――列車:屋根の上――
「頼む、あいつら『二人』を助けるために、お前達の力を俺に貸してくれ」
上条当麻は、胎児が母体を操り何とか命をつなぎ留めんとしていた魔術師、フレイヤを助けるため、この場にやって来たインデックスと御坂美琴に助けを求めた。
上条が『グレムリン』の作る槍を破壊するために学園都市から連れ出された折に同行してきた二人の少女は、当然、こう答える。今この場に立ち、かの少年をこうして助けることに焦がれてきたのだから。
「「任せて」」
その時、電車連結部からバン、と不吉な音がした。だがその時、彼ら彼女らはその不穏に気付かなかった。否……聞こえたが、無視したのだ。今眼前の状況に比べれば、何ということは無い、と。恐らく、何らかの、何かがぶつかったのだろう。
無論、不穏亡霊めいて連結部上部から覗く手と、血に飢えた呟きに気付くことは無かった。
「探したぜェ、クソアマァ……ヒック!」
状況が変化したのは、フレイヤが東京上空を飛び回らせていた『
「全部壊しなさい!『
フレイヤが引き裂けそうな喉で叫ぶ。どんな汚い手を使っても、この母体は絶対に守り抜く。もうこれ以上、指一本触れさせない。そして、オティヌスの『槍』の完成を手助けし、母を助けてもらうのだ。万感の思いがこもった叫びはしかし、真後ろの不穏な影にはただの騒音でしかなかった。
影は今や、連結部の薄い天井部分がローブめいて顔が丸々飛び出ていた。当初この影は、一気呵成にフレイヤ、および餓鬼共の首を刈り取るつもりであった。だが、誰も気づいていないのを見て、考えを変えた。
まずフレイヤをアンブッシュで始末し、その後場のイニシアチブをとってクソ生意気な餓鬼共をぶち殺す。そうプランを組み立てていたというのに。横目で布細工ドラゴンをみて歯軋りする。……彼は状況判断した!
KRA-TOOOOOOOOOM!
影は車両連結部の天井をぶち破ると、御坂美琴が超電磁砲を撃つよりも早く息を吸い込み、吐き出す!彼は実際マグロ漁船に乗っていたころに何度も海に落ち、その影響で凄まじい肺活量を身に着けている!その彼が勢いよく吐き出した息は、毒竜のブレスめいて竜細工を破壊!
振り返ったフレイヤは、顔面蒼白!あれは海に引きずり込まれ、あっけなく死んだはずの男ではないか!影、即ち浮田重々は、唖然とするフレイヤと少年少女達をを見ると、ニタリと笑いながら威圧的に見渡す。そして、血と暴力の予感に心を躍らせながら、心にもない慰めを口にする。
「ヒヒヒ、ヒック!……そこの『グレムリン』の女を黙って殺させてくれりゃあ、命
「ふざけてんのか。赤ん坊が必死に守ってきた母親の命を、ポッと出てきたお前なんかに刈り取らせるかよ!」
「そうよ。あの時みたいにふざけた回避は出来ないわよ。あんたこそ、尻尾巻いて逃げた方がいいんじゃない?」
「あなたの思いどおりにさせるなんて、有り得ないかも」
それを聞き、重々は沈黙。たっぷり10秒ほどの沈黙に、誰も動くこと叶わぬ。一度交戦した美琴だけでなく、『鋼龍』と交戦経験がある上条やインデックスも、沈黙が生み出す異様な迫力に臆していたのだ。……そして、出し抜けに重々は笑い出した。否。狂笑と言ってもいい。
「ヒヒヒヒヒヒヒ……イヒヒヒヒヒヒヒ!ヒヒヒ、ヒック、ヒック、ヒック!舐められたもんだな、俺もよ!」
沈黙によって醸成された殺気が吹き出、上条らを圧する!その中でもフレイヤの狼狽えようはひどい。懐に入れていた、フレイヤの操る魔術『ブリーシンガメン』の核となる宝石がボロボロとこぼれている。それを見た重々はスリ・アシ(摺り足)で接近!
上条はそれをインタラプトせんとする!……だが、そんな稚拙なインタラプトに屈する重々ではない!
「クヒヒ、ヒック!イヤーッ!」
腕が翻ると、上条はバランスを崩し、高速移動する電車ですっころぶ!このまま後ろに飛ばされ死ぬと思われたその時、上条は重々のシャツを掴んだ!不意を突かれた重々はバランスを整え直すのに数瞬隙が出来る!
「チッ。そのまま死んでおけばよかったのによォ!イヤーッ!」
「ぎいっ!?」
「今のうちに逃げて!」
舌打ちしながら上条の腕をしたたかにひねる重々!その隙にフレイヤを逃がさんとするインデックス!フレイヤはそれに従う!今はつべこべ言っている場合ではない!自分が死ねば母親も死ぬのだから!インデックスは続いて御坂に指示!
「短髪!その人を連れて逃げて!」
「……分かった。あんたも早くこっちに!」
「え、ええ」
フレイヤとインデックスをおぶさった美琴が離脱!御坂美琴は電気を操る能力を応用して磁力をも操ることができるため、高架から飛び降りてもなんとかなる!その離脱と同時に重々は上条を電車に叩き付け、地獄めいた声でつぶやく。
「お前、殺すぞ」
重々も散々がスカウトするレベルの傭兵なのです。
※2024/06/27 最後のセリフ変更