Fate/colors 作:欠落幻想絵巻 浪浜
設定とか考えてないのでそれでいい人だけ、どうぞ。
「サーヴァントがレイシフトできない?」
ある日、とある時点のカルデア。
召集によって飛び起きた藤丸立香は、一足先に集まった面子から報告を聞いていた。
「はい。なので今回はお一人でレイシフトしていただくことに……」
「微小とはいえ特異点だ。聖杯の反応も確認されている。可能なら回収しておきたい。放置していても問題はないけれど、リソースはあればあるだけいいからね」
「わかりました。マシュ、留守番よろしくね」
「っ……はい! マシュ・キリエライト、先輩の無事をお祈りしています! どうかお気をつけて!」
時代は西暦2010年。場所は日本、港湾都市浪浜。
データベースによると過去この地では亜種聖杯戦争が開催されたという記録が残っており、今回の微小特異点はそれを模倣して構築されたと予測される。
サーヴァントの反応も確認されているため、安全に気をつけて情報収集を行うこと。その際は現地のサーヴァントと協力ができると望ましい。
ま、歴戦のマスターには釈迦に説法かな?
ブリーフィングを思い返して、藤丸はレイシフト直後の酩酊感を振り払う。
「……で」
頬を撫でる風は潮の香りがする。
踏ん張りの効かない手足。回る視界に映るのは、どこまでも吸い込まれそうな白い月で、
「また空中ーーーーーー!?」
浮遊感は一瞬、遅れてやってきた重力がこちらにおいでと手招いた。
着地時に受け止めてくれる頼もしいサーヴァントたちはいない。簡易召喚を使おうと右手を掲げる。
しかし――影法師は現れない。
(この高さは……足一本で済めばラッキーかな)
肉体は無意識に着地の段取りを整える。衝撃が分散するよう、不格好に身を捩って、迫る地面を見つめた。
それでも思わず目をつぶってしまう。身構えて待つが、いつまでたっても痛みはない。どころか、なにやら受け止められたような、海と酒に抱きしめられているかのような匂いが鼻をくすぐった。
「お前さん、無事かね?」
年配の男が見下ろしていた。
空から落ちてきた藤丸を男が受け止めたのだ、と分かったのは下された後のこと。
どうやら海に面した公園の一角のようだ。
昼間は市民の憩いの場なのだろうが、今は夜だからか周囲に人気はない。
男はベンチを勧め、藤丸は気遣いに甘えて腰掛ける。
「あ、ありがとうございます」
「いきなり降ってきたもんだから驚いたぞ。思わず撃ってしまうところだった。しかし礼儀正しい子だ。そんで肝が座っとる。だからまあ、悪党ではないだろう」
頭ひとつ以上高い男の呟きは怪訝そうだった。
何もない空から落ちてきた理由を咄嗟に言い繕うのは無理がある。藤丸は男と視線を合わせて、結果、視界の端に意識を持っていかれた。
「ッ、危ない!」
「おう!?」
声に反応した男は、どこからともなく取り出したカトラスを後ろ手に振るった。
鈍い光がひとつ、続けてふたつ、みっつ。
夜闇に紛れて飛来する凶刃を捌き、男は腰のピストルを抜いた。
「うーむ。いかんな。遠くて当たらん」
超高度を移動する影は単純に視認が困難で、藤丸が気づけたのは月明かりと幸運が味方したからでしかない。
ピストルを構えた男が攻めあぐねているうちに、襲撃者の影は高速で雲の上に帰っていく。
「諦めた……?」
「まだ狙われとる。わしは一度退くが、お前さんはどうする? サーヴァントを連れていない、いやまだ召喚すらしていない、七人目のマスターよ」
「やっぱり、あなたもサーヴァント」
「そうとも。クラスはライダーだ。この聖杯戦争の参加者だな、お互い」
ライダーは藤丸の令呪を見やる。
「お前さんみたいな勇敢な少年は好きだ。少なくとも、まだ七騎揃ってもいない序盤で脱落するには惜しい。そこでどうだ……ひとつ、わしと手を組まんか」
「助けてくれるってこと?」
「そうだな。わしのマスターも、まあ反対はせんだろう。ここから逃げるか、サーヴァントを呼ぶ時間を稼ぐくらいはしてやれる」
「……わかった。お願い、ライダー」
「アイアイ! やっぱりお前さんはわしが見込んだ通りの男だ! ハッハッハ!」
ライダーに背を任せ、藤丸は礼装を起動する。
本来用いる
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
生命力を魔力に。
「
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
英霊の座に呼び掛ける。
「――――告げる」
無防備な状態で英霊召喚の儀式を行う、なんの力も持たない素人同然のマスター。
競争相手を仕留める最大にして絶好の機会を襲撃者が見逃すはずもない。
聖杯戦争が本格的に始動するより早く、削れる相手は削るのが賢いやり方である。
まだ召喚されていないクラスは■■■■。舞台に上がってくると面倒な結果になりかねない。逆に今この場で脱落してくれるなら戦略の面で好都合だった。
故に……襲撃者は決断する。
素人のマスターとライダー、二人まとめて葬ると。
「少しやり口が陰湿すぎやせんかね。こっちに出てきたらどうだ。鉛玉で歓迎してやるぞ」
「はっ、鉛玉だって? ……いいさ、そんなに俺の姿を見たいなら見せてやるよ」
地面に落下する襤褸の外套、その中身は仮面をつけた男性だった。声はライダーより若く、所作に傲慢な自尊心が見え隠れしている。
「ライダーだ。お前さんは……格好と戦い方を踏まえるとアサシンか?」
「ああそうさ! 俺はアサシンだ」
(本当に誘いに乗ってきたぞオイ。というか暗殺者が正面から名乗るな)
ライダーは拍子抜けするが、その様子に男は気づいていない。というより眼中にない。
「聞いて震えるがいい、木端サーヴァント! ――我が真名はペルセウス! くそったれな神ゼウスとダナエーの子! 大英雄ペルセウス様だ!」
「……」
「どうした。声も出ないか」
「いや、すまん。アサシンのクラスはハサン・サッバーハとかいう英霊しか呼ばれないと聞いている。わしならもっと上手い騙りを考えるぞ」
「あっそ。別にいいけどな。一目見ただけじゃ分からない無能なんだろ。邪魔だから……死ねよ」
戦闘が始まった気配を藤丸は感じ取る。
ただ視線を向ける余裕はない。意識を集中しなければ、召喚に失敗してしまうかもしれない。
出会ったばかりのライダーを信用して命を預けた。あとは自分にできることをするまで。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
手元に触媒はない。紡いだ縁も今は感じない。
だから、誰が
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
聖なる杯に希う。
最後の一騎を、開幕の呼水を。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」
魔力の経路が繋がる感触で、召喚の成功を感じた。
鮮烈で可憐、返り血を浴びてなお映える真紅。
それは華奢な体躯だった。
それは最低限の質素な衣装を纏っていた。
それは夜闇に彩を添える、紅の髪の少女だった。
少女は腰が抜けた藤丸を助け起こし、反対に自らは跪いて、恭しく名乗りを上げた。
「サーヴァント、