――ロンドン・大英博物館跡――
「おーおーおーおー。随分高く伸びているなぁ」
先程までイギリスの魔術師や騎士たちと交戦していたアーランズは、大英博物館から世界樹めいて伸びる樹の根本に来ていた。否、樹という言い方は正確ではない。遠目から見れば大樹じみて見えるそれは、近くで見れば様々な草の茎が絡み合って出来ているものだ。
本来この場には、
この大樹は今も伸び続けている。天に向かって。明らかにただの霊装から逸脱した機能だ。ゆえに、アーランズたちはこの奇怪な霊装を調査し、自分達の魔術に取り入れようとしているのだ。
「何がモチーフだろうな、ヴェイズ?」
「……ギリシャ神話とエジプト神話の豊穣神のモチーフを混合したもののようです。こうも異常成長していては、本来の機能など分かり様もありませんが」
輪郭が靄じみたヴェイズが異常膨張する霊装を見ながらアーランズに答える。アーランズは上空を眺めながら独りごちる。
「しかし……あの巨大禿鷹もこいつと同規格の霊装のようだが、完全に本来の役割から逸脱しているよな?」
アーランズの視線の先には、本物よりも本物じみた禿鷹が飛んでいる。ただ、そのサイズは桁違いかつ、全身から赤い熱線を発してイギリス清教の魔術師を寄せ付けない。
「その通りでしょう。これもあれも、クロウリーズ=ハザード、ひいては『鋼龍』に対する迎撃に用いられたはずです」
ヴェイズが言う通り、イシス=デメーテルもワチェット=レトも明らかにイレギュラーな動きをしている。単純なエラーか、何者かが操っているのか……。その時、彼らの背後にその『答え』が現れた。
ヴェイズとアーランズが気配を感じて振り返ると、グリッチノイズと共にホログラムめいた朗々の姿があった。
「死せる電子の神たる我が、これらを操っている。貴様らの最終目標たる『神堕とし』のためにな」
「ほう……どういうことだね?」
アーランズの疑問に朗々は耳まで裂けた笑みを浮かべながら答える。
「この出来損ない共は……欧州人共の神と、異郷の神の習合物よ。ゆえに、この世界のあらゆる神を網羅している」
「なるほど」
「すなわち、この習合物共を死せる電子の神の先触れたる我の力を持って束ね、もって堕落せし僭称神共に相応しい末路をもたらすのだ」
「……我々は何をすればいい?」
「イギリス清教とやらの聖人を殺して、死体を持ってこい。奴の肉体を触媒とし、死せる電子の神の御業を見せてくれよう」
朗々がこともなげに放った一言に、アーランズとヴェイズは硬直する。聖人とはそれ即ち魔術世界における決戦兵器じみた存在であり、異形の魔術を身に着けた彼らにとっても容易いと言える相手ではない。その動揺を察したかのように朗々は『神託』を授ける。
「案ずるな。件の聖人は死せる電子の神の先触れたる我等の一党に属する毒蟲めと闘い、満身創痍だ。今なら貴様らどころか、そこらの羽虫同然の市民共でも首を獲れるぞ?」
『神託』を授かったアーランズはニヤリと笑い、ヴェイズと共にその場から立ち去った。聖人殺しを果たすために。
やっと目的を達する目算ができたよ!