【ロススト】これは恋ではない【コードギアス】   作:染舞

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急に距離を取られてもやもやしたり、否定され続けてもやもやしたりする少年の話。


【ルル+マヤ】帰ってきた空間――ただいま、と素直に口には出せないけれど

 気になりだした頃。

 

 

 

【ルルーシュはナナリー第一】

 

 

 

 小さく白い指がそーっとそれをなぞっていく。それを真剣に見つめて追いかける。

「そして、ここでしっかりと押さえて」

「なるほど」

「で、この部分を細くすると、出来上がりが良くなるんですよ」

「へ~、そうなんだ」

 ふむふむ、と真剣に話を聞きながら、自分もその小さな指の動きをまねていく。

 いつもなんとなくで流していた箇所も丁寧になぞらえる。

(あ、なんかいつもよりいけてる気がする!)

 ちょっと嬉しく思いながら、それ……折り紙に集中する。

 目の前には先生、もといナナリーがそれはそれは美しい折り鶴を生み出していた。

(ルルーシュから聞いていたけど、本当にナナリーは折り紙が上手ね。日本人の人に教わってるって話だけど、ナナリーって教え方も上手だし)

 おかげで今までで一番の出来だ! と感動しつつ自分の折り鶴を眺めていたけれど、ナナリーのそれと比べると明らかに……。

(いやいやっ、以前より断然進歩してる)

「ありがとう、ナナリー。まだまだナナリーみたいな綺麗な鶴は折れないけど、前よりマシにな」

「下手だな」

 頭上からこちらの手元を覗いてきたルルーシュの一言に「う」とつまる。事実なだけに反論ができない。ナナリーが愛らしい眉を釣り上げた。

「もうっ、お兄様!」

「……まあ、前のアレよりはマシになったな。さすがだ、ナナリー」

(それって結局ナナリーを褒めてない?)

 思ったものの、反論はやめておいた。ルルーシュの言葉は事実だからだ。

 それでも成長が見える折り鶴を満足気に眺める。

「……ふっ」

「ふふふ。あ、そうだっマーヤさん。良かったら一緒にお茶はどうですか?」

「あー、そうね。じゃあお言葉に甘えようかな?」

 疲れちゃったし、と笑い返すとナナリーが「一生懸命されてましたからね」と言ってくれた。本当に優しい少女だ。どこかの兄と違って。

(ルルーシュってば私には厳しいし。もう少しくらい優しくしてくれてもいいのに)

 その後はナナリーと和やかに会話し、ルルーシュとは……まあ、普通にやり取りしつつ、一杯のお茶をゆっくり飲み終えてからお暇させてもらった。

 あまり長居するのも迷惑だ。ルルーシュも部外者がナナリーのそばにいるのは嫌がるだろうし。

(ひとまず折り方の基本はわかったから。あとは自分で頑張ろうかな)

 と、思っていたのだけれど。

 

「えっと、遊びに行っていいの?」

 放課後、ルルーシュに声をかけられた。何か黒の騎士団で問題があったのかと身構えていたら、「ナナリーとまたお茶してやってくれないか」だった。

 こちらの驚き様に、ルルーシュの方が驚いた顔をした。

「構わない……というより、むしろ歓迎する。以前、お前が遊びに来た時、ナナリーがとても楽しそうだったからな。

 俺としては、なぜ来てはダメだと思ったのか問いたいところなんだが」

(あなたがナナリーを溺愛しているから私なんか近づけたくないんじゃないかと思った……んだけど……ああ、そうか)

 ふと考えこんで、ポンと手を打つ。

(そうか。そこもナナリー優先なのね。ナナリーが楽しく過ごせるなら、少なくとも彼女に危害を加える相手じゃなければ大丈夫、と)

 なるほどなるほど、と納得していると

「おい、一人で納得するな」

「うん、まあ、そういうことならまたお邪魔させてもらいたいかな。私もナナリーと過ごすの楽しいし」

「……そうか」

「? どうかした? ルルーシュ」

「なぜ……いや、なんでもない」

 ルルーシュが何かを言いかけていたが、はぐらかされた。気にはなったものの、追及はしない。

 あまりルルーシュと二人きりで話したくないのだ。

(なんか、想像以上にルルーシュと親密そうに見えるらしいし)

 会長から任されている部活動関連の書類を見下ろしながら、数日前のことを思い出した。

 

 

 

【誤解1】

 

 

 

「カレン、おは……どうしたの? なんか疲れた顔してるけど」

「おはよう、マーヤ」

 いつもの病気のご令嬢の演技、にしてはやつれて見えるカレンが心配で声をかける。カレンは挨拶を返してくれたものの、やはりその声には演技だけではないしんどさが見えた。

(昨日は黒の騎士団でも特になかったはずだけど)

 どうしたのかと思ったが、次の瞬間、目前にカレンの顔があった。

「そうなの! 昼休み、話聞いてちょうだい!」

「う、うん。わ、かった」

 勢いよくこちらに顔を近づけ、勢いよく話しながらも小声、という妙に器用なことをしてのけたカレンに、反射で頷いた。

 

 昼休み。

「あ~、なるほど」

 鬱屈が貯まっていた、とばかりに話すカレン。その話を聞いて、とても納得した。

(やっぱりシャーリー、アレのこと。キスだと勘違いしたままなのね)

 以前、カレンとルルーシュがやたらと間近で見つめ合っている現場に出くわしたことがあった。一見、キスしているようにも見えるような光景だった。

 自分はそれが違うと分かったものの、シャーリーはキスしていると思い込んでいた。訂正しようとしたら逃げられたのは記憶に新しい。

(まあキスじゃなかったとしても、なんでああいう体勢になったのかは謎ではあるけど)

 一体どういう状況だったのかは私も知らないものの、ルルーシュが無意味にそのようなことをするとは思えない。何かしら理由は有るのだろう。

 ルルーシュはゼロと名乗る前からカレンたちと接触が合ったらしいし、その疑いを晴らすために少し苦労した、と軽くだけ聞いたことがある。きっとそれ関係だろう。

 とはいえ、こんな風に冷静に考えられるのは私とルルーシュが契約者という、互いが互いを利用し合う関係だからだ。

 ルルーシュに恋をしているシャーリーが混乱したり、勘違いするのは仕方ない……のかもしれない。私は恋愛に興味がないので正直よくわからないけれど。

 巻き込まれたカレンはお気の毒だが。

「それはなんというか、その、お疲れ様」

「って、何他人事みたいに」

「え? 実際他人事だし」

「何言ってるのよ。あなたの方がよっぽどルルーシュと仲いいじゃない」

「そう、かな? 別に普通だと思うけど」

「だってよく二人で話してるでしょ」

「ゲームの話だよ。攻略について助言貰ってるだけ」

 不思議そうに首を傾げるも、カレンには「はぁ」とため息をつかれる。

 まだ疑われているらしい……あまり良くない傾向だ。

(特にカレンは黒の騎士団で私とゼロの関係を見ている。親しさから連想されてしまったら大変ね)

 なんとかしなければ、と困った顔を作りながら口を開く。

「う~ん、元々生徒会に入るきっかけがルルーシュとゲーム友達になったのがきっかけだし、私それまでほとんど学校に来てなかったから他に知り合いもほとんどいないから……他のみんなよりルルーシュに頼っているのは、確かにあると思うけど……ほんと、それだけだよ?」

 っていうか、カレンから見て私とルルーシュがそういう風に見える? とおどけた調子で確認してみる。

「たしかに見えないけど……逆に私と彼のこと、あなたにはどう見えるの?」

「どうって、ただの学友……ああ、そういうことね」

 そう。冷静な第三者から見れば違うのは一目瞭然なのだ。

 しかし、相手は最強(?)の恋する乙女なわけで。カレンとルルーシュがキスしているように見えた時も、それを訂正しようとした自分の言葉を拒否して走り去ってしまった。

 そんなところも可愛らしく、シャーリーらしくて微笑ましいとは思うものの、自分自身に妙な誤解をされるのはあまりよろしくない。

「……き、気を付ける」

「ええ。そうした方が良いでしょうね」

――手遅れかもしれないけど。

 ぼそりとカレンが小さく言葉を付け足した。嫌な言葉を付け足さないで欲しい。

 

 

 

***

 

 

 

 でもいい情報を聞けた。

(危ない危ない。ナナリーと仲良くするのはともかく、ルルーシュと楽しく時を過ごす、とかはなるべく避けないと)

 黒の騎士団での任務についてなどは、携帯やアジトで安全に話せるようになった今、学園で危険なことをする必要もない。

(とはいっても、完全に無視するのも変だし……さじ加減が難しいなぁ)

 

 はぁ、と深々とため息をつく。

 ゼロから与えられる任務よりも強敵かもしれなかった。

 

 

 

【誤解2】

 

 まるで戦場に立っているかのような緊張感と集中力でマーヤはナナリーの指先を凝視していた。

 もしかしたらナイトメアに乗っている時は、こんな顔をしているのかもしれない。

(しかし……マーヤのやつ、器用なのか不器用なのかわからんな)

 学校こそさぼっていたとはいえ成績は上位。運動能力も高く、ナイトメア操縦技術もある。生徒会の仕事ぶりも悪くない。なのに、なぜか折り紙になると途端に不器用な姿を見せる。

 決して雑に折っているわけでもないのに、よれよれになった鶴のしっぽが見えた。

 それでも以前よりは大分マシだ。間違いなく折り鶴には見える。

(ふむ。慎重になりすぎて力加減を誤っているのか)

 たかが折り紙。されど、マーヤにとっては何よりも大切な宝物で、大切な思い出。

 ゆえに、変に力が入るのだろう。おそらく、その緊張さえ解ければ普通に折れるのだろうが……まあ、あえて指摘はしないでおこう。

(下手につつくと、また突拍子ない行動しかねんからな)

 C.Cと違い、マーヤは素直だ。それゆえにどこか危なっかしい。 以前より上手に折れた折り鶴を嬉しげに眺めているマーヤを見て、やれやれと肩をすくめる。

 俺も面倒な相手と契約してしまったものだ、と。

(しかし契約した以上、強力な駒になってもらうためにもフォローはしてやらないとな。

 それに)

「ふふ」

 ナナリーもマーヤを気に入ったらしい。楽しそうに笑っているので、俺にとってはその方が大切だった。

 その後、マーヤは一杯のお茶をゆっくり飲みながらナナリーと楽しそうに話し、帰っていった。

 

 後日。

 マーヤも楽しそうだったし、と「またナナリーとお茶をしてやって欲しい」と本人に告げると、やたらと驚かれた。

「えっと、遊びに行っていいの?」

「構わない……というより、むしろ歓迎する。以前、お前が遊びに来た時、ナナリーがとても楽しそうだったからな。

 俺としては、なぜ来てはダメだと思ったのか問いたいところなんだが」

 怪訝に思って眉間に力を入れる。マーヤは何か言いたそうな顔をしたものの、その後でポンと手を叩いて「なるほど」と一人納得していた。

「おい、一人で納得するな」

「うん、まあ、そういうことならまたお邪魔させてもらいたいかな。私もナナリーと過ごすの楽しいし」

「……そうか」

「? どうかした? ルルーシュ」

「なぜ……いや、なんでもない」

 答えをはぐらかす様子にいら立つ。そんな俺の様子に首を傾げるマーヤだったが、それ以上追及しては来なかった。

 追及してこないことも、苛立ちを助長させる。

(ナナリー『と』か。俺は?)

 別に意図したことではないのだろう。それにたしかに前回マーヤが遊びに来た時は少々からかいすぎたかもしれない。

 仕方がない。次回来た時は気を付けてやるか。

 そう思っていたというのに……マーヤは俺を避けるように、俺が用事でいない時にナナリーの元へと遊びに来るようになった。

 いや、それだけではなく

「ルルーシュ、おは……って、どうしたんだよ。朝から不機嫌そうだな」

「ああ、おはよう、リヴァル。そんなことないさ。いつも通りだ」

「そうか?」

 軽く肩をすくめてそう返すと、若干疑っている目だったリヴァルはやがて納得した。

「それならいいけどよ……って、あれマーヤじゃね?」

「っ」

「おーい、マーヤ。おはよう」

 リヴァルが大きく手を振った先には、最近見慣れた長い髪が揺れていた。

 マーヤが声に振り返り、俺たちに気づくと笑った。

「ん? ああ、リヴァルとルルーシュか。おはよう」

「……ああ、おはよう」

 俺も挨拶をしつつ、マーヤの様子をうかがう。いたって変わったところはない。

「そういや、お前がはまってるってゲーム、気になってやってみたんだけどさ。なにあれ、滅茶苦茶難しくねーか?」

「あ~、そうだね。けど、だから面白いというか」

 俺とマーヤの共通の趣味、ということになっているゲーム。そのようなもの実際はないのだが、それらしいゲームを調べて何のゲームか聞かれた時にはそれを答えよう、という話になっていた。

 既存のアカウントは入手済みで、操作方法も頭に入っている。

 FPSゲームだが、戦略を練ることが重要で、マーヤもそういうゲームは得意であったため、もしも実演してと言われても問題はない。

「かぁ~、よくやるぜ」

「私も最初は全然だったよ? 今度一緒にやらない?」

「悪いけどパス」

「そっか。それは残念」

 一番ゲームについて聞いてきそうなリヴァルが避けるゲームを選んだつもりだったが、予想通りだったようだ。嫌そうなリヴァルの顔に安堵する。

 そしてそんなリヴァルと会話しているマーヤは……普通だった。いつも通りだ。何かおかしなところはない。

「って、あれ?」

「どうしたの?」

「やっべ、ケータイをバイクに忘れたっぽい。取りに戻る」

「何やってるんだか。先に行ってるぞ」

「じゃあまたあとでね」

 慌てた顔をしたリヴァルが走っていくのを見送り、再び教室へ向けて歩き出す。

「じゃあ、私もここで」

「? どこに行く?」

「私はスザクに頼まれごとがあって」

「スザクに?」

「ええ。アーサーのお世話をね。今日は軍の用事で来れないって聞いてるから」

 思わず眉間に力が入る。

 アーサー。

 ゼロの仮面をめぐっての一騒動を思い出す。元々あまり猫は好きではないのだが、あの一件のせいで余計に苦手意識が生まれたのは事実だ。

「じゃあ俺も」

「え? いいよいいよ。すぐ終わるし、ルルーシュ、アーサー苦手でしょ?

 じゃあ、またあとで」

「……ああ」

 去っていくマーヤの背を見送り、やはり、と思う。これは気のせいではなく

(避けられているな)

 誰かと一緒の時は普通なのだが、今の様に二人になるとすぐに別行動をとるか、会話を打ち切る方向にかじを切られている。

 それに問題があるかと言うと……ない。

 黒の騎士団ではゼロと一団員として問題なく話合えているし、生徒会でも問題はなく、クラスメイトとしても不自然でない程度には接している。

 最近は周囲から俺とマーヤが仲がいい、とよく言われることもあったため、たしかに疑われるより今程度の適度な関係がちょうどいい。

 が、別に今のままでも『ゲームの話』として二人で話し合うこともできるのでそう大きな問題でもなかった。

(何より、なぜ今更)

 揺れる長い黒髪が曲がり角で見えなくなるのが、無性に苛立って仕方なかった。

 

 

 

【誤解3】

 

 

 

「関係が疑われている?」

「うん」

 後日、ゼロとしてアジトの一室にマーヤを呼び寄せて話を聞くと、困ったように彼女は肩をすくめた。

「まあ正確に言うと疑い、とまでは言ってないみたいなんだけど……警戒しておくに越したことはないかと思って」

「たしかに。以前から言われていたが」

「そう、なの? 知ってたなら、なぜ」

 俺は以前より「マーヤと仲がいい」と言われて「マーヤどこ行ったか知らない?」とこいつがサボるたびに聞かれるようになっていたが、どうやら彼女は周囲からそう思われていることに気づいていなかったようだ。

 それが最近指摘され、気を付けていた、とのこと。

「緊急時には学園で直接話をしても疑われない、というのも便利かと思ってな」

「なるほどね……でも、ゼロ。私は」

 マーヤは納得しつつも、表情を崩した。黒の騎士団にいる間はどこか緊迫し、普段よりも硬い表情をしているのだが、今は学校にいる時のマーヤの顔をしていた。

「その、以前の私なら、学校での立場とか、交友関係とか、まったく気にしなかったんだけど……今は……大事にしたいって、思ってる」

「…………」

 ブリタニア人と日本人のハーフである彼女は、ブリタニア人の中に混じることができないでいた。

「変わったな、お前」

「うん、そうね。……変、かな?」

「いや。いいと思うぞ」

 むしろ喜ばしい変化だと思う。守るべき存在が増えることは、決して悪いことじゃない。守れるだけの力を持てばいい。

「だから、ね。変な誤解とか受けたくなくて」

「そうか。分かった。私も気を付けよう」

 ちゃんとした理由があってのことならば、納得できた――のに、

 

 

 

「私、ルルーシュのこと、別に好きじゃないから」

 そんな話が聞こえた時に、息が止まった。

 

 

 

【誤解4】

 

 

 

 ついに恐れていたことが起きてしまった。

「ルルと何かあったんだよね?」

 優しく愛らしい恋する乙女、シャーリーが涙目になっていた。こういう表情をさせたくないからこそ頑張っていたというのに、どうやら頑張りが足りなかったようだった。

 でも、どうしてだろうか。なるべく距離とるようにしていたのに

「どうしてそう思うの?」

「だってなんか二人……急によそよそしくなってるし」

(仲がいいと何か言われそうだからって距離を取ったら、それはそれで疑われてしまうのね)

 一つ勉強になった。

 どうしたものかと思っていたら、自然とため息が出てしまった。

 シャーリーは私の様子に逆に冷静になったらしく、きょとんとしていた。

「えっと、実は以前、シャーリーのように私とルルーシュの仲を誤解した子がいて」

 そうして直接『シャーリーに疑われたくなかった』という言葉を使わず、に説明していく。

「私はゲーム上手くなりたいからルルーシュに協力してもらいたいけど、そのせいでルルーシュにまで迷惑かかるのは嫌だなと思って、学校ではあまり話しかけないようにしてたんだ」

「そう、だったんだ」

 ほうっと息を吐きだしたシャーリー。どうやら誤解は解けたらしい。

 でもまた疑われたら嫌なのでダメ押しで告げておく。

「そうそう。私、ルルーシュのこと、別に好きじゃないから」

 今なら冷静に聞いてくれるだろう、とハッキリ告げる。

「もちろん、友達としては好きだけどそういうのじゃないし、これからも絶対ないから」

「絶対?」

「うん」

 私とルルーシュは契約者。ブリタニアに恨みを持つ者。互いが互いを利用し合う関係。それ以上でも以下でもない。

「今まで1ミリもルルーシュのこと、そういう風に見たことないし」

「で、でもこれから先もずっととは限らないでしょ?」

「たしかにそうだけど……う~ん。どういえば伝わるかな……あ、そうね。私とルルーシュがつき合うより、スザクとルルーシュがつき合う可能性の方が高い、と言い切れるくらいに私は可能性低いから」

 ゴンッ。

 ふいに、近くの壁からそんな奇妙な音がしてそちらを見ると、アーサーがとことこと歩いてきた。

「アーサー? クラブハウスにいたんじゃ……あっ、て。ごめん。おやつの時間だったっけ」

「みゃあ」

 ちょっと怒ったような顔をしたアーサーを抱き上げると、ほらはやく、と言わんばかりに尻尾で体を叩かれた。

 苦笑しつつ、シャーリーを振り返る。

「ということで、私はアーサーにおやつあげてくる」

「うん、分かった!

 ……あ! そうだ、マーヤ」

「?」

 笑顔になったシャーリーが、続けて言う。

「マーヤは普通にしてた方が良いと思う。ルルも、マーヤとゲームの話してるの楽しそうだし」

「そっか……うん。分かった」

 そして私は、アーサーと一緒にクラブハウスへと向かって行った。

 この日からまたルルーシュへの態度を以前に戻したのだけれど、

「? ねえ、ルルーシュ? なんか機嫌悪い?」

「別に。いつもと変わらないだろ」

「そう?」

 しばらくの間、ルルーシュの態度が変だった。何度聞いても答えてはくれなくて、後日お茶をした時にナナリーに問いかけると

「ふふふ。マーヤさんは本当に面白い方ですね」

 という奇妙な返事をされた。

「ナナリー? それってどういう」

「ただいま……って、お前は」

「おかえりなさい、お兄様」

「あ、おかえり、ルルーシュ」

「あっああ。ただいま、ナナリー……マーヤ」

 やたらと驚いた顔のルルーシュに声をかけるも、なぜかやたらと間を開けてぼそっと小声で名前を付け足されてしまった。

「ふふふ、良かったですね、お兄様」

「え? どういうこと?」

「だってお兄様、マーヤさんに会えな」

「そんなことよりナナリー。喉は乾いてないか? 入れて来よう。ああ、ついでにお前もどうだ?」

「じゃあ、ついでにもらおうかな」

 どうしてこう一言多いのだろうか、と思うも、これがルルーシュだと知っているので腹も立たない。それにこういう言動をするのは、私のことをある程度は信頼してくれているからだと気づいてもいた。

(まあ、だからってもう少し素直になってもいいとは思うんだけど)

 仕方がないなぁと思いながらも、ルルーシュの皮肉と穏やかなナナリーの空気に挟まれて過ごすこの時間が私は

(やっぱり好きだなぁ)

 ナナリーと二人で過ごすのも楽しかったけれど、ルルーシュも加わっての三人の空気をまた存分に味わえるのかと思うと、気が楽になった。

 

 

 

【誤解ほどけて】

 

 

 

『私、ルルーシュのこと、別に好きじゃないから』

 久しぶりに聞いた気がするマーヤの声に、思わず足が止まる。その先に続く言葉を聞きたいような、聞きたくないような。両極端の感情がこみ上げて、身体が上手く動かせなかった。

 マーヤはそんな俺のことなど知るはずもなく、淡々と言葉を続けて言った。

 どうやらマーヤと俺が恋人ではないかと疑われていたようで、マーヤはそれをひたすらに否定していた。

(関係が疑われているって、そういうことか)

 以前、アジトで聞いた話の本当の意味をようやく知る。そしていろいろと納得は、した。

 したが

――そこまで否定する必要はあったのか?

 疑問だった。

 たしかに俺たちはそういう関係ではないし、なるつもりもない。マーヤは俺の駒に過ぎない。

 だが、否定されすぎると、それはそれで複雑な心境になった。

 そんな風に考えていたのが悪かったのか。ある日クラブハウスに帰った時、ナナリーとマーヤがそこにいて、一瞬頭が真っ白になった。

「ナナリー? それってどういう」

「ただいま……って、お前は」

「おかえりなさい、お兄様」

「あ、おかえり、ルルーシュ」

「あっああ。ただいま、ナナリー……マーヤ」

 聞き慣れたナナリーの声と、聞き慣れた言葉。そこに加えられた聞き慣れたマーヤの声と、彼女からは聞き慣れないその言葉に、なんと返せばいいのか迷った。

 なんとか言葉を紡げば、マーヤが怪訝な顔をした。

(おかしかったか? い、いや! アッシュフォード家のものとはいえ、ここが俺の家であるのは間違いない。だから『ただいま』であっている)

 落ち着け。

 意識して深く息を吸い込み、そして吐き出す。よしっ、落ち着いた。もう大丈夫だ。

「ふふふ、良かったですね、お兄様」

「え? どういうこと?」

「だってお兄様、マーヤさんに会えな」

 ナナリーっ?

 一体何を言い出すのかと思ったものの、大声は出せない。

「そんなことよりナナリー。喉は乾いてないか? 入れて来よう。ああ、ついでにお前もどうだ?」

 なんとか遮ると、マーヤは俺の言い方に苦笑しつつ「じゃあ、ついでにもらおうかな」と言った。

 どうやらナナリーの言葉の意味は理解していないようでホッとする。

 あれは、数日前のことだ。

 

『おかえりなさい、お兄様』

『ただいま、ナナリー……って、このへしゃげた折り鶴……あいつが来てたのか?』

『はい。ついさきほどお帰りに……お兄様、残念でしたね』

『残念って?』

『この前も、その前もマーヤさんとお会いになれませんでしたし』

『ナナリー。俺とあいつは同じクラスだぞ? 学校に行けば会うんだ。わざわざ外で会う必要はないさ』

『そうですか?』

 ナナリーは可愛らしく首を傾げたが、俺はもうそれ以上何も言うつもりはなく、あいつの折り鶴を手にした。

 以前より大分成長した折り鶴だが、ナナリーのと比べると羽に変な皺が入っていた。

 相変わらず、慎重になりすぎて力んでいるらしい。思わず軽く笑う。

『…………』

『ん? ナナリー? どうかしたか?』

『いいえ……ふふ』

 なぜかじっとこちらをうかがっているナナリーに、今度首を傾げたのは俺の方だった。

 そしてナナリーもハッキリと答えはくれず、

『あ、そうです。聞いてくださいお兄様。マーヤさんが、私の願いの手伝いをしてくださるって』

 と話を逸らされた。

『それは』

『千羽鶴です』

――良かったら。ナナリーの千羽鶴の中に、私のも混ぜてもらっていいかな? ちょっとでも、役に立ちたいから。

 ナナリーが指さした先には、たくさんの折り鶴が置いてあって、そこには誰が折ったのか分かる作品も混ざっていた。

――まあ、不格好な折り鶴なんだけども。

 そんな風に恥ずかしげに笑うマーヤの姿が見えた気がした。

 

 どうやらナナリーは、あの日の出来事で、俺がマーヤが遊びに来るのを待っている、と勘違いしたままだったらしい。

 あとでまた誤解を解かないと、と思いながらお茶を入れる。

「そういえば、今日、久しぶりにスザクが生徒会室に来たんだけどね。アーサーが喜んで……スザクに噛みついてた」

「まあっアーサーったら」

 背後からは楽しげに話すナナリーとマーヤの声がする。

『ただいま』

 家に帰ってきたのだという安堵感が、なぜか急に込み上げてきた。

 

 

 

 




ここから矢印が発生する……のかもしれない!


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