――ミミル湖周辺――
「え」
襲い掛かった乱入者の内、最初に死んだのはボンテージめいた服装に身を包んだ少女、ロシア成教に所属するサーシャ=クロイツェフだった。ゆっくりと手を懐に入れた猩々は素早くフックロープを取り出し、首を狩ったのだ。
「……!!」
怒りの表情を見せたワシリーサはその直後、地に伏せることとなった。胸に突き刺さった猩々の凶手が彼女の心臓を止めたのだ。だが、死にはしない。特殊な術式が彼女に刻まれているゆえに。
(さて)
そのまま矢継ぎ早にレッサー・マーティン軍曹らを殺そうとした猩々だったが、その視界の端に妙なものが映った。複数のドローンと、奇妙な黒猫。その存在を訝しんだ数瞬、猩々の頭に何者かが語り掛けてきた。主観時間が異様なまでに引き延ばされる感覚。朗々の接触か。
(((猩々……猩々よ……)))
(何だ、朗々よ?)
(((愚かなる猿面郎よ……そ奴等を殺すな……)
(はははは。俺の顔はそんなに猿に似ているか?俺個人としてはそんなつもりはないんだが。……それと朗々よ。殺すな、というのは飲めんな)
(((愚かな……あれを見よ!)))
ドローン越しに語り掛けてくる朗々の発言に応じ、猩々はミミル湖の方を見る。そこには、ツンツン頭の小僧がオティヌスなる小娘に何やら語り掛けているらしき姿が。丁度別のドローンがその風景を真ん中に取るよう位置している。
(((アレが見えるか、猿面郎。あの下劣な小僧は神を僭称する魔女めを篭絡しただけではなく、いかなる卑劣な術を使ったか知らぬが、その風景を全世界に放映させるよう仕向けたのだ)))
(ほう……それで?)
(((その放送は先程から始まっている。貴様が愚かな露西亜人共を始末した直後からな。貴様が浅はかにもそこの亜米利加軍人と英吉利の小娘を殺せば、奴らの
(全能の神を名乗る割に愚かよな。邪魔をするなら殺せばいい。それだけの話だろう?)
猩々の過激な発言も、一面においては正しい。『鋼龍』そして『6人組』の勢力は世界を敵にして余りある。だが……
(((猿面郎、喧嘩と同じだ。複数人と一気に喧嘩をすれば後ろから刺される可能性がある)))
(今でも複数の奴と喧嘩しているだろうが。イギリス清教と学園都市の二つとな)
(((二つでも多すぎるくらいだ、愚か者め。それが分からんか)))
(分かった分かった。毒電波の威力を強めるな)
朗々のニューロン圧力が鬱陶しいため、猩々は命令に従うことにした。それと同時に、主観時間が通常に戻り、
(他愛もない)
猩々は悠々と、
「がぎゃああああ!?」
「死にたくなければ追わないことだ。……見ざる言わざる聞かざるのタブーよ。お前らはここで何も見なかったし、何も報告すべきことは無いし、何も聞いてはいない。分かるかな?」
マーティン軍曹の悲鳴をよそに、警告を告げ、サーシャの死体とアンブッシュを試みたワシリーサの無残な姿を抱え、猿めいて身軽に立ち去った。レッサーもマーティンも、追えなかった。追えば、待つのは無惨な死のみ。短時間の立ち合いでも、まざまざとそれを見せつけられたからだ。
上条当麻が死につつあったオティヌスを抱き寄せた時には、猩々による
次回はブチ切れ散らかす『6人組』の面々をお楽しみください。