かませ役から始まる転生勇者のセカンドライフ~主人公の追放をやり遂げたら続編主人公を育てることになりました~   作:佐遊樹

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飯をいただく②

 ワイヤーコンドルの卵は黄身と白身に分けて、料理のあちこちに用いる。

 ソースベースに絡ませたり、黄身を伸ばして生地に焼きつけたり。

 無論、だし巻きも一本作った。

 

 ゴールデンラビットの体は丁寧に肉を切り分ける。

 軽く下味をつけてこんがりと焼く。

 合わせるソースはフルーツベースだ。ここであの人食いリンゴが生きてくるってわけ。

 

 渓流で釣った魚たちは、オカシラ付きでタタキにして大量の薬味と共に盛り込む。

 一匹当たりの大きさがほどほどなので食べやすくもあるだろう。

 余ったいくつかは身を叩き、練り込んで魚肉ハンバーグにした。

 

 付け合わせの野菜は教頭先生印の菜園から拝借している。

 それぞれ肉厚さに合わせた時間をかけて、火をじっくりと通して、本来持つ甘さをしっかりと引き出した。

 

 デザートはリンゴペーストを用いたケーキと、フレッシュリンゴジュース。

 本当に実は美味いんだよなあれな。

 クユミですら二度と見たくないと言っている程度には外見がアレなのが欠点だが。

 

「よし……」

 

 食堂のテーブルに料理たちを並べて、俺は額の汗をぬぐった。

 久しぶりにコックスーツを引っ張り出してきてまで本気の料理をした。

 

 これもあの三人に、食の楽しさを知ってもらう……というのは驕り過ぎか。

 家の食事に関してネガティブなことを言っていた三人に、ほんの少しでもいいから、食べるのって楽しいじゃん、料理って美味しいじゃんと思ってほしかった。

 一つだけでもプラスの思い出があるだけで、物事の感じ方はずっと変わると思うから。

 

 ただ、正直言って前世でコックやってたわけでもない俺がいくら頑張ったところで、家庭料理の域を超えることは無理だ。というか家庭料理を舐めるなと言う話でもある。

 

「……今回は手伝ってくれなかったんだな」

「どうせ手伝わせてくれなかったくせに♡」

 

 振り向けば、食堂の壁に背を預けるクユミの姿があった。

 彼女が口笛を吹くと、その後ろからぞろぞろと、まあ二人だけなんだけど、エリンとシャロンも入って来る。

 

「その……さっきクユミちゃんから聞いたんだけどさ、センセ」

「うん」

「昨日から今日にかけて、ずっと料理の食材を取るためにあちこち行ってたの? しかもクユミ付きで」

「うん」

 

 数秒の沈黙。

 言葉を探して、しかし口をぱくぱくと開閉させるばかりのエリン。

 自分が行くと言わんばかりのシャロンが、友人の肩に手を置いて下がらせた。

 

「先生、あのさ」

「うん」

「めっちゃくちゃ馬鹿なの?」

「うん!?」

 

 突然罵倒が飛んできた。

 シャロンの言葉に、大いにその通りだと激しく頷くエリン。後ろで腹を抱えて笑っているクユミ。

 なんでだ!? 全力を尽くしただけなんだが!?

 

「それは少なくとも、先生の仕事ではないでしょ?」

「仕事じゃないって言われたら、そりゃそうだけど」

「なら先生は業務とは別のところで多大な労力を用いて、貴重な休日のほとんどの時間を捧げて、そして私たちのためにこの料理たちを用意したってことになるでしょ」

 

 食堂のテーブルに並ぶ豪華な料理たちを見て、シャロンが嘆息する。

 

「本当に……深刻な馬鹿だと思うわ」

「深刻な馬鹿って何? 明らかに、通常の馬鹿よりワンランク上の扱いだよね?」

「勘違いしないで。ワンランク、下よ」

「いやそうではあるだろうけども!」

 

 俺が食材を集めてきたことに関して、どうやら呆れかえっているらしい。

 せめてあたしも……とか、クユミあんた本当に覚えてなさいよ、とか、二人が恨み言を口にする。

 

 どういう意味だろうとクユミに顔を向けると、彼女は苦笑いを浮かべ肩をすくめた。

 結局何も教えてくれていないんだが?

 

「まあまあ、とりあえず食べてくれよ」

 

 座るように促すと、三人そろって食卓に着いてくれた。

 改めて目の前に広がる料理を見れば、だんだんと食欲がわいてくる。

 

 俺の中の冷静な部分が『いやこれ学食としては気合入れ過ぎててキモ。激キモやぞお前』とか抜かし始めたので、勇者の剣で胸部をぐちゃぐちゃにかき混ぜて黙らせる。

 

「じゃあ、いただきます」

『『『いただきます』』』

 

 日本製のゲームだから所作が自然に日本人なのはご愛敬。

 醤油っぽい何かもあるしな。醤油ではないんだけど。

 

「どれから食べてもいいからな」

 

 言いつつ、俺は自分で魚のタタキに箸を伸ばした。

 小皿にとってから一口運ぶと、うおっ美味っ。やっぱタレが利いてるわ。

 爽やかなレモン汁を混ぜるのがコツって前世のどっかで聞いててよかった。

 

「じゃああたしもそれもらおっと」

 

 エリンも俺と同様にタタキへと箸を伸ばす。

 シャロンと並んで、結局いい家の出身であるが故に地味に舌が肥えている疑惑のある彼女だったが──

 

「ん~~!! お魚最っ高! ぷりぷり過ぎて舌の上で暴れてる~~!!」

 

 お手製のタレをかけたタタキを頬張った直後、エリンがテーブルをバシバシ叩く。

 よし勝った! テーブルの下で思わずガッツポーズが出た。

 それはそれとして、お前の腕力だとテーブル割れるから台パンやめてくれ。

 

「これすっごい美味しい! 薬味もちゃんとしてるね!?」

「ああ、王都で仕入れた一級品だからな」

 

 ちょっとどや顔で説明すると、エリンがぐっと親指を立ててくれた。

 どうやら和風モチーフの家系らしく、鮮度のいい魚に対して強く反応しているようだ。

 

 シャロンとクユミも数切れをぱくぱくと食べておいしそうにしているが、エリンほど激しいリアクションは見せていない。

 成程な。

 キャラクターごとに与えると好感度の上り幅がアイテムによって違うみたいなもんか。

 

「んっ!? こ、このお肉美味しいわね……!?」

 

 そう思っていると、別の料理を食べたシャロンがカッと目を見開く。

 興味を示したエリンとクユミも、そのこんがりと焼かれた肉をソースに絡ませて頬張り、動かなくなった。

 

「こ、こ、こんなおいしいお肉があるの……!?」

「これウサギさんかな……」

 

 ラビット先生の肉を食べて、完全にスイッチが入ったらしい。

 三人はそれぞれの小皿に食べたいものを載せまくっては、すさまじい勢いで食べ始める。

 

「…………」

 

 どうやら、目的は達成できたらしい。

 思わず安堵の息がこぼれる。

 この勢いじゃ俺の分は残っていないというのがちょっと、かなり、いやめちゃくちゃ残念ではあるものの。

 

 生徒たち三人が、こんな笑顔であれやこれや言いながら食事を楽しんでいるのなら。

 この光景の価値に勝る者はない。

 

「あら、すっかり三人とも夢中ですね」

「あ、遅かったじゃないですか先生」

 

 食堂に新たに入って来たのは教頭先生だった。

 もちろん彼女の分は既に取り分け済みである。

 

「ねえ、ハルート君、少しいいでしょうか」

 

 教頭先生は俺の隣に座ると、そっと顔を寄せてくる。

 いい香りがするのと呼気が肌に伝わってくるのとで背筋がピンと伸びた。

 えっちょっ何何何!? 近いっ! この人本当にこういう無防備なタイミングあるのやめてほしい!

 

「教頭先生、どうしたんですか?」

 

 内心の動揺を悟られないように振る舞いつつ(でも三人ともゴミ見る目だったしバレてるっぽい)、俺は教頭先生に優しく尋ねる。

 彼女は俺の瞳をじっと見てから、柔らかい唇を静かに開く。

 

 

「ハルート君……ダイオウヨロイウオは?」

「本当に文字通りに味を占めている……!?」

 

 

 かつて味わった美味が忘れられないらしく。

 長めの休暇が取れたら、本気で釣り上げに行かなきゃなと、俺は決意を新たにするのだった。

 

 ダイオウヨロイウオ、ご期待ください。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一夜明けた平日。

 エリンはある事情から、早朝に寮を出ていた。

 今日は家からの申請もあって、授業を受けない公休日となっている。

 

 学校を休んだエリンの行先は、実家であるソードエックス家の邸宅だった。

 諸々の構造を改革していく上で、教導部隊を超えた実力者として、エリンとザンバはアドバイザーの役割を与えられていたのだ。

 

「やあ、この間ぶりですね、エリン」

 

 ソードエックス家邸宅に入れば、エントランスでその三男坊ザンバがエリンを待っていた。

 自らの家であることなどお構いなしに、いつも通りに堅苦しい正装姿、そして太刀二本持ちである。

 

「あ、ザンバお兄様。お待たせしまし──」

「こらこら、敬語はいいと言ったでしょう」

「いやお兄様の方がしっかり敬語なんだけど……」

 

 ハルートと大喧嘩をして校舎を破壊した顛末を聞き、エリンの中で随分と絡みやすさが向上した相手がザンバだ。

 幼いころから叩き込まれた感覚のせいで、ソードエックス家の人間相手にはつい敬語が出てしまうのだが、彼はそれを意図して癖から解除させようとしているように見える。

 気を回してくれているのだろうと気づいたし、素直に嬉しかった。

 

「今日は教導部隊の人たちと合同訓練です……だよね? どうしてお兄様があたしのところに?」

「ええ、別件で少しお客様がいらっしゃいまして」

 

 ザンバがちらりと、客間へつながる廊下に視線をやった。

 

「なんでも、奇跡のような神秘を使うそうですよ」

「は、はあ……」

「たまたま君のことを知っていたらしく、どうも色々と縁があるものですから、興味を持っていましたよ」

 

 要領を得ない、曖昧な言葉だった。

 一度そこで言葉を切り、ザンバは首を横に振る。

 

「なので、基本的には僕の後ろからは出ないようにしてください」

「え? あ、はい……」

 

 何を意図した指示なのかは分からないが、とりあえずエリンは頷いた。

 

「えっと、これから会うってことですか? そのお客様と……?」

「向こうが会いたがっていますからね」

 

 ザンバが言ったその時だった。

 客間の扉を開け放って、一人の少女が、ゆっくりと廊下に出てきた。

 エリンの世界がスローモーションになった。

 

 なびく黒髪は夜を溶かして流しているようだった。

 静かにこちらへ向けられる、偉大な焔を煮詰めたような眩い深紅の瞳。

 その少女に見とれて、エリンは身動きが取れなくなったのだ。

 

「……っ?」

 

 視線の先の少女を見て。

 のちに王道を歩み世界を救う少女は、稲妻に打たれたような衝撃を受けた。

 

「……ッ!」

 

 視線が重なった相手もまた。

 今まさに世界を救うための道を進む少女は、相手が誰かを理解してその気配を凍らせた。

 

 エリン・ソードエックスはその少女に対して、儚いと思った。

 マリーメイアはその少女に対して、元気で活発そうと思った。

 

 新旧の主人公2人が、自覚なく邂逅した。

 

 

 

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