――とある高校:ゴミ捨て場――
「ハッタリだな」
重々は冷や汗を流しながらもニヤリと笑ってみせる。これで自分達を殺す算段がついたと言われればどうしようかと思っていたが、チンケなハッタリならばどうにでもなる。
「だってそうだろ?その右手にあのガキの右手と同じようなもんが潜んでるなら、上里とかいうガキの右腕を千切った時に出てこねぇとおかしいだろ?」
ニタニタと笑いながら唯一にゆっくりと歩み寄る重々。普段は油断を誘うはずの下層労働者めいた薄汚れたツナギ姿が、明白な威圧感を持って場を支配していた。
一瞬にして場のイニシアティブを握った重々を中心として、『鋼龍』の者らは体勢を立て直す。ザン・ギャクはバックラーをしまいグラディウスの二刀流となる。ザン・ニンは周囲に溶け込み、隙を伺う。先程まで土中で立ち往生していた鬱々も姿を見せる。
御坂美琴に背負われ、仕留め損なった上条当麻や
猩々の亜流キドニーブローめいた一撃はしかし、ただのキドニーブローではありえない。
ギュルル、と排水溝に吸い込まれるような異音と共に、唯一の脇腹が渦めいた皺を描き、周辺組織を巻き揉みながら破壊され、莫大な苦痛を撒き散らす。唯一の背は海老めいて反りあがり、その顔も声にならぬ悲鳴で引き攣る。
その一瞬のち、唯一の脇腹に出来た渦が弾け、唯一が白目をむいて倒れる。唯一が連れてきた交雑はザン・コクと殴り合っており、こちらには来れぬ。会心の一撃を放ったはずの猩々はどこか腑に落ちない表情をしながら、カイシャクの役をザン・ギャクに譲る。
「……気を付けろ。何か妙だぞ、その女」
猩々の忠告に鼻を鳴らすザン・ギャクはしかし、唯一の身体の奇妙さに眉をひそめる。唯一の脇腹の大穴はミキサーを突っ込んだのかと思うほどに無惨な切り口であり、奇妙な色の体液が溢れるのは当然であろう。ザン・ギャクも、それをわざわざ気にはしない。
ザン・ギャクが気に留めたのは、肉に交じって動き回る黒いゲル状の物質であった。その量は時と共に増え続けている。ザン・ギャクの直感が何か不味いと告げる。ゆえに、カイシャクを強行する。
「――――!!」
御坂美琴が上条当麻にそそのかされたのか、こちらに向かってくる。だが、彼女がザン・ギャクの元に辿り着く前に唯一の首は体から離れるだろう。だが。
「............!?」
KRA-TOOOOOOOOOOOOM!!!
唯一の乳房、そして腹から、黒いゲルが溢れ出す。ザン・ギャクはそれでもカイシャクを強行せんとする。しかし、黒い怒涛は神速の勢いで突き出されたグラディウスを跳ね返す!そしてそのままザン・ギャクの姿を覆い、押し流した!
その裏事情を知る者、知らぬ者に関係なく、このゴミ捨て場に集った者達のほとんどが、この黒い津波を前に逃走の選択を取った。
鬱々は再び地下深くに潜り、そのほかの『鋼龍』の者らは校舎の壁をパルクールめいて登る。上里勢力の少女達は、怪我人と上里を背負い、夜の街へと駆け出す。御坂美琴は磁力を操り学校近くの鉄筋コンクリのビルに張り付く。
ゲル状の奇怪な洪水は、今や目玉やカギ爪を振り乱している。そして、その中心にいたザン・ギャクと木原唯一、加えて格闘戦を継続していたザン・コクと木原交雑を飲み込んだ。
「……ヒッヒ、ヒック。どうするよコレ」
「あの黒いゲルは生き物?寄生生命体の一種か?そうか、あの女にネジ・ツキをブチ込んだ時に脂肪の振る舞いが奇妙だったのはアレが抵抗したからだと思えば辻褄があう。あのスライムは体内では脂肪そのもののように振舞うのか?黎明期の真核細胞に組み込まれ、後にミトコンドリアとなった好気細菌のように?だが、宿主が死にかけた時には外に出られるほどに独立性を保っていると……。不自然だな。学園都市で作られた生体兵器か?あの女はアレを身体に仕込んでいた。一体何のために?」
「これではあいつらも流石に死んだか……。身の振り方を考えんとな」
引き攣り笑いをしながら眼下の光景を見渡す重々。猩々は俯き加減に顎をさすりながら、自分の考えに没頭している。ザン・ニンは兄と弟が黒い洪水に飲み込まれたというのに平然としている。
「......随分な言01草だな0010.あ11程度で俺が死ぬと01も?」
ノイズ交じりに彼らの背後に現れるはザン・ギャク。彼は黒いスライムに飲み込まれる直前に転移したのだった。ギョッとした表情のザン・ニンであったが、あの黒い洪水に飲み込まれた彼の兄弟は一人ではない。
「……愚弟はどうなった?」
「奴01ら機嫌よく01雑を殴り倒して11唯一を殴り殺00に行った.心配01るまい.」
「よくもまぁ、あそこまでやられておいて再び殴りに行けるな……」
「あ01に躊躇があると10も?」
ザン二兄弟、猩々、重々が眼下を見守る間に、黒い怒涛は勢いを落とし、爆心地、即ち木原唯一の元に戻っていく……。