――とある高校:ゴミ捨て場――
「……いやお前さん、ちょっと弱すぎないかい?ヒック」
「グッ……!」
地に伏した科学者、木原交雑を唖然とした表情で見下ろすのは浮田重々。先程から木原交雑は重々に転ばされてばかり。有効な反撃にも移れていない。確かに膂力と瞬発力には目を見張るものがある。しかし、それも歴戦の傭兵たる重々にとっては対処が容易い程度のものでしかなかった。
「これだとちょっと興醒めだねぇ。ヒヒヒ、ヒック!お前さんに対しては、そんなに警戒しなくても大丈夫だったかね?」
「クソッ……!」
多くの木原一族は奇怪な科学技術を用いるゆえ、殺しにかかる際には慎重に行くべきだと聞いていたが、この醜態を見るに木原交雑は木原一族の中でも警戒が不必要な少数でしかないらしい。重々は溜息をつきながら、懐からピストルを取り出して撃つ。
(ガリッ!)
BLAMN!
発砲する刹那、重々の耳は歯噛み音を捉えていた。だが、重々はそれを、単なる無力感からくる歯軋りと解釈した。そして、その異音を些末なものとして見過ごしてしまったのだ。先程まで木原交雑が見せていた醜態ゆえに、木原交雑を侮ったためである。
きちんと地に伏せた交雑の表情を見通しておれば、隙をうかがう眼光がわずかながら見えていたというのに。……そして、重々はその油断のツケを早々に支払う羽目になった。
重々の銃弾がめり込むはずの木原交雑の頭部から謎めいたゲルと繊維の合いの子めいたものが溢れ出、銃弾を受け止めた。程無くして交雑の全身からぬらぬらとぬめる何かが溢れ出てその全身を覆った。うつ伏せになっていた交雑がゆっくりと立ち上がると、その全身は身長12尺*1の鎧武者めいた姿と化していた……!
これは、木原交雑が作り出した
重々は咄嗟に銃を発砲するが、交雑らしき巨大な体躯には一切通らない!弾切れになった拳銃を投げつけるも、顔にある巨大な口で噛み潰される!巨大な腕の一撃をかろうじて回避する重々。そこに交雑の嘲弄が飛ぶ!
「おや。先程まで弱すぎとまで言っていた軽口はどこに行きました?貴様なんて転ばせることが出来なきゃ
「…………」
勝ち誇る交雑であったが、重々の目つきが据わったのに気付かなかったのに気付かなかった。故に、すっ転んだ。
「ハァッ!?」
「お前、俺を舐めすぎだぜ。ヒヒヒヒ……ヒック!バランスを崩せば、お前が勝手に転んでくれるんだ。こんな楽な仕事はねぇ。ンクンク…………ヒック!」
素っ頓狂な交雑の声を聞き、満足気に笑う重々はその隙に一杯酒をかっくらい、法悦の最中に突入。交雑の重い拳の乱打を奇怪な姿勢を取りながら回避していく。
「クソッ!クソッ!クソォッ!」
「ヒヒヒヒ……ヒヒヒイィィーーーー……!」
そして、荒れ狂う交雑の頭上に更なる襲撃!2階から飛び降りた忍者装束に身を包んだゴロツキが、交雑の
「グアァァァァァーーーーッ!?」
交雑の悲鳴をよそに、
「……どうしたんだい?」
「助けてくれ。あいつら、クソしつこすぎる……!」
「おい、もう少し詳しく……」
ウンザリした表情で縋りついて来るザン・ニンに事情を聞こうとした重々だったが、
「グルルル……!!」
「上里サンの命を狙った報い、受けてもらいましょうか」
「ピピピッ!盗掘者に死を!!」
「クソが……外れた毒吹き矢程度でここまで根に持つとは……!」
「あ~……なるほどねぇ」
ザン・ニンの発言で全てを察する重々。上里が地面に沈み込み始めた時、ザン・ニンは毒吹き矢で上里翔流・上里勢力両者を狙った。しかしすぐに潜伏地点を割り出され、上里勢力の少女の一部から襲撃を受け、こうして己の元にやって来たということだろう。
しかしまぁ、この小娘共はザン・ニンの事しか目に入っていないらしい。あるいは、目に入っていても大したことのない相手だと見くびられているのか。いずれにしても、実に殺しやすい相手だ。
ちら、と振り返ると、倒れている交雑の頭部の傷は既にほとんど修復され、兜めいた頭で目は見えないながらも強烈な殺意を向けてきている。こりゃ小娘共より相当骨だな、オイ。溜息をつこうとしたその瞬間、交雑の頭にピンとくるものがあった。丁度小娘共も粗方揃った所だ。
降り立った上里勢力の少女達と交雑の殺意が膨れ上がり、弾けようとした所で重々はニヤッと笑い、こう叫んだ。
「バケモン通りまーす!ヒッヒヒヒ、ヒック!ウィィ……」
「!?」
「なっ!?」
「くっ!?」
「よ、避け……!?」
重々とその声を聞いたザン・ニンは大きくその場からステップ回避したが、酔っ払いの無責任コールめいたその発言に緊急性を見出せなかった上里勢力の少女達は、同じく重々の発言を無視してタックルしてきた交雑の巨体と正面衝突する羽目になった。
上手く回避できなかった何人かが壁にぶつかり、クズ肉めいた無惨な有様と化す!
「イヒッ、イヒヒッ、ヒック!!ヒヒヒヒイイィィィーーーーッ、ヒック!」
新体操めいた奇っ怪な姿勢で跳び回る重々。彼の手には新たな拳銃が握られ、その銃口は常に上里勢力の少女達のいずれかの頭に向けられている。ザン・ニンも手裏剣を構え、重々と共に漁夫の利を得んとす……!
「全く、役に立たないですねぇ。……こちらはもう終わりましたが」
上里勢力の少女達、重々、ザン・ニンと大立ち回りを続ける
自分がアレを活用出来ていたならあのマケグミ工場労働者めいた男以外は瞬殺できていただろう。そしてまた、ブルーカラーの男も苦戦せずに倒せていたはずだ。その考えを裏付けるように、彼女の側にはザン・コクの巨体が倒れ伏している。
彼女が操るは異形の戦闘術。敵の身体で衝撃をかちあわせ、血液に気泡を発生させる体術。この他にサンプル=ショゴス*2とサンジェルマンウイルスによる魔術も手札としてあるが、目の前で倒れるゴロツキを殺すのにそのようなものは必要なかった。
だいたい、突撃することの他には体躯しか誇るものがないような能無しが己の妨害をしようとすること自体が間違っているのだ。そう苛立ちながら半ば土に埋まりかけている上里翔流の方を見る。そもそも彼女の標的は上里であり、このゴロツキ共は些事だ。
いまだ呻き続ける上里に颯爽と歩む唯一。しかし、彼女は知らなかった。ザン・コクは突撃と体躯の他に誇るものを持つことに。それは、圧倒的なしぶとさ。彼は頭部が切り飛ばされたとしても手でつかんでくっつければそのまま生き続けられる生命力の持ち主だ。
そのザン・コクが、
そして、ザン・コクはゆっくりと身をかがめ、唯一に飛び掛かった……!
錆喰いビスコは面白いので、みんな読んで!!