ルル(自覚済み)→マヤ
喫茶イベントでのお話になります。喫茶イベント知らないと少しわかりにくいかも……?
あの一日だけだったらルルが後悔しそうなので。
※喫茶イベントのお話です。
・ミレイ会長たちの知り合いの喫茶を生徒会メンバーで手伝うことに
・コンセプトカフェがいいんじゃないかという提案で、メイド・執事の格好をして接客
【ご主人様、実感する】
「ねえねえ、お兄さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
オーダーを取った後で男性客にそう声をかけられた。馴れ馴れしいなと思いつつ、笑顔を向ける。
「どうかされましたか、ご主人様」
「いや、そのさ。昨日のメイドさんいないの?」
「昨日、ですか?」
昨日といえば、俺が休んだ日だ。ナナリーが熱を出したため、付き添っていたのだ。そしてシャーリーは水泳部の用事。
となるとメイドをしていたのは先輩とミレイ会長ということになるが、
「ほら、清楚な感じの」
清楚、ということはカレンか?
本性を知っている身としては彼女が清楚とは真逆であることを知っているものの、学園ではお嬢様として過ごしている。
「黒髪の子」
「え?」
続けられた予想外の言葉に驚く。黒髪といえば該当者は一人だ。
「テキパキと動いているのにちょっと笑顔がぎこちなくて、でもなんかその慣れてなさが逆に良いというか」
「可愛かったよなぁ。まあ俺は赤髪の子の方がタイプだけど」
こちらを放っておいて盛り上がる客たちに、なんとかにこりと笑い返す。
内心の動揺をひた隠しにして。
「彼女は本来は裏方の店員でして。昨日は臨時でホールに出てもらっていただけなんです」
「え~、そうなの? じゃあ、昨日会えたのはむしろラッキーだったのか」
「勿体ないなぁ。ホールに出たら人気でそうなのに……ってか、俺通う。貢ぐ」
「お前黒髪好きだもんなぁ」
また盛り上がり始めていたので「では、一度失礼いたします」と礼をしてその場を後にする。
頭の中では思考が駆け巡っていた。
(あいつがあのメイド服を着た、だと?)
喫茶店の制服となっているメイド服は本来のものから会長がアレンジを加えている。フリルがつき、より可愛らしい。
それをマーヤが身につけて接客をしたという。つまり笑いかけながらあのセリフを……
『おかえりなさいませ、ご主人さま』
「ふぐっ」
何かが込み上げて口と鼻を手で覆った。危ない。落ち着け。
深呼吸をする。何もおかしなことではない。ここはコンセプトカフェだ。
「あれ、ルルーシュ? そんなところで固まってどうしたの? オーダーは?」
「っ」
気がつくと厨房へとたどり着いていた。そして目の前には件のマーヤが首を傾げている。見慣れた制服に見慣れぬエプロンをつけたその姿に、先程想像したメイド服を重ねる。
(……たしかに、似合うな)
というよりも、間違いなく可愛い。
そしてそんなメイド姿のマーヤが腰に手を当てて怒る。
「ちょっとルルーシュっ? オーダーは?」
「(はっ)あ、ああ」
我に返るとそこにはエプロンを身につけたマーヤがいて、先ほどとった注文をなんとか告げる。
心臓がどきどきしていた。そして――コンセプトカフェが流行る理由を、実感した。
もしも自分がただの客としてやってきて、そこにマーヤがメイドとして働いていたら、
(あいつが俺に『ご主人様』って……うぐぁっ)
「おーい、ルルーシュ。3番オーダーできあが……ん? どうしたんだ?」
「っ、な、なな、なんでもない!」
胸を押さえていると、料理を抱えたリヴァルがやって来たのでそれを受け取り、ホールに戻る。
しかし一度した想像は頭の中から消えることは無かった。
***
【ご主人様、焦る】
「またホール、ですか?」
「正確に言うと両方のフォロー、かな? 悪いんだけど頼めるかしら」
後日、ふたたびマーヤが接客に立つことになった。
マーヤは何かに特化しているわけではないが、様々なことを器用にこなす。人手不足の中、ホールと厨房、どちらでも人並み以上に動けるマーヤの存在は貴重だった。
(ミレイ会長もどちらでも動けるが、会長は接客の要。厨房を手伝うのは難しい。カレンやシャーリーは接客の方が客受けがいい。
それにシャーリーの間違いのフォローもこいつならできるだろうし)
マーヤがホールに立つことは今までほとんどなかったが、この忙しさだ。両方で動ける人員を確保しておいた方が良い。
良いのは、分かるのだが。
「あなた目当てのお客さんもいるしね」
「ははは、まさか……でも、分かりました。どちらにも行けるようにしておきます」
会長もマーヤのことを客に言われたのか、最後に付け加えていたが、マーヤはお世辞と受け取ったようだ。
――嘘じゃないのに。
俺と会長の想いは同じだったが、何も言わない。口でどれだけ行ったところでマーヤは納得しないからだ。
と、そういうやり取りがあり、マーヤはメイド服に着替えてきた。
ただ服が変わっただけ。変わっただけなのに
(ぐっ、これは)
想像していた以上の破壊力に、何かを叫びたくなった……のを必死にこらえた。
(どうするっ? こんな姿を他の男どもの前にさらす? そんなのはダメだ。ここはなんとかして会長を説得し……待て。そもそもこの姿を目撃した男たちの記憶を消さなければ)
混乱し、今すぐにでもギアスを使いそうになり、それを抑える。
(落ち着け俺。こんなところでギアスを使うわけには……しかし)
「って、ルルーシュっ? 何してるの? 今ホールが大変なのに」
「あ、ああ。今行く」
悩んでいる間に思っている以上に時間が経っていたようだ。目前にメイドのマーヤがいて心臓が高鳴った。
――やはり可愛い。
そしてやはりこの姿を見たやつらの記憶は消し去りたい。
店の売り上げに影響せず、誰にも疑われないように記憶を消す方法を真剣に考えることにした。
***
【ご主人様、頭を使う】
「それにしても、接客って難しいね」
ここは学園の地下。KMFのシミュレーターを置いている空間。
最近はそこにソファと机、小型の冷蔵庫なども設置し、シミュレーター結果や黒の騎士団内では話しにくいことやただの雑談などをしている。
先ほどまではマーヤの操縦の癖について話し合っていたが、今は休憩中。もちこんだ飲み物を飲みながら体を休めていた。
特にマーヤはシミュレーターをした後であったため、ややぐったりとソファに身体を沈めていた。
そんな中で体を起こしたマーヤがふと、そんなことを口にした。
大抵、俺たちの雑談はこうしたマーヤからの言葉で始まる。
「そうか? お前の接客は丁寧で客からの評判はいいが」
「そう、なのかな?」
嘘ではなく事実として伝える。過剰に伝えるのではなく、淡々とした口調で伝えた方がマーヤには伝わりやすい。彼女は自己評価が極端に低いのだ。
マーヤは実感がない、という顔をした。
(むしろ俺としては、だからこそ接客をさせたくないのだが)
しかし生徒会に慣れ、純真に役に立ちたいと頑張っている姿を見てしまえば、反対もしにくい。
なので対策として、なるべくマーヤがホールに立たなくても大丈夫な体制を敷いているが、できれば完全にあのメイド姿を他の男に見せない方法を模索している。
「そうだな……あとはもう少し自然な笑顔を心掛けると良い」
「自然な、か。それが一番難しい」
はぁっと肩を落とすマーヤ。笑顔が硬いことは自覚していたのだろう。
少しひらめく。
「な、なら、練習してみるか?」
「練習?」
「ロールプレイングだ。俺を客と見立てて」
「え、でも……ルルーシュも疲れてるでしょ?」
付き合わせるわけには、と渋るマーヤを説得し、接客の練習をすることにした。
マーヤは少し照れ臭そうにしていたが、こほん、と咳払いをしてから表情を変える。
「えっと……『おかえりなさいませ、ご主人様』」
普段とは違う、少し照れとぎこちなさが混じった笑顔に、いい慣れてない感じが漂うセリフは、無理やり言わせているようで背徳感すらあった。
(うぐぅっ)
胸の奥にそれはもう深々と何かが突き刺さる。ぐさり、と。
「ど、どう?」
さらに緊張した様子で上目使いで感想を聞かれれば、一瞬と言わず呼吸を止めてしまうのは仕方のないことだと思う。
「まだ硬い」
「うぐっ」
「普段みたいに笑えばいいだけだ」
「そう言われても」
本当はそのままでいい、と思った。これ以上可愛らしい姿を周囲に見せてほしくはない。
しかし
(接客の練習、か。これは中々いいかもしれない)
マーヤの意志は固く、一対一で話していても復讐のことが念頭にある。
だがさきほど、接客の練習として真っすぐに俺を見ていた。――俺だけを。
(……精神的なダメージもあるが)
心臓が持つかどうか不安はある。それでも、もっとこちらを見て欲しいという願いが勝る。何より可愛い。
「ほら。もう一度」
「うーん……ごほん。はぁ、ふぅ……『おかえりなさいませ、ご主人様』」
「(うぐっ)、かわ」
「かわ?」
「いや、まだまだ硬い」
難しいなぁとため息をつくマーヤを見下ろしながら、そっと口元を手で覆う。
(今のはやばかった。……ハッ! このままではあの笑顔を大勢の客に見せることに……それは、なんとしても避けなければ)
心が狭いと言われようと、見せたくはなかった。ただでさえマーヤは自分自身のことに無頓着なのだ。あんな無防備な姿を、しかもメイド服を着た状態だなんて、それを知っているのは俺だけで良い。
(どうするっ? ホール人員を増やすか? いや、新人を増やした場合の教育係がマーヤに任せられる可能性が高い。それでは意味がない。
ならば会長にギアスを使ってマーヤをホールに出させないように……馬鹿なっ。絶対に怪しまれるし、マーヤが全くホールに出ないのは運営上厳しい。そもそも安易にギアスに頼るべきではない。しかも会長相手に。
となると)
その後、マーヤの特訓という名の可愛らしい姿をこれでもかと記憶に刻み、「あの服を着てやってみたらどうだ? その方が雰囲気出るし」とメイド服を着させて心臓をわしづかみされたりしつつ、俺は頭を働かせ続けた。
***
【ご主人様の策略】
「いいわね! うんうん。これは新たなお客さん増えそうね」
目の前でミレイ会長が満足気に頷いている。私は「それ、どういうお客さんなんですか」と呆れる。
「ミレイ会長、マーヤ。そろそろ開店……えっ? マーヤ?」
更衣室にカレンが入ってきて、驚きに動きを止めた。まじまじと見られる。
身体を見下ろす。今日は普段のフリルが付いたメイド服ではない。
「どう? 変じゃない?」
「変じゃない……というか、喋らなきゃマーヤって分からなかった」
――どこからどう見ても、立派な執事よ。
カレンが感心したようにそう言った。
「でしょでしょ?
長い髪をどうするかは悩んだけど、こうやって後ろでくくるとけっこう良い感じよね」
やや緩めに縛られた髪を軽く触り、鏡を見た。そこには長髪の少年がいた。執事の服装を着た状態で。
(執事役が足りない、か。たしかに)
発端はルルーシュの発言だった。
たしかにホール役は女性が多く、執事はルルーシュだけ。彼はナナリーのこともあるし、ゼロとしての活動もある。毎回出られるとは限らない。
そしてルルーシュ目当てのお客さんも多いのだ。
そこで、私が男装して執事役をすることになった。
(とはいっても私にルルーシュの代わりは務まらないけど、こっちの方が動きやすいし、料理役としてもホールとしても動けるし)
声で女とはバレるだろうけれど、見た目上の店内の偏りはマシになる。
「じゃ、よろしくね。マーヤ君」
「君って……はぁまあ、がんばります」
こうしてルルーシュと揃いの執事服を着て、私は店に立つことになった。
***
【ご主人様、満喫する】
作戦は上手くいった。というより
(予想外に上手くいきすぎたかもしれないな)
メイドマーヤを多くの目にさらしたくない、ということで執事役にさせてみたのだが、この『男装執事』が予想以上に女性客に刺さった。
マーヤの男装姿が様になっていたのもあるだろう。一部に男ファンもいるようだが、そういう輩が近づかないようにきっちり見張っておけばいい。
「おいっ、3番には俺が行く。お前は8番テーブルを頼む」
「ええ、分かった」
ふぅ、危ない。3番テーブルには行かせられない。あそこは男客で、マーヤ狙い。そして8番テーブルはちょうど『男装執事』目当ての女性客だ。
3番テーブルの男たちに少し文句を言われたが、通りがかった会長がフォローしてくれたので問題にはならなかった。
そして、8番テーブルへと視線を向ける。執事の恰好をしたマーヤが笑って接客をしていた。練習の成果か、随分と自然な笑顔だ。
と、数日前のマーヤとのやり取りを思い出す。
『おかえりなさいませ、ご主人様』
『ッ』
『今のはどう?』
『その……すごく、良かった』
出来るだけ長く続けたいがゆえに、ずっと褒めずにいたのだが、認めざるを得ないほどの笑顔に、思わず脱力してそう返してしまった。
するとマーヤが「ふふ」と笑い
『普段、あなたと会話している時のことを思い出しながらやってみたの』
「っ~~~、会長。すみません。ちょっと抜けます」
「どうしたの?」
「ちょっと疲れたみたいで。5分ほど休憩を」
「え、大丈夫? 今は落ち着いて来たし、5分といわずもっとでも」
心配そうな顔になった会長に「5分で戻ります」と返し、バックヤードに入る。
長い時間はあけておけない。あいつに色目を使う輩の排除が出来なくなる。
ガンっ。
周囲に誰もいないのを確認してから、額を打つ。はにかむ笑顔と声が何度も頭の中を回る。
「落ち着け。落ち着け。……あれは、なんの意図もない。べつにそういう意味じゃなく」
とにかく、5分以内で何とか心を静める必要があった。
(閉店後)
「ルルーシュ、会長に聞いたよ? 疲れてるんだって?」
「え? いや」
「あんまり無理しないでね。ナナリーもいるんだし、明日は休んで」
「いや、出る!」
「え? でも」
「ナナリーも店に来たがっていたしな。連れてくれば問題ない」
「たしかにナナリーの問題はそれでいいかもしれないけど、でも」
「じゃあっ。じゃあ……お前が癒してくれないか?」
「え?」
「最高のもてなしで、最高の一杯を入れてくれ」
「っ! ふふ、はいはい。お疲れのご主人様に、最高の一杯をお持ちします」
「はいはい、は余計だ」
「はーい、かしこまりました」
「伸ばすのもダメだ」
「もうっ。うるさいご主人様ね」
「お前こそ。執事の癖に生意気じゃないか?」
「生意気執事に言われたくない」
「ふっ、それもそうだな」
ペアルックだよ! 良かったねルルーシュ。
きっとツーショットとかとって、密かにお気に入りしてる(厳重にロックして)。メイドマーヤちゃんも、写真撮ってると思う。
そしてマーヤちゃんは「執事役して」と言われたらなんだかんだとやりそうというのと、純粋に私が執事マーヤちゃん見たい。