――某貴金属メーカー本社ビル前――
アーランズは液体ダイヤを持って抱き合う母子に慎重に近づく。無論、胡乱な妨害者への
「イヤーッ!」「きゃぁっ!?」
「何だっ!?」「触手が女の子を……ぎゃっ!」「ひいぃぃ?!」「うわあああ!化物だぁ!」
アーランズの右腕から触手が伸びたかと思うと、秋川未恵の首に巻き付き持ち上げる!並行して左腕の触手を展開、群衆を散らす!ここからの脅しは素早く行わなければならない。
「さて、お嬢さん。娘を返してほしければ、その液体ダイヤの容器をこっちに寄越してくれないか?」
「……分かったわ」
「お母さん!?」
秋川の母は秋川の悲鳴に反してあっさりと液体ダイヤを手放す。アーランズは怪訝な表情をしながら、右腕の触手でそれを拾う。
「……一応言っておこうか。もしも液体ダイヤを後で取り戻そうなどと考えているなら、お前の娘は無惨に死ぬことになるだろうな」
アーランズが念のために放った一言で、秋川の母は大いに動揺した。アーランズは目を細める。残忍な薄笑いと共に。
「言っておくが、私はともかく、奴らはここまで苦労して盗んだ液体ダイヤが奪われたら何をするか分からんぞ……っ!?」
来たか。
「さて、お嬢さん方。今後一切、液体ダイヤの事には触れないでいただきたい。つまり、忘れろということだ」
アーランズは重ねて釘を刺す。文句を言うなら娘を痛めつければいい。アーランズがそう考えていた時だった。
「わ、分かったわ!だから、その触手を今すぐにでも……!!」
アーランズの予想に反し、秋川の母は半ばヒステリーに陥ったかのように即答する。ちらりと後ろを見ると、数多くの人々に交じり薄汚いバーコードヘアーの親父が触手に締め上げられている。そして、首を傾げながら触手から彼ら彼女らを解放し、足早に立ち去った。
……アーランズは知らぬことであったが、バーコードヘアーのこの男こそ、秋川未恵の父親であった。彼は母子に近づく狼藉者、即ちアーランズを打倒しようとしたが、幾度か触手に阻まれたのち、触手に捕まったのだ。秋川母子が性急に液体ダイヤを譲ったのも、彼を救うためだったのだ。
知らぬと言えば、この後、液体ダイヤを強奪され、取り戻すことも出来ずに凋落した秋川母の会社が『鋼龍』の総会屋行為によって半ば乗っ取られ、ゴロツキ共のためのATM同然に堕ちたことも、アーランズ本人が知ることは無かった……。