――デンマーク:ミミル湖――
「おお?……やっと来たか、遅いぞ。はははは」
トールの遺体をミミル湖に投げ込み、暇を持て余していた猩々は、ターゲットの到来を察知し、笑った。その目線の先にいるのは上条当麻とオティヌス。しばし猩々の発する異様な雰囲気に固まっていた二人であったが、オティヌスが口を開く。
「……何の用だ?」
「クククク……これは長老が怒るのも分かるというものだ」
猩々はゆっくりと立ち上がる。穏やかな、だが剣呑とした目つきを見て、上条はオティヌスをミミル湖の方に押しやる。そして喋り出す。戯言を。猩々にとって果てしなく意味のない妄言を。
「……あんたはオティヌスを憎んでるかも「ああ、違う違う。奴がやった悪行自慢なんぞ興味はないし、個人的な恨みなんて一切ないんだ」えっ?」
困惑する上条をよそに、猩々は微笑む。
「奴の罪業や償い云々に興味はない。奴をはるばる見に来たのさ」
「何のためにだ!?」
「気になるだろ?魔神の
猩々の恍惚が恐るべき殺気に裏返った。上条が仕掛ける。右拳を構え、殴りかかる!
「イヤーッ!」
「ごぼっ……!?」
猩々は半身となって躱し、掌底を心臓にぶち当てる!上条は倒れる!当然だ。心臓の拍動に合わせて掌底を打ち込んだ。ゆえに、心臓は止まる。心臓が止まれば身体中の細胞が酸素を受け取れず、死ぬ。自明の理だ。
(……もはや立てまい)
そのままオティヌスを追わんとした猩々だったが、上条は死んではいなかった。彼はインパクトの瞬間、本能に従い体をほんの少し後退させ、心臓への衝撃を極々僅かに軽減していたのだ。しかし、彼に出来たのは蛆虫めいて這うだけ。
猩々は驚くも、鼻を鳴らして足を払う。それと同時に、ミミル湖に異常が起きた。凄まじい振動が襲い掛かり、ミミル湖にいるオティヌスの背からは、巨大な羽めいた何かが映えているが如し……!
「ははははははは。勝手に自殺してくれるとは、何とありがたい」
羽状巨大物体の正体が、世界をも吹き飛ばす『
オティヌスがひび割れ滅びていく様を見て、猩々は歩みを速める。はらわたを掻っ捌く前に死なれては興醒めだ。
BRATTTT!BRATTT!突如、猩々の身体が横に弾かれる!……否、目にも止まらぬ速度での側転回避だ!
「何のつもりだ?……殺さずに
「……てめぇ、あいつよりよほど碌でもない野郎じゃねぇか」
怒りを押し殺すように呟くのは、イングリッド=マーティン軍曹。アメリカ軍人であり、一度はオティヌスや上条を捕らえるも、上条が大統領を説得したために彼らの監視につくことになった。そこで猩々の非道を目撃し、怒りのままに銃撃したのだ。
そして、オティヌスらを監視し、猩々に怒りを覚えたのは彼だけではない。彼の横で雪が盛り上がる。3つだ。一つは赤い修道着を纏う女。また一つはボンテージめいた格好をした小娘。最後はラクロス女学生めいたガキ。
「全く……鼠駆除はきちんとしなければならん、とまた一つ学んだよ」
「ゲス野郎が」
ラクロス少女、レッサーの言葉に応じることもなく、ゆっくりと闖入者の方に足を進める。ゆっくりと懐に手を入れると同時に、闖入者どもが襲い掛かって来た!
あの監視の風景ってどこからどこまでが放送されてたんだ?