……当初はこの話だけ書いて新約8巻編は終了する予定だったんだがなあ。
――日本海上空――
「チッ!」
空を飛ぶ『グレムリン』の魔術師、ヨルムンガンドは舌打ちする。ロシアや学園都市の戦闘機に飛び石めいて乗り移る彼の表情は優れない。
『どうした!逃げ回るだけかァッ!?』
凄まじい速度でそれを追うは、鋳鉄工業の戦闘員、戮鮫。普段つけている四脚脚パーツはスカートめいたシルエットのエンジン構築物に置換され、胸には電光表示盤。そして腕と背中には大量の武器が。門外漢のヨルムンガンドに分かるだけでも、キャノン砲、ミサイル、レーザー……。
複数のエンジンの組み合わさった異常なまでの機動力と小回りは、外の二世代も三世代も先を行く学園都市製の戦闘機であっても捉えきる事はできない。加えて全方位にまんべんなく撒き散らされる弾幕は、並の攻撃を相殺して余りある。
『絶望という言葉がなぜあるか知っているか?』
胸の電光掲示板に挑発的文言が流れる。ヨルムンガンドは北欧神話のヨルムンガンドが用いる毒のブレスを元にした魔術で攻撃するが、容易く回避される。先程まで乗っていた戦闘機が跡形もなく粉砕される。遺体どころかパーツ一つすら見つけることは出来ないだろう。
『貴様らの今の状況を、正確に表すためだァッ!』
KABOOOOOM!KAKAKAKAKAKAKABOOOOOM!ZAAAAP!ZZZZZZZZAPPPPPP!
タメと共にその文言が表示されると、ヨルムンガンドが飛び石代わりにしていた戦闘機の大部分が消し飛ぶと共に、戮鮫の豊富な武装すべてが彼に狙いをつける……!
――アラスカ:NORAD秘密基地周辺――
「くそがっ!?」
連合軍の情報網を破壊しようとNORADの秘密基地に訪れた『グレムリン』の魔術師、フェンリルは盛大に舌打ちをしていた。彼と対峙しているのはボロボロの編み笠と黒い着物を纏う素浪人めいた男。読者の皆さんは知っていよう、この男の正体は『剣の契約』棟梁、笹浪である!
本来彼が戦うはずだった相手は、アンブッシュにより痛烈に背中を切られ、倒れている。今は回復の真っ最中にいる。通常なら、彼の魔術で”噛み切って”殺せばよい。だが、今はそれが出来ない理由がある……!
「イヤーッ!」「ちっ!」
素浪人が踏み込むと、致命斬撃!それをフェンリルは魔術で
……相殺!?然り。彼の魔術は任意の場所へ地脈・龍脈における『川』と同じ記号を盛り込むことで、地脈・龍脈など周囲のエネルギーを呑み込む『溝』を作る、というものであり、見かけには空間に黒い亀裂が走り、魔術やその他のものが巻き込まれ消滅する。
だが、その黒い亀裂が発生するたびにあのジャパニーズ・サムライめいた男のカタナで切り払われ、カタナの微細な欠片と魔術の残滓が霧めいて広がってしまうのだ。
(……だが、このままなら削り切れる!奴のカタナはだんだんと細くなっている!どんな小細工を使っているかは分からねぇが、カタナが折れた時がお前の最期だ……!)
そう心の中でフェンリルがほくそ笑んだ時、編み笠の男が呟く。
「そろそろこのカタナも寿命か」
そういうと笹浪がカタナをフェンリルの心臓に向けて放り投げ、その隙に新たなカタナを取り出す!唖然とするフェンリル!
「な……!?」
「ん?このカタナは安物だからな。十数本買って、ストックしてあるのよ」
先程までの戦闘で、フェンリルは相応に魔力と体力を消費している。先程までは、カタナが折れるまで粘ればよいと思っていたというのに、同じカタナが、あと十数本あるだと?
……絶望的な耐久戦が、始まる!
――太平洋上:小舟周辺――
ナァグ……ナァグ……
その一部が赤や黒で染められたドレスを纏い、老若男女の肌をつぎはぎに縫い合わせた『グレムリン』の魔術師少女ヘルと、彼女の凶行を止めるためにやって来た二人の聖人は、
BLAM!
ヘルが試しに黒カビに向けて銃を撃つと火柱が上がるが、黒カビはウゾウゾと蠢きながら氷の上に広がっていく。ヘルの魔術は場から読み取った人間の死因を
奇怪な魔術をものともせずに広がる黒カビを訝しむヘルの様子を見て、これは『グレムリン』側の仕込みではないと判断した聖人二人も黒カビに攻撃を加える。しかし、彼女らの攻撃も黒カビの侵食を妨げることは出来なかった。
ナァグナァグ……ナァグナァグナァグナァグ!
一瞬黒カビの侵食が止まったかと思うと、一気に氷の上を広がる黒カビ!禍々しき黒き絨毯をヘルは飛び下がり、聖人たちは結界術によって阻む!二人の聖人の片方、シルビアはとっさにロープで陣を描き、黒カビを押し留めんとす!
「クッ……!?」
「何だ、これは!?」
だが、黒い風呂敷は結界の表面を覆うように侵食!二人の聖人は黒いドームに閉じ込められる!二人の聖人の他方、ブリュンヒルドは目を見開きながらクレイモアで強引にカビの天幕を開かんとするが、斬り付けるとカビはクレイモアに絡みつき、その勢いを殺していくのだ!
……一方、ヘルはついに黒いカビに追いつかれようとしていた。目を閉じるヘル。だが、黒いカビは彼女の素肌を素通りし、ただただ氷を黒く染めていくばかり。だが、安堵したのもつかの間、巨大な黒カビ絨毯が不穏な変化を見せ始めた!
初めに黒カビが湧きだした地点のカビがボコボコと沸騰めいて泡立ち、そこから異様な者らが溢れ出したのだ!集合体巨体ゾンビ、下半身戦車ゾンビ、蜘蛛状八本足ゾンビなどなど……。
わだかまりから出てきた破戒僧めいた男がヘルの方を向くと、嘲るように笑い、アイサツをする……!
「クククク。我々は奈落街。死の軍勢が、死を操りし貴様を殺しに来たぞ」