(執筆時はまだ本編での登場なし)
そして今まで学校に馴染めないなかったのに、急に馴染めるはずもないよね、という話。
うちのマーヤちゃんにはサボリ癖があるという話。
メインはスザク。そこにルルーシュが付随。でもまだ矢印までは行かないかなぁ、という話。
「あれ? マーヤは? 一緒じゃないの?」
リヴァル、ルルーシュと一緒に生徒会室に向かうと、すでに来ていたカレンやシャーリーの姿が見え、奥の方から顔をのぞかせた会長が不満げな顔をした。
カレンとシャーリーが肩をすくめた。
「だから言ったじゃないですか。そろそろ病が出るって」
「まったく。マーヤったら、時折ルルみたいなことするんだから」
「え、病?」
僕は何のことかと驚くけれど、話を聞いたルルーシュとリヴァルは「あ~、あれが出たか」と納得した顔でいつもの席へと座った。
「スザク、何を今更驚いているんだ。あいつのサボり癖は今に始まったことじゃ?」
「え、サボリって、誰が?」
「だから……ん、もしかして、知らないのか?」
知らない。
そう頷くと、ルルーシュだけでなくその場の全員が驚いた。そんなに有名な話らしい。少なくとも、生徒会のみんなにとっては当たり前のことのようだった。
「え、マーヤがサボり魔……?」
それは僕が知っている彼女とはまるで違う話で、嘘でないかと疑ってしまった。
僕が知っている限りで彼女は朝早くから学校に来ているし、授業も寝たふりをしているルルーシュたちと違って真面目に受けているし、成績もいいし、生徒会での仕事も。
「そうなのよねー。態度はまじめなんだけど。最初は本当に学校に来てなかったの」
「最初は俺も同じクラスだって知らなかったしな」
「むしろなんでサボリのこと知らないのかしら?」
「ん~、あ! 偶然、マーヤがサボった日はスザク君も仕事だったのかな?」
「今までずっとか? それはまたすごい偶然だな」
「でもたしかにマーヤがいない時ってスザクもいなかったかも」
皆が口々に話していく。僕は知らなかったけれど、生徒会に入るまでのマーヤは学校に馴染めていなかったそうだ。なんだか意外だった。だって彼女は、ナンバーズだとかで差別せずに僕に話しかけてくれたから。
「でも不思議よね。あの子、人と話すのが苦手って感じでもないみたいなのに」
「たしかに……私の話もよく聞いてくれるし、誰かさんと違って気が利くし」
「賑やかなのが特別嫌ってわけでもなさそうだしなぁ」
「いじめ……とかもないし」
「そうだな。むしろ、あいつのことを知っているクラスメイトは遊びに誘っていたみたいだしな」
なんでマーヤが自ら孤独を望み、学校に来なかったかは誰も知らないようだった。
リヴァルがこちらへと目線を向けて補足してくれる。
「でだ。最近は学校に来るようになったし、授業もうけてるんだけどな?
時折ふら~っとどっか行っちまうことがあるんだよ」
「俺らはサボリ病とかサボリ癖とか呼んでいるな」
「私はちょっと心配なんだけど、サボった後は普通に元気そうだから、その話題振るのは避けてるんだよね」
「そうね。何も言ってくれないのは、ちょっと寂しいけど」
マーヤは基本真面目に登校し、真面目に授業を受けているものの、時折何も言わずにどこかへ行ってしまうようだ。
たしかにちょっと心配だ。けど本人が普通にしているなら聞きにくいのも分かる。
「ま、大丈夫だろ。それより会長。この予算についてなんですけど」
ルルーシュが肩をすくめて話を変えた。
(この様子を見ると、ルルーシュはなんとなく理由を察している、感じなのかな)
自然に見えるそんなルルーシュの様子に少し違和感を覚えていると、彼の手が首に伸びた。
あの合図は。
どうやらやはり、何かは知っているらしかった。
生徒会での仕事がひと段落してから屋上へ行くと、ルルーシュが待っていた。
「時折息が詰まるような感じがするらしい」
「えっ? それは――」
「ああ。勘違いするなよ。別に学校で過ごすのが嫌だとか、生徒会が嫌いだとかそういうわけじゃない……らしい」
ルルーシュが肩をすくめて断定の口調をやわらげた。
たしかに学校で見かけるマーヤは楽しそうだ。あれは嘘ではないと思う。
でも時折、マーヤ自身でもどうしようもないほどの感覚がこみ上げ、気づくとふらふらとしてしまうとのこと。
「それは……でも、大丈夫なのかい?」
やはり心配になってしまう。本人も自覚していないところで負担に感じていることがある、ということだ。あまり健全とは言い難い。
ルルーシュが肩をすくめた。
「元々学園に馴染めていないところに、急にほぼ無理やり生徒会に放り込まれたからな。環境の急激な変化に追いついていないんだろう」
「ルルーシュ」
「だから、お前も気遣ってやってくれないか?」
仲が良いだろう?
そう言われたことに「え?」と声を上げてしまう。僕が驚いたことにルルーシュが怪訝そうな顔をした。
「あいつとよく話しているだろ?」
「そう、かな? アーサーのことを頼んでいるのはあるけど、むしろ君の方が仲がいいじゃないか」
僕が軍の用事で学校に来れない時にはアーサーをよろしくと言ってはいるし、アーサーのことで話しかけたりはするけど。
むしろルルーシュと一緒に良くいるのを見かける気がする。
ルルーシュは、しかし眉間にしわを寄せた。
「俺は……あいつとはゲームの話しかしないからな」
それ以上のことに干渉はしていない、と不満そうな彼の顔にさらに驚いた。すごく苛立っているかのような、寂しそうな雰囲気を感じ取る。
「もしかしてルルーシュ、君はマーヤのことが好きなのかい?」
意外に感じて聞くと、ルルーシュは一瞬何を言われたか分からない顔をした。そして、一歩退く。
「はぁっ? どうしてそうなるっ?」
「だってマーヤが頼ってくれないことが不満で、本当は僕に任せたくないんじゃ」
「そんなこと誰も言っていないだろう? 俺はただ、友達としてあいつと仲がいいお前に、だな。
違う、断じて違うからな!」
大げさなくらいに強く言いきられ、ひとまず分かったと返す。
「とにかくっだ。あいつはどこか危なっかしい。気にかけてやっておいてくれ」
――それだけだ。それ以上の意味はないからな!
念を押された。僕の脳裏にはシャーリーのことも思い浮かんで、なんとも言えない気持ちになる。ずきり、と胸の奥が痛む。
たしかに『まだ』好きというほどではなさそうではあるものの、『気になる』相手ではあるようだ。
「うん。もちろんだよ。マーヤは僕にとっても大切な友達だから」
日本人だと知ったうえで話しかけてくれた女の子。
その身を案じる気持ちに嘘偽りはない。
力強く頷くと、ルルーシュはやはり複雑そうな顔をするのだった。
***
ぶらぶらと町を歩く。目的地は特にない。
「あ……生徒会、さぼっちゃった」
少し気分転換したらすぐに戻るつもりであったのに、気がつくともう日が暮れていた。
家に帰らないと。
思うのに、足は違う方角へ向かっていた。
――どうして陽菜たちを守ってくれなかったの?
声が頭の中で響いて止まらない。
偶然。
本当に偶然、租界で再会したゲットーの知りあい。彼女の泣きながらの、縋り付きながらの声が……何度も、何度も頭の中で響く。
掴まれた手首が冷たい。
(何も、言えなかった)
彼女は泣いて、叫んで……最後は私に謝罪して、再びゲットーへと帰っていった。
「謝る必要なんかないのに」
私が無力だったからだ。もっと慎重にルートを考え、地上の動きも把握していれば。
「ッ、ぁ」
分かっている。
どう頑張っても当時の私にできることは何もなかった。ナイトメアに乗ったとしても、守るのは難しい。コックピットは広くない。子供とはいえ3人も入らないし、彼らに自力で歩かせては脱出に時間がかかるし、あの包囲網を抜けられるとは思えない
そもそもナイトメアに乗っていては目立つ。子ども3人を保護したまま無事に脱出できたとは思えない。
そして私があの日、陽菜たちに会いに行かなかったとしても、結果は同じだろう。死因が異なるだけだ。
だからこそ、私は彼女に何も言えなかった。
「私が、弱いから」
答えはただ一つ。それだけだから。
今は黒の騎士団に入った。ナイトメアも手に入れた。訓練もしている。手にマメだってできた。
両手を見下ろす。小さい手だ。とても小さく、頼りのない手。
(今の私なら……ううん。変わらない、か。ゼロならばともかく、私には……幼い子供3人を救い、安全な場所へかくまうことすら難しい)
一時、あの戦いから守れたとしても、その後は? ずっとあの租界の家に? クラリスさんにさらに迷惑をかけ続けるの?
――私は何も変わっていない。
日本人か、ブリタニア人か。その前に、私が無力であることは、何も変わっていないのだ。
「マーヤ?」
ふと声をかけられ、振り返る。そこには学園の同級生、枢木スザクがいた。
***
ルルーシュとマーヤについて話をしてからしばらく経った日のこと。
その日は軍で一日を過ごし、帰る最中だった。
明日は軍の方は休み。つまり学園に行けるとあって、早く帰ろうと急いでいた。
「そういえば明日提出の宿題が……どこまで終わってたっけ」
そんなことを思い出せばなおのこと焦りが募る。けど同時に、楽しみでもあった。
(久しぶりに皆に会える)
ルルーシュ、ナナリー、リヴァル、ミレイ会長、シャーリーにカレン、ニーナ……そして
視界を見慣れた長い黒髪がよぎった気がして足を止める。見間違いかと思った。
なぜならここは……租界の外れ。少々治安が悪い場所だ。そんな場所にいるはずのない存在だからだ。
しかし、そこにいたのは間違いなく見知った顔だ。服は私服で、見慣れないものだったものの、間違いない。
「マーヤ?」
呆然と、ただ立っているだけに見えた彼女の名を呼ぶと、彼女はゆっくりとこちらを向いた。
「す、ざく?」
マーヤは自分を認識すると名を呼び返してくれたものの、それだけだった。ぼうっとしたように青い目が向けられる。様子がおかしい。
――とにかくっだ。あいつはどこか危なっかしい。気にかけてやっておいてくれ。
親友の言葉が頭に浮かび、思わず駆け寄る。
「どうしたんだい? 何かあっ……いや。とにかく、ここは危険だから――っ?」
慌てていた。どうしたら良いのか分からなかった。でもとにかく彼女を安全な場所に連れて行かなくては、とその手を掴もうとして、逆に袖を掴まれる。
振り払うことがあまりにも簡単なほどに、本当に軽い力しかこめられていなかったけれど、動けなくなった。
マーヤが僕の胸に額を当てる。触れているか、いないか。ぎりぎりなくらいで。
「マーヤ?」
「ごめん。ちょっとだけ、このままでいて」
強く体重をかけられたわけでも、強く掴まれたわけでも、強い口調で言われたわけでもないのに、動けなかった。
何か言いたくなって口を開いたけれど、何を言えばいいのか分からなくて口を閉じた。
掴まれていない腕で抱きしめた方が良いのかと一瞬思ったけれど、それも止めた。
マーヤは、そのどれも求めていない気がした。彼女が自分に求めているのは『何もしないこと』だ。言葉通り、このままでいること。
(もしもここにいたのがルルーシュなら、マーヤは何かを求めたのかな?)
マーヤを抱きしめているルルーシュの姿が頭に思い浮かぶ。
その光景はとても自然なものに思えて……妙に胸がざわついた。
***
「家まで送るよ」
スザクはきっと、いろいろなことを聞きたかったと思うし、言いたかったと思う。
けれど何も言わずにいてくれて、そうして私が体を離した後はいつものように笑って優しくそう言ってくれた。
申し訳なくて断ろうと思ったけれど、「こんな時間に女の子を一人で帰すわけにはいかないから」と頑として言われ、一緒に家までの道を歩いている。
「なんだか不思議」
「え?」
「まさかあの枢木スザクとこうして町を歩いてるなんて」
「あはは……ごめん。逆に目立つよね?」
「ううん、それはいいんだけど……サングラス似合わないね」
「う」
変装のためにサングラスをかけたスザクがうめいたので、「冗談だよ」と笑う。
しかし本当に不思議だ。
(生徒会で慣れた感覚してたけど、改めてあの枢木スザクと知りあい、だなんてね)
あまり良い意味ではないが、スザクの名前と顔を知らない者はいない。でも
「皆、知らないんだよね」
「え?」
「スザクが、こんなにもまっすぐで優しい男の子だってこと」
知らないから、好きに言うのだ。彼の苦悩を想像もしないで。
「えっと、その……ありがとう。そういうこと言ってくれるのは、君と、ナナリーくらいだよ」
スザクは最初否定しようとしていたみたいだったものの、最後は照れた様子で言葉を受け取っていた。
「そうなの? ルルーシュは?」
「お前は馬鹿だって言われる」
「あはは、たしかに。ルルーシュなら言いそうね」
会話しながら歩いていると、あっという間に家の前だった。
「ありがとう。じゃあ、スザクも帰り気を付けて」
「うん」
そのまま手を振って、彼に背を向ける。そしてまた、私はいつもの朝を迎えるのだ。
「マーヤ!」
「え?」
「僕は、君のことを友達だと思っているから」
声に振り返ると、先ほどまでとは違う。真剣な……いや、どこか必死に見える表情をしたスザクがいた。
「大切な友達だって、思ってるんだ」
それはずっと言いたいことを飲み込んだ末に出てきた、スザクなりの励ましの言葉だったのだろう。
「ありがとう。私も、そう思ってるよ」
「っ」
だから余計なことは何も考えず、素直に嬉しく思えた。自然と笑えているのを自覚する。
「なのでそんな友達に忠告しておくと、明日の宿題、提出できなかったら大変みたいだよ?」
「うっ」
帰宅中の会話で明日学校に来れることを聞いていたのでイタズラっぽく笑って続けると、スザクが胸を抑えた。
やはり出来ていないらしい。くすくすと笑う。
「明日、早く来れるなら教えてあげられると思うけど」
「っ! いいの?」
「いいよ。私、いつも早めに登校してるから」
そうして明日の早朝、教室で会う約束をした。
その日をきっかけに、スザクと早朝の勉強会をするようになった。
「って、ルルーシュ? こんな朝早くからどうしたの?」
「べつに。今日はたまたま朝早く目が覚めただけだ」
「ふーん? なんだか不機嫌そうだけど……ナナリーと喧嘩でもした?」
「するわけないだろう?」
「……まあいいか。そんなことよりスザク、そこ間違ってるよ」
「え、どこ?」
「ここ。ここの計算が――って、ルルーシュ? なんか凄い怖い顔してるけど、本当にどうしたの?」
「別に」
「……ルルーシュ、君、やっぱり」
「違う!」
「うん? なんの話?」
「なんでもないよ」「なんでもない」
「?」
時折そこにルルーシュが入ると、会話がよく分からないものになるけれど。
ゲーム本編だとサボりの常習犯になってますけどね!
執筆当時は真面目そうだったんだ……。
あと、女の子たちはむしろマーヤちゃんに感謝してたけど、責める人もいるんだろうなぁとか思うと、なんとも言えない気持ちになった。