とある外道の6人組   作:毛糸ー

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このヒトはオリキャラではありません。
天草式の『必要悪の教会』の試験編に出てきた敵役です。

文字数がメチャ多くなっていますが、ご容赦を。


6.享楽的な魔術師

―――魔道書。それは魔術についての知識を広める目的で作られるが、その『原典(=オリジン)』に記された知識は例外なく有毒なため、一般人が目を通せば発狂は避けられない―――

 

――目覚め待つ宵闇・アジト――

 

 ここは魔術結社『目覚め待つ宵闇』のアジト。彼らは元来、魔術に歴史を求めない技術屋集団である。そして必要となれば、科学と魔術の不可侵協定を破ることさえ厭わない。それが最悪の形で嚙み合わさったのが、『目覚め待つ宵闇』のボス、アーランズ=ダークストリートの『6人組』への加入であった。

 

 『目覚め待つ宵闇』のアジトにある一室で、結社の構成員である男がアーランズからの電話を受けた。現在アーランズは結社の立て直しと「とある目的」のために財界に潜り込んでおり、アジトにはいない。

 

 電話を受け取った男とアーランズは、電話に使用した回線の安全性や「計画」の進展、財界で得た益体もない豆知識について話し合った。そしておもむろに、電話を受けた男が緊張した様子で言葉を発した。

 

「……いよいよ、ですね」

 

「ああ。そうだな」

 

 リラックスしているアーランズに対し、緊張している男はヴェイズ。『目覚め待つ宵闇』の「外周」を一任されている男であり、縁の下を支えることを己の性分としている魔術師だ。

 

 ヴェイズとて、死線を幾度も潜り抜けてきた歴戦の魔術師である。その彼がここまで緊張することを、アーランズはやらかそうとしているのだった。

 

 それは、彼らが秘密裏に開発しようとしていた魔術に関係があった。その魔術の名は分類不能(ブランクペーパー)。学術速度を加速する魔術であり、「新たな公式の発見とそれに伴う学問レベルの上昇に30年かかるとすれば、それを数秒で終わらせることができる」という、時間と努力に比例する研究成果の原則を完全に無視した魔術である。

 

 元々、この魔術は『目覚め待つ宵闇』単体で開発する予定であった。だが、アーランズはその予定を変更して、『6人組』の協力を仰ごうとしているのだ……!

 

 普通の人間なら、魔術界のバランスはさておき、諸手を挙げて歓迎する魔術だろう。なにせ、普通数十年かかる研究をあっという間に終わらせることができるのだから。完成させれば学園都市外の技術レベルを学園都市レベルにまで引き上げ、追い抜くことすら容易にできよう。

 

 しかし、『6人組』の一人、「探究者」ザゾグ=ザンリックは「探究こそ人間の本質であり、探究することを忘れた人間は生きる価値のない生き物だ」と言ってのけるほどの探求フリークであり、探究を否定する『分類不能(ブランクペーパー)』を絶対に認めない者の筆頭なのだ。

 

 それを週1度ある『6人組』の定例会で発表することは、『6人組』の結束にヒビを入れることにもなりかねない。ヴェイズもアーランズにこの件について何度も訪ねたが、アーランズははぐらかすばかりであった。恐らく、何か秘策があるのだろうが……。

 

(アーランズ様、本当に大丈夫でしょうね……!)

 

――『6人組』定例会――

 

 財界での退屈なパーティーの後、アーランズは床につく。そして夢の中へと落ちていった……。

 

 

「……いつまでたっても、慣れんな。これは」

 

 気付くとアーランズは、円卓の椅子に腰かけていた。椅子は自分のもを合わせて6つ。そのうちの一つに、ドローム・A・ヴィスタが座す。『6人組』の週一回の定例会である。

 

 読者諸氏の中には、アーランズは夢の世界にいるのではないのか?なぜ定例会が始まっている?と疑問に思った方もいるだろう。

 

 ここは、いまだに夢の中である。しかし、『6人組』全員がこの夢を共有することで、地理的に離れていても、『6人組』の定期的な定例会を開くことを可能にしたのだ!そして、あくまで夢なので、寝不足にもならない!

 

 ……ということらしい。ドロームがこの状況のタネを自慢げに話していたが、いまだに原理を理解しかねている。もっとも、アーランズはドロームのふるう力の数々を理解できるとは思っていない。何せ、相手は異世界からやってきたのだから。

 

 そして、円卓の椅子が次々埋まっていく。

学園都市のロクデナシ科学者、蠢動俊三。

アレイスター嫌いの探求者、ザゾグ・ザンリック。

『タタラ』の長、多々羅道雄。

地獄から蘇った戦争狂、甘粕義彦。

 

「クカッ!クカカッ!全員、集まったようだのぅ!定例会の、始まりじゃぁ!」

 

 全員が集まったのを見て、ドロームが定例会の始まりを宣言した。各々が定期報告を行っていく。

『鋼龍』に襲撃をかけた魔術結社の殲滅。

「蜜蟻愛愉」の「調整」。

「有機コンピュータ」の互換性調整。

「転換計画」の減速と、「人造人間(ホムンクルス)」における「原石」の発生。

部隊内の敗北主義者と学園都市製駆動鎧を利用した兵器「伊地知」の開発。

 

 どれもこれも、普通の人間が聞いていればゾッとするようなものばかりだ。しかし、これを聞いてゾッとするような人間ならば、アーランズはこの場にいない。

 ……そして、アーランズの定期報告の番が来た。

 

「……我々は結社の立て直しのために財界に潜り込んでいたと、以前報告していたと思う。しかし、我々の目的はそれだけではない。ある魔術を開発するためだったのさ」

 

「……その魔術とは、一体何だ?」

 

 この中で比較的魔術の知識が乏しい多々羅がアーランズに尋ねたのに合わせアーランズが答える。

 

「『分類不能(ブランクペーパー)』さ。詳細は、これから説明しよう。」

 

 ……そしてアーランズは『分類不能(ブランクペーパー)』について、『6人組』の面々に説明した。その効果、発動させるための方法論、予想される妨害、完成させる目的についてまで。

 

 それを聞く『6人組』の反応は様々だった。

 ドロームは面白そうなものを見つけたように笑い、

 蠢動は半信半疑の様子で、

 多々羅は興味深そうに顎をさすり、

 甘粕は目玉をぎらつかせた。

 

 そして、ザゾグはやはり、憤怒しているようであった。俯いているので表情はわからないが、握りしめた手から血が流れだしており、完全に虎の尾を踏みぬいたような有様であった。

 

「……その計画には、2つの問題がある」

 

 意外にもザゾグは、冷静な声色で語りだした。恐らくは建前であろう、1つ目の問題点を指摘する。

 

「1つ。その計画には、貴様が命を捨てることが含まれているな?貴様が死ねば『6人組』が5人組になってしまう。そこの阿呆が我々を『6人組』としたせいで、一人の欠員も増員も許されん状態になっている。みすみす欠員の出現は看過できん。」

 

「ああ、そりゃ大丈夫じゃの。ワシらが何とかするからのぅ。カカカッ!」

 

「チッ……!」

 

 ドロームに出鼻をくじかれたザゾグは、さらに握りしめた手の力を強め、第2の問題について話し始める。

 

「2つ。その術式は、完全に私や蠢動の仕事を奪うような代物であること、気付いていないわけではあるまい!人間から探究を奪う代物をっ!私が認めるとでもっ!思っていたのかっ!小ォ僧ォっ!」

 

「……そういえば俺の本業は学者だったな……」

 

 キレていた。完全にキレていた。このまま放っておけば、席を立ちあがり、アーランズの首を絞めると言わんばかりにキレていた。蠢動の学者失格といっていい一言すら耳に入らないほどにキレていた。

 無策であれば最悪死ぬだろう。『6人組』という名前だから一人の欠員も増員も出さない、というのはドロームだけの方針だ。その他の連中は、そんなこと気にも留めないだろう。

 しかし、アーランズには秘策があった。それは、『6人組』の目的に関係があった。

 

「……そうはいうが、”超越者気取りで人間を見下ろす神を天上から地上に引き摺り落す”などという荒唐無稽な目標をこれに頼らず行うことなど、不可能だと私は思うがね。現在の方法論で神を引き摺り落す方法などないだろうに」

 

「……ッ!」

 

 今明かされる衝撃の真実!『6人組』の目的は、人間を見下ろす神を地上に引き摺り落す”という、十字教徒が聞けば怒り爆発間違いなしの、完全に頭がおかしいとしか思えないものだったのだ!

 そして現在、『6人組』は神を引き摺り落す方法論がないため、取り合えず邪魔をしてきそうな十字教勢力の弱体化と勢力拡大に腐心している。

 しかし、『分類不能(ブランクペーパー)』が完成すれば、神を引き摺り落すための方法論における大規模なブレイクスルーが期待できる……!

 

 アーランズは言葉に詰まったザンリックに、『分類不能(ブランクペーパー)』を完成させる利点をさらに強調していく……!

 

「それに、だ。『今は失われた体系』によって貴様の失われた記憶も、取り戻すことができるかもしれないのだから、反対する意味は薄いと思うがね。……それに、『分類不能(ブランクペーパー)』が成功するかもわからないのだから、今から強硬に反対しなくても良いだろうに」

 

 いみじくもアーランズが指摘したように、ザンリックは記憶喪失であった!ザンリックにはドロームに拾われる以前の記憶がなく、自分がどこで生まれた何者であるかを知らなかったのだ!

 

「……チッ。……それもそうだな」 ((……手ひどく失敗するがいい……))

 

(……何とか、なったな。)

 

 そして、ザンリックが患っている記憶喪失と、『分類不能(ブランクペーパー)』が失敗する可能性について示すと、ザンリックは不精不精引き下がった。 (ザンリックがこぼした小さな呪詛は気にしないものとする。)ザンリックが引き下がりさえすれば、『6人組』の他のメンバーが反対することはない。

 

「全く、こんな面白い計画、ちゃっちゃと話さんかい!話してくれりゃぁ、協力を惜しまんかったものを!」

「それが本当なら、計画をやっと一歩先に進めることができるな。俺の雑用も無駄じゃなかったってことか……。」

「……それが完成したあかつきには、()()を当初よりかなり早く実用化できるな……。」

「戦争だ。大戦争だ!満願成就の、朝は近い!ハハハハ……ハハハハハハハァァァーーーーーッ‼‼」

 

 一人完全に熱に浮かされた男がいるが、アーランズは気にも留めない。いつものことだからだ。

 

 そして定例会が終わり、『6人組』のメンバーが次々円卓から退出していく。

 

 残った面子がアーランズとドロームだけになった時、ドロームが核心を訪ねた。

 

「おんし、ザゾグに言うとったこと、全部出まかせじゃろ。『分類不能(ブランクペーパー)』、かなり以前から計画しとったじゃろ。ホントの目的はなんじゃいな?」

 

 もちろん、答えは一つしかない。ドロームもその答えを望んでいるし、そうであるからこそ、自分はドロームの同志になったのだ。

 

「もちろん、ゲームさ。とびきり面白そうなゲームだったから、挑戦してみる。それ以上の理由は無い」

 

 この言葉を聞き、ドロームの口角がグィンと持ち上がった。それはまるで、ヒトではないかのようだった。無論、アーランズはそれを恐れはしない。むしろ予定調和のように、自らの口角を持ち上げる。

 

「おんしと言う奴は、本当に最高じゃの!安心せい!ワシらが全面的に協力したるわい!クカッ!クカカカカカッ!」




 このヒト、いい具合に頭がトんでるので、今回『6人組』に抜擢しました。組織のボスなのに、自分を囮にするとか何なんだよ……。

 ヴェイズさんって「外周」を一任されているらしいけど、「外周」ってなんだ?
ロード・トゥ・エンデュミオンでの記述からして、魔術結社の末端の魔術師みたいだけど……。

※2023/9/10 改稿
※2023/10/19 改稿
※2023/10/26 改稿
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