とある外道の6人組   作:毛糸ー

88 / 203
手負いは狂暴。実際古事記にも記されている。


10.手負いの獣

――バゲージシティ・第一食糧工場の影――

 

「……上手くいったな」

 

 覗き見したところ、あのクソ音が操っていた未元物質(ダークマター)蟲たちが地面についた雨粒めいて弾けたのを見て安堵の域を漏らすザゾグ。後ろでは木原乱数と灰が呆然としている。木原乱数が驚愕のあまりどもりながらザゾグに問いかける。

 

「ど、どうやったんですかい……?」

「あの未元物質(ダークマター)から発せられるAIM拡散力場を利用した。あのクソ音、垣根帝督とやらから採取したままの未元物質(ダークマター)を使っておるらしい」

 

 AIM拡散力場とは、能力者が無自覚に発してしまう微弱な力のフィールド全般である。例えば電撃使い(エレクトロマスター)が発する微弱電波や発火能力者(パイロキネシスト)が発する微弱熱量などがそれにあたる。

 

 今重要なのは、AIM拡散力場を通じて、能力本体や、能力を現実世界に引き出す源である『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に干渉することもできるという事実だ。実際、木原一族の一人により、AIMジャマーなる、能力者が能力を発動することを阻害する音波を出す機械も作られている。

 

 ザゾグはドロームが統括理事会権限で不正入手した垣根帝督のAIM拡散力場のデータを入手していた。それゆえ、そのAIM拡散力場から逆算した、いわば垣根帝督専用AIMジャマーを作り出し、未元物質(ダークマター)の制御を破壊したのだ。

 

[[グワーッ!?]]

「さて……このデータからどう未元物質(ダークマター)を作るのに応用しようか……」

 

 呆然とする二人をよそに、今の()()で得られたデータをどう活用しようか考え始めるザゾグ。だが、彼は忘れていた。下手に怪我をさせた獣は、怪我のない獣の100倍凶暴だということを。

 

[[殺1殺!!殺!死死1死死!!死死!死!1死殺11殺殺1!殺殺殺!!11!]]

CRAAAAAASH!

「「グワーッ!?」」

「クッ……!?」

 

 怒声めいたノイズが響いたかと思うと、大規模空気砲めいた一撃が3人に襲い掛かる!灰はかろうじて回避したが、ザゾグと木原乱数はキャノンボールめいて吹き飛ぶ!

 

――バゲージシティ・第一食糧工場――

 

[[殺1殺!!殺!死死1死死!!死死!死!1死殺11殺殺1!殺殺殺!!11!]]

……CRAAAAAASH……

 

 あの怒声ノイズは、ザゾグ達のみに対して放たれたものではない!この第一食糧工場にて暴れている胡乱集団に向けても放たれている……!丁度砲撃音めいた轟音が響いた直後、床に飛び散った未元物質(ダークマター)に変化が生じた。

 

 水滴めいた様相であったそれらは、突如寄り集まって先程飛び回っていたイナゴを形作り始めた。否!形作られたものは確かにイナゴめいた様相であったが、明らかに謎の声の主の殺意を反映した、異常に刺々しい蟲であった!

 

 それを見て、ザン・コクは総毛立ち、大声で二人の兄や『目覚め待つ宵闇』を呼ばわる。阿呆ゆえに、勘などが鋭いのだ。

 

「逃げろ!!ヤベえぞ!」

「遺憾ながらその通りでしょう。主、ここは下がるべきです」

「あの声の主はゲームの妙味の分からん奴らしいからな。ははは」

「チッ!」

「………………」

 

 

ザザザザザザザ!ザリザリザリザリ!ズワァァァァァァァーーーッ!

 

 ……そして彼らが立ち去った後。地獄の使者めいた刺々しい白イナゴの群れが飛び立つと、第一食糧工場を中心に、同心円状に広がりながらバゲージシティ地上部をサイクロンめいて薙ぎ払い始めた……!

 

――バゲージシティ・第一食糧工場近くの廊下――

 

 ザゾグと灰は、重態となった木原乱数をザゾグが来ていた緑コートで担架めいて運びながら避難場所を探していた。灰が繋げっぱなしにした通信機から声が響く。

 

『……第一食糧工場で起こった破滅的事象については把握した。あそこは特に学園都市の刺客や逃げ遅れた観客や選手が暴れたせいで監視システムが破綻していたゆえ、状況がまるで分からなかった。知らせてくれた事に感謝する』

「それよりも、事態の収束に協力した学園都市の科学者が重態なのだが」

 

 通信機越しに彼らの指揮官、黒駒へ端的に現在の問題を伝える灰。それに黒駒も端的に答えを返す。

 

『その位置なら……8番セーフルームが近い。そこの設備なら大抵の病人を治療できる。……それと、携帯食料を漁っているネズミをしばいてくれるとありがたい』

「タタラの奴らは何と言っておった?」

「……隠し扉状になっているセーフルームに向かえとの仰せだ。案内する」

「よかろう」

 

 やはり図々しく返事をしたザゾグと共に、灰はセーフルームへと向かう……!

 

――バゲージシティ・8番セーフルームの階段――

 

「フー……地下室が見つかって良かったな。例えそれが偶然とはいえ」

「うるせえな!文句言うんじゃねぇ!実際俺のおかげであのクソカスイナゴから逃げられたんだからよ!」

 

 『目覚め待つ宵闇』の面々やザン三兄弟の面々は、地下室に繋がる階段を下りていた。アーランズとザン・コクのやり取りから分かるように、この会談を見つけたのは全くの偶然と言ってもいい。

 

 後ろから迫ってくるイナゴ共に苛立ったザン・コクが壁を殴った所、あからさまに響き方が変だったために、隠し扉ということが分かり、藁をも縋る気持ちで開いたところ、あからさまな地下室への階段が現れたのだ。

 

 それゆえ、彼らは安心しきっており、地下室の扉を開けたアーランズの喉にカタナが突き付けられることになるとは思いもしていなかった!

 

「……すまん。ゾンビーかと思ったが……生きていたようだな。ここはタタラの作ったセーフルームの一つだ。入ってくれ」

 

 だが、サングラスをかけたエージェント男は、彼らの姿を見ると、カタナを降ろした。無論、このエージェントの正体は灰である。

 

 彼に促されてセーフルーム内に入ったアーランズ達は、トレードマークの緑コートを脱いだザゾグと、倒れた赤青のスーツを着た男、そしてカタナの柄で幾度も殴られたように見える死体漁り共を目にした。多数ポケット作業着を纏うザゾグが、呆然とする彼らに傲岸不遜に言葉をかける。

 

「何を阿呆面を晒している。さっさと座ってあのクソ音と『グレムリン』のゴミ共を血祭りにあげるための作戦会議を始めるぞ」




8番だからって8番出口は始まらないよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。