安心してください、履いてませんよ   作:とにかく明るかった安村

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本日2話目です。


ク裸イシス

 ――前回の俺、脳おっぴろげ(ヴィラン)の攻撃が股間に突き刺さり悶絶。

 

 

 ぐおおおおおおおお

 だめだ、落ち着け俺。

 素数を数えて痛みを紛らわせるんだ……!

 『らせん階段』…!『カブト虫』!『廃墟の街』!『イチジクのタルト』!『カブト虫』!……『ドロローサへの道』!『カブト虫』!『特異点』!『ジョット』!『天使(エンジェル)』!『紫陽花』!『カブト虫』!『特異点』!『秘密の皇帝』……!

 

「死柄木弔……私たちは冥府魔道に堕ちた(ヴィラン)とはいえ、超えてはいけない一線はあります。いくらなんでも股間を狙うのは……」

「な、ちが……俺は悪くねぇ! 脳無が! 脳無が勝手にやったんだ!」

「⁉」

 

 黒モヤの言葉に、死柄木弔と呼ばれた手マンがそう叫ぶと脳おっぴろげ――脳無が驚いたように弔の方を見る。

 

「でも、命令したのはアナタでしょう?」

「お前だって生徒を1人逃がしたじゃないか!」

「それはそれ、これはこれです」

 

 弔の言葉に黒モヤはヤレヤレと肩をすくめて話す。

 いいぞ、なんか知らんが回復する時間は稼げそうだ。

 

「……ち。あー、その、なんだ。大丈夫か? いきなり飛び込んでくるお前が悪いんだぞ? ていうか、なんで全裸なんだお前。それに、どうして脳無の攻撃喰らってそれで済んでるんだよ」

 

 弔がバツが悪そうに話しかけてくるが、俺は今痛みと戦っているためにそれどころではない。

 

「脳無、そいつの腰を軽くたたいてやれ」

 

 弔がそう指示をすると脳無は言うとおりに俺の腰を軽くたたいてくる。

 あー、そこそこ。痛みが和らいでいく。

 

「大丈夫だ、ありがとう……もう落ち着いた」

 

 脳無の手を振り払うと、俺は立ち上がる。

 

「相澤先生、大丈夫ですか」

「いやお前の方が大丈夫か」

 

 どう考えても相澤先生の方が重症なのだが、それでも生徒である俺のことを心配してくれる。

 パワハラ教師とか言ってすみません。あなたは立派な教師です。

 

「俺は問題ありません。さぁ、(ヴィラン)ども。仕切り直しだ」

「いや、うん。大丈夫なら良いんだが、なんでお前は全裸なんだ」

「個性の都合だ!」

 

 弔の問いにそう答えると「お前も苦労してんだな」となぜか同情された。

 

「……まぁいい。なんか変な空気になったがやることは変わらない。さっきは不慮の事故で思わず中断したけど、改めて立ち向かうってんなら容赦はしない。こいつは対平和の象徴改人……脳無。たかが子供には到底かなわない相手だ」

「そいつの言うとおりだ祢伊木戸。脳無とやらは素でオールマイト並の力がある!」

 

 弔の説明に対し、相澤先生が警告をする。

 オールマイト並? 上等だ。こっちだってオールマイト並の戦闘力を持っている。

 ……まぁ、実際に試したことはないけども。

 

「というわけでいきなり喰らえ、マッパパンチ!」

 

 音速を超え、俺は脳無に向かって全力のパンチを叩きこむ。

 しかし……。

 

「! 効いてねぇ⁉」

「あー悪い、言い忘れてた。こいつの個性は“ショック吸収”。脳無にダメージを与えたいならゆうっくりと肉をえぐり取るとかが効果的だね。それをさせてくれるかは別として」

「は、わざわざ弱点を教えてくれてありがとよ!」

 

 無効、ではなく吸収ならば手はある。

 漫画とかでもよくつかわれる攻略法だが、吸収が追いつかないほどの攻撃を浴びせればいい。

 どれだけのキャパがあるか分からないが、全力で叩き込めばダメージは通るはず……!

 最悪倒せなくても時間稼ぎになればいい。

  

 そう考えた俺は大きく息を吸い込み呼吸を止める。

 呼吸というのはそれだけで隙を生む。

 その微細な隙すらなくし、俺は拳を握りこむ。

 俺のそんな行動を見て迎撃態勢に入る脳無だったが、突如体が凍り付く。

 

「状況はわからねぇが、そいつが一番の強敵なのは理解した。全力でやれ祢伊木戸」

 

 なるほど、轟の個性か!

 俺は視線を向けて心で礼を述べると、凍って身動きが取れない脳無に向かって攻撃を叩きこむ。

 

『ゼンラッシュ』

 

 ただひたすらに、愚直に脳無に向かって攻撃の連打を繰り返す。

 

「これで……しまいだぁ!」

 

 息を止めるのも限界を迎えたところで、最後の一撃を叩き込む。

 轟によって凍らされ、そこへ俺の全力のラッシュだ。

 いくらショック吸収を持つ脳無と言えど耐えられなかったらしく、体の半分が割れていた。

 

「な⁉」

 

 だが、あろうことか脳無はまるで逆再生でもしているかのように割れた体から欠損部分が生えてくる。

 

「いやぁー、すごいな。でかい口叩くだけはある。その力もオールマイトに匹敵すると認めるよ。あれだけのチートみてーな攻撃なら、流石の脳無もショックを吸収しきれないだろう。だが、まだ(・・)甘い」

「なんだよあれ、ショック吸収だけじゃないのか⁉」

「別にそれだけとは言ってないだろう? 確かに、吸収すらなかったことにするラッシュには驚いたけれど……回復すれば元通りさ。これは“超再生”だな」

 

 個性は1つだけじゃなかったのか!

 甘かった。オールマイト対策だとわざわざ教えてくれていたのに、俺は相手の個性が1つだと思い込んでしまっていた。

 

「脳無は本来、オールマイトの100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバッグ人間さ。オールマイトを超えなきゃ、ショック吸収をなかったことにするだけで精いっぱいってわけさ」

「……♪」

 

 弔の言葉に呆然としていると、脳無は楽しそうに俺に向かって飛び掛かってくる。

 

「しまっ……!」

 

 先ほどの攻撃でまだ息が整っておらず、対応が一瞬遅れてしまった。

 奴の攻撃が俺に当たる瞬間、

 

「私が来た」

 

 それは、今この場で最も安心する言葉。

 

「祢伊木戸少年! よく頑張ったな!」

「あ……あぁ……!」

 

 それは、トップヒーローの姿。

 

「オールマイト!」

 

 そう、そこにはオールマイトが立っていて脳無の攻撃を防いでいた。

 

「遅れてすまない! だが、君のお陰で皆は無事だ! 安心するといい!」

「オールマイト! 気を付けてください! その脳ミソおっぴろげ(ヴィラン)、分かっているだけでもショック吸収と超再生があります! 俺の全力でも倒しきれませんでした!」

「そうかい、そいつは厄介……だなぁ!」

 

 オールマイトは俺の言葉を聞くと、ググッと腕を引き絞り脳無をぶっ飛ばす。

 

「ホントに効いてないな!」

「当然だ。そこの全裸野郎にも説明したが、アンタの100%にも耐えられるように改造されているんだ」

「それは光栄だね! そこまで思われているなんてヒーロー冥利に尽きるよ! だけど、調子に乗ってそこまで喋っちゃったのは迂闊だね。私の100%に耐えるというのなら……100%以上で攻撃すればいいのさ!」

 

 そう言って、オールマイトは脳無に向かって俺と同じようにラッシュを喰らわせる。

 ……オールマイト並の力があると自惚れていたがとんでもない。

 本物は、もっと迫力があるな。

 

「いいか、ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの! どんな困難が立ちふさがっても、それ以上の力で道を切り開く! (ヴィラン)よ、こんな言葉を知ってるか⁉」

 

Plus Ultra‼(更に 向こうへ)

 

 オールマイトの拳が脳無に突き刺さる。

 その圧倒的な力により脳無ははるか上空まで吹き飛んでいった。

 

「おいおいおい、嘘だろ……完全に気圧されたよ……よくも俺の脳無を……チートがぁ……!」

 

 奥の手であったはずの脳無がオールマイトによって戦闘不能にされると、弔は怨嗟の言葉を吐きながら睨んでくる。

 

「全然弱ってないじゃないか‼ それに、オールマイトの他にもあんな全裸が居るなんて聞いてねぇぞ!」

「死柄木弔。オールマイト1人だけならともかく、他にも強個性がいるこの場は分が悪いです。一度出直しましょう」

「あーあ、そうだな。ゲームオーバーだ。帰って出直そう」

 

 先ほどまで恨みがましい目でこちらを見ていた弔は黒モヤの言葉で態度を急変させる。

 そして、例のワープ個性と思しき黒い霧を広げ中に入っていく。

 

「今度は殺すぞ、オールマイト。それと……全裸野郎。てめーの顔、覚えたからな」

 

 それだけ言い捨てると、弔と黒モヤは姿を消す。

 後に残ったのはどこかへ飛んで行った脳無と、一緒に連れてこられた(ヴィラン)達であった。

 その残った(ヴィラン)達も駆けつけた先生達によってあっという間に制圧された。

 

「祢伊木戸少年。君のお陰で窮地を脱することが出来た。ありがとう」

「いえ、俺なんかまだまだです」

 

 全裸になれば無敵だと信じて疑わなかった。

 確かに明確なダメージは受けていないが、それは相手も同様。

 奇しくも、(ヴィラン)達のおかげで課題が浮き彫りになった。

 どうやら……まだまだヒーローへの道は遠そうだ。

 

 こうして、波乱に満ちた(ヴィラン)襲撃事件は……不穏な空気を残しつつも幕を閉じるのだった。




股間は攻撃してはいけない(戒め)
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