……今更か。
――幹線道路――
「お前が私の敵か」
「貸し
「そろそろ良いかい?」
「……小せえ野郎だな、俺の『敵』って奴は」
一端覧祭の特殊な人口分布のせいか、あるいは学園都市の何らかの技術か、はたまた魔術師共の胡乱な魔術か、人っ子一人いなくなった幹線道路上で、今、世紀の対決が繰り広げられようとしていた。対峙するは四人。
一人は、世にも珍しい聖人とワルキューレの身体的特徴を併せ持つ女、ブリュンヒルド=エイクトベル。
一人は、学園都市が誇る超能力者第三位、『
一人は、魔神の成り損ないオッレルスの妻、イギリスの近衛侍女たる聖人、シルビア。
一人は、『グレムリン』の中でも最強の魔術師、『
美琴とトール、ブリュンヒルドとシルビアがそれぞれ衝突しようとしたその時!
「ヒャッハーッ!」
幹線道路にエントリーする者が現れた!その者のシルエットは青色の特殊部隊隊員めいていたが、所々不穏な装備が見られた。両腕が包帯に覆われており、両手の小指が赤いケヅメめいた代物と化していた。下顎には鉄仮面が融合し、顔には赤い目玉が二つ、ギョロギョロと蠢いていた。
読者諸君ならば分かるであろう!『鋼龍』構成員の一人、『
美琴・トール・ブリュンヒルドはこの闖入者を訝し気に見たが、シルビアの反応は激烈であった。彼女は先程まで豪快に笑っていた様子をおくびにも出さず、アンドレを睨みつける!その額には大量の冷や汗が流れている!
「……ん~?俺に殺されかけて泣いて命乞いしたクソ聖人じャねェか!元気してたかァ?」
「………………!!」
アンドレもシルビアに気付くと、邪悪に笑いながら呼びかける。彼の言うとおり、シルビアは一度、このアンドレに殺されかけている。近衛侍女としての仕事を始めたばかりで調子に乗っていたころ、この怪物にその鼻を折られ過ぎるほどに折られたのだ。
「……奴は、なんだ?」
「化け物だ。……私の牙を、一度は完膚なきまでに叩き折った怪物さ」
シルビアの答えに、戦慄する一行。聖人の強さを知るブリュンヒルドやトールはもちろん、聖人など知る由もない御坂美琴も、あからさまな強者アトモスフィアを放つ目の前のメイドめいた女性が、明らかに末端暗部然とした輩に敗れるとは到底信じられない思いでいる……!
そうしてアンドレの一挙手一投足に油断ならぬ視線を向ける四者を置いてきぼりにして、新たな闖入者がエントリーする……!
「どうも、どうも。いやはや……自殺志願なら早く言ってくれんとな。あの場で殺しておったのに」
「………………」
一人はお喋りな黒い襤褸と危険な雰囲気を纏う者、東条猩々。もう一人は黒めのサファリハットを二重にかぶったゴロツキ然とした者、賽。闖入者はこれだけではない。身構える4人を後ろから大声で呼ばわる影が!
「古今東ォ~西ィ~ッ!御用とお急げでない方は、イック、見てった頂戴!御用と、ヒック、おそぎの方は、ウィィ……、死んでっで頂戴!……ぎゃはははは!」
その闖入者は、あからさまにマグロ漁船漁師めいた服装で、真っ黒なサングラスをつけ、手には酒瓶を持った社会の落伍者めいていた。だが、その背中から立ち昇る危険な空気は猩々とよく似ていた。
彼は浮田重々。元は非合法組織の運営するマグロ漁船で365日年中無休でマグロ漁をさせられていた多重債務者であったが、ある日上司を脅迫し、陸へと戻った。そこで闇金の者達を漁師生活で鍛えた恐るべきバランス感覚を利用した殺人術で血祭りに上げ、傭兵組織の人員が要り様だった散々にスカウトされたのだ。
「……一応聞いておこうか、胸の悪ィクズ共。何しに来た?」
トールの言葉に重々がコードネームと異なり全く重々しさを感じさせない口調で答える。状況は2対2から4対4の様相と化していた。現れた闖入者達の邪悪さを見て取ったトールらは、無言のうちに手を組むことを選択していたのだ。
「イック!そりゃ、お前ェッ!始末、ヒック!いに来たのさ!おめ~らを!あひゃひゃっひゃひゃ!」
重々が酒瓶を捨てると同時に、『鋼龍』の4人とこの場に集まっていた4人は衝突した!
シルビアは冷や汗を流しながらアンドレと対峙する。対するアンドレはゆったりと構えている。一度ズタボロになるまで追い込んだ相手だ。見逃してやったのも、カイシャクのさいにやってきた警察を血祭りに上げれば、面倒になるからだと状況判断したからに過ぎない。
あからさまに敵を舐めてかかっているアンドレに対し、シルビアはその油断の隙をつき、一気に決着をつけんとする!彼女はどこからかロープを取り出し、翻らせると、何らかの不可思議な文様を描き出した!アンドレは目を細める。
どれだけ小細工を使おうが、それに
(ああ?
アンドレは目の前の相手を侮っていたことを悟った。奴はアンドレの足元のみを底なし沼めいて変化させたのだろう。表層に
「ククク……今回はお前の勝ちだなァ、シルビアさんよォ……」
まあ、別に構わない。アンドレはドトン(=土遁)も得意であるゆえ、この攻撃は致命傷に成り得ぬ。むしろ、残身を怠る連中をアンブッシュする好機とするとしよう……。
ブリュンヒルドは戦端が開かれて即座に、自分を見ていた黒襤褸を纏った胡乱な輩に突進していた。ボッという到底足を踏み出した音とは思えない音がしたかと思うと、既に彼女は長大な剣を『寝かせてから』胡乱な輩に向かって振り下ろしていた。
普通なら、剣の刃が当たらないよう配慮したと思うかもしれない。だが状況が違う。ブリュンヒルド=エイクトベルは音速超過での移動を可能とし、さらにクレイモアは鉄板にグリップをつけたような巨大な剣である。
刃を寝かせて用いれば、それは巨大な扇めいて機能し、音速超過時に生じる莫大な衝撃波で相手をミンチにし得る最悪の凶器となる。当然ブリュンヒルドもその上でクレイモアを振るい、恐らく『鋼龍』所属のゴロツキであろう野卑な輩を粉微塵にせんとした。
だが、状況は彼女の思い通りにはいかなかった。気付くと、寝かせた剣の上にサーファーめいて黒襤褸を纏ったゴロツキが乗っているではないか!
「なっ……!?」
「イヤーッ!」
驚愕するブリュンヒルドの目に、ゴロツキ、即ち東条猩々の指が襲い掛かる!ブリュンヒルドはとっさに目を閉じ防御!瞼に指は衝突し、へし折れる!だが、目も無傷ではない!指から伝わった衝撃で凄まじく充血している!
「ククク。聖人の目を抉りだすには、まだキャリブレートが必要そうだな」
「……化け物が」
瞼を突破できず、指を折った猩々だったが、筋肉を操作することで指を元の形に戻していく。そこに聖人に互するほどのワザマエの冴えを見て取ったブリュンヒルドは不用意には動けぬ。下手にクレイモアから手を離せば、この者は容易に致命の一撃を放つだろう。
猩々の方も、聖人の身体強度を正しく認識し、不用意に仕掛けようとはしない。”故郷”によくいる改造人間の類よりはるかに洗練され、かつ強力に身体が強化されている。再生力は劣るようだが、適当な攻撃をすれば頭突きで腕は木端微塵にされよう。
かくして、両者は傍から見れば間抜けな、だが緊迫した睨み合い・読み合いに移行した……。
トールは罵倒しながらサファリハットを二重にかぶったゴロツキに仕掛ける。最初から
「お前らみたいな弱いものいじめしか出来ねぇ奴らが、俺は死ぬほど、嫌いなんだよ……!俺が想定してた中でもいっっっっちばん!つまらねぇ展開にしやがって!!ミョォォォォォォォルニィィィィィィーーーーーール!!」
「……カスが」
対して、賽は冷たく吐き捨てる。トールの四肢から恐るべき溶断ブレードがほとばしっていても、賽に慌てた様子はない。
標的としていたはずのゴロツキがどこにもいないのだ。トールは隠蔽の魔術を使われたかと思い、キョロキョロと首を巡らす。そのトールの脇腹に、突如銃弾がめり込んだ!銃声は聞こえぬ!だが、奇妙なことがある。
「がっ……!?」
(フン。このまま削り殺してやる。……それにしても、銃だというのに、何の音もしないのは逆に不気味だな……)
そのトールのざまを冷酷に見るは、学園都市製の消音ピストルを構える賽。彼はトールの四肢から閃光がほとばしるやいなや、即座に
ゆえに、トールは周囲と同化した賽を捉えられず、無様にも真正面から弾丸を喰らう羽目になったのだ。無論トールは撃ち込まれた弾丸が飛んできた方向へ殺人溶断ブレードを振り下ろすが、既に賽はステップでそこから逃れている。
(がら空きだ。……何?…………チッ、腐っても『グレムリン』準最強か)
賽は愚かな魔術師の小僧をそのままヘッドショット殺しようとしたが、トールの腕からほとばしる溶断ブレードが銃弾を捉え、溶かした!賽は訝しむが、すぐにトールの動きの意味を読んだ。あの小僧は自分の居場所を悟ったわけではない。腕を振り回し、ピストルの弾が飛んで来たらすぐに溶かせるようにしている。
さらに小賢しいことに、トールはただ乱雑に腕を振り回しているわけではない。溶断ブレードがトールの全身を覆い隠すようにひるがえり、銃弾を遮蔽している。そしてまた、実質全方位攻撃状態と化しているため、落ち着いて隙を狙い撃つことも出来ない。
賽は逃げ回り、なんとか隙を見つけ出さんとする。そしてまたトールも、いまだ見つけられぬ賽を殺すため、負荷の軽くない魔術を発動しながら腕を振り回し続けることを強いられた……!
「ヒック!ウィィィ……」
浮田重々は膠着状態に陥った三者の戦場を目を細めて見ていた。
一度はアスファルトの底に沈んだと思われたアンドレは、ブリュンヒルドに加勢しようとしたシルビアにドトンアンブッシュ(=土遁奇襲)をかけ、そのまま殴り合いにもつれ込んだ。シルビアは魔術を使う訳にもいかないため、果てしない泥仕合と化す事が予測される。
そしてまた、猩々とブリュンヒルドも油断ならぬ睨み合いを続けている。先程シルビアがアンブッシュされた際、ブリュンヒルドがシルビアの方を振り向いた一瞬を利用して猩々は鼓膜破壊を試みたが、彼女は勢いよく首を元に戻し、それを間一髪で防いだ。ゆえに、つり合いはいまだ維持されている。
賽とトールはもはやどちらの気力が先に尽きるかの勝負となっている。時折あの小僧の溶断ブレードがこちらに飛び火し、回避を強いられるのでなんとか早めに始末してほしいのだが。
こちらの状況は良くない。自分は目の前の小娘、御坂美琴を殺せぬというのに、相手は容赦なく
御坂美琴は、ドロームと同じ統括理事会員の一人が理事長を務める常盤台中学の学生であり、その広告塔でもある。アル中の自分でも分かる。殺せば極めて厄介な外交問題となる。重々には一応はプロの自覚があるため、そのような事態を招くまいと立ち回っている。
……重々が内心冷や汗を流しているとも知らず、御坂美琴は焦っていた。目の前の相手はあのハワイの異形軍人と同じ雰囲気を纏っている。早く無効化せねばならない。だが、相手は奇妙な体勢でそれを回避していく。砂鉄によるレーダーを巡らしているが、相手の動きはまるで予想できぬ。
歯噛みしながら重々と対峙する美琴は、ふと重々の服の内側に、金属の反応がすることに気付いた。重々が懐に入れていたスキットルであった。
(あれを内側からふっ飛ばせば……!)
重々を強化ミュータントだと思い込んでいる美琴は、磁力を操りスキットルを爆発させた!
KRAAASH!「グワーッ!?」
狙い通り重々の体勢が崩れる!そこにすかさず
KRAAAAAAAASH!「アブな、アブねぇぇ!?殺す気か!?」
だが、重々は倒れた瞬間に肘を脚めいて使い、直立!
重々の口調はミスじゃないです。