――救急車内――
「さて、どうしようかね」
アーランズは溜息をつく。この場に起きている誰も、ストロビラの仕込み方を知らないとは。……だが、仕込む必要もないかもしれぬ。
「なぁ、ヴェイズ……思ったんだがこの女にストロビラを仕込む必要なんてないんじゃないか?」
「何を言ってるんですか?」
ヴェイズは絶対零度の表情。アーランズはそれにめげずに続ける。
「なんてったって、ストロビラには
然り。彼らが携えてきたストロビラの中には何らデータは仕込まれていない。元々食蜂に刺さっていたものもそうだ。黙ったヴェイズにアーランズはさらに付け加える。
「それに、ストロビラで食蜂とやらを操れる可能性は低いし、たとえ操ることができたとしても長時間の継続は困難とも聞いたぞ。ファイブオーバーOSもあることだし、わざわざやる意味は低いのでは?」
アーランズの指摘は正鵠を射ていたが、ヴェイズはあえて反論する。面倒だし、大して重要そうでもないなのでやりたくない、という意思が見え見えだったからだ。そんなことは許されない。
「……アーランズ様、あの蜜蟻とかいう小娘は拗らせ女です。やたら食蜂とやらにこだわっています。今回のストロビラも嫌がらせの一環に過ぎないでしょう。ですが、我々がそれを理由にボイコットすることは許されません。我々はゴロツキ共に出来ないこと、足場固めを担うのが仕事でしょうよ」
「……それもそうだ」
アーランズはヴェイズの忠告を受け、翻意する。……そして視界の端で動く、やたら不格好な姿で隠れようとする小娘を捕らえた!
「おっと……やんちゃな小娘だ。首の骨を折られたくなければ大人しくしろよ?」
「くっ……!!」
「ほい」
「かっ……!?」
アーランズは鮮やかな触手さばきで食蜂を捕らえると食蜂を締め落とす。そしてヴェイズに指示。
「ヴェイズよ。お前の言う通りにさっさと仕込んでしまおう。だれかストロビラの扱いを知っている奴に心当たりは?」
「……今回の策は蠢動のものです。少なくとも奴の子飼いである『スウォーム』の面々が何も知らないというのはないでしょう。連絡してみます」
ヴェイズはそういうと、通信機を取り出し『スウォーム』の面々と連絡をとりだした。程無くして、怒声響く通信機を耳から遠ざけながら、ヴェイズは髪の毛より細く長い繊維が繋がった端子、つまりストロビラを持ってきた……。
――第七学区――
「アイツ等!!どういうことだ!!」
第七学区の裏通りを歩いていた大男(つまり『スウォーム』の佐久辰彦)が、その体躯に似合った大声を出し通信機を叩き付ける。ストロビラの仕込み方を今更聞いてくるとは。『鋼龍』といい、『目覚め待つ宵闇』といい、蜜蟻を舐めすぎだ。
確かに蜜蟻は奴らに比べれば小粒に過ぎないが、奴等を難なく操る力、人間を自在に操る力を持つ。あの小娘の機嫌を損ねて『鋼龍』や『目覚め待つ宵闇』内で内部抗争を起こされれば、ドローム=『峰岸』の悪魔的邪悪権力の衰退を招く。
それが、まるで蜜蟻を舐めた真似ばかりをしやがって。歯噛みする佐久辰彦。その時、藪が動く。
「ま、しょうがないさ。『鋼龍』にゃ蜜蟻や食蜂とかいう小娘の能力が効かない奴はちょくちょくいるし、『目覚め待つ宵闇』の連中にもあの小娘共の能力なんて効きやしないからね」
「うわあ!急に出て来るな!……待て。『鋼龍』のゴロツキ共はともかく、『目覚め待つ宵闇』のメンバーに奴等の能力が効かないだと!?」
藪から顔を出した散々にビビり、さらにその発言に驚く佐久。散々はそれを気にする様子もなく続ける。
「ケケケケ……『目覚め待つ宵闇』は『今は失われた体系』をものにするために身体改造をしてる。もはや奴らの身体は人間とは言い切れないほどに変質しているのさ」
「……!!」
戦慄と共に散々の言葉を噛み締める佐久。『鋼龍』の連中が人間離れしているのは知っているが、『目覚め待つ宵闇』までもが人間をやめ始めている、だと?奴らの修める『今は失われた体系』とは何なのだ?佐久の内心の疑問は解消されることなく事態は進んでいく……。
ストロビラに何ら情報を仕込んでないってアホなのか??と思う今日この頃。