――どこかの裏路地――
「はぁっ、はぁっ……!しつっこい!」
小娘、秋川未恵はかれこれ5分間ずっと全力疾走していた。彼女の手の中にあるのは液体ダイヤ。時価5兆円を超える、本来ならば大銀行の大金庫の中に収められているはずの代物。だが、金庫は壊れ、ゴロツキ共がダイヤを盗まんとしている。
液体ダイヤのプロジェクトは彼女の母が進めたものであり、大金庫は父親の会社が作った物。つまり、この液体ダイヤの強奪は彼女の両親の誇りを傷つける。彼女としてはそんな事を許すつもりは無い。だが、世の中思いだけではどうにもならぬものだ。
「イヤーッ!」
「かぁっ!?」
逃げ続ける彼女の前に黒い襤褸布を纏った男が降り立ったかと思うと、彼女の首を引っ掴んだ!
「小娘、我々が望むのはその小さな容器なんだよ。渡しておくれでないかい?」
「かっ……くっ……!?」
秋川の首を掴んだ男は意外にも紳士的に勧告するが、彼女の返答は一つ。男を睨みつけ、液体ダイヤを掴んだ手を、いっそう強く握りしめる。
「ふむ……」
「猩々!液体ダイヤを放さねぇなら殺っちまえ!」
明らかな拒否の仕草に一瞬考え込む黒襤褸の男、東条猩々だったが、ゴロツキ共の声を受け、秋川の首をへし折りにかかった!
「お嬢さん、最後のお願いだ。その容器を、手放してくれないかい?」
「…………!」
猩々は残忍なアルカイックスマイルを浮かべると、形ばかりの懇願を口にしながらゆっくりと脛骨を掴んだ手に力を籠め始める。数秒後には秋川の魂は三途の川を超えるだろう。そのはずだった。
「……イヤーッ!」
「あがっ!?」
何を思ったか猩々は秋川を乱暴に地面へ叩き付けると連続側転!ゴロツキ共がこの奇行に文句を言おうとした刹那、自転車めいた何かが猩々のいた場所に突進してくる!その上に乗っているのは……忌々しき上条当麻!……と謎の小娘*1!ゴロツキ共はいきり立ち、殺さんとする!
「このクソガキ!」
「テメー、いつでもどこでも出てきやがって!」
「またジャマするつもりかぁ!?」
だが、武器を取り出そうとしているゴロツキ共に目も向けず、上条当麻は少女に声をかける!
「早くそれ持って伏せろ!!あいつが来るぞ!!」
ゴロツキ共がその声と同時に上条当麻を殺さんとゲバ棒を投げつけようとした時、彼らの背後から声が響く!遅れて来ていたアーランズのものだ!
「伏せろ!坊主が突っ込んできてる!」
一部のゴロツキ共はその声に反応して反射的に伏せる!上条当麻の通過と同時に、アーランズが言ったようにソクシンブツめいた、豪華な法衣に身を包んだミイラが突っ込んできた!そして咄嗟に伏せることができず、硬直していたゴロツキが吹っ飛ぶ!
「ほっほほーい★」
「何だコイツはァ!?」
「グギャーッ!?」
「グヘェ!?」
「このクソミイラが!」
……法衣ミイラが通り過ぎた後、ゴロツキ共は伏せていた者も吹っ飛ばされた者も起き上がり、周囲を探る。あの小娘は、俺達の金づるはどこだ?周囲をサーチライトめいて見回すゴロツキ共をよそに、アーランズはこめかみに指状触手を触れさせている。
「……何やってんだ?」
「うん、うん……いいな」
「なぁ、おい……」
指をこめかみから放したアーランズは、ニヤリと笑う。彼、そしてその配下『目覚め待つ宵闇』が修めた『失われた体系』の力で、秋川、および液体ダイヤの位置を察知したのだ。
「あの小娘の居場所が分かった。今もがむしゃらに移動してる。先回り出来るぞ」
「ヒャァ!やるじゃねぇか!」
ゴロツキ共は歓喜の声をあげる。今まで想定外の事ばかり起きたが、やっとこさ大金をこの手につかめる……!
大金を手にしようとする興奮に沸き立つゴロツキ共は、先程まで彼らといたはずの猩々が跡形もなく消えていたことに気付くことも無かった……。
――魔神『僧正』の背中――
「ひょひょひょひょ★うっひょひょーい★」
「……クソッ!」
自転車と電動バイクの合いの子めいた二輪車に乗りながらペダルを踏みしめる上条と、それを追う現世に墜ちた魔神『僧正』。学園都市中を舞台とした追いかけっこはしかし、狂える殺戮者の存在を表向きに出来ぬまま進んでいる。
(((ククッ!ククククッ!クククカカカカッ!!こいつは魔神だ!間違いなく!)))
魔神と上条達から気配を隠しながら、
『彼らがいた世界』においてはいわゆる神は全て旧支配者に近づいた人間*2や旧支配者によって打倒されている。それゆえ、猩々といえども正真正銘神といえる存在をバラバラにするのは初めての経験であった。
それゆえに、楽しみでしょうがない。魔神の血、臓器、肉に骨。どうなっているか興味は尽きない。思う存分に解体し、その有様を見たい!目に焼き付けたい!!
(((落ち着け、落ち着け……。まずは体を精査し、それからどうバラすか考えよう。ククッ、クククク……!)))
猩々はゆっくりと、己がつかまっている魔神の身体を精査し、どうやって解体するかを夢想し始めた……!