――――六角散々について。
「奴は頭がおかしく、クソ野郎であり……ゆえにこそ我々は奴について行くのさ」
――――東条猩々
「信用できん奴だ。いつまた裏切るか分からん」
――――賽
「面白い奴じゃのう!ワシは奴のように変に正直な奴は嫌いではない!」
――――ドローム・A・ヴィスタ
――学園都市第二十一学区――
ここは学園都市第二十一学区。自然にあふれたこの学区内の自然公園に似つかわしくない、全身から流血しながらなお、当たり前のように息を吸って吐く、不自然の塊のような傭兵が、足元に広がる己の血による水溜まりを歩いていた。
ビシャン。ビシャン。
「いやー……よく逃げ回ったと思うけどこれまで、だねぇ。ヒヒヒ」
一時期『藍花悦』を名乗っていた少年は、水音と共に近づく足跡を聞きつけながらも藪の中に隠れることしか出来ない。両足の腱を断ち切られているからだ。
少年が血塗れの包帯を纏い、足元に血の池を作る不気味な輩に目をつけられたのは、自分に『藍花悦』の名を譲ってくれた先輩が音信不通になっていることに気付いた直後であった。
少年が最初の一撃を避けられたのはただの幸運だった。奴の腕が翻り、自分がいた位置に
転げるように逃げる少年の背後を凶器が襲い、両足の腱を切断した。少年は這いながら藪に隠れたが、足音は近づいている……!
「はい、おしまい」
不気味な声を訝しんだその時、少年の顔は三つに分かたれ、落ちた。
六角散々は自分の担当分を終え、一服する。懐から煙草を取り出し、火をつけ、咥える。
「ヒヒヒヒヒヒヒ……」
口の端で煙草を咥えながら散々は笑う。実際、今日の殺しは笑い出したいぐらいに楽であった。だが、彼が笑っているのはそんな理由ではない。
(まさか異世界とはねぇ……退屈せずに済みそうだ)
やはり前の雇い主を裏切ってドロームについたのは正解だった、と散々はほくそ笑む。散々を突き動かすのは徹頭徹尾面白さのみであり、これまで行ってきた幾度もの裏切り行為もすべて、自分がより面白い方向に向かうためのものであった。
無論、余の狂人共を支持する立場に収まっているのも、人の下につけぬ狂人共が人望のまるでない己に傅くのに皮肉が聞いていて笑えたからに過ぎない。
(ヒヒヒ……この世界はやたら治安がいいと聞いて少々興醒めの予感がしていたが……悪くないな。少なくとも私は居残る事にしようか)