0.大規模軍事演習(演習地は焦土になる)
――『6人組』定例会――
「……『グレムリン』のクソ共が、ハワイを襲撃するそうなんじゃがの?『グレムリン』の連中は徹底的に妨害してやると決めたんでな、魔術師を拉致ろうと思うんじゃぁ」
ドロームがハワイ襲撃について話し出した際、反応した者が一人いた。
「近々ハワイで大規模軍事演習を行うつもりなのだが……その『グレムリン』とやらのハワイ襲撃と丁度同日になりそうなのだよ」
彼の言う『大規模軍事演習』とは、『大戦争を引き起こす前の肩慣らし』という意味である。ゆえに、『兵力を投入してハワイを焼き尽くす』と言っているにも等しかった。このあまりにもふざけた宣言に、ドロームとアーランズは頭を抱え、多々羅やザゾグですら呆然とし、蠢動などはパニックに陥っていた。
「き、貴様正気か!?世界的リゾート地のハワイを焼け野原にすれば、当のアメリカはもちろん、世界が黙っちゃいないぞ!?『6人組』が糾弾される事態になったらどうしてくれるんだ!?」
「私が諸君らに繋がっている証拠が奴らに用意できるとでも?」
「……!!」
見苦しく喚く蠢動に冷や水めいて浴びせられた甘粕の一言はしかし、一定の真実を含んでいた。ドロームが何か陰謀を企んでいることに気付いている者がいたとしても、深海に潜伏する
ましてや、
積み上げられる骸の数はともかく、繋がりがばれることは無いと悟り、蠢動は口をつぐむ。変わって口を開いたのは、いまだに頭を抱えるドロームであった。どうせ駄目だろうと思いながら、
「のう、甘粕さんよ。中東にあるアメリカの同盟国とかじゃ駄目なんけ?ワシらぁ、クソ魔術師を確保して見せしめにしたいんじゃが、艦砲射撃かなんかでソイツが吹っ飛んじゃ笑い話にもならん。ハワイでなきゃいかん理由があるんけ?」
「ハワイには、真珠湾がある。我等の復活を世界へ高らかに宣言するのに、これ以上良い場所は存在しないだろう」
ドロームも”この世界”の歴史について一通り勉強したため、真珠湾攻撃のことは知っている。日本が軍国主義根絶の一歩を踏み出して
それゆえ、襲撃場所をハワイから変えさせるのは早々に諦め、ドロームは別の案を甘粕に提案した。
「なら、ハワイ襲撃は別の日にしてくれんけ?」
「それは駄目だ。『グレムリン』とやらにハワイを先んじて焼け野原にされては困る。ハワイにはぜひとも、我々の復活の狼煙となってもらわねばなぁ……」
完全に目がイッてしまっている甘粕を見て、襲撃の日時を変更させることを断念したドロームは、次の手に移った。
「なら、ワシらが『グレムリン』の魔術師を確保するまで待ってくれんけ?『グレムリン』の連中が消えりゃぁ、ハワイを横取りする奴はおらんやろ?」
「…………実際その通り……ぎりぎりまで待つ。『グレムリン』が動き出すより前に魔術師を捕まえてハワイから去れ。それが、私ができる最大限の譲歩だ」
「おう、すまんな」
何とかハワイ襲撃を延長させたドロームは溜息をつく。そして、違和感に気付いた蠢動がドロームに聞く。
「おい、人員はハワイにいるのか?それともハワイに向かわせるのか?」
「あれ?おんしに言っとらんかったか?もうワシの部下のザン・ニンとおんしの部下のベニゾメをハワイに入国させるつもりだったんじゃが?」
「そういうことはもっと早くいってくれ……」
魔術師を拉致するための人員は確保し、蠢動は一息ついた。だが、他に懸案事項があるのを思い出し、蠢動は多々羅に尋ねる。
「ハワイが焦土に変わって大丈夫なのか?タタラの支社や、秘密工場はないのか?」
「……いや。人造人間のエージェントが一人いるだけだ。現在は合法的な手段で問題の解決を図っていたが……ハワイが焦土になるなら関係ない。非合法な手段をとって手っ取り早く解決するまでだ」
ハワイ襲撃に当たる懸案事項はすべて消え、あとは当日を待つばかり……。
――11/9 ハワイ――
「……やめてよね。こんな足の踏み場もない部屋で一泊?冗談きついわよ」
「おれは天井に張り付いて寝れるから構わんが……これはひどい」
ハワイに到着したベニゾメとザン・ニンは、タタラのエージェント上川に連れられ、彼が宿泊しているホテルの一室に来ていた。その部屋は、優に3人が共同生活できそうなほどに広かったが、資料が散乱し、ベニゾメの言う通り足の踏み場もない状況だった。
シュタッ!「で?明日の予定は?」
「「…………」」
急に天井に張り付き、明日の予定を尋ね始めたザン・ニンを、上川とベニゾメは奇妙なものを見る目つきで見ていたが、おもむろに上川が口を開く。黒いサングラスで覆い隠された目玉からは、心情はうかがい知れない。
「……リンディはもう拉致して眠らせてある。明日朝一に来る日本行きの飛行機に乗せ、多々羅会長の元に送る。すぐに『グレムリン』の魔術師を確保してハワイから去るべきだ」
「と言っても、出国手段はあるのかしら」
「待て。リンディとは誰だ?」
”この世界”の事情に疎いザン・ニンが天井に張り付いたまま問う。藍色のコートの肩をすくめ、上川が答える。
「アメリカのメディア王、オーレイ=ブルーシェイクの娘だ。オーレイが虐待していたことが発覚したため、隔離されて名前も身元も変えてこの島に潜伏していた」
「それで、何でその小娘を貴様は拉致しようとしていたのだ?オーレイとの縁は切れているだろうに」
「それが、そうでもない。オーレイはあの小娘に自分の事業を継がせようと必死なのだ。行き過ぎた英才教育に走り、虐待したとして引き離された娘を、今でも取り戻そうとしている。そのオーレイの娘を、我々が回収してやるという格好だ」
「……どうせただではないんでしょう?」
物事の裏側を見通そうとするような表情をしたベニゾメに、上川は答える。オーレイとタタラとの確執を。
「……以前からオーレイは、アメリカ内のタタラ本社に従属を要求していた。最初は無視していたが、不祥事を発表すると脅すなど、鬱陶しい動きをするようになってきた。それゆえ、リンディを人質にしてオーレイに言うことを聞かせ、後でまとめて始末する」
「なるほどね。もし私が探り当てたならスクープしちゃうんだけど。今は君たちを裏切ると殺されかねないし、やめておくわ」
表裏定かならぬベニゾメを一睨みすると、ザン・ニンが続けて質問する。話を聞く間ずっと天井に張り付くザン・ニンに慣れたのか、上川もベニゾメも表情を変えずにいる。
「……それでリンディとやらはどこにいるんだ?」
「ここだ」
上川が資料の乗りが薄いベッドの掛布団をめくると、そこには朦朧状態の少女が!ザン・ニンもベニゾメも驚愕!
「……どうやってさらった?」
そう言って質問するザン・ニンに対し、上川は黒いサングラスを外し、目を隠すことで応える。すなわち、目に仕掛けがあるということだ……!
「……俺の目にはタタラによる改造が施されていてな。目を見た人間は振り子や蝋燭を見た時めいて催眠状態に陥る。保護者もこの娘も催眠状態にした上で、保護者は殺し、この娘は拉致した」
「ナルホド……それじゃあ、明日は魔術師拉致すればいいということか!」
ザン・ニンの愉快気な声と共に、上川とベニゾメは散乱した資料をまとめ始め、三人がとりあえず寝起きできるスペースを作り始めた……。
やっっと