アンブッシュ=奇襲です。
――バゲージシティ・選手控室前廊下――
「た、助けてください!アイエエエ!」
バゲージシティに襲撃をかけた学園都市の部隊は、ジゴクを味わっていた。彼らの身体は煮凝りめいて溶け、融合している。なのに痛みがない事、自我が薄れる様子がない事が恐怖を一層倍増させていた。そして、先程から、
このジゴクを作り出したのは、ヨゴレ、ニタリ、オオセの死体漁り三人組。彼ら三人にアンブッシュを受けた学園都市の部隊は、対処する暇もなくこうして肉煮凝りめいた有様と化した。そして、彼らは知らぬ(あるいは分からぬ)ことであったが、もう一つの部隊も彼らによって煮凝り殺されていた。
死体漁りは見つかれば官憲によって刑務所送りにされかねない生業であり、それゆえ死体漁りとして生きる者は皆、隠密の心得がある。そして三人は、死体漁りの中では上澄みであるため、センサー頼りの部隊を翻弄できる程度には、隠密の技能が備わっていた。
それに加え、ヨゴレは卑劣なバイオサイバネ改造を自らの体に施している。それは、指先と指の股の間に、有機毒矢を発射する器官を増設しているのだ。毒矢はクラゲの刺胞を参考にしており、防弾チョッキ程度なら容易くぶち抜く。
そして毒は、オオセが過去に浴びたバイオ工場廃液を利用した代物である。この毒は学園都市の部隊を煮凝り融合させたように、人間の体を変異させ、どろどろのアメーバに変えてしまうのだ。そしてさらに最低な事に、この三人組にこの毒は効かない。
過去に廃液を浴びて生き延びたオオセは言うに及ばず、ニタリやヨゴレも
彼らのアンブッシュは簡単だった。まず、ヨゴレがバイオサイバネ毒矢を撃ち、敵の体をどろどろに溶かす。その後、ニタリのもつ武器やオオセの剛力で中身をぶちまけさせる。これだけだ。後は手早く融合煮凝りを喰い尽くすか、煮凝りを細かく切り分けてきっちりぶっ殺せばいい。
何度目かの学園都市部隊煮凝りを殺し終わった後、ヨゴレは嘆息する。
「オイ、何か来てるかオオセ?」
オオセは廃液を顔面に浴びた際、サンズ・リバー(三途の川)を垣間見た影響で何か超常的感覚に目覚めたのか、一定範囲内に接近した動体をソナーめいて感知できる。死体漁りにしては大柄な体を揺らし、オオセはゆっくりと周囲を見渡す。
「ウウ……来てない……」
学園都市の軍服を回収するニタリは、多機能暗器、ロッド・オブ・シノビを手で弄びながら私見を話し出す。ぶっちゃけた話、学園都市の部隊があまり来ないせいで彼らは暇なのだ。
「こんなもんだろ?なんかスンゲー科学とかいってる学園都市の連中にとっちゃ、サイエンスガーディアン?とやらが手に入れようとしてる技術なんてしょうもないんだろ」
「イヤ……それにしても……来てない、ぞ」
オオセはこめかみに指をあて、生体ソナーの範囲を拡大させる。だが、学園都市の部隊らしき連中は
「長老、『どうせ奴等はしくじるから、学園都市とかいうとこの連中は入れ食いだぞ』って言ってたよな?全然来ねぇじゃねぇか!あのクソ共!」
「タタラ、とかいう連中が長老が思ってたより頑張ってるんだろ。それにあまり来てもらっても困る」
ヨゴレの不平に応じたニタリが言うように、学園都市の部隊が来すぎても、この死体漁り共の手には余る。バイオサイバネ仕様ゆえ、リロード時間が少ないと言ってもヨゴレのバイオサイバネ毒矢は有限なため、学園都市の部隊が殺到すればキャパオーバーとなるのだ。
「チッ……それはそうだがな、ニタリ。もう少し来たところでリロードは全然余裕で間に合うんだぞ」
「ブフゥー……もしかして、だが。アイツら……余裕ない、のか?」
――バゲージシティ屋上―
「……これ、あたしたちいる意味なくね?」
「…………」
バゲージシティの屋上にいる二人の魔術師は、自分たちが目にしている蹂躙劇を虚脱状態で見つめていた。間違ってはいけない。
それを見て、二人の魔術師の片方、『目覚め待つ宵闇』に所属する魔術師ダッジが、もう片方の魔術師、『グレムリン』の正規メンバー、マリアン=スリンゲナイヤーに体を向ける。
ZZZZZZAPPPPPPPPP!!
突如、電撃がマリアンに襲い掛かる!マリアンは危うく回避!裸オーバーオールの褐色少女は、いかにも魔術師然としたローブを纏った男に抗議する!
「……どういうつもり?」
「………………」
ZZZAPPPP!ZZZAPPPP!ZZZAPPPP!
ダッジはそれに答えることなく、雷撃を次々に放つ……!
――バゲージシティ上空――
KAKAKAKAKAKAKAKAKAKABOOOOOOM!!
KAKAKAKAKAKAKAKAKAKABOOOOOOM!!
KAKAKAKAKAKAKAKAKAKABOOOOOOM!!
ZZZAPPPP!ZZZAPPPP!ZZZAPPPP!ZZZAPPPP!ZZZAPPPP!
「アイエッ!?アイエエエッ!?アイエエエエエエッ!?」
学園都市の戦闘機を駆る半田は、バゲージシティ攻撃に参加したことを後悔していた。もう、半田以外に生き残っている学園都市の航空戦力はいない。そして……
ZZZZAPPPPPPP!KABOOOOOOM!
半田が駆る戦闘機も、丁度操縦席が
学園都市に出向いた航空部隊たちは当初、サイエンスガーディアンを侮っていた。サイエンスガーディアン側は事前に彼らの襲撃を察知し、無人ドローンなどを差し向けてきたが、易々と撃墜した。それゆえ、今回の任務は簡単だ、と航空部隊の者たちは安堵した。
だが、全ては間違いだった。ひとしきりドローン群を壊滅させた後、追加で蜂めいた巨大な無人ドローンが向かってきた時、航空部隊の一人がミサイルを放ち、撃墜しようと試みた。だが、巨大機械蜂は一瞬にして放たれたミサイルごと航空部隊の7割を
残りの三割が見たのは、巨大蜂の背後から多数展開された機銃めいた代物から極太ビームが発射され、
何と、ビーム砲に加え、蜂の脚が
……半ば虐殺のような形で学園都市の航空戦力が撃墜されたことは学園都市に大きな衝撃を与え、またサイエンスガーディアンに勝機を見出す者が現れることにもつながった……。
――バゲージシティ・外壁――
「何なんだよ……何なんだよ!畜生!あいつ等はこんな、こんな技術を隠し持っていやがったのか!?」
サイエンスガーディアンに雇われた傭兵、シャール=ベルランは目の前で起こっている光景が信じられなかった。今にも彼らに襲い掛かりそうであった学園都市の兵器群が、
シャール=ベルランは、今更ながらとんでもない伏魔殿に乗り込んでしまったことに気付き、ただただ震えていた……。
――バゲージシティ地下シェルター・指令室――
多くの者達が震えるタタラの兵器の内情は、お寒いものだった。黒駒がほっと一息をつく。
「何とか、学園都市の刺客共の横っ面を殴ってやることには成功しましたな」
「まさか、兵器開発部門の悪乗りのせいで出来た怪物が活躍するとは……人生とは分からんものよ」
「……会長、最終的に開発のGOサインを出したのは会長であること、お忘れですか?」
多々羅やイワノフが言うように、学園都市の航空部隊を殲滅した極殺兵器『蜂』が出来たのは本当に偶然と呼ぶべきであった。だが、今回の事態を見れば、塞翁が馬というべきであろう。
普通のドローンとして作られるはずだったこの兵器は、学園都市の
だが、タタラの兵器開発部門ははっちゃけた。恐るべき
それゆえ、この蜂型殺戮ドローンは大型化した。当初、大きくても人間サイズを予定していたドローンは戦闘機大まで巨大化*2。そして、通常の機械やバッテリーを利用するはずだった回路も、急遽ザゾグが開発したエコロジカル・バッテリーや有機コンピューターを利用する羽目になった。
当初の企画からここまで大改造されているゆえ、タタラ上層部から下げ渡された予算を大幅にオーバー。多々羅会長ら取締役に詰問されるも、兵器開発部門は有り余る情熱とロマン、そして論理的思考をもってプレゼン。それを聞いて一部の取締役*3が乱心した結果、巨大無人殺戮ドローン、極殺兵器『蜂』は作り出されたのだ。
そして、バゲージシティを取り囲み、地面を覆いつくさんほどに展開していたファイブオーバー、2門の三連式ガトリングレールガンを備えるカマキリ型兵器、ファイブオーバー:モデルケース・レールガンを一掃したのは単純な仕掛けであった。
特能総研の『博士』が利用していたナノサイズ兵器、オジギソウである。この兵器の正体は、特定の周波数に対し特定の反応を返すナノサイズの反射合金の粒である。
サイズとファンシーな名前に似合わず、微細なアームを閉開させることで金属やアスファルトを瞬時に抉り切ったり、細胞を一つ一つ剥がしていき、あっという間に骨と服だけにしてしまうという極悪な攻撃を行う、初見殺しとしては極めて凶悪な性能を持つ。
とはいえ、これも元々学園都市の兵器であるため、対策を取られれば通じないだけではなく、逆用される恐れもある。多々羅は兵器拡充の必要性を改めて自覚し、溜息をついた……。
極殺兵器『蜂』のモデルは無論CAVEのアレです。
※2024/02/28 多々羅道雄らの居場所を修正