――ダイヤノイド最下層――
「じ、自我破壊型サンジェルマンウイルス?何ですかそれ?」
当惑する木原乱数に、ザゾグは残忍な笑みを浮かべながら己の恐るべき発明について矢継ぎ早に説明していく。
「前提として、サンジェルマンは一種の微生物によって媒介される思考パターンだ。この微生物は宿主の肉体を乗っ取り、架空の人格『サンジェルマン』を構築し活動し始める。ここで大事なのは架空の人格を構築するということ、即ち脳に干渉する点だ。もし、このサンジェルマンウイルスが脳に干渉する際、従来より荒っぽいやり方、即ち直接脳のニューロンネットワークを科学的作用によって変性させ、脳を『サンジェルマン』のそれに変えてしまえば、どうなる?もし万が一サンジェルマンウイルスが治療されたとしても、すでに脳波パターンは『サンジェルマン』のそれと化しているがゆえに、
残忍な笑みを浮かべ、目を炯々と光らせるザゾグに、木原乱数も自我破壊型サンジェルマンウイルスの概要を理解し始めた。要するに、相手の脳を(サンジェルマンウイルスの干渉がない状態でも)『サンジェルマン』の思考になるよう組み替えてしまおうということなのだろう。
……そして、上条当麻の『ヒーロー』性を消し去ってしまおうということなのだろう。ザゾグが上条当麻に向ける憎悪は異常なものがある。
木原乱数のような小悪党にとって、上条当麻とは災害であり、遭遇しないように立ち回るのが基本だ。そしてまた、この街に巣食う多くの悪党にとっても、『上条当麻』の名は一種の重りである。……だが、ザゾグとドロームにとってはそうではない。
”異世界”から来た奴等にとっては、上条当麻どころか、『ヒーロー』という概念ですら殺せる障害でしかないのだろう。現に、ドロームは一度、上条当麻をそこらの豆腐のように無造作に殺し、蘇生している。おそらくザゾグも、ドロームと同様、上条当麻を
『ヒーロー』と”異世界”出身者の関係についての考察を切り上げ、木原乱数はザゾグに問いかける。
「で、結局、ソイツはあのガキ共が来てから散布すりゃいいんですかい?」
「ああ。……人格を塗りつぶされたくなければ私が作った対ウイルス用ガスマスクをつけておけ」
ザゾグの作り出したガスマスクを装着しながら、なおも言葉を続ける乱数。眼下には、赤毛のサンジェルマンと小僧があれこれと話している。その傍らには巨大な盾。
「……で、あいつ等はどうするんです?一緒に巻き込んじゃいますかぁ?」
「当然だろう。奴等が来たら、ぶちまけろ。そのためにも、サッサと培養することだ。私は最後の小細工にかかる」
ザゾグはそういうとアグラ姿勢をとり、眼下を睨み始めた。乱数もまた、純炭素実験機器で自我破壊型サンジェルマンウイルスの培養にかかる……!
サンジェルマン、どう考えても作中に出てきた劇症型サンジェルマンウイルスよりえげつない使い方できるよね……。