混迷の新約5・6巻編(プロット的な意味で)。この先どこに行き着くかさっぱりわからん……。
早く新約7巻編に行きたいもんだ。
――裏路地――
(((ウウ……ッ!)))
裏路地を歩くフロイライン=クロイトゥーネは悶絶する。己を蝕む緑の炎に。これは実際、驚くべき事象である。クロイトゥーネは、過去の魔女狩り全盛期に神明裁判と呼ばれる拷問を全て無傷でしのぎ、都市伝説的怪物として魔術世界に燦然と輝く人物なのだから。
(((ハァー……ヤク吸いてぇ。というか、コイツ改造するのマジでだるすぎなんだが……)))
呻くクロイトゥーネとは別に、彼女を薄く覆う緑の炎でできたヴェールの方は、泰然とした様子を貫いている。この緑の外套の正体はトゥールスチャ。フロイライン=クロイトゥーネを『スウォーム』に引き摺り込むのに最重要の存在……!
ホス卿は、バゲージシティの一件の埋め合わせのために、ドロームへ改造したクロイトゥーネを下げ渡すことを申し出、ドロームはそれを受けた。クロイトゥーネを『スウォーム』、ひいては『6人組』に都合よく改造するのはトゥールスチャにマルナゲされた。
トゥールスチャがホス卿からオーダーされたのは、クロイトゥーネをトゥールスチャの眷属めいた存在へと変えることだ。すなわち、ヤクを好み、そのためならどれだけの凶行を行っても平気の平左でいる、そういう存在に。これだけならば容易い。
面倒なことに、ホス卿は悪趣味野郎だ。ホス卿は、クロイトゥーネが
面倒くさい。それがトゥールスチャの偽らざる本心であった。ただ、ホス卿のもたらす異界の薬物は欲しい。それもまた、トゥールスチャの偽りなき欲求であった。
ヤクだけ吸って生きていたい。けれど世界は、ホス卿はそれを許さぬ。ああ、とかくこの世は生きにくい。怠惰そのものな思考を巡らしながら、トゥールスチャはクロイトゥーネを改造していく……。
……そして、それを上から睥睨する存在がいることには、一切気付いていなかった。
――特能総研所有特殊車両内部――
ブチッ!
「オイ貴様「気に入らねぇな」
垣根帝督に指示を出すためのマイクの電源を乱雑に切った『人形師』はザゾグの抗議を遮って、この男にしては珍しく静かに思索にふける。予想よりも上手く行き過ぎている。『人形師』は、特能総研の奇怪な機械でコントロール下においた垣根帝督は間違いなく反逆せんとするだろうと踏んでいた。
而して、この状況はどういうことだ?垣根帝督は反抗的な態度を見せながらも、唯々諾々と自分たちに従っている。現在あのガキは問題なくクロイトゥーネを見つけ、彼女に見つからないよう遠巻きの監視を続けている。
「気に喰わねぇぜェ……ああ全く!気に入らねぇなァ!!オイ!」
「……唾を飛ばすなと言っているのが聞こえていなかったのか?」
「あんたはどう思うよ?元『メンバー』のトップ様よォ!」
ザゾグの機嫌が下がっていくのにも構わず『人形師』は唾を飛ばしながら『博士』に水を向ける。予期せぬトラブルのために待機していた『博士』は、顎をこすりながら『人形師』の言葉を吟味する。
確かに、『一度目の死』以前から学園都市統括理事会に悪意を見せていた垣根帝督が、統括理事会の中でも最悪に近い性根の持ち主である『峰岸』、つまりドロームの言うことに唯々諾々と従うのは何か怪しい。それを知らないにせよ、彼に命令を下しているのはゴロツキ同然の輩だ。
「……確かに君の言う通り、怪しい。君のようなゴロツキにあんなに居丈高に命令されて、素直に従う男ではないよ。垣根君は」
「ひっでェなァ……。コイツ、何を企んでると思うよ?」
「委細は分からないが、我々にとって極めて不都合な何かである可能性が極めて高いだろうね。逆探知をして我々を始末しようとしている、とかかな?」
「……最大出力で
「……おっと、最大出力はやめてくれたまえ。所長の仮説が正しければ、これを最大出力で動かせば
ザゾグは『人形師』と『博士』のやり取りを聞き、何か考え付いたのか機材の細かい微調整を行っていた木原乱数に声をかける。
「
「ええ!?そんなことやったら、操る精度が下がりますよ!?アレがそれを認めるとは思えませんが……」
木原乱数の言う通り、この
「……俺の仮説が正しければ、奴の疑念も氷解するだろうさ」
何かを見据えんとするように目を細めるザゾグ。木原乱数はその目を見てすぐに
「あ?何やってる?」
「
「……操作の精度が下がるからやめてほしいんだがなァ」
ザゾグらの独断を呆れながら見る『人形師』は、操作が終わった後に座り、雑にマイクの電源を入れ、垣根帝督、ひいてはそれを構成する
「な、何だこりゃァァッ!?
「おい唾を飛ばすな!壊れるだろうが!……副所長!今すぐ倉庫に収めてあるガラクタ類を持って来るぞ!どうせコイツはこれを壊す!直すための材料を確保するぞ!」
――裏路地を見渡すビル――
病的なまでに白い肌を持ち、服や髪の色の付き方も、その境界もおかしい人影、垣根帝督はほくそ笑む。あの腐れゴロツキ共が
(((ククク……所詮はゴロツキ。
『な、何だこりゃァァッ!?
『おい唾を飛ばすな!壊れるだろうが!……副所長!今すぐ倉庫に収めてあるガラクタ類を持って来るぞ!どうせコイツはこれを壊す!直すための材料を確保するぞ!』
垣根は狼狽しているクソ共を鼻で笑う。このまま奴らのコントロールを脱し、
『死ねェェェェーーーッッ!!』
「「「グワーッ!?」」」
ゴロツキの声と共に脳を雑巾絞りめいて締め付けられたかのような痛み!そして体に違和感!
『おいやめろよ!?』
『テメェ止め……グワーッ!?』
ゴロツキの悲鳴と共に、頭の痛みが消え、体の違和感を確かめると……
「な、何をしやがった!?」
『……垣根帝督だな。貴様は
ゴロツキの声と入れ替わりに聞こえてきた、落ち着きのある声の言う内容を吟味すると、垣根は息を呑む。声は続けて言う。
『貴様もまだこの世から消えたくあるまい。貴様が行った、あるいはこれから行う様々な横紙破りは見逃してやる。その代わり、あのクロイトゥーネの監視を完遂しろ』
今度は垣根も唯々諾々と企みを介在させることなく支持に従わねばならぬ。声の気負わぬ様子が、返って垣根に脅しの真実味を伝えたからであった……。
心の中の情景を文章化することの難しさよ……。