――デンマーク:ミミル湖――
「おーおー……やっているなぁ!ははは!」
雪原の中、折りたたみ椅子に腰かける猩々は、かすかに聞こえる爆発音や銃声に耳をすませて笑う。タタラが盟主を務めるサイエンスガーディアンの軍勢が『グレムリン』を掃討しているのだ。
多々羅道雄は朗々の部屋からタタラのヘッドオフィスに戻される際、『グレムリン』構成員が向かうであろう場所を教えられていた。ゆえに、各国政府のオティヌスへの刺客たちを出し抜いた『グレムリン』構成員達をさらに待ち伏せできたのだ。
今の『グレムリン』は最大戦力であるトールも離脱した上に、戦闘を請け負っていたヨルムンガンド、ヘル、フェンリルは『鋼龍』の手の者達により殺されている。ゆえに、十全に準備をして待ち受けたタタラ、否サイエンスガーディアンにかなうはずもない。
加えてタタラはあの防衛線で活躍した”蜂”を掃討に当てている。空を飛ぶ魔術は、その対策となる魔術が広く普及しているため、魔術師は空を飛べない。つまり、『グレムリン』の連中は、宙に浮いている”蜂”に何もできず死ぬ。
だが、その蹂躙が一時に変わる。”蜂”が傾ぎ、装甲車が吹き飛ぶ。猩々は訝しんだ。『グレムリン』の魔術師共があの部隊をどうにかできる要素は無かったはず。猩々が首を傾げ考え込む間にも、サイエンスガーディアンの部隊は追い詰められている。
一際大きな爆炎とともに、サイエンスガーディアンの部隊は沈黙した。その爆炎の中から悠々と歩いてきたのは中世的な金髪の美少年、トール。『戦争代理人』の異名を持ち、『グレムリン』でもオティヌスに次ぐ戦力であった男である。その彼は、猩々を侮蔑の表情で睨む。
「……ゲス野郎が」
「はははは。それは貴様も一緒だろう?何のつもりか知らんが、あの小僧や売女のオティヌス、『グレムリン』の連中を仕留めるために控えておった軍勢を壊滅させるとは」
「そういう、嬉々として人を虐げる性根が気に食わねぇんだよ。ゲス共が」
トールが吐き捨てると同時、猩々がゆらり、と立ち上がる。トールは舌打ちしながら己の『全能神』としての力を解き放った。
はずだった。
「アバーッ……!?」
な、何たることか……!!トールの胸を、猩々の腕が貫通している!その手には、心臓が!トールは口の端から血を流し、倒れる。猩々はつまらなさげにその死体を見やると、ゆっくりと引き摺り出す。極寒の湖の中に沈め、息の根を確実に止めるために。
……読者諸君の中に、聖人並の動体視力の持ち主はいらっしゃるだろうか?そのような方々は、先程トールが魔術を行使しようとしたその時に猩々が一瞬で間合いを詰め、心臓のえぐり出し鷲掴み、ハートキャッチに及んだのだ!
「ふー……」
猩々は、弱々しくもがくトールを見やりながら息を吐く。先程の魔術を撃たれていれば、死んでいるのは彼の方であっただろう。薄氷の勝利だった。さっさと殺して上条当麻の到来に備えるとしよう。
「あの神懸かり……上条当麻とオティヌスとやらがここに来なかったら承知せんぞ。ははは……」
何気にトールはファインプレー。死んだけど。