前回の【ルル+マヤ】帰ってきた空間――ただいま、と素直に口には出せないけれどと微妙に繋がっています。が、見なくてもほぼ大丈夫です。
ゲームの話、とマーヤを呼び出し、シミュレーターの練習成果を聞いていた。
初めてでA+を叩き出したことも有り、やはり優秀だ。実力もどんどんと上がっている。あとは実戦だろう。
そろそろ動き出すべきか。
一旦話が落ち着いたので、先程購買で買ってきたジュースを飲んでいると、
「そういえばさ、ルルーシュってカレンのこと好きなの?」
「ぶっけほっ」
マーヤはとんでもないことを口にした。むせて、咳き込む。
「うわ、大丈夫?」
「だいじょ、って、おまえ、げほっ」
誰のせいだと睨みつけるも、せき込んでそれどころじゃなかった。
何もわかっていなさそうな顔をしたマーヤの手が優しく背中を撫でていく。しばらくそうしていてなんとか呼吸を落ち着いた。
「で、なんなんだ突然っ? 俺がどうして」
「えっと、ほら……以前、ここらへんでカレンとキスを」
「キっ? はあ? ま、まて! 何のことだ?」
誰と誰がキ、キ、キスをしただとっ?
聞き捨てならない言葉に、思わず詰め寄る。マーヤは不思議そうな顔をしつつも、説明を始めた。
「ちょっと前の話だけど、カレンの顔をこう手で掴んで」
「俺がそんなことをするはずが――あ」
マーヤが空中を掴むようなそぶりをしていて、俺は最初こそ否定したものの、思い出した。
『ちょっといいかな、ルルーシュ君? この間の電話のことなんだけど』
そう声をかけられたときがあった。その時、カレンの後ろにC.Cがいたため、そちらを振り向かせないように咄嗟に顔を掴んだ。
(あれを見られていたのか)
思わず額に手を当てた。
冷静に考えれば、たしかにあの姿勢を他者から見れば、角度によっては……はっ!
慌ててマーヤを見る。
「違う! してないぞ、俺はキ、キスなんて」
「えっと? う、うん。それは分かってる。見つめ合ってただけだよね……まあ、私もずっと見てたわけじゃないけど」
「してないぞ! 別にあの後、何もない! いいな? 勘違いするなよ」
淡々と語ろうとするマーヤの言葉を遮り、何もない、と前に一歩出つつ言い切る。
俺の勢いにマーヤがまばたきをする。
「わ、わかった、けど」
「けどだと?」
「ちょっとルルーシュ。どうしてそんな怖い顔してるの?」
何もわかっていないマーヤに「誰のせいだと」と文句を言いたくなる。
しかし今は、身構えておくべきだ。けど、に続く言葉に対して。
「好きでもなく、キスをしようとしたわけでもないなら、どうしてあんな姿勢に?」
「それは――っ」
マーヤはこちらを純粋な目で見返してきた。怒り、焦り、疑いなどは一切なく、純真な幼子のように「なぜ?」と聞いてきている。
好奇心もあまり見えない。ただ日常会話の延長上で「ああ、そういえば」と気軽に話しているようだった。
ちょっとは焦れ、と怒鳴りたくなった。こちらばかりが動揺させられている。
(いや、そもそもなぜ俺はこんなにも焦っているんだ。焦る必要などないというのに。
そうだ。落ち着け)
馬鹿らしくなってきた。肩の力を抜き、息を吐きだす。
「はぁ。あの女のせいだ」
「あの女って……もしかして?」
「もしかしなくても、だ」
ここは学園内だ。念のために名前を伏せたが、それでもマーヤは察したらしい。C.C、と声を出さずに口を動かしていたので、頷く。
そこで詳しく状況を説明した。
マーヤは「なるほど」と頷き、納得したようだ。
「そう」
頷いた彼女が目を伏せる。まつげが白い肌に影を落とす。
「? おい、どうし」
「あ! 会長に呼ばれてたの忘れてた。ごめん、ちょっと行ってくる」
「お、おいっ?」
冷静に説明し、マーヤも静かに納得したように見えた。しかしどこか沈んだようにも見えた。
待てと伸ばした手が空気を掴む。あの長い髪の一房すらつかめず、マーヤはあっという間に姿を消した。
「一体何なんだ」
何かおかしなことを言ったかと自分の言動を振り返るも、最初こそ動揺したものの、その後は落ち着いて話せたはずだ。
何もおかしくはないはずなのに、俺を落ち着かなくさせるのは
『そう』
納得の言葉を紡いだマーヤの目が、どこか寂しそうだったからだ。
「くそっ、本当に面倒な契約者だ」
髪をかき混ぜ、小さくぼやいた。先程の表情が目に焼き付いて、やたらと胸がざわつく。
――ああ本当に、面倒だ。
いろいろと無鉄砲なことをするのでそのフォローはしなければならないし、妙な勘違いを起こすし、俺を慌てさせる言動が多いし……。
だというのに
(どうして俺は、ギアスを使って契約を解除しなかった?)
面倒なら、俺にはギアスという最強の方法があったのだ。なのにそうはせず、黒の騎士団を作り、そこにマーヤも入れさせた。
もはやマーヤが騎士団を抜けるのも、ゼロとの関係を変えるのも難しい。……不可能ではないが。
「チッ」
結局答えは出てこず、マーヤが消えた先から目線を外した。
***
別に当然の話だった。
(まあ、考えてみれば私とルルーシュは出会ったばかりだし、信用はあまりないよね)
あの日。シンジュク事変と呼ばれるようになったあの日から、もう数年経ったような感覚があるものの、実際は数か月程度。
そんな程度の付き合いしかない相手に何もかもをさらけ出せるかと言うと、難しいだろう。自分だって彼に告げていないことがある。
頭では理解しているが、それでもショックは受けたのだ。
――C.Cという存在のことを『すぐに』聞かされなかったという事実に。
ゼロの正体を知っている存在、というのは自分たちにとって大きな問題、のはずだ。そしてあの『カレンとルルーシュのキス疑惑』の日にはすでにC.Cとルルーシュには関係性があったというのに、それからもしばらく聞かされないまま過ごしていた。
教えてくれたキッカケすら偶然。地下のシミュレーターで出会ったからで、彼自身の意志で教えてくれたわけではない。
信頼されていれば、もっと早くに教えてくれていたはずだ。実際に顔を合わせるまではいかなくても、そういう存在がいる、と話してくれるくらいは。
(他にも隠してることありそうだなぁ……まあ、契約者とはいえ秘密にしたいことはあるから仕方ないんだけどね)
「はぁ~あ」
自分でも意外なほどに、ショックだったらしい。思わず深々と息を吐きだし、壁にもたれかかった。
昼休み。なんとなくルルーシュたちと顔を合わせたくなくて、学園の奥へと来ていた。
サボる時によく使っていた場所で、ほとんど人は来ないし、学園を覆う壁と植えられた木々のお陰で周囲の目も気にならない。
だから人目を気にせずにいたのだけれど
「大きなため息だね」
「ッ」
誰も来ない、と思っていたのに突然聞こえた声に慌てて顔を上げると、
「やぁ、マーヤ」
「スザク? あれ、今日って」
「うん。ミーティングだったんだけど、早く終わったんだ。そしたら君を見かけて……すごいね、ここ。こんなところがあったんだ」
こちらが驚きでろくな返答が出来ない中、スザクは感嘆とした顔をして木々と壁に囲まれたこの場所を眺めていた。
なんてことはない顔をして「隣、座っても?」と聞いてくるので「え、ええ」と頷いてしまった。
「それで? 何かあった?」
そしてスザクは、やはりなんてことはない、なんて顔のままに優しく問いかけてくる。
スザクは私たちの敵に所属している。けれど彼個人を憎む気持ちは私にはないし、彼が内側から変えたいと心から願い、努力しているのを尊敬してもいる。
だけど今一歩、踏み込めないでいた。苦手な意識がある。
日本人として誇りを持ちつつも名誉ブリタニア人として正々堂々と生きるスザクは……私には、眩しすぎたから。
どう答えるべきかと考えていた時、木々の合間から光が差し込んだ。その光に照らされたスザクが本当に眩しく見えてしまい、思わず笑ってしまった。まるで後光だ。
「マー、ヤ?」
「あ、ごめん。ちょっと日の光が眩しくて」
眩しかったら笑う、というのが奇妙な話だとは分かっていたけれど、嘘ではない。
スザクも奇妙さに気づきつつも嘘ではないことに、戸惑った顔をしていた。
学生服を着てそういう表情をさせていると、どこにでもいる学生に見えた。
(そう、だよね。スザクは、スザクだ)
少なくとも、学園にいる間のスザクはただの学生に過ぎない。ただの、優しい男の子だ。
日本人だとか、名誉ブリタニア人だとか……そういう考え方が、この時ばかり少し薄まって、
「最近、自分の信用度が低いことに気づいてさ。地味にショックを受けたんだよね」
気づくと、話し始めていた。
***
予定より早く特派のミーティングが終わり、午後からだけでも授業を受けようと登校する。
門をくぐるとわくわくした。授業はついていくのが大変だけど、何よりも皆に会えるから。
「今はお昼休み、かな。ルルーシュたちは……って、あれは」
長い黒髪が見えた。
同じ髪型の女生徒も多い中、目が惹かれたのはその持主が
「マーヤ?」
同じく生徒会に所属している学友であったからだ。
『そんなんじゃ落ちないよ』
落書きをされた体操服を洗っていた時、そう声をかけて一緒に洗ってくれたのが彼女だった。
ブリタニア人の学校に自分が通うことの意味を知った上での学校生活だったから、腫れ物扱いされることや嫌がらせに僕はあまりショックではなかったけれど、それでも寂しさはあった。そんな寂しさを払しょくしてくれたのが、マーヤだ。
僕が日本人で、名誉ブリタニア人で……クロヴィス殿下殺害の容疑者となったことも、全部知ったうえで話しかけてくれた優しく真っ直ぐな女の子。
彼女は「人種で相手を攻撃するのが好きじゃない」と言っていた。
凄いな、と素直に思った。けれど彼女は
『ううん。私はただの――卑怯者』
そう寂しそうに笑っていて……それがずっと、気になっていた。
ひょんなきっかけで生徒会に入ることになり、そしてそこにはマーヤも所属していて、よく話すようになった。
マーヤはリヴァルのように話を盛り上げることも、会長やルルーシュのように話題の中心になることもなかったけれど、驚いたり呆れたり、笑ったりとよく表情を変えていて楽しそうに過ごしていた。
でも、ずっと気にはなっていた。マーヤはどこか遠慮がちだった。僕たちとの間に線を引いているような、そんな風に見えた。
そして今日、一人でどこかへ向かっているマーヤは様子がおかしくて……気がつくと追いかけていた。一人にしてはダメな気がしたし、それとは別に単純に自分が知りたいとも思った。――彼女が引いた線の内側は、どんな世界なのだろうかと。
追いかけて行った先は今まで来たことがない場所で、木々と壁に囲まれた静かな空間だった。
マーヤはそこに座り、さきほど見かけた時と同じ表情をしていて、深いため息をついていた。卑怯者だと語った時と同じ顔をしながら。
「大きなため息だね」
「ッ」
一瞬泣いているのかと思ったけれど、顔を上げたマーヤは驚いてはいるものの泣いていた気配はない。
(あ、またこの顔だ)
自分が誰であるかを知った後、マーヤの存在を遠くに感じた。マーヤが線を引いたのが分かる。僕とマーヤの間に、見えない線がある。
なんとかそれを乗り越えたいと、そう思って声をかけて隣に座り、さあどうしようかと思ったものの、自分にはルルーシュのように回りくどい言い方は出来ない。素直に聞いてみた。
「それで? 何かあった?」
ちょっとどきどきしていた。おせっかいな、って怒られるかもしれない。より拒絶されるかもしれない。
考え込むようにしていたマーヤがこちらを見て眩しそうに目を細め……そして不意に笑った。
どきりとした。
「マー、ヤ?」
「あ、ごめん。ちょっと日の光が眩しくて」
くすくすと笑うマーヤに驚くと、日の光が眩しい、と言われた。返答としてはおかしい気もしたけれど、嘘をついている気配はない。
どう反応したらよいのか分からなくて、言葉が出てこない。
(君は、こんな顔をして笑うんだね)
それは初めて見たマーヤの笑顔だった。笑った顔なら今までも見てきたのに、それらとは違った。
なぜかは分からないけれど、今のマーヤと僕の間に線は引かれていない、もしくはとても薄くなっている。
心臓がとてもうるさかった。
知りたいと思っていた線の内側に入れた興奮。想像以上に……可愛らしい笑顔。
「あ、と」
「最近、自分の信用度が低いことに気づいてさ。地味にショックを受けたんだよね」
言葉に詰まっていると、マーヤが淡々と話し始めた。そこには最初に見た寂しさはもうなくて。木漏れ日が差す中で微笑むマーヤはとても綺麗で。
正直、マーヤの話をすべて理解はできなかった。頭が他のことに取られすぎて。
理解できたところは
「つまり君はその人の言葉で傷ついてしまった?」
「そうね。正確に言うと私が勝手に傷ついた、だけどね。向こうにそんな意図はなかったはずだから。
それに」
「それに――?」
僕としては少し不満だった。マーヤが傷つけられた立場だというのに、自分の方が悪いと言い切るから。
でも、マーヤはこう続けた。
「もっと信用してもらえるように、私が頑張ればいいだけだしね」
きっぱりと、すがすがしく言い切る姿に僕はぽかんと口を開けてしまった。
そして、笑う。
「君は真っすぐな人なんだね」
やっぱり思っていた通りだったと、それが嬉しくて。
マーヤは驚いた顔をして、それから「ふふ」と口元に手を当てて笑った。……線はもう見えない。
「前にも言わなかったっけ? 私はただの卑怯者だよ」
以前と同じ単語がマーヤの口から出たけれど、その顔は笑っていた。
「そうかなぁ?」
「そうよ。だって今も『私はご飯食べたけど、まだ食べてないだろうスザクの昼食の時間をこのまま会話で押し切ってやろう』って考えてるくらいだから」
「えっ? って、うわっ今何時?」
一瞬何を言われたか分からなくて……それから慌てて立ち上がると、マーヤがくすくす笑いながら立ち上がる。
「大丈夫。まだ食べる時間はあるから安心して……でも購買は売り切れてるかもだけど」
「あー、じゃあ、外に買いに」
「行ってたら午後の授業遅れちゃうよ?」
ルルーシュたちと食べようと思っていたのでたしかに何もお腹に入れていなくて。購買は時間との勝負。今から行ってもろくなものは残っていないだろう。
それでも何か食べれるものを少しでもと思っていたら、マーヤが立ち上がってスカートの汚れを払っていた。
「じゃ、行こうか」
「え? どこに?」
「購買」
売り切れているだろう、と言った本人なのに行き先が購買とは。
首を傾げると、マーヤがイタズラっ子みたいな顔をした。
「ちょっとね。伝手があるの。たぶん、何とかしてくれると思う」
たぶんね、と話しているうちに自信を失くしていたけど。
結果として、マーヤのおかげでお昼ご飯を食べることができた。むしろ、いつもより豪勢かもしれない。
マーヤは購買の人と仲がいいらしい。彼女の友達が困っているなら、とおまけつきでくれたのだ。
『もしかして彼氏かい?』
なんて間違われたのはちょっと困ったけど。
「ほら、やっぱり君は真っすぐな人だよ。結局僕に立派な昼食食べさせてくれてるし」
「それはただのお礼。スザクのおかげで吹っ切れたから」
「……僕は何もしてないよ?」
ちょっと凹みつつ首を傾げる。姿を見かけて追いかけて、声をかけたはいいものの、落ち込んでいた彼女は自分で復活した。
でもマーヤは「そんなことないよ」と首を振る。
「だってスザクは何事にも一生懸命で……とっても頑張ってるもの」
「っ」
――だから、ありがとう。
「その、ますます意味が分からないんだけど」
「でしょうね」
「でしょうねって……マーヤ、僕のことからかってる?」
「あ、ばれた?」
「うぅ。君って……結構ひねくれてるところあるんだね」
「あれ? 真っすぐなんじゃなかったっけ?」
面白がるように笑っているマーヤは、どこか友達に……ルルーシュに似ていると思った。
「真っすぐだけど、ひねくれてる」
「ふふ、なあにそれ」
笑うマーヤを見て、その笑い声を聞きながら、僕はゆっくりと昼食を食べた。
ただそれだけのことなのに、とても……とても記憶に残る時間だった。
***
昼休み。先ほどの話をしようと考えていたというのに、マーヤはあっという間に教室を出ていき、行方が分からない。
携帯に連絡すればいいのだが、そこまでするほどかと思うと気が引けた。
そう悩んでいるうちに昼休みは過ぎていき、教室へと帰る途中。廊下の窓から親友の姿が見えた。
(まったく。あいつ、どこに……ん? あれはスザク? 軍のようがあるはずじゃ……って、隣にいるのは)
スザクの隣には髪の長い女子生徒――マーヤがいた。
マーヤとスザクは歩きながら何やら楽しげに話し合っている。別に二人が誰かと笑い合っているのは見たことがあるが、「違う」と気づく。
スザクがと言うよりは、マーヤの様子が違った。
(あいつは生徒会を楽しんではいるが、同時に緊張もしていた。だが、あの笑い方は)
俺と話す時の雰囲気に似ていた。
「…………」
なぜか、胸が苦しくなった。
「ルルーシュ? 聞いてるか……って、何見て、あ、スザクじゃん。今日は用事って言ってなかったか?」
「そうだな」
「早く終わったのかな。良かったぁ。今日、会長に力仕事任されてたからさ、俺」
「ん? 俺は何も聞いてないが」
「まあ、お前はさ。うん。それより」
「おいっ話を逸らすな」
「なんかスザクとマーヤって仲いいよな」
「!」
リヴァルが放った一言が、やたらと大きく聞こえた。どくんっと心臓が太鼓のように音を立てる。
「そうか?」
「生徒会に入る前からの知りあいみたいだし」
「知りあいと言っても、少し話した程度らしいがな」
「でも生徒会でもよく話してるし」
「そう、だったか?」
首を傾げる。リヴァルに言われて記憶を振り返ってみると、たしかにスザクとマーヤはよく話している、気がした。
と、嫌な気配を感じて意識をリヴァルに戻すと、それを待っていたと言わんばかりに彼はにやりと笑った。
「おやおや? もしかして二人の仲が気になるのかな、ルルーシュ君? 焼きもちってやつ?」
「なっ、誰が」
「まあ、そうだよな。ないよなー、お前に限って」
驚きの声を上げたところで、リヴァルは興味を失くしたようだった。
――俺に限ってない、とはどういう意味だ?
妙な疑いをもたれなかったのは幸いだが、意味が気になった。
とはいえ、意味を問えばまた先ほどの話題になり、疑いが深まるのは間違いない。
(あいつは、誰かとそういう噂が立つの、嫌そうだしな)
以前に俺との関係が疑われた時、あいつはそれを避けるために俺と距離をとることがあった。
おかげで学校で話し合いをし辛くなり、ナナリーも寂しがった。
それで大きな支障があるわけではないが、あいつには訓練や黒の騎士団の任務に集中してもらいたい。余計な思考は排除すべき、だ。
『ルルーシュのことは(恋愛対象として)好きじゃない」
『1ミリも(恋愛対象として)考えたことはない』
『スザクとルルーシュがつき合う方が確率が高いくらいに、私とルルーシュ(がつき合うこと)はありえない』
以前、偶然に聞いてしまった会話の内容(俺と関係が疑われた時、否定するために述べていた)を思い出し、なぜか肩が重くなる。
というよりあいつも何もあそこまで否定しなくても……そもそも冷静に考えると、そういう風に勘違いさせていた方が二人きりで話し込んでいても問題ない、というメリットもある。そうだ。むしろそちらの方が便利じゃないか?
(ただ便利なだけで別に他意などないが)
黒の騎士団内でのC.Cと俺の関係も『愛人』などという噂にまかせているが問題はない。
そうだ。この際、マーヤにもそういう提案をしてみるか? そうすれば
(俺とマーヤがこっ恋人だと疑われていれば、スザクもあいつに近寄らない……いや、なぜここでスザクが出てくるんだ)
頭が混乱している。落ち着くために深呼吸をする。
ふと目を窓へと向けると、もうスザクとマーヤの姿は見えなくなっていた。
「とにかく教室へ行こうぜ。遅刻する」
「あ、ああ」
促されて止めていた足を動かす。
しかし頭はずっとこの問題について考えており、放課後に至った結論は
――たしかにマーヤと俺が、その……恋仲だと疑われるのは、この学校の中では注目を浴びる上に、絶対に会長にからかわれるので面倒だからなしだな。
決して俺が恥ずかしいからではなく。
(ん? そういえばマーヤはもしもそうなった場合……照れや羞恥心は覚えるのか?)
以前の会話では冷静に否定していたイメージだが、もしも照れたならば。
頬を赤く染め、恥ずかしそうに目線をさまよわせるマーヤを想像してみる。
「うっ」
なぜか胸が苦しくなり、途中で止めた。これは危険だと思った。
「ごめん、ルルーシュ。書類についてちょっと聞きたいことが……って、どうかしたの?」
「っ?」
目の前に今まさに考えていた顔が突然現れて思わず一歩退く。目を大きく見開き驚いている目の前にいるマーヤに、先ほど想像していた頬を染めた彼女の姿が重なり、一瞬と言わず言葉が出てこない。
「ど、どうした?」
頭を横に振ることでなんとか想像を振り払い、しかし出てきた言葉はそれだった。マーヤが呆れた顔をする。
「どうしたはこちらのセリフよ。大丈夫なの?」
「問題ない。ちょっと考え事してただけだ。それで?」
考え事と言えば、怪訝そうにしつつも納得はしたようだ。黒の騎士団のことについて考えていた、とでも思ったのかもしれないが、今はそれが好都合だった。騎士団内のことについてはマーヤにも秘密のことも多いから、きっと深くは聞いて来ないはずだ。
まさか
(お前のことを考えていた、など言えるはずもない)
こうハッキリ矢印が出ていない話もいいですよねぇ