――ロンドン――
アーランズとヴェイズが朗々から伝えられた場所に移動すると、まさしく地獄絵図じみた様相が広がっていた。
ロンドンの通りであったはずのそこは、まるで海中であるかのように魚が泳ぎまわり、岩礁が生え、カニともヤドカリともつかぬ怪物が這いまわっていた。そして、ロンドン市民であった肉片が周辺に喰い散らかされ、その血飛沫は水中めいて不気味にわだかまっていた。
「グワハハハハ! どうした? 儂を倒すのではなかったのか? ん?」
その地獄の中心で哄笑するのは虚無僧染みた老人、早瀬早々。ポニーテールの刀使いの女と、英国紳士じみたスーツに身を包む男を前に、勝ち誇るように手を広げている。その巨躯はズタズタに引き裂かれているが、傷口からは内臓や血肉の代わりに謎めいた触手や海水じみた液体が溢れている。
「……なぜ」
女、すなわちイギリス清教が擁する聖人、神裂火織が、怒りと憎悪と悲しみをぐちゃぐちゃに織り交ぜたかのような形相で早々を睨みつける。男、すなわちイギリスの騎士団長の方も厳しい表情だ。
「なぜこんなことが出来る!!」
女の怒声に鬱陶しげに耳を塞ぐ早々。その隙を狙って男の方が斬り付けるが、早々は抵抗もしない。真っ二つになった彼の身体からは、腸の代わりにゴカイめいた蟲が溢れ出し、再びつながった。
「そりゃ、儂を即死させられぬ主らが悪いじゃろうに。己の力不足を嘆くんじゃな」
「戯けるなっ!」
女は怒りと共に刀を振り下ろす。目の前の惨状は、確かに早々の身体から溢れ出したモノのせいである。だが、そもそも彼女らがこの場に来たのは、この老人の毒手による魔術師・一般市民問わぬ虐殺を止めるためだ。
この惨状をもたらした張本人であるにも関わらず、他人事じみた様子の早々に、両者は怒りを滾らせる。しかし、その怒りはこの老人の前では特大の隙と化す。
「イヤーッ!」
「ンアーッ!?」
CRAAAAASH!
早々は異常なまでの速さを誇る攻撃に対し、今まで斬られ続けてきた醜態が嘘かのような完璧なカウンターパンチを打ち込んだ! 女は吹き飛び、ビルに衝突! 丁度、アーランズとヴェイズが隠れている場所にほど近い!
(さっさと殺せ。うるさくてかなわん)
早々の目配せを受け、ヴェイズは懐からナイフを取り出した。神裂は完全に気絶しており、目覚める様子はない。ナイフで指を切り付けると、あっさりと血が流れる。その勢いで首を断ち、心臓にナイフを突き立てる。邪魔をしようとした騎士団長は早々に殴り飛ばされている。
「イヤーッ!」「グワーッ!?」「イヤーッ!」「グワーッ!?」
「……あのご老人、さっきまでは手を抜いていたのか? 騎士団長を相手に一方的に殴りつけているじゃないか」
「アーランズ様、早く撤収しましょう。早々殿も急かしていることですし」
ヴェイズの言う通り、早々は騎士団長を殴りつけながら、アーランズらの背後に向かって首をしゃくっている。その指示に従い、アーランズ達は撤退した。この世界を永遠に変えることになるであろう儀式に着手するために。
ヴェイズさん、縁の下を支える事を信条としていることと言い、外周を任されてることといい、霊装だけじゃなくてナイフみたいな泥臭い道具も持ってそうだよね……