第4章での玉城の「ゼロのお気に入り」という発言より。
また、ロスカラでの一幕を流用しております。
【ルルマヤ】ゼロのお気に入り
「ん、マーヤ。今から学校に戻るのか?」
「扇さん、はい。生徒会に呼ばれていて……何か?」
「じゃあゼロに一声かけるよな? 良かったらこの書類をゼロに届けてくれないか?」
「ゼロに? まあ、一声かけようと思っていたので、別に良いですけどなぜ?」
「いや、その。邪魔しちゃ悪いし」
扇さんに声をかけられ、書類を示される。どこか気まずげな顔をしていて、どうしたのかと思ったもののついでなので構わないと受け取った。
そしてゼロの元に行き、学園に向かうことを言いながら書類を渡す。部屋にはC.Cもいた。
「受け取っておこう。助かる。しかしどうして扇が来ない?」
「よく分からないんだけど、『邪魔しちゃ悪いから』って」
私の話を聞くと、C.Cが「ハっ」と不機嫌そうに笑った。目線を送ると、
「気にするな。下種の勘繰りというやつだ」
「えーっと……ああ。あなたが『ゼロの愛人』っていう?」
「ぶふっ」
少し考えてから納得すると、なぜかゼロがむせた。どうしたのかと今度はそちらへ顔を向け……る前に肩を掴まれた。ちょっと痛い。
「違うからなっ? 俺とこいつはまったくそういうのでは」
「え? う、うん? ええ。分かってるよ? どうしたの? 口調が」
あまりにもすごい勢いで否定してくるゼロにまばたきをする。二人がそういう関係でないことはよく知っている。そして二人が面倒くさがって敢えて否定していないことも。
(なのにどうしてゼロはこんなにも慌ててるの? もしかしてこの単語には何か他の意味合いが?)
「え、ああ、いや……ごほんっ。お前までくだらん噂に迷ったのかと思ってな」
「まさか! それに、もしもそうだったとしても何も変わらないし」
「うぐっ! か、変わらない」
「ゼロ?」
本当に今日のゼロは様子がおかしい。最近生徒会でも忙しかったし、疲れているのだろうか。
「私はこれから生徒会に戻るけど、あなたはすぐ休んだ方がいいんじゃない?」
「……そうだな。今日は休むとしよう」
「ええ。じゃあ、また明日」
「ああ」
手を振ってから部屋を出る。そして、考えた。
(あんなに慌てるってことは、もしかして……好きな人でもいるのかな? やっぱりシャーリー? それともカレンかな?
いや、会長とも仲良さそうだし……はっ! もしかして……咲世子さんとか?)
できればシャーリーの恋が実って欲しいけど、こういうのは当人同士の問題だ。だけどそれでルルーシュの調子が乱れるなら、うーん?
「ま、私が悩むことでもないか」
本格的に体調不良になるようなら考えよう。
***
「ふっ、良かったじゃないか。あいつには勘違いされていなくて」
閉まったドアをなんとも言えない気持ちで見つめていると、背後からC.Cの声がした。どこか楽しそうな響きがある。
ジロリと睨みつけると、その目にからかう輝きが見えて舌打ちする。
「いやむしろ、勘違いされて動揺された方が良かった、か?」
「――なんのことだか分からんな」
内心、全くその通りだと頷いていたが、しらを切る。ここで動揺を見せたり、同意でもしてみれば、この女のことだ。からかってくるのは目に見えていた。
「ふっ。しかしあいつも鋭いのか鈍いのか。頭がいいのか馬鹿なのか分からない奴だな」
「優秀なのは間違いない」
「お前のアピールが足りていないんじゃないのか? マーヤと接する時、私にするように嫌味だらけだと好かれないぞ」
「…………」
いや、否定しようとしまいと、C.Cはもう確定として話してきているので意味はなかったかもしれない。
「特にあいつのように視野が広いようで狭いタイプには、回りくどい言い方は伝わらない。そこはあの枢木スザクを見習った方がいいんじゃないか?」
「っ! なぜそこであいつが出てくる」
「偶然あの二人が仲睦まじく会話しているのを聞いたんだ。
『今日も可愛いね』
と、恥ずかしげもなく言っていたぞ? まあ、マーヤにその意味の半分も伝わってはいなさそうだったが」
たしかに俺はマーヤに対してそういう誉め言葉を贈ったことはない。もちろん、任務の成功やその能力について褒めることはあるが。
(スザクならたしかに言いそうだな。でもそんな言葉があいつに通用するとは……いや。言っても伝わりにくいのなら、言わなければまったく伝わらない、か)
正直照れ臭い。自分の性ではない。しかし
(頼むから、少しくらいは焦ろ、動揺しろ)
このままでは自分の身が持たない。まったく意識されていない今の状況は、自分にダメージが大きすぎた。
C.C.の言葉に従うのはしゃくではあったが、とにかく現状を脱却するため、態度を少し変えてみることにした。
結果。
「ねえ、ルルーシュ、どうしたの? どこか気分でも悪いの?」
やたらと心配された。眼の前では眉を吊り下げたマーヤがいる。その頭上にへたっている犬耳のようなものを幻視する。――可愛い。
(いや、そうじゃない。少しは照れろ。なんで俺だけこんな)
当初の意図した反応とは全く違うことに少々苛立ちもした。しかし、
「ゼロ、今度から私にできることはするから、少し休んで?」
アジト内のゼロの部屋にマーヤはよくやってくるようになり、共に過ごす時間が増えたので……これはこれで良かったかもしれない。
「さっさと休まないと、強制膝枕するからね?」
「っ! な、なんだそれは」
「え? 以前ミレイさんが」
「会長が?」
「まあ、それは冗談だけど、あなたは働きすぎよ。簡単な書類仕事なんか私にもできるんだから、任せて」
「……そうか」
「? どうしたの? 何か、凹んでる?」
「いや。すまない、助かる」
冗談か。
とても残念だと思ったが、本当に心配してくれているのは分かったので素直に礼を言うと、「どういたしまして」とマーヤが笑った(可愛い)ので良しとする。
――いや、それでもやはり勿体ない気はする。
とはいえ、このまま本当に寝てしまうのも惜しい。今、この部屋にはC.C.もいないのだ。
「しかし今は少し考え事をまとめたい。寝るのはあとだな」
「そうなの? じゃあお茶入れてこようか?」
「ああ、頼む」
マーヤが自分のために入れてくれたお茶を飲みながら、書類仕事をこなすその姿をただ仮面越しに眺める。
(このように過ごせるのなら、今の関係のままでも構わない、か)
――もう少し、このままで。
「あ、そういえば私のこと『ゼロのお気に入り』、正妻だ、みたいなの言われてたから否定しといたよ。
相手が私じゃあなたが可哀そうだし……どうしたの、ゼロ? なんだか……凹んでる?」
首を傾げるマーヤに、やはり何か手を打たなければならない、と強く思った。
我が家のマーヤちゃんは、好意にとことん鈍感です