――ダイヤノイド最下層――
ザゾグはアグラ姿勢を取りながら、眼下のサンジェルマンを睨む。あれはもうすでに己の支配下にある。対面している小僧の顔は完全に”復讐”の意思が固まった面構えだ。『アイテム』の一味に殺された男の身内だというが、彼にとってはどうでもいいことだ。
ザゾグはサンジェルマンの身体からレッドヒューリー03*1を分泌させる。小僧の理性を奪い去り、復讐の意思をより固くするために。小僧は両手で巨大な盾を持っている。サンジェルマン曰く、あの盾はクイーンアンの盾らしいが、ザゾグにとってはどうでもよい。
クイーンアンの盾は霊装だ。つまり、学園都市の超能力者であるあのガキが使えば死ぬ可能性がある。あの小僧の死で上条当麻の心を折るのがサンジェルマンの企みなのだろう。ザゾグは心を折る程度の生易しい真似はしない。
あの薄汚い、探究の邪魔をするしか能のない腐った正義感を残らず消し去り、チンケな道化になるのが奴のお似合いの末路だ。ザゾグは背後で自我破壊型サンジェルマンウイルスを培養している木原乱数に目を向ける。グーサイン。いつでも散布できるという事か。
丁度良く、上条当麻とその一味も来た。サンジェルマンが奴の心を折ったら、すかさず自我破壊型サンジェルマンウイルスを散布してやろう。下らぬ道化と化した上条当麻を、今は亡き『絶対能力進化計画』へとささげるのだ。ザゾグは眼下の光景を凝視する。そして……
「ちょ、ちょっと!?落ち着いてくださいよ!?あんたが下に降りてったら、自我破壊型サンジェルマンウイルスを投下できないでしょうが!?」
……私は今、何をしている?ザゾグは乱数の声で我に返り、乱数によって羽交い絞めにされた己を自覚した。何があったかを思い出すだけで頭に血が上ってくる。あの屑*2がしょうもない小僧に見せた何かによって、上条当麻への怒りに支配されていたはずの小僧が
忌々しい!奴の『ヒーロー性』とやらは、化学の力を凌駕するというのか?認めぬ。そんなもの、認めてたまるか!ザゾグの身体に殺意が渦巻く。固まった乱数の身体を振りほどき、空中を歩いて*3上条当麻らの方に向かっていく
……ザゾグは少々勘違いしているが、レッドヒューリー03は、摂取させるだけで相手の怒りを思い通りに操ることができるわけではない。ただ、怒りの感情を掻き立てるだけだ。その対象は指定できぬ。現に今、小僧はサンジェルマンに対し上条当麻らが引くほどの怒りをあらわにしている。
そんなことは露知らず、ザゾグは上条当麻らの元に降臨しようとしている。だが、その眼前に謎めいた靄が現れる……!