうに笑う彼女の顔が見れるなら、それでいいかと倒れ伏した情けない体勢で思った。

 それにチェスに関してはずっと自分が勝ちっ放しだったので、適材適所、と納得させた。

 家々の思惑なんて、当事者にとっては関係ない。関係ないと……幼い俺は思っていた。

 ずっとその距離は変わらなくて、一緒にいられるものだと、そう思っていた。

 

 

 

 時が経ち、俺たちは高等学校に通うようになった。

「殿下、次の授業はそちらではありませんよ」

「……ああ」

 俺がわざと教室を間違えると、ため息を小さくついた彼女が声をかけてきた。俺はそれが気に食わなくて、また別の方向へ足を進めようとする。

「……そっちじゃないわよ、ルルーシュ」

「そうだな」

 小さな声で……しかし俺にだけは聞こえる声量で告げられたことにひとまず満足すると、大げさに肩をすくめられた。

「もうっ! 子供じゃないんだから、それくらいですねないでよ」

 しょうがないでしょ、という彼女に「分かってる」と返すがやや尖った言い方になっている自覚はあった。

 子供の頃はもっと気楽でいられた。それこそ家族の前だけならば、彼女もかしこまらずに俺に接してくれた。

 だが今は……すぐそばで揺れるその髪に触れることすら難しい。昔は気軽に触れていたのに。触らせてくれていたのに。今は、もう。

 手を伸ばせば届きそうなのに、遠い。

 気づくと自分の足は止まっていて……彼女の背が遠ざかっていた。彼女は気づかずに歩いていく。

 待てと言おうとしたのに、口は動かない。それどころか足も手も動かない。

『ルルーシュ……あなたと私は――』

 声がした。それはいつぞやも聞いた声だ。あの時は誰の声か分からなかったが、もう誰の声か分かっていた。

(やめろ)

『ルルーシュ……あなたと私は――』

 声がする。聞きたくなかった。その声の先を聞きたくなかった。

 なのに声は止まらない。

『ルルーシュ……あなたと私は――出会わないほうが良かったのかもね』

 

 

 

「ルルーシュっ!」

「っ!」

 強く名を呼ばれてハッとする。息が乱れていた。

 目の前には彼女が――マーヤがいて、青い瞳をまっすぐにこちらへ向けていた。

「え?」

「課題に集中しているのかと思ったら、寝ているみたいだったし……寝不足?」

 場所はナイトメアのシミュレーターがある地下室。最近は騎士団の活動が忙しく、学校の課題が溜まっていたため、一緒に処理をしていた。

 何か、雑談をしながら。

「何の話だったか」

「え? ええっと……あ、そうそう。最近、あなたが寝ているかどうか分かるようになったって私が話して」

「そう、だったな。それでお前が真似しているとか」

「さっきも言ったけど、私は冗談だからね? 一応ちゃんと起きてる、から」

「そうだな。凄まじいノートになっていたが」

「うっ、あれは……」

 寝ぼけつつも必死にノートを取ろうとした結果、まったく読み取れなくなっていたマーヤがシャーリーに頼み込んでノートを写させてもらっていたのは、つい最近のことだ。

 くくっと笑う俺にマーヤは無理やり会話を変える。

「とにかく! あなたと出会ってから一緒に過ごす時間が増えたし、あなたのことよく見るようになったから分かるようになったって……それで」

「ああ」

「それで……『あなたと私は――出会わないほうが良かったのかもね』って、ふと思ったの」

 ズキリ。

 最後はトーンを落としてそう言った彼女に、胸の奥が傷んだ。

 あの妙な夢は、この台詞のせいだった。

 それまでは楽しく過ごしていたのに、急にそんな事を言うから俺は。

「だって私は庶民だもの。戦争がなかったら、皇子であるあなたと出会うことはなかったでしょ?」

「……それは」

「出会わないで済んだ世界のほうが、きっと皆幸せだったんだろうなって」

 否定はできなかった。

 そんな『もしも』の世界を語らっても意味は無いと互いに分かっていても、否定することはできない。

 でも俺は、嫌だと思った。たとえずっと母のもとで過ごせていたとしても、妹が目を閉じることもなく自らの足で走り回れていたとしても、そこにマーヤがいないのは嫌だと思った。

 戦争がなかった未来でも彼女に会いたいと、あんな妙な夢を見たのだ。

(お前は、違うのか? 俺は――)

 肩をすくめ、笑い飛ばしてみる。そんな未来は嫌だと叫びたいのを、必死に抑えながら。

「さてな。

 お前のことだ。何か無茶をして上の目に留まるようなことしでかしそうだがな」

「ひどい。私、そんな暴れん坊じゃ」

「おしとやかなレディは、あんな無茶苦茶な戦い方はしない」

「無茶じゃないって。あれは効率を考えての動きで」

「そういう思考になるあたり、普通に過ごすのはお前には無理だ」

 むぅっと頬をふくらませる彼女にフッと笑う。

「ほら、そんなことよりさっさと課題終わらせるぞ」

「ちょっ誰のせいで脱線したと……はぁ、もういいです」

 再び課題へと目を落としたその姿を見ながら、軽く胸を抑えた。

 

 

 

 

 

【たとえ戦が起きなかったとしても、きっと俺はお前を見つけるだろう】

 

 




 ということで、ディゼル家が思っていたよりもすごい家系っぽそうだったので、もしかしたら皇族ルルーシュと知り合いになっていたかも、というお話と、なんとなく思いついた『出会わないほうが良かったのかもね』という台詞を組み合わせて書いてみました。
 ちょっとつなげ方無理やりだったかもしれません。

 もしもの話なんて、この2人はしなさそうなんですけどね。
 出会いがなかったことにたいして、マーヤちゃんはあっさり割り切っちゃいそうですけど、ルルーシュは考えそうだなぁって。

 という、イチャイチャな話じゃないけど、ルルーシュ誕生日おめでとう! 君が生まれてくれて、君たちが出会ってくれて、わたしはとても嬉しいよ。
※ルルーシュの誕生日に初公開した話でした。
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