――『避雷針』周辺――
「アバーッ!?」「アバババーッ!?」
「ヒヒヒヒ……お前らとじゃれ合ってたら遅れちまった。急がんとな」
頭をトマトめいて真っ二つにされて倒れる『ヒーロー』をよそに、散々は早足で歩く。彼はドロームから上条当麻の抹殺を、ザゾグからは恋査*1の確保*2とフレメア=セイヴェルンの確保を追加任務として言い渡されていた。彼はドロームから逐次情報を受け取り、その居場所へと向かっていたのだ。
だが、その散々を『ヒーロー』共が阻んだ。それでも当初、散々は隠蔽の手間を考え、彼らを適当に気絶させるに止めようとしていた。だが、『ヒーロー』共はあまりに多かった。
読者諸君には考えてみてもらいたい。虫ケラが部屋に一匹迷い込んできた場合には、仏心を出して逃がしてやることもあるだろう。だが、何百何千と言う虫ケラが続けざまに部屋に飛び込んできたら、殺意に囚われよう。丁度散々の心理状態はそうだった。
ゆえに、散々が歩いた轍には、死体がゴロゴロ転がり、本人の流血と死体からの血が区別できぬ有様と化している。今や彼は、『ヒーロー』が襲い掛かってくると見るや否や、無言で血染め包帯を振り回し、その首を叩き切っている。
然り。包帯である。散々の得物は全身に巻き付けられた包帯である。これを微細な筋肉の動きによりある時は鞭めいて、あるいは刃めいて、時には拘束具めいて操るのだ。そして現在、散々には時間がない。ゆえに、包帯をフックロープめいて用い、時間を短縮せんと良い場所を探しているのだ。
「あー……上条当麻の殺害、恋査の確保、そしてフレメア=セイヴェルンを廃人に変えた*3上で確保、か……。やる事が多くていやんなっちゃうね」
「あ、あんた、そ、その話!詳しく聞かせてもらうって訳よ!」
愚痴って包帯を伸ばそうとした散々の後ろから、小娘の声が響く。『ヒーロー』共の一人であろうか?だが、どうでもいい。さっさと『避雷針』に行って任務を果たさねばならないのだ。
「イヤーッ!」KBAM!KBAM!KBAM!
散々が伸ばそうとした包帯がペンシルミサイルめいた爆弾により、散り散りとなる。到底徒歩では間に合わないというのに、何という真似をしてくれるのか。そう思いながら振り向いた先には、金髪碧眼のフランス人形のような容姿の少女。
彼女の名はフレンダ=セイヴェルン。フレメア=セイヴェルンの実の姉だ。元々彼女は浦々と絹旗・麦野の交戦から滝壺を避難させていたが、首をかっ切られた骸を見て虫の知らせを感じ取り、骸による轍を追ってここまで来たのだ。
当初彼女は散々にちょっかいをかけるつもりなど微塵もなかった。死体からも分かる圧倒的なワザマエの前に、自分ではどうにもならない相手だと悟ったからだ。だが妹を廃人にするという発言を聞き、頭に血が上った。大事な妹を、みすみすこの外道の魔手に渡らせてはならない!
「あ、あんた!け、結局フレメアに、私の妹に手出しはさせないって訳よ!」
「……うん?お前は……?」
一瞬異様な時の圧力と言うべき殺意を滾らせた散々であったが、事前に渡された資料の内容を思い出した。眼前の小娘、フレンダ=セイヴェルンはフレメアの実姉であり……殺す気満々の賽から見逃されたという幸運の持ち主だ。
「ほう……小娘、賽の奴が見逃したっていう奴か。貴様も阿呆よなァ……幸運によって拾った命を、ここでドブに捨てるとは!ヒヒヒ……ヒヒヒヒヒヒィィィィーーッ!」
高笑いを上げる散々を前に、フレンダは走る!火薬を仕込んだシューズで蹴りを放ち、眼前の外道を昏倒させるために!……だが!
「イヤーッ!」
「なっ……!?」
彼女の全身に、散々の腕から真っ赤な血の包帯が巻き付く!一瞬にしてフレンダはからめとられ、指一本も動かせなくなった!狼狽する彼女を見て、散々は口を耳まで裂いて笑う!
「ヒヒヒヒ!では、サヨーナラ!ヒヒヒヒ」
『神託を授けよう。血濡れ包帯の時をかける忌まわしき者よ』
「ん?」
ギチギチに縛り付けた包帯の力を一気に強め、フレンダの肉体を爆散させてやろうとしたその時、テレパシーが彼の腕を止めた!このテレパシーの正体は当然、椎名朗々である!
「……何だい?」
『貴様が遊んでおる間に、集合時間が近づいているぞ』
「ああ……」
確かに己は配下の傭兵たちに今日の深夜12時までにストレンジの九龍城会議室に集まるよう指示を出していた。これは実際、ドロームを通した蠢動とやらの要請であった。学生が起きるまでに殺戮の証拠隠滅を図るため、せめてもの猶予が欲しい、と。
「いやだがなァ……上条やら、フレメアやら、恋査やらはどうするんだ?」
『恋査の件はあの時をかけるゴロツキ共の王の間諜共が引き出すそうだ。他の自重を知らぬ愚か者共も次々戻ってきているぞ。貴様が指示を破れば、奴らは次以降、指示を聞くまいな』
「……仕方ない。命拾いしたなァ、小娘」
朗々と短いやり取りをした後、散々は状況判断した。フレンダを一瞬で開放すると、夜の闇の中を消えて行った……。
口は禍の元。