これからも「とある外道の6人組」をよろしくお願いします!
新約編、スタートです!
0.要注意患者番号No.00005「エミ・タミコ」
性別:女性
注意事項:妄想・妄言・絶叫
著名な考古学者であったエミ・タミコ氏は、トーホクのオーパーツ遺跡*1を探索中に突如発狂。うわ言めいて何かを呟いたかと思うと、そのまま探索隊を放って自宅に帰国し、氏は児童向け書籍『暗黒の王国』*2を書き始める。
そして、氏は全ての講演、探索行をキャンセルし、『暗黒の王国』の執筆に専念。この奇行を止めようとした氏の長年のパートナー、アカネ・コウコ氏を護身用拳銃で射殺。その上、氏が研究資料として保管していた貴重な出土品のいくつかを完膚なきまでに破壊*3。
後日家を訪れ、コウコ氏の死体を発見したハウスヘルパーによると、タミコ氏はうわ言をわめきながら、コウコ氏の死体をそのままにして『暗黒の王国』を執筆していたという。そしてしきりに周囲を見渡しながら何かを警戒している風だったという。
ハウスヘルパーの通報によりタミコ氏は確保され、精神鑑定の結果、当精神病院に入院することになった。しかし、深夜の絶叫を繰り返し、ふとした拍子に他の入院患者に暴力を振るうため、隔離措置を取った。
氏には薬物療法とカウンセリングを行い、治療を試みているが、成果は上がっていない。
――『暗黒の王国』序章――
今よりずっと昔の事、ある所に、ろくでもない男がいました。その男は、善人が無力さに打ちひしがれ、絶望でのた打ち回るのを見るのがとても好きでした。今で言う、映画のような感覚で、その光景を楽しんでいました。
なぜそんな悪しゅみな光景が好きかと言われても、生まれつきのものなので、答えようもありません。ですが、善人が苦しんでいるのを見ると、虫の足を引きちぎって楽しむような、そんなとってもいい気分になるのです。反対に、良い事をしても、とてもつまらない、という気持ちしか出てきませんでした。
なので、たくさん筋金入りの悪人たちに支援をしました。ですが、ときどき善人たちはそんな悪人たちを打倒すのでした。
これではきょうざめです。だれだってつまらない映画は、見たくありません。なんとかならないか、と男は考え始めました。そして、男は最悪なアイデアを思いつきました。
「根っからの悪人が、善人を問答無用でぶち殺せる力を生み出せばいい!善人や悪人まがいの善人には手に入れられない力にしてしまえば、善人は悪人に勝てなくなる!」
男は早速、自分のたくらみを成功させるため、人を集め始めました。もちろん、善人は一人もいません。そのだれもが、善人に一切なやまされることのない世界を作ろうという男のスローガンに引かれて集まってきた、じゃあくそのものでした。
男は、悪人が善人を打倒す力を物理的なぼうりょく、つまりなぐり合いに求めました。そして、本当にろくでもない悪人だけが扱うことのできるけんぽう、”バリツ”を開発して、世界に広めました。そこから、善人を世界のマケグミにするというとてつもなく”すばらしい”理想を実現する時がやってきました。
ですが、そんなひどい計画がうまくいくはずもありませんでした。世界を作りかえようとしたその時、男とろくでもないなかまたちは、”ちから”にのみこまれてしまい、世界といっしょにくしゃくしゃになってしまったのでした。
こうして、わるいやつらは消え去り、善人たちは平和に生きることができるかと思われました。ですが、”やつら”は帰ってきました。世界にくしゃくしゃにされた男とそのなかまたちは、異形と化し、今まで以上にはかいとぼうりょくをばらまき、世界を支配し、善人を虫のように殺しつくしました。
そしてその後、かれらは歴史のやみに消えて行きました。彼ら自身でつぶし合い、あるいはすきをつかれ、一人、また一人と消えて行ったのです。そして、善人のための世界ができたかのように見えました。
……ですが、かれらはもどってきました。あんこくと非道の時代がふたたびおとずれたのです。
――カウンセリングの様子(第12回カウンセリング)――
※『』→カウンセラー(ヤシキ・オヤシキ氏)の発言 「」→エミ・タミコ氏の発言
『では、第12回カウンセリングを開始します』
「なぜあなた達には分からない!太古の昔この地上を闊歩していた旧支配者が復活し、今再び世界を飲み込もうとしているのだと!」
『……確かに、古事記*4には『古き者ども』『忌まわしき古々しき者』など、あなたの言う旧支配者を思わせる記述は多くあります。ですが、アレは所詮神話の事、悪しき古代の慣習を比喩した言葉だと他ならぬあなたが断言したでしょう』
「あの時の私は白痴にして盲唖、愚昧にして痴呆でした。それゆえ、眼前に示された証拠を見逃してしまったのです。今は、奴等が復活したことを示す証拠はいたる所にある事に気付きました。そして、この世界に潜り込み、大半の旧支配者が封じられた後も暗躍し続ける者たちがいることにも」
『……はぁ、またその話ですか。いいですか、あなたのその話は妄想です。その旧支配者とやらが復活したのなら、我々の世界はとうの昔に滅びているはずでしょう?』
「先ほど言ったでしょう。奴等はこの世界に潜り込んだ、と。サイバネティクスが広がり、ネットワークが世界を覆いつくし、無関心無知能市民が増えた今、奴等はやり方を変えたのです。すべてを薙ぎ倒して破壊し、更地に変えるのではなく、支配しやすくなった文明を乗っ取る方向に」
『それで、乗っ取られた文明があるという絵空事でも言い出すつもりですか?さっさと認めたらどうです?あなたは妄想にかられ、不審な文書を書き、相棒のコウコ氏を殺したのだと』
「コウコは旧支配者の手先だったのだ。アレは仕方なかったんだ。あの女は、我々が真実を見出すことを妨害するために放たれた旧支配者の手の者だった。真実を究明するには仕方なかったんだ。仕方なかった。仕方なかったんだ!!」
(タミコ氏、うわ言を呟きながら俯く。喘鳴が始まる。)
『……チッ。私だってねぇ、道楽でやってるんじゃないんだ。もっと楽な患者を持ってきてほしいんだよ。こんなたちの悪い女じゃなくてさ。それか、もっと給料を上げろ。あの無能院長めが』
(オヤシキ氏、煙草を吸いだす。監視員に注意され、舌打ちをしながら煙草をしまう。監視員が氏の首に注射を行う。喘鳴が落ち着き、タミコ氏は退出。発言が問題視され、オヤシキ氏は当病院の専属カウンセラーをクビになった)
一つ言っておくと、旧支配者はろくでもない奴らの集団です。悪しからず。
『暗黒の王国』の文体イメージは新約14巻のアレイスターの略歴紹介(ひらがな)ですね。あれより内容はかなりひどいですが。
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