矢面に立つことはないですが、存在感のある人物になりそうです……!
―――学園都市の能力開発で発現する能力にはピンからキリまであり、まるで役に立たない者から世界を敵に回して勝てるものまで存在する。また、この他に天然の能力者ともいうべき『原石』がいるが、極めて希少である―――
――『タタラ』日本支社ビル・会長室――
ここは、『タタラ』本社ビルの会長室。
そこに、規模では学園都市にも匹敵するコングロマリットを束ねる長、多々羅道雄がいた。
恰幅がよく、禿げあがった頭と
そもそも、『タタラ』とは何かという読者の疑問に答えねばなるまい。『タタラ』の正式名称はタタラグループ。元はネット金融業界でのし上がり、一代で様々な企業を吸収して巨大化したコングロマリットの一つである。しかしながら、学園都市と比べれば凡庸というのが世間の評価であった。
が、ここ数年でさらに巨大化が進み、規模だけなら学園都市に匹敵するものを手に入れた。さらに、いくつかの傘下機関が学園都市に協力しているためか、技術レベルも年々学園都市で運用される最新鋭モデルに近づいており、潜在的な反学園都市勢力の中でも警戒度の高いコングロマリットと化した。
その理由は、今、道雄の手の中にある……!
(異世界の技術というのは、何とも奇妙なものだな。機械を人間の体と融合させ、メンテナンスの手間を無くしたサイボーグを作ろうとは。しかし、この技術を実現させれば、一気に学園都市の上を行くことも不可能ではなくなる……か。)
その手にある資料には、ドローム・A・ヴィスタと名乗る異世界人から提供された、異世界の科学技術について書かれていた!ドローム・A・ヴィスタという名を聞いて察した読者もいよう!そう、この多々羅道雄も秘密結社『6人組』の一人である!
そして、彼が受け取っているのは異世界からの技術だけではない!学園都市内に潜伏する『6人組』のメンバの一人が送ってきた学園都市の最新鋭技術、学園都市内で研究を続ける狂研究者がもたらした異形の科学の情報が、この『タタラ』にもたらされていたのだ!
その時、特有のリズムで会長室のドアがノックされた。これは一種の符牒であり、誰がノックしているのかを示すものであった。
「……黒駒か。入れ。」
多々羅会長の声に従い、会長室のドアがゆっくりと開けられ、黒駒と呼ばれた男が入ってきた。眼鏡をかけた痩せ気味の中年男で、かつ生え際が後退している姿は、有能な人材のようには見えない。しかし、黒駒は正真正銘、多々羅会長直々の命で『転換計画』と呼ばれる秘密計画に携わるほどの男であった。
読者諸君の中には、『転換計画』とは何かと疑問に思った人もいるかもしれない。しかし、『タタラ』が進める恐るべき計画を知るべきは、今ではない……!
「『転換計画』についてご報告します」
「……どうした?何か問題でもあったか?」
「いえ……」
ここで黒駒ははじめて困惑したかの様子を見せた。この有能な男には珍しいことであった。
「計画は、順調です。順調すぎるのです」
「順調すぎる、だと?」
「すでに末端の者は4割を『転換』しました。上層部の『転換』も着々と進んでいます。……『転換』が想定よりもかなり進んでいます。しかも、何ら抵抗を受けていません。事前の奴らの態度からすると、かなり不気味と言わざるを得ません。もしかすると、何らかの罠という可能性も……」
黒駒が示した懸念は、作戦の前段階として接触した『奴ら』が示した反応と比べて、『転換』なる作業が容易に進みすぎている、あるいは罠なのではないかということであった。
「奴らもなんだかんだ言って、『科学』に対するアドバイザーは欲しかったのだろう。そこに我々が下手に出て協力を申し出てきたゆえ、やたら居丈高な態度ながらも、不可侵協定紛いの代物を締結できた。そこでの気の緩みという線も考えられるが……。キミの懸念ももっともだ。『魔術』に関する我々の知識が薄い都合上、何を仕掛けられるか分からん。『転換』のペースをかなり下げるよう現場に伝えろ」
「御意。それと、
「何だ。またぞろ、何か問題でも起こったのか?」
話は、
無論、学園都市には秘密にされている。学園都市の、科学技術、軍事技術におけるアドバンテージをまるで無に帰すような技術だからだ。
「いえ、万事順調です。しかし、『原石』じみた力に目覚めたものがいるようでして……資料はこちらです」
「……わかった。後で目を通す。現場指揮に戻れ」
「はっ」
黒駒が去った後、背後にいる護衛が初めて声を発した。この護衛はイワン・イワノフ。岩石のような頑強な体と巨体を持ち合わせる屈強な男である。
「一つ、質問があります」
「今日、キミが口を開くのは初めてだな。何だ?」
「会長は奴の言うことを信じているのですか?」
「キミが疑うのも無理はない。異世界から来た、などという戯言をいきなり信じることは不可能だ。しかし、少なくとも一部は真実だと認めざるを得まい。これを見ろ」
「……?……!……!?」
多々羅がイワノフに渡したのは、ドロームが『タタラ』に提供できる技術を記した資料であった。そこに記されていた技術とは、
・無機物・有機物問わず『肉』に変える食糧生産技術。
・脳内物質の分泌を遠隔で操作し、多数の人間の人格を一つづつ操る洗脳技術。
・物体をその機能を損なうことなく引き延ばす加工技術。
・機械と肉体を融合させる改造技術。
・人間を、姿がよく似た真社会性動物へと改造する遺伝子改変技術。
・契約を絶対に履行させる契約書を製作する技術。
といった、彼らの常識と隔絶した代物であった。
「そこにある技術の一つでも、我々の頭で思いつくことはできまい。……根拠は弱いが、奴らが我々の常識の外から来た存在であることは疑いなかろう。すべての話を信じるのは、どうかと思うが」
「では会長は、奴の言うことを全て信じているわけではないのですね?」
「ワシは誰も信じんよ。
……だがな、『世界を引っ繰り返す』というのは、挑戦しがいのある目標だ。
だから、彼の話に乗った」
「……なるほど。」
『タタラ』は、じきに、世界の変化の中心となる。だが、それを知るのは今ではない……。
ドロームがなぜ『6人組』を組織したか、その他のメンバーがなぜ『6人組』に加入したかは、後々やっていきます。
※2023/10/8 改稿
※2023/10/31 加筆
※2023/01/25 修正(設定との齟齬)